将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【minor戦法】嬉野流「穴熊にこもっているだけじゃ見えない世界がある。」

アマチュア発祥の戦法が升田賞に

将棋は記憶ゲームじゃない。
・・・将棋には無限の可能性がある。自分さえ納得していれば何を指してもいい。もし負けたとしてもすべて自分の責任。それが将棋のいいところ。
(嬉野宏明さん)

嬉野流(うれしのりゅう)は将棋の戦法の一つ。アマ強豪の嬉野宏明が開発し、元奨励会三段の天野貴元が独自の研究を加えて棋書にしたことで将棋ファンの間で広く知られるようになった。

2023年にその独創性が評価され、升田幸三賞の栄誉に輝いた。

初手6八銀から前例のない力戦に持ち込むことが(この戦法の)最大の狙いであり、一般的には奇襲戦法に分類されることが多い。しかしながら奇襲を防がれても互角に戦える点が、鬼殺し等の従来の奇襲戦法とは大きく性質を異にする。


先後を問わず使え、相手が居飛車だろうが振り飛車だろうが柔軟に対応できるのも他の奇襲戦法にはない強みである。 (wikiより)


対居飛車

井上九段が採用 

2023年になって、元A級棋士の井上慶太九段が嬉野流を採用した。

アマ間では人気のあった嬉野流だが、プロが採用することは長らくなかった。

悪しき先例があったからだ。


2017年3月24日、第30期竜王戦1組ランキング戦の阿部健治郎七段対丸山忠久九段戦において、先手の阿部七段が中歩を突いてから銀を上がる変則的な駒組みで嬉野流を採用した。結果は阿部の圧倒的な敗北に終わり、竜王戦一組という大舞台だったことも手伝って、嬉野流の評価は下がった。 

阿部健治郎七段は、▲6六銀としてから▲3五歩△同歩としたが、銀は5七のまま▲3五歩△同歩▲4六銀を狙うのが嬉野流っぽいし、図から▲3五同角でなく▲4八銀から右銀で3五の歩を取りに行くのも嬉野流らしい。

実戦は、▲3五同角△8六歩▲同歩△8五歩▲4六角△8六歩▲8八歩と進行。

8筋の屈伏は嬉野流らしい。

棒銀で攻められることはなくなったが、玉が狭くなったのはやはりマイナス。 

図の局面から▲3七角~▲4六歩~▲2六角と四手角に組みたいが、△6一銀~△5二銀と5筋を突かずに待機するのが巧妙で、下図のような局面が想定される。

図の四手角は、矢倉崩しの一つの理想形で▲4五歩△同歩▲4四歩△同銀▲4五銀△同銀▲4四歩といった攻めを狙っているが、玉が薄い。

攻めるとcounterが飛んできそうだ。

このように持久戦になると、玉の薄さが露呈して良くない。

歩越しの6六の銀が負担になるのもマイナス。

先述のような、銀を使った急戦が嬉野流らしい将棋だ。


2022年に入ってからは井上慶太が初手6八銀をたまに採用しており(2022年11月1日時点で5局)、うち新嬉野流へ組んだ南芳一戦(叡王戦九段予選)と谷川浩司戦(棋聖戦二次予選)ではでは勝利している。 (wikiより)


井上九段は、長くA級棋士として活躍し、残留のかかった最終局で新戦法を積極的に試みて勝っていたという印象。
対戦相手の阿久津八段も一期のみだが元A級棋士。
飛車先交換せずに△8三銀と単純棒銀で挑んだ。

△8四銀は▲9六歩で銀が立ち往生するので△7四銀が普通の発想だが、△9四銀と意表を衝く。
これに▲9六歩は△8六歩▲同歩△同飛▲9五歩△同銀▲同香△9四歩と戦う意思だ。
井上九段は▲7九角と棒銀を許した。
△9五銀に▲6五銀と前線で棒銀を受け止めようとする。
△8六歩▲同歩△同銀には▲8八歩と低く受け、△8七歩には▲7六銀。
△8八歩成▲同金△8七歩▲7八金と棒銀を受け止めた。


結局、元A級対決は井上九段の勝利となった。
このように相手の棒銀を受け止める展開が勝ちパターンのひとつ。
これまでにない不思議な感覚に対応できないアマチュアが続出。
今やマイナー戦法の王者格になった。
しかし、プロが採用するくらいだから単なるB級戦法ではない。
いったいどういう利点があるのだろう。





嬉野流の利点①スムーズに引き角ができる

前述のように元奨励会三段の天野貴元の著した棋書が流行の端緒となった。
そこで触れられていた基本形が下図のようなもの。

図でわかるように引き角&▲8八歩と8筋を手堅く受けるのが天野流の「嬉野流」。
引き角と左銀で斜め棒銀で攻める狙いだ。


嬉野流の利点②▲7六歩省略

先手の得を生かせるかどうか疑問なのでプロの実戦例は少ないが、アマチュアでは人気戦法なので押さえておくべきだ。
もちろん後手でも使えるが、ここでは先手の嬉野流を研究したい。
飯島流引き角戦法が升田賞を受けたが、嬉野流も同じコンセプト。
「引き角からの斜め棒銀を狙う際に▲7六歩は突く必要がない。」という極めて真っ当な発想なので侮れない。
角頭歩でさえ咎めるのが難しいくらいだから、初手▲6八銀なんて将棋の手として普通。
△8四歩に▲7六歩と突けば通常の序盤だし、後手が平凡に矢倉に組めば、下図のような屋敷流二枚銀の形から▲7六歩の一手を省略することができた。

図からの指し手
▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀 △5三銀 ▲2四歩 △同 歩 
▲同 銀 △同 銀 ▲同 角 △同 角 ▲同 飛 △3三金上 
▲6一角


図から▲3五歩と先攻し、角銀交換となれば先手成功だ。
▲3五同銀の時に△6四角が気になるが、▲5五歩から△同歩に▲4六銀と5筋を戦場にする。△5四金なら▲5八飛で先手の方が中央が厚い。


角銀交換に後手も平凡に納めず△3三金上と▲2八飛に△3六角を見せたが、飛車取りに構わず▲6一角と攻めて優勢だ。

嬉野流の利点③角道を開けるタイミングを選択できる

1.角道突かずにこだわらず、柔軟な思考で

最近は、上図のような対策もよく見かける。
これに対して▲6六銀と二枚銀を組もうとすると、△6四歩~△6五歩と圧迫される。
▲9六歩△9四歩▲5九金と固め、▲7六歩と保留していた角筋を通し、▲3五歩△同歩▲同銀と攻める。
いつまでも角道保留にこだわらず、柔軟な思考が必要だ。

対して後手は、上図のように右玉に組むのが考えられる。
もう一歩渡すと8筋の継ぎ歩攻めがあるので先手は▲2四歩と仕掛けにくい。
好機の▲9五歩△同歩▲9三歩(△同香なら▲6六角)の端攻めを狙って一局の将棋だ。


2.相手角を逼塞させてから自角を生かす

初手からの指し手
▲6八銀 △3四歩 ▲5六歩 △8四歩 ▲5七銀 △8五歩
▲7八金 △7二銀 ▲6九玉 △3二金 ▲2六歩 △4二銀 
▲2五歩 △3三銀 ▲3六歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 
▲8七歩 △8二飛 ▲4六銀 △4四歩(図)


初手▲6八銀を見た後手は△3四歩と突いて▲7六歩を阻止。
△8四歩から棒銀で足早に角頭を狙う作戦に対しては、先述のように▲7九角~▲8八金~▲7八玉の受けが間に合う。
流行当初の嬉野流は、早く▲7九角と引いて、相手の飛車先交換に▲8八歩と低く受けていたが、△8六飛を放置しておくと△4四角~△2六飛といった攻めを狙われて先手が拙い。
最近の嬉野流は▲8七歩と受け、棒銀は怖くないと見ている。
角を引かずに▲7六歩からの活用も含みにした方が柔軟だ。


なお先手が飛車先を急がないのには理由がある。
早く▲2五歩を決めると、後手が△8五飛型から△3三桂として飛車先逆襲する狙いがあるのだ。
下図でも△8五飛型で牽制する方が良かったかもしれない。
また△4四歩では△4四銀と相手の銀に対抗した方が良かったようだ。
△4四歩は▲3五歩に△4五歩の突き違いの歩を見せたものだが・・・

上図から▲3五歩が成立する。
一見△4五歩の銀挟みがあって危ないようだが、▲4五同銀△3五歩に▲3四歩でなく▲7六歩がある。△4四歩ならそこで▲3四歩が厳しく、後手陣がもたない。
また、△3五同歩と取って▲同銀に△8六歩▲同歩△8五歩と十字飛車を狙うのも手筋だが▲7九角△8六歩▲8八歩で問題ない。


通常の嬉野流は▲4六銀の代わりに▲7九角と引き角にして次に▲3五歩△同歩▲4六銀の仕掛けを狙うのだが、柔軟な発想がこの戦法の持ち味だ。
なお△8六歩から△5六飛の横歩取りが成立するケースがあるが、歩得より手損が痛い場合が多いので、喜んで指す順ではない。


飛車先交換されて不利感はあるが、△3三角に▲7六歩とする将棋が電王戦がある。
とても真似できないが、ソフトの影響で序盤の駒組みが自由になったのを感じる。



後手の急戦策①△8七歩

居飛車の嬉野流対策には、急戦策と持久戦策がある。
初手からの指し手
▲6八銀 △8四歩 ▲5六歩 △8五歩 ▲7八金 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲5七銀 

指しにくいが、ここで△8七歩と打ってしまう手がある。


図からの指し手①
△8七歩 ▲7九角 △3四歩 ▲9六歩 △6二銀 ▲9七角
△8二飛 ▲8六歩 △6四歩 ▲8七金


△3四歩は角切りを見せて▲6六銀を牽制した。
▲6六銀を許すと▲6五銀~▲7六銀というルートで8七歩を取られてしまう。
それならばと、▲9六歩~▲9七角~▲8六歩という手順で先手は8七の歩を取ってしまう。
しかし金の形が悪く棒銀で狙われる形なので、実際の形勢は難しい。


図からの指し手②
△8七歩 ▲7九角 △6二銀 ▲6六銀 △3四歩 ▲6五銀
△6四歩 ▲7六銀 △同 飛 ▲同 歩 △9九角成 ▲8三飛
△8九馬 ▲8七飛成 △7九馬 ▲同 金 △7一金


▲9七角の順を牽制して△6二銀と予め5筋を守っておく。それでも▲9六歩なら△9四歩と突いておけば▲9七角△8二飛▲8六歩には△9五歩と攻めることができる。
そこで前述の▲6六銀から▲6五銀~▲7六銀というルートで受けようとするが、飛車切りから角を成って二枚替え。


△8七歩からの急戦は、対嬉野流の有力策だ。

【決定版】嬉野流を許すな!初心者でもわかる完全対策3選


後手の急戦策②棒銀

単純棒銀には▲4六銀+▲5七角という反撃含みの受けが面白い。 
井上vs阿久津では▲6六銀だったが、▲4六銀と変化した。
守りに使いたい銀を逆方向に・・・大丈夫なのか?


図からの指し手
△8四銀 ▲7九角 △7五銀 ▲5七角 △8六歩 ▲同 歩
△同 銀 ▲8四歩 △9五銀 ▲4五銀 △8四銀 ▲3四銀
△3二金 ▲2五歩 △9五銀 ▲8八歩

図の局面となっては、先手の右銀による攻めのスピードの方が後手の最速棒銀より速い。
▲5七角から▲8四歩の犠打が巧妙だった。


図からの指し手
△8六銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛

次の△8七歩に対しては放置しても良いし、▲同歩から飛車頭を連打しても勝ち。
▲4八銀と上がっていないので、玉の逃走路が広い。
対して後手は受けが利かない。


実は、後手が間違えていて▲8四歩に対する△9五銀では、△7四歩~△7五歩と角筋の遮断を目指せば後手有望。
以下△8四飛とした時の横利きが素晴らしい。
△7四歩に対しては、先手は角覗きを含みに▲4五銀とする。
△7五歩に強く▲3四銀として、△8四飛▲2三銀成△4四角という進行が想定される。


実戦で△7四歩を経験した。
以下▲4五銀に△7五歩でなく△7五銀だったので▲3四銀が実現。
推測だが、△7五歩に▲4六角の飛車取りを気にしたのだろう。
△8四飛▲9一角成と香を取られ、△8七銀は▲同金△同飛成▲8八香があるので困ったようだが、一見乱暴そうな△7七銀成が正解で、▲7七同桂△8九飛成▲6九銀△7六歩▲6五桂△7七歩成▲5三桂不成△7八と▲同飛△7七歩という展開が予想され後手有利。
幸運だった。
△8四飛▲8八歩と受けた局面は、▲7六歩の銀取りと▲2三銀(成)が残って忙しい。
△8四飛では△3二金が正解だが、▲2五歩として嬉野流が悪くない。


さて、▲4六銀~▲5七角が△7四歩~△7五歩で拙いとなると、それ以外の受けを考えなくてはいけない。

嬉野流を指し始めた頃の素朴な受け方をご紹介する。


図からの指し手
△8二飛 ▲8七歩 △7二銀 ▲6九玉 △8三銀 ▲7九角 
△7四銀 

仮に▲2六歩△7五銀▲2五歩と攻めると△3二金▲4六銀△8六歩▲同歩△同銀▲8八歩 △8七歩▲同歩△同銀成▲8八歩△8六歩と重く攻められる。
受けようがない先手は▲3五銀と攻めるが、△7八成銀▲同玉△8七金 ▲同歩△同歩成▲6九玉△3四歩▲同銀△7七と▲同桂△同角成となって後手良し。
先手は攻めの形が間に合っていないので、何か受けなくてはいけない。


①▲6六銀と対抗するか、②▲8八金~▲7八玉と受けるかだ。
順に研究してみる。


①▲6六銀の変化

①▲6六銀△8五銀に▲7五銀とする。▲6五銀もあるが、将来△6四歩が嫌な手として残る。
▲7五銀に直ちに△7四歩とするのは▲4六角がある。△7二金として次に△7四歩を狙うのは▲4六角と備えて金が働かない。
したがって後手は△3四歩と突くぐらいか?
場合によっては△7六銀の突撃も狙っている。
もし▲7五銀とされるのが嫌なら△6四歩と圧迫するのも落ち着いた構えだ。
先手が▲7六歩とあくまで銀で受けようとするなら△8五銀に▲7七銀という展開になる。
しかし、角道を開けるなら嬉野流にした意味はないので、▲2六歩△6五歩▲5五銀としたい。
後手は△3四歩と▲2五歩に△3三角を用意するか、△8六歩から十字飛車を狙うかという展開になる。
嬉野流も簡単に悪くなることはない。


②▲8八金~▲7八玉の変化

②▲8八金~▲7八玉と壁銀を強いて後手としては、気持ちがいい展開のようだが、前掛かりになったところを斜め棒銀で攻められるのを覚悟しなければならない。


下図の▲4六銀は、斜め棒銀と同時に中央も狙っている。▲3六歩を早く突くと後に△6四角と狙われるのを嫌った。


図から△4四歩と、△4五歩と銀を追う手を見せるが、構わず▲3六歩として△4五歩に▲同銀と取ることができる。7五の銀が浮いているのと角頭が狙いだ。
△4四歩に▲2四歩△同歩▲3四銀△同銀▲2四角△3三歩▲5七角△6四銀▲2四歩で先手も指せる。


後手も工夫する。
上記では△3三銀と飛車先交換を防いだが、下図のように△6四歩~△6五歩と6筋を目標に攻め重視の姿勢だ。

図からの指し手
△3三角 ▲4六銀 △6二飛 ▲5八金 △6六歩 ▲同 歩
△同 角 ▲3八飛 △3九角成 ▲同 飛 △6六歩 ▲6八歩 
△2八銀 ▲5九飛 △1九銀不成 


図から△3三角と一旦受け、▲4六銀を誘って△6二飛と右四間飛車にする。
▲5八金と6筋を補強したが右銀が浮いたので△6六歩▲同歩△同角が厳しい。
こうなると先手が悪いので、先の▲4六銀では▲5八金とか▲4八銀上と固めるべきだが、後手は主導権を握ったまま△3二銀~△4二玉~△3一玉~△5二金と左美濃に固めて作戦勝ちだ。

後手の持久戦策①雁木

急戦でひと潰しを図るのも有力だが、それなりに抵抗される。
固め合いにすれば、発展性に劣る嬉野流は苦しいので持久戦は有力かもしれない。
後手の持久戦策としては、雁木が有力だ。
嬉野流や極限早繰り銀などの4六銀型に対しては、いつでも△4五歩と反発できる雁木は優秀な構えだ。
他に矢倉や左美濃も有力なので後述する。
菊水矢倉も有力らしいが、ここでは省略する。


初手からの指し手
▲6八銀 △8四歩 ▲5六歩 △8五歩 ▲5七銀 △3四歩 
▲7八金 △4二銀 ▲6九玉 △3二金 ▲2六歩 △7二銀
▲2五歩 △3三角 ▲3六歩 △4四歩 ▲6六銀 △4三銀 
▲4八銀 △7四歩 ▲3七銀 △7三桂 ▲7九角 △6四歩

後手の△7二銀型は雁木の中でも比較的新しい形で、場合によっては△6二玉と右玉に躱す手段を見せている。
図のように進行すると、6六の銀が負担になって先手が不満。
歩越し銀には歩で対抗せよは、普遍的なセオリーだ。


下図は、渡辺vs永瀬(第43期棋王戦第五局)から取材したもの。
後手の永瀬七段が嬉野流(今でいう村田システム)のような駒組みを見せた。

図からの指し手
▲3六銀 △3四歩 ▲4六歩 △3三銀上 ▲6六歩 △3一角
▲6七銀 △7四歩 ▲4七銀


歩越し銀を相手にせず、以下右玉に組んだ渡辺棋王。
落ち着いた指し回しで後手の趣向を咎めた。

左玉にするのも自然だ。
斎藤vs羽生(A級順位戦)では上図から下記のように進行した。


図からの指し手
▲3六銀 △3四歩 ▲4六歩 △3三銀上 ▲4七銀 △3一角 
▲6六歩 △7四歩 ▲6七銀 △6四角 ▲5八金 △5二金 
▲6八玉 △3一玉 ▲9六歩 △9四歩 ▲7九玉 △7三角 
▲3六歩 △5五銀 ▲4八飛 △8四角 ▲4九飛 △7五歩 
▲同 歩 △同 角 ▲3七桂 △4二金右 ▲5六歩 △4四銀引 
▲2九飛 △7二飛 ▲7六歩 △6四角 ▲8八玉 

自然に進行したようだが、上図ではかなり先手の形勢が良い。
評価値にするとプラス700ほどだ。
歩越し銀の罪は大きい。




そこで左銀を6六でなく、斜め棒銀として右翼に活用するのはどうか?


初手からの指し手
▲6八銀 △8四歩 ▲5六歩 △8五歩 ▲5七銀 △3四歩
▲7八金 △4二銀 ▲6九玉 △3二金 ▲2六歩 △7二銀
▲2五歩 △3三角 ▲3六歩 △4四歩 ▲7九角 △4三銀 
▲4八銀上 (図) 

8筋の飛車先交換は後手の権利なので急ぐ必要はない。
図の▲4八銀上で、すぐに▲3五歩と攻める順についても本譜と同様に対応して問題ない。


図からの指し手
△7四歩 ▲3五歩 △同 歩 ▲4六銀 △4五歩 
▲2四歩 △同 歩 ▲3五銀 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 
▲8七歩 △5六飛 ▲2四銀 △5五角 ▲3七歩 △6二玉 
▲5七銀 △3六飛 ▲3八金 △2六歩 ▲5九歩


△7四歩に単に▲4六銀とする手に対しては、いつでも△4五歩と反発できるのが雁木の長所だ。歩があればすぐに△4五歩として▲同銀に△4四歩で「銀ばさみ」。
現状は歩がないので△7三桂と待って、▲3五歩には相手にせずに△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8五飛と好位置に引いて先手からの手段がない。


そこで▲3五歩と突き捨ててから▲4六銀が軽い指し方だ。
しかし、先手の左銀が3五まで動いた瞬間に△8六歩からの十字飛車が好タイミング。
後の△5五角を可能にした大きな手だ。
△2四銀の角取りには予定通り△5五角と飛車取りに逃げ、▲3七歩の受けに△6二玉と争点から遠ざけるのが戦いの呼吸。
▲5七銀で飛車が死んだようだが、△3六飛と歩の頭に逃げることができる。
▲3八金にも飛車を逃げずに△2六歩と頑張るが、先手に冷静に▲5九歩と備えると△3四飛と退くしかない。
そこで▲2六飛は△4四角がぴったりで、▲2五飛にも△3三桂と捌き、先の△6二玉が生きる変化になる。▲5六銀で△7三角と角を追い、▲3五銀△5四飛と飛車を追ってから▲2六飛と歩を払うが、△2五歩▲3六飛△3四歩▲2四銀△7一玉が変化の一例で互角の形勢。


最後に後手雁木の決定版がある。
△3三角と飛車先を受けない雁木だ。
斜め棒銀も含め棒銀戦法は、飛車先突破を目指すのではなく、角頭を狙う戦法だ。
したがって角を目標から躱すのは理に適った指し方だ。
▲2五歩に△3三角と受けない方が先手の左銀に狙われにくい。
飛車先の歩交換を許すが、先手に二の矢がない。
例えば下図のような形での後手の次の一手は△2二角だ。

下図は島本vs青嶋(王座戦)にて取材したもの。
▲3五歩△同歩▲4六銀という先手の斜め棒銀狙いに対し、やはり△2二角と引くのが好手。
この手によって先手の攻めは空を切った。



後手の持久戦策②矢倉

冒頭に述べたように、手順は若干違うが最初にプロ将棋に嬉野流が出現した時の後手の丸山九段の対策は矢倉だった。


一目散に矢倉に囲うより相手の動きに合わせる柔軟さが必要だ。

嬉野流の攻撃力を警戒して飛車先交換から△8五飛と構える。
極限早繰り銀の対策に似ている。

飛車先交換されても右銀の活用を抑えておけば大丈夫。
場合によっては、次に△3三桂から飛車交換を狙う。
玉は△6二玉と右玉にする心積もり。

終盤戦、後手陣の矢倉は影も形もない。
ここで△2七歩▲同飛と飛車を釣り上げておき、△8八歩が急所の一手で後手有利。
▲同金なら△3六飛(図)が角取りと△3八銀を見た好手。

▲3七飛なら△3五飛▲同飛△6八銀▲同玉△5七角から飛車が抜ける。
したがって△8八歩には▲3二とと攻め合うことになるが、△8九歩成▲4二とには△5七桂が厳しく後手優勢。
△8八歩が決め手だった。

持久戦策③左美濃


21手目に角切り!私を苦しめ続けた嬉野流相手に怒りの猛攻!


持久戦策④菊水矢倉

初手からの指し手
▲6八銀 △3四歩 ▲5六歩 △5四歩 ▲2六歩 △4四歩 
▲2五歩 △3三角 ▲3六歩 △5二金右 ▲4八銀 △4三金 
▲5七銀左 △2二銀 

図から▲3五歩△同歩▲4六銀と攻める。
対して△3六歩は手筋だが、この場合▲2六飛△4二角▲3六飛△3三銀▲5五歩△同歩▲7六歩とされて次の▲5五銀が▲3四歩~▲4四銀を狙って好調。
△3四歩と受けても▲2四歩△同歩▲2二歩△同銀▲5五銀で△3三銀には再度の▲2二歩がある。
△5二飛と間接的に玉を睨んでも構わず▲5五銀だ。

△3六歩のところ△4二角~△6四角を急げば、無事菊水矢倉に組めそうだ。



嬉野流には菊水矢倉が鉄板の対策!!ウォーズ七段の菊水矢倉VS嬉野流3【将棋ウォーズ1手10秒】202011



対振り飛車


対振り飛車には鳥刺しからの急戦をすることが多いようだが、高美濃囲いから△6五歩などと▲6六の銀を圧迫される展開になると勝てない。
かといって無理に急戦すると玉の薄さが響きそうだ。
したがって糸谷流右玉や相振り飛車もvariationに加えておきたい。


鳥刺しvs四間飛車

先手の鳥刺し戦法は、昔、内藤国男九段が用いて打倒大山に成功したこともある。
幕末に四国の四宮金吾(阿波国)が編み出した戦法とされ、その昔、四国のアマチュア強豪として名を鳴らしていた宮武尚文(香川)さんが得意としていた。
最近では神谷広志八段著『オッサン流振り飛車破り』が詳しい。

初手からの指し手
▲6八銀 △3四歩 ▲5六歩  △3二銀 ▲5七銀 △4四歩 
▲2六歩 △4二飛 ▲2五歩 △3三角 ▲6八玉 △6二玉 
▲7八玉 △7二玉 ▲4八銀上 △8二玉 ▲3六歩 △7二銀 
▲7九角 △9四歩 ▲9六歩 △4三銀(図) 

図の△4三銀で△4五歩は▲3七桂とされて△4三銀が間に合わず4五の歩が負担。
図から▲4六銀は△3二飛▲3五歩△4二角と普通に応対し、▲3四歩△同銀▲3八飛には△3一角と2二の地点をケアして問題ない。
図から▲3五歩には注意が必要で、後手は決してこの歩を取ってはならない。


図からの指し手
▲3五歩 △3二飛 ▲3四歩 △同 銀 ▲3八飛 △2二角 
▲4六銀 △3一角 


途中の△2二角で△5一や△5二に引くのは▲2四歩△同歩▲2二歩がある。
居飛車を持ってこれからの展望が見えない。
居飛車が後手なら千日手の権利はあるが、通常の急戦より得していない。
嬉野流としては、内藤vs大山のように▲7九角を保留し、場合によっては▲7六歩と居角で活用する含みを持たせるべきだった。
なお、上記の『オッサン流振り飛車破り』では▲4八銀上を省略して一手早く攻める工夫が書かれている。
他にも面白い作戦が紹介されているので、ぜひ一読してほしい。


鳥刺しvs三間飛車

上の棋譜より以前、大山康晴の三間飛車に対して内藤は鳥刺しを試みたことがある。
大山は▲6六銀型で対抗し、▲1五歩の勝負手で内藤九段の△9九との疑問手を引き出し、逆転勝ちした。
この将棋に見られるように、鳥刺しは玉が薄いので実戦的に勝ちにくい。

初手からの指し手
▲6八銀 △3四歩 ▲5六歩 △3二飛 ▲5七銀 △6二玉
▲7九角 △7二玉 ▲2六歩 △8二玉 ▲2五歩 △3三角
▲6八玉 △7二銀 ▲7八玉 △9四歩 ▲9六歩 △4二銀
▲6六銀 △2二飛 ▲4八銀 △5四歩 ▲3六歩 △5三銀
▲3七銀 △4四銀 ▲4六銀 △3二飛 ▲3七桂 △6四歩
▲4五桂 △4二角 ▲5五歩 △同 歩 ▲同銀左 △同 銀
▲同 銀 △3三桂 ▲同桂成 △同 角 ▲5八飛 


嬉野流の天敵と呼ばれるノーマル三間飛車。
右銀を据え置いて左銀を▲6六銀として角交換を狙うのが第一のポイント。
△2二飛と受けてくれれば右銀を繰り出す。
これには△4四銀と銀対抗でがっちり守り、△3二飛で銀交換を防ぐ。
▲3七桂には、△6四歩と▲6五銀を防ぐのが大切な手だ。
▲6五銀は軽いようだが有力な揺さぶりなので覚えておきたい手。
先の大山vs内藤でも大山康晴は、美濃囲いを断念して▲4八銀とこの手に備えていた。


いよいよ先手は▲4五桂から▲5五歩と攻める。
後手も△3三桂と捌けたのは大きく、自信がある展開だろう。
しかし▲5八飛と回って▲5三桂を狙い、△4二金に▲6四銀となると先手の駒が生き生きしている。
先手陣は玉形は薄いが、攻め駒は手厚い。
振り飛車が勝つのは容易でない。


鳥刺しvs中飛車

中飛車に対して鳥刺し風に指すのは有効かもしれない。
参考棋譜を下に示す。


糸谷流右玉

糸谷流右玉は対振り飛車に有効な作戦。
嬉野流の出だしから糸谷流右玉に組み替えることも可能だ。
角道を開けないのでスムーズに組みやすい。
私見だが、急戦よりは勝ち易い気がする。
参考までに糸谷流右玉の実戦を下に掲げるが、いずれ別に取り上げたい。













相振り飛車

初手からの指し手
▲6八銀 △3四歩 ▲5六歩 △3二飛 ▲5七銀 △6二玉 
▲7九角 △7二玉 ▲8八飛


振り飛車相手には相振り飛車にするのも有力。
図から左玉にすることもできる。
自分にあった将棋を使い分けるといいだろう。