将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【minor戦法】村田システムから新・村田システムへ(その1)

非・角交換への回帰

どこかでも述べたが、現代将棋のキイワードは、「角交換」。
振り飛車すら角道を閉ざさない。
現代将棋の申し子である藤井聡太七冠の得意戦法が、「角換わり」というのが象徴的だ。
しかし、打倒藤井七冠を真剣に考えるトッププロの中に、彼の長所を封じ、自分の長所を生かすため、角交換を避け、「非・角交換」の戦法=矢倉・雁木を採用する棋士が現れ出した。
渡辺明九段・佐藤天彦九段などがその代表格。
今回のテーマとなる「村田システム」「新・村田システム」は、その流れの中で産み出された戦法。
したがって渡辺九段が「村田システム」に目を付けたのは当然で、後に詳しく触れるが、対広瀬戦(JT杯日本シリーズ)でいち早く採用している。
矢倉・雁木が「開けた角道を止める」のに対して、「嬉野流」や「村田システム」は「最初から角道を開けない」と、より徹底している。
難解な角交換将棋を避け、自分の土俵で戦えるため、「嬉野流」同様アマチュアに支持されている。
なお村田本では、右銀システムと左銀システムとに分けているが、左銀システムは「嬉野流」とし、本稿では右銀システムのみ取り上げる。

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関西の村田顕弘六段が、図のように角道保留し銀を進出する作戦を「村田システム」と名付け、連続採用した。
「嬉野流」とともに升田賞の候補に挙がったが、受賞を逃した。
逃して良かったと筆者は思う。
というのが元々この作戦は、アマ強豪の木村孝太郎さんのオリジナル戦法。
本も出している。
パクった?

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他に故藤井真司さん(島根県)も用いていた。
振り飛車党とばかり思っていたら、角道を開けない居飛車で来られ敗戦。
居飛車も巧いのに感心した覚えがある。


村田システム(木村孝太郎オリジナル戦法)とは?

定跡無視の力戦に

一見して角頭が薄いので、相手はそれを咎めて棒銀模様にくる。
ところが意外にも一筋縄で攻略できない。 


対大橋戦図

後述するが、上図では形が悪いものの後手が先攻できそうで悪くない。
こういった力戦に持ち込むのが狙いの一つ。


早繰り銀と5筋位取り

理想とする形は、早繰り銀と5筋位取り。
攻めっ気の強い早繰り銀に対し、じっくりと指す5筋位取り、棋風に合わせて使いこなしていきたい。

早繰り銀-1図

早繰り銀-2図

矢倉に対しては、早繰り銀が有効、雁木に対しては、5筋位取りを何度か試みている。




5筋位取り

  • △4一玉に対しては、▲4六歩として▲4五歩△同歩▲3七桂という攻めを狙う。
  • △7三銀に対しては、▲6六歩~▲6七金と手厚く指す。

プロ好みの指し方だ。





早繰り銀+5筋位取り

上図はアマ同士の対局で、後手が木村孝太郎さん。
先手が雁木に組んだため、5筋の位を取ることができた。
早繰り銀と5筋位取りのコンボだが、アマチュアにはこちらの方が分かりやすい。
この図は、「極限早繰り銀」からも頻出する。
「村田システム」は、「極限早繰り銀」の進化形ともいえる。


図からの指し手
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲2五飛 △7五歩
▲6五歩 △7六歩 ▲同 銀 △7五歩 ▲6四歩 △7六歩
▲5五角 △同 角 ▲同 飛 △8六歩 ▲同 歩 △4四角
▲6五飛 △5四銀 ▲6九飛 △9九角成 ▲6三歩成 △6五香
▲6六歩 △同 香 ▲5二銀? △同 金 ▲同 と △同 飛
▲6七歩 △8七歩 ▲9六角 △6三歩 ▲8七角


銀の位置を5四でなく6四にしたのは、先手の横歩取りが銀にあたるのを警戒したと同時に△7五歩の仕掛けを図っている。
先手はここで飛車先交換したが、▲3七桂としてから飛車先交換すると2九まで引けるので、ほんのちょっとだけ得だったかも。
実戦は飛車先交換の後▲2五飛と、次の▲6五歩を狙った。
以下△7五歩▲6五歩に△7六歩▲同銀△7五歩と強く戦って、後手ペースの展開だ。


参考図 

図から▲5四飛と横歩を取ったプロの実戦があるが、貪り過ぎ。
図では▲2五飛と引くのが面白く、△5五歩には▲同飛!がある。


相掛かり革命「新・村田システム」

 近年の村田は、相居飛車でも対抗形でも角道をすぐに開けない作戦に鉱脈を見いだしている。本局はそれに浮き飛車+早繰り銀を組み合わせた。右銀を素早く繰り出す作戦は中原誠16世名人が得意にし、名人戦でも採用している。

(「将世2023.9」勝又清和七段『プロも驚く仰天妙技』より)

「相掛かり戦法」という名前は、剣道の「相掛かり稽古」のように「お互いが隙を見つけてどんどん打っていく」戦法ということらしい。


そんな激しさを避けたい私のようなアマチュアにとって「シン・村田システム」の出現は、朗報。


不利感のある後手番で使えるのも良い。


なお、「ヒネリ飛車」や「横歩取り」も「相掛かり」から派生したもので、「相掛かり」の中の変種という認識らしい。「角換わり」もそうだ。
その証拠に、森雞二著・羽生善治監修『最新相がかりの正体』では、第1章 横歩取り、第2章 相がかり、第3章 ヒネリ飛車、第4章 角換わり棒銀、第5章 角換わり腰掛銀という構成になっている。 


藤井七冠を追い詰める

パクリ疑惑のある「村田システム」だが、「新・村田システム」へと進化を見せた。
全冠制覇へ残るタイトルは王座のみとなった藤井聡太七冠。
「王座」挑戦に向かって村田顕弘六段と対戦した。
村田六段の作戦は、通常の相掛かりのように思えたが、早い飛車先交換から「村田システム」に似た陣形に・・・本人曰く「新・村田システム」。
この作戦が七冠を苦しめた。

 図までの手順は、銀を出すルートを工夫しています。この順によって①△5六飛と十字飛車で取られる心配がない。②角頭を攻められたときに守勢にならずに済む。③△4四歩~△4五歩と銀を追い返される心配がない、などが挙げられ、これらは先手の改良点といえます。

「将世2023.9号」村田顕弘『村田システムとは何だ?』より


村田システムとの共通点は角道保留と早繰り銀。
3筋の早い突き捨てを見た時は、「新・中原流相掛かり」かと思った。
この時の玉形は6九玉だが、相手が鎖鎌銀で来た場合は、下図のように5八玉とする。

以下△7五銀には▲7六歩△8六歩▲同歩△同銀▲2二角成△同銀▲8八歩と受けて▲6三角や▲5五銀と反撃を狙う。
「中原流相掛かり」より角交換のタイミングが戦略的だ。


相掛かりで相手の玉を攻めるために▲5六歩~▲5五歩とクライを取りたいが、通常形で5筋を突くと角交換される。
そのため、角道を通さず▲5五歩を急いだのが工夫で、一理ある作戦だ。
次に▲7六歩とされと後手の角が負担になるので藤井七冠は△7五歩とした。
これに▲5八金△6三銀の後、▲7六歩△同歩▲3五銀と先手ペースになった。



稲葉八段の後手番「新・村田システム」

竜王戦挑戦者を目指すトーナメントの伊藤匠vs稲葉陽で、「新・村田システム」が出現。
前の将棋との違いは、飛車先交換を保留しているところ。
先手の伊藤匠六段は、▲6八玉型を危険と見て▲5八玉としたが、△5五歩と圧迫されると、いつでも歩で攻められるのが脅威だ。 

図からの指し手
▲6六歩 △3四歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛


横歩を狙って機敏。
後手としては嫌な順だが評価値は悪くない。

横歩取りを警戒するなら△4一玉として▲3四飛に△2三金を見せたいが、横歩を取らずに▲2二飛成!△同金▲6五歩と攻められて危険。
△2三歩▲3四飛△4一玉は妥当。
そこで▲2四歩としたいが、△3三銀で飛車が危ないので▲3五飛は自然。
後手は▲6五歩の筋を警戒して△7三桂とし、▲2五飛に△8六歩▲同歩△同飛と飛車先を交換して△8四飛と浮き飛車に構え、△7五歩を狙う。 

図の△4四角で駒組みが完成。
△4四角は効果の高い手。

  1. △3三桂と活用した時に角がカゲにならない
  2. 玉を広くする
  3. 将来の▲3四桂の両取りを避けた 
  4. △5三角と活用できる

図からの次の一手が形勢を分けた。
△1五歩が緩手で、▲3三歩成△同桂▲3四歩と手筋の攻めがヒットした。
自然な△4六同銀が最善だったが、指しにくい。
只取りの歩を突いた伊藤匠六段の度胸も凄いが、稲葉八段にしてみれば、△同銀と取る手は相手の読み筋に嵌るのでよほどの読みの裏付けがなければ指せない。
▲4四角△同歩▲3三歩成(▲4三歩△同銀▲3三歩成△同桂▲同桂成△同金▲2五桂△3二金▲3三歩△4二金▲1三桂成△5七歩成は歩切れで先手苦しい)△同桂▲同桂成といった攻めが予想されるが、後手が指せた。



森下九段の後手番「新・村田システム」

どこかでも述べたが、私の推し棋士は近藤誠也七段。
郷田九段に似た剛直な指し手が魅力で、三段時代から注目していた。
居飛車本格派の彼が、森下九段の新・村田システムにどのような対策を見せるか注目だ。

森下九段は早く飛車先交換をして△8二飛と引いた。
△1四の歩突きが珍しいが、森下九段に狙いがあった。


図の▲4五歩は▲4五桂の含みをなくすが、近藤七段らしい「大きな将棋」。
次に▲3五歩とクライを取って▲2六飛型を作ると理想形になる。
そこで森下九段は△1三角と面白い動き。
遠く先手玉を睨んでいる。
▲1六歩には△4六角から角を転換する予定。
それを許さないと▲4七銀に対しては△6四銀▲1六歩△6五銀と棒銀が厳しい。
NHK杯のAI評価も後手に傾いた。

△6五銀に▲7七金などと受けようとしても△5五歩で返って厳しくなる。
近藤七段は▲1五歩と攻め合う。
先手が並みの棋士なら△1三角の時点で▲5八玉~▲6八銀とイナシを考えるが、剛直に我が道を行く指し手が近藤将棋の魅力だ。

図の△2二角は、△3一角との比較に悩んだところ。
△3一角なら▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲5四飛の横歩取りに△5三銀と活用できるのが利点だが、角の活用が難しいのが難点。
ただし、先手の具体的な指し方も難しい。例えば▲6六角と受ける手には△6五銀~△7六銀と千日手を狙われる。

図から▲8三歩に△同飛と取るか、単に逃げるか、森下九段に選択が迫られる。
単に△5二飛と逃げると、キズは少ないが飛車の活用が難しい。
先の△3一角と同じ意味で、こういう手を一流プロは選ばない。
△8三同飛▲8四歩△8二飛と進行。
いずれの選択も森下九段の指し手が間違ったわけではなく、むしろ正解だったが、後々の局面が思ったほど芳しくなく、もしかするとどこかで間違ったか?という迷いが森下九段に残った。

図の▲1二歩が、▲1四歩を予想していた森下九段の意表をついた巧い手だった。
▲1四歩は△1八歩で拙いので、近藤七段にとっては仕方ない選択だったが、後手の指し手が悩ましい。
飛車を取るのが自然で実戦の選択だが、森下九段は感想戦で△3四歩と指したかったと、苦しかった胸の内を吐露した。
以下▲2二角成△同金▲9六飛△8四飛が変化の一例だが、なるほどこれなら後手の主張が通っている。


実戦は△5六金▲同歩△2九飛に▲3八銀打が固く、形勢はともかく先手の指し方が分かりやすい。
△5六金▲同歩に△3四歩も有力だったが、▲5五歩と交換を阻止する手が生じるのがちょっと悔しい。
また森下九段が感想戦で述べていた△8八歩もあった。


実戦は、▲1一歩成と香を取って▲8三香~▲8一香成~▲8三歩成と分かりやすく攻めて先手勝ち。


森下九段の△1三角と棒銀のコラボが巧妙な攻めだったが、実らなかった。

木村孝太郎アマのオリジナル戦法、プロを破る

2018年の銀河戦で後手番の木村孝太郎アマが、中座真七段を相手にオリジナル戦法を試みた。
これを後に村田顕弘六段が借用して「村田システム」と自分の名を付けた。
なかなかの強心臓といえよう。

図からの指し手
▲2三歩 △3一角 ▲4六歩 △4四歩
▲7六歩 △4三銀 ▲3七桂


中座プロの対策は、図から▲2三歩の拠点作り。
しかし、実戦のように△4三銀とされると、次に△3四銀として2三の歩を取り返すことができる。
△3四銀を防いで▲3五歩としても、構わず△3四歩。
以下▲同歩△4二角▲2八飛△3四銀と取られて▲2二歩成は△同金▲同飛成△1五角で嵌る。
このあたり、中座プロに誤算があったか?


その後、下図の局面となり、「次の一手」のような決め手があった。 

図からの想定手順
▲4四角 △同 銀 ▲5四飛 △5三銀 ▲8四飛 △8三歩
▲7一銀 


強引に飛車の取り合いにすれば陣形差で先手が有利。
しかし角を犠牲にまでして得た銀が遊ぶので、実戦では指しにくい。


持久戦対策

対矢倉

嬉野流の項でも述べたが、矢倉相手には二枚銀が効果的と考えている。

▲7六歩の一手を省略できるので足が速い。

△4五歩▲同銀△3五歩には▲5五歩とできるのが二枚銀の良さ。

3筋と同時に中央を狙っている。

手順に8筋を交換して△6四角と飛車取りに引いたが、▲5五歩と今度は中央に転戦する。

△同歩には▲5八飛と居玉をとがめる。

△4一玉には▲5五銀△4二角▲7六歩とついに眠っていた角が働いた。

二枚銀と飛車角の攻めは迫力十分。

受けきれないと見た後手は、△8六歩▲同歩△8七歩▲6六角△8六飛と反撃してきた。 

▲2四歩△同歩▲2二歩が手筋の攻め。

△2二同銀には▲4四銀、△▲2二同金にも▲3四歩△同銀▲4四銀と攻めが続く。


図からの指し手

▲2四歩 △同 歩 ▲2二歩 △5七歩 ▲同 飛 △3四歩 

▲4四銀右 △同 銀 ▲同 銀 △同 金 ▲同 角 △5三銀打 

▲7七角 △7六飛 ▲2一歩成 △5六歩 ▲5九飛 △8八銀

ここで▲6一銀などと攻めても続かない。手駒が乏しい後手を喜ばせるだけだ。

▲8七金から受けるに回るのが手堅い勝ち方。

手がなくなった後手は投了するしかない。


図からの指し手

▲8七金 △7七銀成 ▲同 金 △7四飛
▲5六飛 △2七角 ▲5九金 △4五角成 ▲8六飛 △8四歩
▲7五歩 △5四飛 ▲4六銀 △3六馬 ▲3七金 △1四馬
▲5五銀打 △同 飛 ▲同 銀 △3三角 ▲6六銀 △2八銀
▲4六金 △2九銀成 ▲4五桂 △4四角 ▲8四飛
まで89手で先手の勝ち



対腰掛け銀

野原未蘭 女流初段 対 加藤桃子 女流三段
開始日時:2023/05/29 10:00:00
棋戦:倉敷藤花戦
場所:東京・将棋会館
持ち時間:2時間
▲2六歩 △8四歩 ▲4八銀 △8五歩 ▲7八金 △6二銀
▲6八銀 △3二金 ▲5六歩 △6四歩 ▲5七銀右 △6三銀
▲2五歩 △3四歩 ▲6六歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲8七歩 △8二飛 ▲7六歩 △4二銀 ▲2四歩 △同 歩
▲同 飛 △2三歩 ▲3四飛

横歩を取って積極的に先手番の良さを求めた。

良い判断だったと思う。

普通に飛車を引くと雁木対腰掛け銀の将棋になるが、下図のような局面が想定され、先手番の得は消えている。 

後手としては、△4一玉▲2八飛△2三歩の展開なら無難だが、横歩を取らせてその飛車を△4四角と狙おうという作戦。


図からの指し手

△4一玉 ▲3六飛 △4四角
▲4六銀 △5四銀 ▲5五歩

▲5五歩が好手で後手の狙う飛車いじめは失敗。

しかし、△同銀に対する▲5七銀では▲3五銀△2二角▲2六飛と積極的に指したかった。


図からの指し手

△同 銀 ▲5七銀引 △2二角
▲5六歩 △4四銀 ▲2六飛 △4五銀 ▲6九玉 △3一玉
▲2五飛 △5四銀 ▲4六銀 △4四角 ▲3六歩

 

先手の飛車が生還して後手失敗感はあるものの、ここで△3四歩は消極的過ぎた。

△6五歩と仕掛けて後手が指せる分かれだった。


図からの指し手

△3四歩
▲2八飛 △2二角 ▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀 △4五銀
▲4六歩 △3六銀 ▲3八金 △8五飛 ▲2六銀 △2四歩
▲3七歩 △2五銀 ▲7七桂 △8二飛 ▲2五銀 △同 歩
▲同 飛 △2三歩 ▲6七銀 △1四歩 ▲9六歩 △9四歩
▲9七角 △1三桂 ▲2八飛 △9五歩 ▲6四角 △9六歩
▲6五桂 △9七歩成 ▲同 香 △同香成 ▲同 角 △9二飛
▲9八歩 △6四歩 ▲2七香 △2五香 ▲同 香 △同 桂
▲5三桂成 △同 銀 ▲2五飛 △6五桂 ▲3六香 △7七銀
▲6五歩 △7八銀不成 ▲同 銀 △5七歩 ▲4八金 △3三香
▲4五桂 △3六香 ▲5三桂成 △3七香成 ▲同 桂 △9七飛成
▲同 歩 △3六角 ▲6八玉 △5八金 ▲7九玉 △2五角
▲同 桂 △3九飛 ▲4九香 △4八金 ▲4二銀 △2一玉
▲3三歩 △4九飛成 ▲8八玉 △3一歩 ▲5五角 △4二金
▲同成桂 △7九銀 ▲7七玉 △6八銀不成 ▲同 玉
まで131手で先手の勝ち


対腰掛け銀は、▲5五歩が利くので怖くない。


対角換わり5筋位取り(広瀬vs渡辺)

断っておくが、渡辺前名人がこの戦型を採用した当時は「村田システム」という名前はなく、角換わり後手番の息苦しさを考えて、独自の研究で採用した戦型だった。

後述するが、タイトル戦での前例もある。

下図は先後反転表示。

誰がオリジナルかという議論はさておいて、渡辺明九段の序盤センスは素晴らしい。

ここから5筋のクライを取って、後手番ながら主導権を握っていく。 

ここでは素直に△同歩と取り、▲同銀に△7五歩と攻めるのも有力だった。



急戦対策

対最速棒銀

飛車先交換より早く銀を繰り出す指し方を「最速棒銀」と呼ぶ。


これには、壁金を気にせず角交換するのが良いらしい。
さらに▲7七桂(△3三桂)と受けて銀出を阻止する。

対UFO銀

△8三銀~△7四銀とするのをUFO銀、△6三銀~△7四銀とするのを鎖鎌銀と呼んで区別するのが本家の考え方だが、あまり意味がないと思う。


本ブログの「【相掛かり】君は知っているか?鎖鎌銀戦法を」では、UFO銀と鎖鎌銀を△6四歩(▲4六歩)省略の観点からまとめて解説している。

UFO銀に対しては、▲7六歩と目標になっている角を捌き、▲7七桂と銀出を拒否。  

そこで後手は△6四歩と銀を繰り替えて桂頭を狙う。

ここで▲2四歩が機敏。

△同銀なら▲5四歩△同歩▲5三角で先手良し。

△2四同歩▲3五歩に△6三銀▲3四歩△同銀▲2四飛△2三金▲2八飛(図)と進行。

ここで△2四歩と受ければ穏やかだが、△2七歩と反撃したのが村田vs牧野(王位戦)。

▲2七同飛△3六角▲3七飛△3五歩(図)と進行。 

ここで▲5四歩が急所。

△5四同歩は▲5三角、△5四同角は▲3五銀、△5四同銀は▲3一角△5二飛▲3六飛△同歩▲9六角(下図)で先手良し。 

序盤に△8八角成▲同金と悪形にされたようだが、図のようになってみると、次に▲7八玉と囲った形が安定している。


開始日時:2022/09/16 14:03:00
終了日時:2022/09/16 15:51:00
棋戦:叡王戦
消費時間:71▲48△57
戦型:相掛かり
先手:大橋貴洸 六段
後手:村田顕弘 六段
場所:関西将棋会館
持ち時間:1時間
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7六歩 △3二金
▲7七角 △6二銀 ▲7八金 △4二銀 ▲6八銀 △5四歩
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △5三銀右 ▲3八銀 △2三歩
▲2八飛 △7四歩 ▲2七銀 △3四歩 ▲2二角成 △同 金
▲7七銀 △3三桂 ▲2六銀 △1四歩

対棒銀

▲2六銀は、次に▲1五銀を狙っている。

もし▲3六銀型に対して△1四歩なら下図の▲5六角で先手良し。

図のような▲5六角(▲1六角)の筋には常に警戒が必要で、△4四歩として▲5六角に△4三銀を準備しておくべきだった。

しかし棒銀(▲2六銀型)なので、上図の▲5六角は、△4四銀▲3四角△4五銀▲1六角△5五歩▲3五銀△5六歩▲同歩△5七角のように反撃される。


▲5六角が効かない先手は、仕方なく▲6八玉と備えたが、△6四銀(図)とされると戦場に玉が近い。 

ここでの▲5六角は、△7五歩▲同歩△同銀▲7六歩△8六歩▲同歩△同銀▲8三歩と止めても△7七銀成が王手になる。


図からの指し手

▲3六歩 △7五歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲3七銀 


後手は居玉なので△7五歩 ▲同歩 △同銀▲7六歩△8六歩▲同歩△同銀▲同銀に△同飛と取れない。かといって△5五角の飛香両取りには▲3七角があって無効。

しかし、▲8六同銀に△6四角があって攻めが続く。▲3七角には△8六角が王手だ。

▲7六歩を打っているため実戦のように▲7七歩と守れない。

▲5八玉には△7七歩で攻めが続く。

そこで先手は▲3七銀と守った。

図からの指し手

△5二玉 ▲3五歩 △6四角 ▲4六銀 △8六歩 ▲同 歩 

△同 銀 ▲同 銀 △同 角 ▲7七歩 △6四角 ▲8七歩 

△7三桂 ▲7九玉 △7五銀 ▲3四歩 △4五桂 ▲3八飛 

△7六歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲4五銀 △7七歩 ▲同 桂 

△8五桂 ▲同 桂 △7七歩 ▲6八金 △8五飛 ▲5四銀 

△5三銀 ▲5六桂 △7五角 ▲6四桂打 △同 銀 ▲同 桂
まで71手で先手の勝ち


図では△7六歩と押さえておきたかった。

実戦は▲7七歩と守った形が固く、攻めの効果が乏しかった。


対棒銀模様

下図は、2018年3月30日に指された渡辺明vs永瀬拓矢(棋王戦第五局)。
渡辺明は、先の対局の前、タイトル戦で村田システムを経験していた。

タイトル戦最終局で新しい戦法を採用した永瀬七段(当時)の度胸が素晴らしい。

棒銀対策△3四歩

渡辺明棋王(当時)棒銀模様に永瀬七段(当時)は△4四銀と銀対抗で受けたが、本家の村田六段は△3四歩と角交換することが多い。

長沼洋八段の実戦がある。


平藤眞吾 七段 対 長沼 洋 八段
開始日時:2023/06/15 10:00:00
棋戦:順位戦
消費時間:125▲191△247
戦型:相掛かり
場所:関西将棋会館
持ち時間:6時間
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △3二金 ▲7六歩 △8五歩
▲7七角 △6二銀 ▲7八金 △4二銀 ▲3八銀 △5四歩
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △5三銀右 ▲2八飛 △2三歩
▲2七銀 △3四歩 ▲2二角成 △同 金 ▲8八銀 △4一玉
▲7七銀 △4四歩 ▲3六銀 △3三桂 ▲4六歩 △7四歩
▲6八玉 △6四銀 ▲5八金 △3二金 ▲4七銀 △4三銀
▲3六歩 △5二金 ▲3五歩 △同 歩 ▲1六角 △3四角
▲同 角 △同 銀 ▲7一角 △7二飛 ▲4四角成 △4三金右
▲6六馬 △7三角 ▲5六馬 △8二角 ▲7五歩 △同 銀
▲7三歩 △同 飛 ▲2四歩 △4五歩 ▲2三歩成 △同 金
▲4五歩 △2四歩 ▲4六銀 △3二玉 ▲4八飛 △7一飛
▲6六銀 △6四銀 ▲7五歩 △5三銀 ▲7四馬 △4四歩
▲8三馬 △7三角 ▲7四歩 △9五角 ▲7九玉 △4五歩
▲3七銀 △6四銀 ▲8二馬 △4一飛 ▲9一馬 △7七歩
▲同 銀 △7三桂 ▲8二馬 △6五桂 ▲6六銀 △5三金
▲9六歩 △5一角 ▲4二歩 △同 飛 ▲7一馬 △7七歩
▲6八金左 △8六歩 ▲同 歩 △2五桂 ▲6五銀 △3七桂成
▲同 桂 △6二角 ▲同 馬 △同 飛 ▲6四銀 △同 歩
▲7一角 △7八銀 ▲同 金 △同歩成 ▲同 玉 △7七歩
▲6八玉 △8七角 ▲6二角成 △7八歩成 ▲5九玉 △3九金
▲4一銀 △同 玉 ▲5一飛 △3二玉 ▲4四桂
まで125手で先手の勝ち


棒銀対策△4四銀

△4四銀に代えて△3四歩でも、後手陣がつぶれることはありませんが、▲2二角成△同金▲7七銀で後手の主張がない局面です。△7四歩からの角頭攻めが消え、先手だけが歩を切っている相掛かりですからね。(渡辺明)

しかし、△4四銀と守りに使うと先手は安心するので後述のように△5五銀と活用したい。

この将棋(渡辺vs永瀬)では△4四銀が負担になった。


銀矢倉へ組み換え

何とか4四の銀を活用できないか?

一案として、△4四銀を3三に引いて銀矢倉を目指す構想が考えられる。


上図となって、守勢に偏った後手の指し方が難しい。


右玉への転換(渡辺vs永瀬)

後手は△7五歩から歩交換し、図の局面から△8六歩と角交換したが、先手から▲7四歩の狙いが生じた。

図から右玉に組んだのが渡辺棋王の対策。

△3五歩と攻められると怖いが、▲4五歩と銀を追う格好になって先手が陣形勝ちになった。


左玉は攻め合いに(糸谷vs井上)

左玉に組んだのが斎藤慎太郎八段で、羽生九段に完勝している。

糸谷vs井上(棋聖戦)では、△4四銀を△5五銀と活用。 

▲4七銀と歩を受けたなら△7五歩▲同歩△6四銀と転換する目論見か?

ここで糸谷八段は、▲4五銀と反発、乱戦となった。

図の局面から△7五角と自然に角を活用したが、もっと良い角の活用があった。

△2二角!

このラインを押さえるのが急所だった。


ここで触れた△4四銀と△3四歩以外の棒銀対策としては、木村孝太郎流の△4四歩や△5五歩!(▲同角なら△8六歩から飛車先交換の狙い)が考えられる。

今後の研究課題。