将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【相掛かり】君は知っているか?鎖鎌銀戦法を

鎖鎌銀戦法とは

「剣聖」宮本武蔵が戦った相手の中で、鎖鎌の使い手、宍戸梅軒は印象深い。
鎖鎌は、宍戸梅軒が考案した武器で、殺傷能力が高そうだ。
その鎖鎌の名のついた戦法がある。
下図がそうだ。
6三にいた銀が、5四に腰掛けるのでなく、△7四銀と出たのだ。

鎖鎌銀戦法の名付け親は、故加藤治郎九段。
さしずめ、8二の飛車が鎌で、鎖でつながれた分銅が7四の銀といったところか?
銀が意外な方向から飛び出したというのがネーミングの由来だ。
腰掛け銀全盛時代に後手の変化として流行った。
△5四銀なら相腰掛け銀だ。
図から▲4五銀△6五銀と我が道を行き、▲3四銀△7六銀▲2三銀不成△8八角成▲同銀△4四角が期待の反撃。
▲3二銀不成△同銀▲2四飛△6七銀成▲4四飛△7八成銀に▲6四飛と手順に横歩を取って△8八成銀には▲6二歩で先手有利といわれていたが、色々と裏定跡があって後手も指せる。
近代将棋付録の『寅ちゃんのイマの定跡は、これだ!』に詳しい。

表紙は、田中寅彦八段(当時)と中瀬奈津子女流(藤森哲也ママ)




端歩手抜きの鎖鎌銀

伊藤匠vs近藤誠也 

近藤誠也七段は、彼が三段の頃からの私の推し棋士である。
郷田昌隆九段に似た剛直な棋風に魅かれる。
その彼が鎖鎌銀を採用、相手は伊藤匠五段(2022.3.15王位戦)

一見して後手の手数が進んでいるが、先手が端に3手も掛けたのが原因。

先手の▲4六歩を見て△7四銀の鎖鎌銀は機敏。

▲2六飛といった受けが無効になっている。


なお、▲4六歩では後手の浮き飛車を咎めて▲6六角とする手が面白い。

△6六同角▲同歩として雁木+地下鉄飛車の構想だ。


図の局面から端のクライを生かして持久戦にしたい先手は、角交換して▲8八銀と堅く受け、後手は銀交換を果たす。

▲8八銀では▲6八銀として次の▲7七桂を狙う手も考えられるが、△8五銀▲7七銀となって本譜と合流する。


そして△8六歩から銀交換すると、昔から棒銀成功と言われていた形。

▲6三角と打つ筋が、9六に歩があるため△7二角と合わせられて無効。

攻めの銀と守りの銀の交換なので、人間としては先手が指しにくく映るが、形勢は互角らしい。


▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲3八銀 △7二銀 ▲9六歩 △3四歩 ▲2四歩 △同 歩
▲同 飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲1六歩 △8四飛
▲7六歩 △2三歩 ▲2八飛 △6四歩 ▲8七歩 △6三銀
▲1五歩 △4二玉 ▲4六歩 △7四銀 ▲2二角成 △同 銀
▲8八銀 △8五銀 ▲7七銀 △8六歩 ▲同 歩 △同 銀
▲同 銀 △同 飛 ▲8七歩 △8二飛 ▲6八玉 △9四歩
▲4七銀 △9五歩 ▲同 歩 △9七歩 ▲同 桂 △9五香
▲9四歩 △9六歩 ▲9三歩成 △同 桂 ▲9四歩 △9七歩成
▲9三歩成 △8四飛 ▲8六銀 △8八と ▲同 金 △9九香成
▲6六角 △3三角 ▲2六桂 △6六角 ▲3四桂 △3一玉
▲6六歩 △6五歩 ▲2二桂成 △同 玉 ▲7五銀 △5四飛
▲4五銀 △6七香 ▲同 玉 △6六歩 ▲同 銀 △6五歩
▲5四銀 △6六歩 ▲5八玉 △6七角 ▲5九玉 △3五桂
▲5八銀 △2七銀 ▲4三銀成 △同 金 ▲4四香 △7六角成
▲4三香成 △同 馬 ▲2七飛 △同桂成 ▲4一飛 △3二馬
▲6一飛成 △4八歩 ▲3九金 △4一香 ▲6三角 △6七桂
▲同 銀 △同歩成 ▲3四桂 △3三玉




現代の鎖鎌銀

脱線するが、宍戸梅軒と名が似ている穴山梅雪は、武田二十四将 の筆頭格であったにも関わらず、信玄没後に裏切って信長についた。
それを知った明智光秀は、武田との関係が露見するのを恐れ、先手を打って信長を襲った。
これが本能寺の変の真相らしい。


閑話休題
先の例は、先手が浮き飛車にしていたが、現代では腰掛け銀との相性が悪いと殆ど見ない形だ。
そんな鎖鎌銀戦法が現代に蘇った。


初手からの指し手
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲3八銀 △7二銀 ▲9六歩 △9四歩 ▲4六歩 △3四歩
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲4七銀 △8二飛 ▲8七歩 △8三銀 ▲2八飛 △2三歩
▲7六歩 △7四銀 ▲5六銀 △8五銀 (図) 

指したのは、「スーパーあつし君」宮田敦史七段。
先手の腰掛け銀は、現代調の低い陣形と違い、歩を合わせて動くことはない。
後手としては気が楽だ。
鎖鎌銀は、△6三銀~△7四銀だが、現代は△8三銀~△7四銀。
「UFO銀」と呼ばれることもある。
△6四歩を省いたのが後手の工夫で、3つのメリットがある。
足が速く、▲6四飛と取られる変化もなく、6三の隙もない。
先手としては、攻め合いは危険なので角交換して銀で受けるしかない。


図からの指し手
▲2二角成 △同 銀▲8八銀 △4二玉


もちろん形勢は互角。
消えた戦法と言われるUFO銀(宮坂流棒銀)だが、その思想は現代将棋に生きている。


△6四歩省略の利点

角打ちのキズ

図は先後逆表示だが、佐々木大地vs藤井聡太(王位戦第二局)の相掛かり。
▲3四銀と進出した銀だが、△4七角と打たれ、△7四角成~△8五馬とされると、次に△7七歩成から△3四飛と銀を抜くことができる。
この角打ちの隙を作ったのが4筋の歩突き、この場合は▲4六歩だが後手の場合は△6四歩、この歩が弱点だった。


狙われる歩

図は、稲葉vs丸山(竜王戦)の一場面で、一手損角換わりの定跡形。
6四の歩が狙われている。
この歩を突かずに駒組を進められないか?

可能だ。
△4二玉から右銀を6二~5一~5二~4三(あるいは△6二金から7二~6一~5二~4三)と動かせばよい。
ただ、そのための△4二玉が戦場に近く、危険。
狙って急戦される可能性が高く、実現性は低い。
その点、△6四歩を省略できるUFO銀(宮坂流棒銀)は優秀すぎる作戦だ。


と書いたところが、年鑑の棋譜を並べていて実戦例を見つけた。 

開始日時:2023/08/01 16:12:46
先手:永瀬
後手:丸山
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △8八角成 ▲同 銀 △2二銀
▲4八銀 △6二銀 ▲3六歩 △3三銀 ▲2五歩 △3二金
▲3七銀 △4二玉 ▲4六銀 △5一銀 ▲1六歩 △3一玉
▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀 △3四歩 ▲2六銀 △4二銀上
▲7七銀 △8四歩 ▲6八玉 △8五歩 ▲7八金 △4四銀
▲5八金 △3三銀上 ▲7九玉 △5二金 ▲9六歩 △7四歩
▲9五歩 △6四歩 ▲6六歩 △4五銀 ▲1五銀 △3六銀
▲3七歩 △4五銀 ▲6八金右 △3五角 ▲8八玉 △7三桂
▲5五角 △6二飛 ▲7五歩 △同 歩 ▲2四歩 △同 歩
▲同 銀
△同 角 ▲7四歩 △7六歩 ▲同 銀 △7二歩 ▲2四飛
△同 銀 ▲1一角成 △3九飛 ▲7一角 △2九飛成 ▲6二角成
△同 金 ▲7三歩成 △同 歩 ▲8一飛 △4二玉 ▲8二飛成
△5二金 ▲6三香 △8四桂 ▲同 龍 △3三角 ▲同 馬
△同 玉 ▲2五歩 △同 龍 ▲7三龍 △5四角 ▲6二香成
△7二歩 ▲7五龍 △4二金右 ▲5五角 △4四歩 ▲4六歩
△同 銀 ▲同 角 △7五龍 ▲同 銀 △4九飛 ▲2四角
△同 玉 ▲3六桂 △3五玉 ▲2七桂 △2六玉 ▲2八銀




藤井聡太の鎖鎌銀

出口vs藤井(第七期叡王戦五番勝負第2局)にて図の局面が出現した。
鎖鎌銀というよりUFO銀(宮坂流棒銀)だが、先述の△6四歩省略の工夫だけでなく、角道を開けていないのが注目点。
角交換されると銀出の効果が薄くなる。


先手は▲4五歩と飛車の横利きを通して受ける。

△2五歩として後手が主導権を握った。
 

しかし、図でひと目の△6七銀成▲同金△7八角▲5八銀△8九角成は、▲6六角となって自信が持てない。
△6五銀の撤退は冷静だ。
 

千日手となったが、▲2六飛に△2七歩と打開していれば、▲2三歩△同銀▲1三桂成△2八歩成▲2三飛成△3八と▲6八玉△2二歩となって後手十分だった。
出口五段は命拾いした。