将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【角換わり】後手早繰り銀&棒銀

新型角換わりの天敵か?

角換わり最新形の一段飛車+4八金型に対して、シンプルな速攻で優位に立とうと、2016年頃からアマ大会で大流行したのが後手早繰り銀戦法。
先手の望む相腰掛け銀の戦型を外し、自分の土俵で戦うことができる有力な作戦だ。
プロのタイトル戦においても中村七段の鋭手△3五歩によって脚光を浴び、先手の対策が待たれていた。
2018年頃からアマでもプロでも様々な対策が出現し、流行は下火になったようだ。
しかし、現在でも先後を問わず、羽生善治九段や藤井聡太七段が採用している。
角換わりを指す上で、避けては通れない道だ。




電竜戦で「二番絞り」が採用(対「水匠」戦)

後手番での早繰り銀は、FG(フラッドゲート)で勝率60%を誇る立派な戦法。
通常、腰掛け銀に対して早繰り銀は損なのだが3七桂と跳ねているのが先手の弱点で、後々桂頭を攻める狙いがある。
「水匠」対「二番絞り」の電竜戦の決勝戦第一局で出現したため、今後プロ将棋でも採用されるかもしれない。 

図から▲3八金△5四角▲2九飛と進行。
▲3八金は羽生流右玉を思わせる手で実際△7五歩▲同歩△同銀▲7六歩△8六歩▲同歩△同銀▲同銀△同飛には▲4八玉と羽生流右玉にする含みだ。
昔は、「攻めの銀と守りの銀の交換なので成功」という考えだったが、AIが降臨した現代では先手の方が評価される。


△5四角は早繰り銀とセットで、左辺と桂頭を狙った八方睨みの好位置。 

▲2九飛に△8六歩と突き捨て、▲同歩に△7五歩に▲7六歩△6四銀と進行。
△6四銀で△8六銀の変化は先に述べた。
そこで△6四銀と一歩持って△3五歩を狙い、先手が右玉にするのを牽制している。
先手は▲6八玉とし、△3五歩に▲4五歩と受けた。
以下△3六歩▲同銀に△7五歩と攻め、今度▲同歩と取るのは△9五歩と端攻めされる。
▲同歩ならもちろん△9八歩だ。 

攻められているが評価値はまだ先手が100点ほどプラス。

澤田真吾六段vs藤井聡太四段

「早繰り銀戦法」については、天才藤井聡太の芸術作品がある。
先手の澤田真吾六段が▲2九飛△4四歩に居玉のまま▲5六銀とした。
これを見て後手は△7五歩▲同歩△同銀(図)と仕掛けた。
仕掛けないと▲6六歩とされ△7五歩に▲6五歩と追い返される。

先手の澤田六段は、図の局面から▲4五歩と仕掛ける。
他に▲2四歩も考えられ、△同歩と取るのは継ぎ歩があるので△同銀が自然だが▲2二歩△同金▲4五歩が厳しい。
継ぎ歩を甘受して△2四同歩もある。▲2五歩に△3五歩と桂頭を攻め、▲2四歩に△2二と凹んでも4二玉型なので響きが薄い。
なお、先後逆だが同様の局面で丸山九段は△同銀と取り、▲4五歩△3三銀という受けを見せているので後に触れる。


▲4五歩に対しては、△8六歩▲同歩△7六歩や単に△7六歩が第一感だが、藤井四段は素直に△同歩。
これに▲2四歩△同歩▲2五歩と継ぎ歩攻めするのは、△7六歩▲6六銀△8六歩▲同歩△6六銀▲同歩△7五角が厳しい。
プロの実戦例も後手が勝っている。
そこで▲4五同桂だが、△4四銀に▲2四歩△同歩▲2二歩という攻めが見えたのが澤田六段の不幸で、平凡な▲4六歩ならこれからの将棋だった。
藤井四段は桂取りを手抜きで△4五銀。この手が厳しかった。
▲同銀に△4七歩が痛い。
取れないので▲3八金だが、△4六桂に▲3九金と逃げても△7六歩▲8八銀△3三桂▲5六銀(▲3四銀△8四飛)△4八角▲同金△同歩成▲同玉△3八金で悪い。
澤田六段は▲6八玉と金を見捨てて粘ろうとしたが、△3八桂成▲2四飛に△7六歩から△9五角が鋭い寄せで、54手の短手数で敗れた。



藤井七冠vs永瀬拓矢王座(王座戦第一局)

八冠制覇を賭けた戦いで、後手の永瀬王座は角換わり早繰り銀を選択した。

△4一玉と玉型を工夫して▲5六銀~▲6五歩の変化に備えている。
藤井七冠は、▲2四歩。△同歩なら継ぎ歩があるので、△同銀▲4五歩△7六歩▲6六銀△8六歩▲同歩△同銀。

▲8三歩△同飛▲6五角と受け、△8四飛には▲8五歩があるので後手は△8二飛と下がり、▲8三歩△7二飛と進行。

次に▲2二歩△同金▲4三歩成という攻めが見えているので△6四歩と追ったが、▲5六角と引いた位置が良く、単に△3一玉が優った。
▲5六角は、次の▲4五角が厳しく、△3一玉に▲5八玉としたが、すぐに▲4五角が良かったかも知れない。
△5四歩と守られて▲3四角と歩を取ったが、△6五歩▲同銀△6六歩と反撃されると思いのほか効いていなかった。
この歩を取ると△9四角(△8五角)のラインが厳しい。
藤井七冠が▲5八玉と寄って▲3四角と角が動いたために、永瀬王座の△6五歩~△6六歩という攻めが生じた。先手にとって嫌な流れだ。


図からの指し手
△6四歩 ▲5六角 △3一玉 ▲5八玉 △5四歩
▲3四角 △6五歩 ▲同 銀 △6六歩 ▲7三歩 △6二飛
▲5六銀上 △5五歩 ▲5二角成 △同 飛 ▲4三金 △6二飛
▲3二金 △同 玉 ▲5三金 △9二飛 ▲4三歩成 △2二玉
▲5五銀 △8八歩 ▲2五歩 △1三銀 ▲1五歩 △同 歩
▲4五桂 △8九歩成 ▲4七玉 △9九と ▲4四歩 △2六香
▲同 飛 △6九角 ▲5八香 △3四桂 ▲3三と △同 桂
▲同桂成 △同 玉 ▲4三歩成 △2二玉 ▲8四桂 △2六桂
▲9二桂成 △1四銀 ▲4一飛 △1三玉 ▲3三と △7八角成
▲2四歩 △同 歩 ▲2三歩 △3一歩 ▲4二飛成 △3二金
▲同 と △同 歩 ▲2二歩成 △2九角 ▲4六玉 △6五角成
▲5六金 △3三銀 ▲3二龍 △同 馬 ▲同 と △2三金
▲3一角 △2二桂 ▲4三金 △5一飛 ▲3三金 △3一飛
▲2三金 △同 銀 ▲3一と △2八角 ▲3七銀 △1九角成
▲3三金 △3四金 ▲3二と △4一香 ▲4五歩 △1八飛
▲2三金 △同 玉 ▲2二と △同 玉 ▲2八桂 △同 馬
▲同 銀 △同飛成 ▲3七銀 △4八龍 ▲同 銀 △3五銀
まで150手で後手の勝ち




藤井聡太四段vs豊島将之八段

藤井四段が早繰り銀の優秀性を悟ったのは、将棋まつりの対豊島戦で上図のような将棋を体験してから。
▲5六銀を保留して△3五歩の桂頭攻めを警戒している。
▲6八玉は戦場に近いが、▲5八玉は後の△5四角から△3五歩と攻められるのを気にした。
最近、出口若武四段が藤井七段相手に▲5八玉を採用して勝っている。

図の局面から▲2四歩と反撃したが、後の変化に誤算があった。
△同歩は継ぎ歩攻めがあるので△2四同銀と取る一手。
そこで▲5五角だが、△6四角と受けられて効果なかった。▲4四角△3三銀▲1七角に△7六歩▲8八銀と凹ませて後手が指しやすい。
図の局面では▲7六歩と平凡に銀交換を甘受する方が良かったと藤井四段の感想。
△8六歩▲同歩△同銀▲同銀△同飛に▲6一銀がある。
「銀交換は棒銀の成功」という先入観が読みの突っ込みを欠いたか。
最近では、「攻めの銀と受けの銀を交換しても、手数がかかるのでマイナス」と、棒銀・早繰り銀の評価が辛い。



豊島将之竜王vs藤井聡太二冠(朝日杯)

これまで全く豊島竜王に勝てなかった藤井二冠が、角換わりで相腰掛け銀を避け、早繰り銀を選んだ。
そして△7五歩と羽生vs中村の王座戦第四局の進行を辿る。△4四歩は▲2九飛とされ、上記の澤田真吾六段vs藤井聡太四段のような進行となって損だ。

図から△3六銀としたが△3七銀という鬼手があった。感想戦で指摘したのはレジェンド森内九段。
△3七銀に▲同玉△3六銀▲同馬△同歩▲同玉に△6九角という絶妙手があって寄り。
本譜は△3六銀に▲5二馬△同玉▲2二飛成△3二銀▲5五桂となって混戦になった。
ここでも△3七銀成▲同玉△5九角という寄せがあったらしいが△3七角▲5八玉△8六歩▲同歩△8七歩と後手の攻めが細くなったが、▲8七同金と応じてしまったため△7八角の痛打で後手優勢になった。
▲6八玉なら△8六飛に▲6四桂で詰むため先手優勢だった。



アマの早繰り銀対策:▲4六歩を急がない


初手からの指し手
▲2六歩△8四歩▲7六歩△3二金▲7八金△8五歩
▲7七角△3四歩▲6八銀△7七角成▲同銀△2二銀
▲3八銀△7二銀

後手早繰り銀に対して押さえておくべきpointは、▲2九飛型を早く作り、8九の桂まで飛車の横利きを通すこと。
具体的には▲4六歩~▲4七銀を省略して▲4八金~▲6八玉を急ぐ。


図からの指し手
▲3六歩△3三銀▲3七桂△4二玉▲6八玉△7四歩
▲2九飛△7三銀▲2五歩△6四銀▲4八金


図からの指し手
△5二金▲4六歩△4四歩▲4七銀△7五歩▲同 歩
△同 銀▲2四歩△同 歩▲2五歩△8六歩▲同 歩
△同 銀▲同 銀△同 飛▲4一銀△4三金右


▲2九飛の守備力が大きく、後手が仕掛けるのは容易でない。
このあたりは、「羽生流右玉戦法」と同じ考えだ。


図からの指し手
▲9五角△8二飛▲8三歩△9二飛▲2四歩△2二歩
▲7四歩


プロの早繰り銀対策:銀を追う▲6六歩

プロ将棋の最新型を知りたかったら渡辺三冠の将棋を調べればよい。
第43期棋王戦挑戦者に早繰り銀を得意とする永瀬七段を迎え、第三局で渡辺棋王は、図のような陣形で対抗した。


△6四銀なら▲5六銀△7五歩▲6五歩と追う狙いだ。
この形の場合、△7六歩の取り込みに▲6四歩△7七歩成▲6三歩成という強襲が利く。
△7八とに▲6四角△7三歩▲5三角成△4一玉▲6二歩で先手優勢。
この変化は、必修定跡だ。
後手が△5二金と備えてから早繰り銀にしたのが大橋貴洸vs佐藤慎一(C級2組順位戦-2021将棋年鑑p.247)だが、図のように継ぎ歩攻めされ、後手を持って自信がない。

永瀬七段(当時)は△8四銀と棒銀にスイッチした。次に△9五銀があるのでこれまで▲9六歩と防ぐのが定跡とされていたが、▲2五歩△3三銀▲3七桂が渡辺三冠の新構想。△9五銀とされても先手が戦えるという研究手順だ。
△9五銀に▲8八銀△8六歩▲同歩△同銀▲8七歩△9五銀と進み、得た手番で▲4八金と4五桂を準備し、△8四銀に▲3五歩△同歩▲2四歩△同歩▲4五桂ポン跳ねを実現した。
 『将棋世界2018.5号』p.30~に先手陣の狙いの解説がある。

 「右桂を使って、飛車先の歩を切って、後手玉を見える形にしておいてから自玉を囲う意味です。」

 駒得できるわけではないが、(むしろ一歩損だ)、後手玉を薄くすることで勝ちやすい将棋にするのが主眼だという。

 「だから▲9六歩を省略して、その分を2、3筋にかけているんです」

 1手でも遅れると、後手に△7三銀や△5二金と備えられてしまう。先ほども紹介したが、両桂で5三の地点を狙ったり、また飛車のコビンを攻めたりする筋も水面下で存在する。だから先手は極力、余計な手は指したくない。

なお、先後が振り駒で決まる第一局は、先手だと矢倉の作戦だったという。
そういえば、豊島棋聖との棋聖戦の第一局も振り駒で先手になると、矢倉の作戦だった。
渡辺将棋は、徹底した合理主義と客観性に裏打ちされている。

「実力と成績が落ちてきたのを何とかして食い止めなきゃいけません。そのために勉強法や時間などいろいろ変えてはいますけど、なかなかうまくいかない。あとで振り返ったときに、その試行錯誤がプラスになったと言えればいいけど。もちろんこのまま落ちていく可能性も十分にあるでしょうね」






飛車先不突を咎める速攻早繰り銀

今度は後手の成功例。

一手前の▲3六歩を見て△7三銀と早繰り銀に。
▲2五歩にさらに△6四銀。△5二金も△3三銀も省いて足が速い。
先手は、王手飛車があるので飛車先交換できない。
これを▲3七桂と防いだが、△7五歩から先攻できた。
後手番ながら主導権を握ってまずまずか・・・・
▲2五歩では前例のように▲6六歩か▲5六銀とすれば早繰り銀を防げた。
「いつでもできると思うな飛車先交換」