将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

ソフトが示す驚きの手

第一局(中飛車対4六銀)


なぜ振り飛車はソフトの評価が低いのか?
色々要因は考えられるが、実戦でも難しい戦法だと感じることがある。
飛車角の活用が難しく、下手をすれば、世に出ることなく蟄居生活を余儀なくされることになる。

振り飛車は序盤早々に飛車を左に動かして戦う作戦だ。

駒組みが比較的易しく、相手の意図に関係なく指すことができるので、アマチュアに愛好家が多い。もちろん久保はただ飛車を振っているだけではない。「さばきのアーティスト」という異名を持つほど、美しい指し回しに定評がある。

「さばき」を言語化するのは簡単ではないのだが、盤上の自分の攻め駒を持ち駒に換えてしまうことを言う。盤上の駒は限定された場所にしか動けないが、持ち駒にすれば好きなところに打って使うことができる。よって持ち駒にするのは有利であり、この「さばき」の最高テクニックを持つのが久保というわけだ。

       大川慎太郎著『証言 羽生世代』より

図は先後逆だが▲4六銀に対するゴキゲン中飛車の定跡形。
△3二飛の銀取りに▲3八飛と受けたところだが、居飛車嵌り形だ。
この局面からの後手の候補手が3つ考えられる。

  1. △2四角
  2. △2四歩
  3. △6二角
実戦の私の指し手は1.△2四角だった。

遊びそうな角を▲2四角と活用して指がしなった。
もし相手が角を取れば、3八の飛車を取ることができる。
しかし、▲3四銀と出られ、次に▲3三歩が痛い。
取れば▲2三銀成の狙いがある。
好調なはずの2四の角が負担になっている。
手が止まった。


ここで▲3四歩でも角を逃げることになることを考えれば、1.△2四角は良い手ではなかった。
最善は、2.△2四歩。
図の一手前の▲3八飛に代えて▲3四歩△2四歩に▲3八飛とした局面と比較すれば、先手十分。
3.△6二角でも△2四角よりは良い。


△2四角しか浮かばず、それで形勢良しと即断していた自分が情けない。
この後、指し手が進むにつれ指しにくさを感じるようになったが、その原因が△2四角にあったことに気付くのに長い時間を要した。
自分の敵は自身の固定観念だ。


実戦は、▲3四銀に対して2四の角が負担なので△1五角▲3五飛△5一角とした。
△1五角では2四の角の睨みを生かして△5六歩と攻めたかったが、▲3三歩が厳しいと判断した。
しかし、△5六歩▲同歩△5七歩として①▲6七金右は△3七歩▲同飛△1五角。②▲5七同金直は△3六歩▲同飛△4五銀。
▲3三歩は、△同桂と桂が活用できるので気にする必要はなかった。
実戦は、桂を渡すと▲5三桂の両取りがあるのを気にしていた。
・・・弱すぎる。

ここでも△5六歩が第一感だったが、やはり▲3三歩が気になった。
ソフトによると△5六歩には▲5六同歩が正着で、以下△5七歩▲同金直△4八角成。
その進行になるのなら△5六歩とするのだった。
△5六歩に▲3三歩は、△同角と強く取って、▲2三銀成△3一飛▲3三成銀に△同桂がソフトの読み。
力強い△3三同角と、筋の良い△3三同桂が味わい深い。
これこそ「さばき」だ。

【角換わり】千田翔太六段vs渡辺明棋王(第42期棋王戦第一局)


名局だった。
今でも熱い興奮が鎮まらない。
将棋とはこんな手があったのかと

終盤、妙手が飛び交った。
欲を言えば、幻の名手△8五角を見たかった。


千田六段が先勝したことでタイトル戦の興趣が増したというところだが、
千田翔太六段の実力は、もはやトップレベルに迫る勢い。
渡辺棋王は、これから死に物狂いで防衛を目指すことになる。


初手からの指し手
▲7八金 △8四歩 ▲7六歩 △3二金 ▲2六歩
△8五歩 ▲7七角 △3四歩 ▲8八銀 △7七角成
▲同 銀 △4二銀 ▲3八銀 △7二銀 ▲4六歩
△6四歩 ▲6八玉 △6三銀 ▲3六歩 △3三銀
▲3七桂 △4二玉 ▲4七銀 △7四歩 ▲2九飛
△1四歩 ▲1六歩 △7三桂 ▲4八金 △8一飛
▲9六歩 △6二金 ▲4五歩 △6五歩 ▲4六角
△5四歩 ▲5六歩 △6四角 ▲同 角 △同 銀
▲4六角 △6三金 ▲2五桂 △2二銀 ▲3五歩
△同 歩 ▲同 角 △5二玉 ▲3九飛 △4二金
▲5七角 △5三銀 ▲7九玉 △2八角 ▲5九飛
△6四角成 ▲4六角 △6二玉 ▲6四角 △同 銀
▲3九飛 △3三歩 ▲9五歩 △5二玉 ▲5七角
△6二金 ▲8八玉 △5三金左 ▲1五歩 △同 歩
▲1三歩 △8六歩 ▲同 銀 △1三香 ▲1二歩
△1四香 ▲1一歩成 △同 銀 ▲1三桂成 △同 桂
▲同角成 △8四桂


図からの指し手
▲7七金 △8五歩 ▲9七銀


桂馬を渡したので、後手に攻めのturnが回った。
右玉としては、理想の展開。
△8四桂に対して弱気なら▲6八桂だが、千田六段は力強く▲7七金。
挑戦者らしい態度だ。



図からの指し手
△9四歩 ▲3三飛成 △9五歩 ▲4四歩 △同 歩
▲7八玉 △9六歩 ▲8八銀 △9七歩成 ▲同 香
△9六歩 ▲同 香 △同 香 ▲9七歩 △8六歩
▲同 歩 △8七歩 ▲同 金 △8五歩 ▲7七金
△8六歩 ▲8二歩 △9一飛 ▲6九玉 △8七香
▲8三桂 △9三飛 ▲3一馬 △8八香成 ▲7一桂成
△8七歩成 ▲4三歩 △6三玉 ▲4一馬 △5二銀
▲同 馬 △同金引 ▲4二歩成 △5三金直 ▲5二銀
△同金寄 ▲同 と


渡辺棋王の寄せのスピード感覚が光る手順。



図からの指し手
△7五歩 ▲同 歩 △同 銀


▲5二銀△同金寄▲同とに対し、渡辺棋王が△7五歩!!▲同歩△同銀(下図)と
金を犠牲に△7四玉から上部に逃走を図った。
しかし、△5二同玉▲3二竜△4二銀▲3三金には△7五歩が優った。
次に千田六段の名手が・・



図からの指し手
▲8五金 △5二玉 ▲3二龍 △4二銀 ▲7五金
△7七と ▲同 桂 △8六角 ▲6一銀 △5一玉
▲7二銀成 △5二玉 ▲6一成桂 △4三金 ▲6二成桂
△5三玉 ▲4一龍 △7八成香 ▲5八玉


千田六段が終盤の冴えを見せた▲8五金!!
タダのところに打ち、△同桂と取らせて逃げ道を塞ごうとした。
渡辺棋王はこの金を取れない。
△5二玉とと金を払った。
双方が秘術を尽くしているが、形勢は後手がいい。
局後の感想では、△8六角の代わりに△4三角と自陣を安泰にするのが良かった。
以下▲4一銀△5一玉▲6一成桂△同角▲8四金に△3一歩が想定され、鉄壁。



図からの指し手
△6八成香 ▲4九玉  △5一金  ▲同成桂  △7五角
▲5二龍  △6四玉  ▲6三金
まで157手で先手の勝ち


図の局面から△8五角!(詰めろ逃れの詰めろ)▲同金△同桂ならまだ後手が勝っていた。

【ノーマル四間飛車 鈴木システム】(その2△5四銀型)

居飛車穴熊のルーツ

升田の新手だった居飛車穴熊

居飛車穴熊の元祖というと、先日現役引退した田中寅彦九段の印象があるが、彼がまだ10歳の時に、名人戦という最高の舞台で、大山康晴という最高の相手に対して居飛車穴熊を披露したのが「新手一生」升田幸三実力制第四代名人だった。

▲7八金か▲7九金か?

升田に松尾流穴熊という発想があったかどうか分からないが、▲7八金型が時代を先取りした形。

しかし、将来△6九角などで金を狙われる手が気になる。

その後、居飛車穴熊を流行らせた田中寅彦九段は▲7九金型を好み、場合によっては▲7八飛から玉頭攻めを狙った。

ただし、6七の金が浮いているので△4九角の筋を狙われる。

優劣は今後の指し方次第というところだ。


後手の大山康晴15世名人は、早めの△5四銀で▲6六歩と突かせてから△9五歩~△7三桂と端攻めを狙う。


△5四銀型は仕掛けの隙がある

図の局面から▲5九角と引いたが、現代なら▲6五歩の含みで仕掛けを考えたいところだ。


図からの変化手順①

▲2四歩 △同 歩 ▲6五歩 △同 桂 ▲3三角成 △同 桂
▲6八銀 △2五歩 ▲6六角 △4三金 ▲3七桂 △2二飛(図)
▲2五飛 △2四歩 ▲4五飛 △同 銀 ▲同 桂 △4四歩
▲3三桂成 △同 金 ▲7五歩


▲2四歩から仕掛ける。

▲3五歩△同歩と突き捨ててから▲2四歩とすると、▲6六角の時に△4四角▲同角△同飛▲2二角△4三金と、後手の飛車に活躍の余地を与える。

以下▲3七桂△4六歩▲2五桂△2四飛▲1一角成△4七歩成▲3三桂成△2八飛成▲4三成桂△同銀▲5五馬△4六角▲同馬△同と▲5五角△4九飛▲7五歩に△7七桂があって先手危険。

もっとも藤井聡太vs矢倉規広(C級2組順位戦)では▲6六角に代えて先に▲7五歩として△同歩と取ったので▲6六角と打って先手が得した。

▲7五歩に△4六歩▲同歩△同飛▲3七角△4九飛成▲4八飛△同龍▲同角△4九飛▲6六角△4四歩▲3一飛△7五歩としてどうか?


なお、突き捨てを生かして過激に攻めるなら△6五桂に手抜いて▲2四飛もある。

△4六歩▲同歩△3九角▲6八角△6五銀で▲3四歩には△4四飛の返し技があって難解な形勢。

図の局面から▲2五飛と乱暴する。

△2四歩と受けても引かずに▲4五飛。

△同銀▲同桂△4四歩▲3三桂成△同金▲7五歩と穴熊の暴力が炸裂する。


したがって後手は、△6五同桂のところで変化する。


図からの変化手順②

▲2四歩 △同 歩 ▲6五歩 △4六歩 ▲同 銀 △7七角成
▲同金寄 △6五桂 ▲6七金寄 △6九角 ▲4八飛 △4五銀
▲5五角 △4六銀 ▲同 歩 △6三金 ▲7九金 △3六角成
▲6六歩


△6九角と▲7八金型の弱点を衝かれるが、▲6六歩の桂取りを楽しみに▲4八飛と辛抱する。

▲6六歩と後手の攻めを受け止めて、先手良し。 


大山康晴の対応力

後手の大山名人は、右辺の折衝で一歩入手し、△6五歩と角筋をこじ開けようとする。

取ると次の端攻めが厳しくひとたまりもない。

初見でこの形に持っていったのは、流石の対応力だ。

この将棋に大山が快勝したため、対振りに居飛車穴熊が有力と認識されるのに10数年を要した。

大山康晴恐るべし。


真部九段の△6二飛作戦

△4一飛~△6一飛と迂回することなく、下図のような6筋反撃を目論んだのが故真部一男九段。

狙いがわかりやすくアマチュア好みの作戦だ。

図からの指し手

▲2六角 △5二金 ▲3七桂 △6五歩 ▲同 歩 △5四銀

▲2四歩 △同 歩 ▲5五歩 △同 角 ▲5六銀 △6六歩

▲6八金 △3三角 ▲4五桂 △同 銀 ▲同 銀 △6五飛

▲5六銀 △2五飛 ▲6四銀?(▲3七角で先手良し)


▲5五歩の手筋で角を近づけ、実戦の▲5六銀でも先手が良さそうだし、▲6六銀~▲5六金と手厚く完封勝ちを狙っても良さそうだ。


△6二飛作戦には、▲2六角~▲3七桂と組んで居飛車穴熊が良い。


HoneyWaffleの△5四銀作戦

前章でも触れた△6四歩不突。

先手は、▲8六角と玉頭戦を匂わせるが△8四歩から銀冠に組まれ、結局▲3七角と転換した。 

▲6五同歩と取れば△4六歩▲同歩△6五桂▲6六銀△同角▲同金△5七桂成とされる。

△4六歩に▲同角もあるが、△4五銀▲6四角△5四銀の千日手狙いや△8六歩▲同歩△4六飛▲同歩△6五銀▲6六歩△7六銀といった狙いもある。


実戦は、▲6八飛と受けた。


藤井聡太二冠の▲5六銀退治

四枚の居飛車穴熊を作らせないため銀を繰り出して▲6六歩(△4四歩)を突かせる手法は昔から指されていた。
今日でも三間飛車のトマホークなどはこの手法である。

これに対して穏やかに指すなら△4四歩、頑固に四枚穴熊を目指すなら△4四銀だが、藤井二冠の応手はどちらでもない△2四歩。
▲4五銀なら△2三玉の予定だが、それなら△2二玉を待ってから▲5六銀だったか。

藤井二冠の狙いは玉頭銀の裏をつく、居飛車穴熊から急戦へのシフトチェンジだった。
図を見ると▲5六銀がムダ手になっていることが分かるだろう。
いつもながら柔軟で隙のない序盤だ。

そして終盤。
図から△8二香が決め手。
▲8二同となら攻めが遅れる。
▲9五角は、△6六馬▲6八角△7三銀で攻め駒を一掃される。
同じ意味で△9二桂もあった。

加藤桃子女王vs上田初美女流三段(マイナビ女子オープン)

△7二銀と締まらずに△5四銀と出て、▲6六歩なら相穴熊、▲6六銀に対しては、美濃囲いから急戦というのが広瀬八段推奨の作戦で、宮本五段の得意戦法。


女流戦で、上田初美女流が加藤桃子女王相手にこの作戦を用いた。

加藤女王は、▲6六銀と受ける。
△6四歩▲7八金△7二銀▲9八香と穴熊を目指した手に△7四歩▲9九玉△4五歩が後手の作戦だ。
先手は後手からの飛車先交換を受けなくてはいけない。
▲6八角と受けるのは△6五銀が角のにらみを生かして厳しい。
▲5七銀が定跡だが、△7七角成▲同金に△7三桂とされて、次の両取りが厳しい。
先手は、▲7八金と受けたが、それでも△6五桂とされ、後手は△4六歩が実現した。
結果は、後手の快勝。先手はいいところなく敗れた。


加藤桃子女王vs佐藤和俊六段(NHK杯)

加藤桃子女王の災厄はまだまだ続く。
今度は、男性プロが、同じ作戦を用いてきたのだ。
果たしてrevengeなるか?


ここまでは、前局と同じ、前局は▲7八金と引いて△6五桂から捌かれたので、本局は▲6六歩と修正した。しかし、結果は・・・惨敗。
この作戦の優秀さを証明した。


石田五段vs石井五段(叡王戦)

石田 直裕 五段 対 石井 健太郎 五段(第四期叡王戦段位別予選五段戦)より取材

図の後手陣は、石井健太郎著『四間飛車の逆襲』p.141~で「△6四歩保留型」と紹介された工夫。
△5四銀型に対し先手は、▲3六歩△4五歩の後、機を見て▲2四歩△同歩(▲3五歩△同歩)▲6五歩と仕掛けるのが定跡だが、△6四歩を突いていないので▲6四歩の取り込みがない。
石田直裕五段は、▲7八金と締まって次に▲6八銀と松尾流穴熊を匂わせたので、後手は△6五歩の狙いで対抗するため、仕方なく△6四歩と突くことになった。
石田五段の意思が通った形だ。
▲6八銀に△4五歩と次の△4六歩からの飛車の捌きを見せたが、石田五段は受けなかった。
△4六歩は怖くないと、△4五歩に▲2四歩△同歩▲6五歩の仕掛けが、石田五段の研究手順。
後手は当然△4六歩と突くが・・・

図から▲同歩と取ったのが甘かった。
代えて▲3三角成△同桂▲7五歩と厳しく玉頭を攻めるべきだった。
以下△3九角▲2四飛△7五角成▲7六歩△3九馬▲4六歩△同飛▲2二飛成△4九飛成▲1一龍△9六歩▲同歩△9七歩▲同銀△8五桂▲8八銀△9七歩▲同香△6五銀▲5五角△9五歩が想定手順で先手良し。



【相掛かり】新・縦歩取り

出口vs村山

図の△8四飛では△3三金も考えられる。
フラッドゲートで76手まで同じという不思議な対局があり、どちらも後手が勝っている。

ここで▲3一角△4二歩▲2二角成としたが△7六歩▲同銀△8六歩▲同歩△同飛▲8七金に△7六飛が鋭い寄せ。▲7六同金△6七銀以下後手勝ち。
もう一つは、▲7五同歩と取り、△6五角▲7八玉に△7六桂▲9八金△8八歩▲3一角△8九歩成と進行して後手勝ち。



実戦は▲4五桂△4四角▲2二歩と手筋が炸裂した。
△同金と取ると▲5三桂成からバラシて▲3一角がある。
村山七段は、△3三桂と受けたが、▲5三桂成△同金▲同角成△同角▲2一歩成△1二香に▲2二と△同金▲5三飛成△同玉▲3一角が決まった。


図の△7三桂では△4四歩と桂跳ねを阻止すべきだったか。



【将棋は歩から】空気投げの歩

大山康晴九段(当時)の歩使い

将棋の駒の中で一番数の多い「歩」。
「歩」をどう使うかによって一局の明暗が分かれると言っても過言ではない。
木村義雄14世名人が無敵を誇っていた時代、読売新聞によって「九段戦」というタイトルが生まれ、大山康晴が初の九段位に就いた。(それまでは八段が最高位だった)
そこで名人と九段を戦わせてみようという企画が持ち上がった。

仕掛けは歩の突き捨てから

先手の銀矢倉が大山九段。後手の木村名人の△7五歩に手抜きで▲3五歩と攻めた。
△7六歩と取り込まれても形が崩れない。
これが銀矢倉の長所で、大山九段は銀矢倉を得意としていた。
木村名人は、△7五銀(下図)とぶつける。

垂れ歩の反撃

ここで▲7四歩が、「垂れ歩」の手筋。
後手は銀交換の後、△8四飛(下図)と受けたが・・・

桂頭単打の歩

ここで▲2二歩と桂頭に打ったのが、「単打の歩」という手筋。
△同角には▲7三歩成△同桂▲7四歩△同飛▲7五銀で飛車を取られる。
そこで△2二同金(下図)と取ったが、玉頭が薄くなった。

突き捨ての歩

▲4五歩と突く。
取れば▲3四歩が来るので△7四飛と目障りな歩を払い、▲6五銀打△7二飛▲4四歩△同金(下図)と進行する。

焦点への単打の歩

ここで▲4二歩の叩きが「単打の歩」であり「焦点の歩」でもある。
△4二同玉や△4二同飛は▲9七角、△4二同角は▲5四銀△同金▲4三銀と攻められる。
後手は△3二玉と躱したが、やはり▲9七角が厳しかった。


大山優勢のまま終盤戦を迎えた下図。
やはり歩の手筋で寄せていく。

金と銀が並んだ形は、銀頭が急所

ここで▲4四歩の「単打の歩」が激痛。
金と銀が並んだ形は、銀頭が急所。
歩で攻めるのは、自陣への反動が少なく効果的だ。

大山康晴15世名人は、このような歩使いをどうやって学んだのだろうか?


駒落ちは歩の手筋の宝庫

『将棋大観』

7歳の頃、大山少年の将棋勉強法は木村義雄著『将棋大観』の丸暗記だった。
師匠(アマチュア)がこの名著を読み上げ、大山少年がそれを盤上に再現する。
完全にできるようになったら次に進む。
『将棋大観』は昭和3年に出版された駒落ちの古典的名著。
駒落ちが、大山康晴の将棋の基礎を作ったのだ。

突き捨てて垂れ歩攻め

六枚落ちにおける▲7五歩。
と金作りを知らなければ上手陣の攻略は難しい。
最初に覚えておきたい歩の手筋だ。

クライ取りの歩

二枚落ちでは「クライ取り」という将棋の二大要素のひとつを学ぶことになる。
ちなみにもうひとつの要素は「サバキ」だ。
クライを攻めに生かすには「二歩突っ切り定跡」があり、守りに生かすには「銀多伝定跡」がある。
「クライ取りの歩」の重要性を教える二枚落ち定跡は、駒落ちの中でも特に重要だ。

控え歩

上図は、二枚落ちの最後の関門と言われる「5五歩止め」に対して強く▲5五同角と取った変化。
ここで▲4五歩が「控え歩」の名手。
上手の3四の銀が使えなくなった。

この控え歩が打てないと下手は勝てない。
「控え歩」という名称は、加藤治郎九段の名著『将棋は歩から』による。
加藤治郎九段が控え歩の実例として挙げた下図は、全巻で最も印象に残った木村14世名人の名手。
大山康晴の手順前後を咎めた。


将棋は歩から

加藤治郎九段の名著『将棋は歩から』は、歩の使い方を名付けて分類した名著。
古典のひとつといっていい。


後に桐谷広人六段が、さらにいくつかをつけ加え、わかりやすく順番を整えた『歩の玉手箱』を表した。
株主優待おじさんとして有名になる前の著書である。


しかし、両書に紹介されていない歩の名手筋がある。
2018年将棋年鑑No.198、飯島 栄治七段vs中川 大輔八段(B級2組順位戦)より取材。

初手からの指し手
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲3八銀 △6二銀 ▲6八玉 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲8七歩 △8四飛 ▲7六歩 △3四歩 ▲3六歩 △5二玉
▲4六歩 △7二金 ▲3七桂 △3五歩 ▲2六飛 △3四飛
▲3五歩 △同 飛 ▲3六歩 △3四飛 ▲4七銀 △7四飛
▲7七金 △8四飛 ▲4五歩 △7四歩 ▲3五歩 △7三桂
▲3八金 △6四歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩
▲2六飛 △6三銀 ▲4四歩 △同 角 ▲4六銀 △5四銀
▲7八金 △8八角成 ▲同 銀 △2二銀 ▲3四歩 △6五歩
▲7七銀 △6二金 ▲3六飛 △9四歩 ▲4五銀 △7五歩
▲同 歩 △6三銀 ▲2五桂 △8八歩


上図は、△8八歩と「桂頭単打の歩」を打たれた局面。
名手筋で、どれで取っても壁形になって先手玉が寄せやすくなる。
「桂頭単打の歩」はあくまで現象を表したもので、その心は「退路封鎖の歩」だ。
藤井聡太四冠の棋譜に頻出する手筋中の手筋で、神崎八段の著書にも紹介されている。

先手の飯島七段は、これを相手にするのは利かされと見て▲3三歩成から桂を入手して▲7四桂と反撃する。
対して△7二金と利かされるのはプロの第一感にはない。
▲4四歩と「こびん攻めの歩(筆者命名)」 が嫌らしい。
以下△3五歩 ▲4三歩成 △同 金 ▲4四歩 △同 銀 ▲同 銀 △同 金 ▲2六飛 △3四角 ▲2二角 △4三歩 ▲1一角成 △8九歩成 ▲4九香 △6六桂 ▲同 歩 △7八角成 ▲同 玉が変化の一例で互角の分かれ。


勢いを重視する米長門下の中川大輔八段は、当然△7四同銀と清算した。
ソフトによると△7二金が有力になっているが、こんな利かされは人間には指せない。


図からの指し手
▲3三歩成 △同 桂 ▲同桂成 △同 銀 ▲7四桂 △同 銀
▲同 歩 △同 飛 ▲3四歩 △4四銀 ▲4二歩

図の▲4二歩が「空気投げの歩」。
取っても放置しても煩い厄介な歩。
△4二同玉は戦場に近づくので▲4四銀から▲3三銀で潰れるし、△4二同金は▲4四銀△同飛▲3三歩成が厳しくなる。
放置すれば▲4一角。
歩一枚で△6三玉と後手玉が逃げ出すことになり、▲8三銀の追撃が厳しくなった。
まさしく「空気投げ」という表現がぴったり。
この▲4二歩は覚えておくべき手筋だ。


図からの指し手
△6三玉 ▲8三銀 △4五銀 ▲7四銀成 △同 玉 ▲8六飛
△8五銀 ▲4一角 △5二桂 ▲8二飛 △7二歩 ▲3二角成
△8六銀 ▲同飛成 △2五角 ▲7六銀 △8九歩成 ▲6五銀
まで先手勝ち

△8九歩成は自然な一手だが、△6三玉と辛抱すべきだったか?