【ゴキゲン中飛車】アラカルト
ゴキゲン中飛車のルーツ
図の局面が最初に注目されたのは、塚田正夫 対 木村義雄(名人戦:1947年)だった。
当時は図から△5五歩とするのが定跡だった。
図からの指し手
△5五歩
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △3二金 ▲3四飛 △5二飛
▲2四飛 △5六歩 ▲同 歩 △8八角成 ▲同 銀 △3三角
▲2一飛成 △8八角成 ▲7七角 △8九馬 ▲1一角成 △5七桂
▲5八金左 △5六飛 ▲6八桂
図の▲6八桂が好手とされ、その後見なくなった。
しかし、図のAIの評価は、ほぼ互角だが、後手にプラス。
その後、真部一男の新手△5六同飛(図)で再び注目された。
才能を期待されたが、難病を患い活躍できなかった棋士だ。
相手の加藤一二三は、図で▲5八歩と受けたが、これを不満として後には▲5八金右が定跡となった。
悲運の天才、真部一男九段は、その後も中飛車を愛した。
絶局となった対豊島戦(順位戦)では、ゴキゲン中飛車から△4二角という名手を知りながら指さずに投了。
もはや勝負に耐えうる身体ではなかったのだ。
第30期王位戦第3局のタイトル戦で真部流を用いたのが、森雞二王位(当時)。
下図は▲3四飛の横歩取りに△5二飛とした局面だが、羽生五段(当時)は「(飛車先が切れたので)▲2八飛と引いておいて不満はないと思うんですけど。」と、先手の横歩取りに疑問を呈した。
流石の慧眼で、AIの判断と同じ。
この将棋は森が敗れ、この期タイトルを失った。
その一年前に戦われた第29期王位戦第4局では、真部流を警戒してか、上図の局面から谷川王位(当時)は▲3六飛と引いた。
AIの評価も▲2四飛よりはいい。
しかし、ここから森が怪力を発揮した。
図で△1二角としたのが「寝ないで考えた手」。
ちなみにAIは△2八歩▲同金△2五角(△5五金から無理やり飛車を取って、金を△6五金~△7六金と活用する構想)という手や△4九角▲3九金△6六角▲同歩△7六角成という手を有力視する。
△1二角に対する谷川の▲2四飛が好手。
1二の角が負担になった。
△1二角から図の△6四飛の自陣飛車と、森は執拗に6七の地点を狙うが、歩が利かない攻めなので迫力に欠ける。
しかし、谷川は気圧された。
図から▲8八玉が疑問で、▲4五歩△同角▲同飛△同桂▲1一角成ならわずかに先手が指せる形勢だったようだ。
第29期王位戦は、森が谷川相手に「体で覚えた将棋」でタイトルを奪取した。
2001年頃、米長邦雄がこの戦型の新手法を開発した。
いきなりの△5六歩(図)。
誰もが驚いた。
以下▲5六同歩に角交換から△2二飛とぶつける。
▲2三歩などと弱気を出すと△5二飛で5六の歩を狙われる。
ここは飛車交換をする一手だ。
先手に強く応接されて、残念ながらこの新手法は成功しなかった。
このように、ずっと△5五歩が常識だったが、△5二飛と工夫したのが、富沢キックで知られる富沢幹雄。古棋譜の研究家だ。
その後、木下浩一・有森浩三も追随したが、当時の居飛車の対策は▲2四歩△同歩▲同飛の飛車先交換。
以下、△8八角成 ▲同 銀 △2二銀 ▲2八飛 △2七歩 ▲1八飛 △3三銀 ▲6八玉 △6二玉 ▲3八金 △2二飛 ▲6五角 △7二玉 ▲5四角 △5二金左 ▲2七角 が「序盤のエジソン」田中寅彦の手法で、三歩手持ちの二歩得で相手を歩切れにさせ、先手有利と思われていた。
そんな変化は気にせず、美濃囲いの堅さを生かし、攻めまくって勝ち星を稼ぎまくったのが近藤正和六段。
「ゴキゲン中飛車」の名前は、彼の人柄に由来する。
命名者は、大崎善生。
鳥刺し
飯島流ではないが、下図のような引き角戦法は優秀。
「鳥刺し」と呼ばれる。
後手は、中飛車らしく捌こうとする。
図から△4五歩と反発。
これに▲同銀△3五歩▲同角でも不満はないが、▲3四歩△同銀▲3五歩とさらに良さを求める。
しかし危険だった。
ここで△1五角が振り飛車らしいサバキ。
▲4六歩に△4八角成▲同飛△5七銀▲2八飛△4八歩と執拗な攻め。
▲同金と取るしかないが・・・
ここで△3九銀はスジワル。
▲5七金と手順に逃げられ、△2八銀と飛車を取っても銀が重たい。
△同銀▲同飛△4七歩が正しい攻めで、飛車を逃げる場所が難しい。
▲1八飛には△2七金で後手良し。▲2八飛には△3九銀です。
相中飛車鏡指し
角が睨み合った飽和状態から先手がどう指すか注目されたが、里見女流五冠の指し手は、▲7八飛。
そして図から△4四歩と初めて鏡指しを止めた。
△2四角が機敏で次に△3五歩▲同歩△同飛▲3六歩△8五飛となれば大成功。
これに里見女流五冠は▲6六角。
△3五歩を誘った。
こうなると西川女流三冠も後に引けない。
△3五歩▲3七銀に△1五歩(下図)が機敏な攻め。
▲1五同歩△同香▲1七歩△3六歩▲同銀(下図)と進行。
図の局面から△1三桂と銀取りを狙ったが、▲3七金寄と受けられてみるとパンチが届かない感じ。
ここでは△1七香成と端を攻めるべきだったようだ。
受難時代
羽生世代も用いたほど大流行したゴキゲン中飛車(後手番)だったが、先手の対策が、4七銀型急戦(米長邦雄)⇒丸山ワクチン(丸山忠久)⇒▲5八金右超急戦(藤井猛)⇒一直線穴熊(豊島将之)⇒超速(星野良生)と進歩し、苦しくなった。
AIから見ても、振り飛車の中で特に評価値が悪く、フラッドゲートでもほとんど見ない。
しかし、奨励会や女流プロ、アマチュア将棋では今でも有力な戦法。
プロでは、「元祖」近藤正和六段が新手法を試みている。
対超速△5四銀
八代弥vs近藤正和(C級2組順位戦)
これで後手が指せるなら、やってみたいですが、この将棋は一手の差がめちゃくちゃに大きい。ここで先手の手番ですからね。後手は居玉ですから、かなり深く研究していないとやりづらい。私はゴキゲン中飛車も指しますが、この手はほとんど考えたことがない。これは先手の超速に対する変化球でなく、剛速球ですね。しかし、直観的には後手を持つのはあまりにも怖い。(佐藤康光)そもそも先手の布陣が、もし△5四銀と指してきたら攻めかかるぞというものなので、それでも△5四銀型にするのは図々しい意味もある。先手もこれで仕掛けられないなら超速はなくなる。▲3五歩△同歩▲同銀△5六歩となって大変だが、仕掛けてまずまずやれる。居玉と▲6八玉型の差も出るのかなと思っています。(森内俊之)△5四銀で△4四銀と上がればよくある将棋です。形としては、4四より5四に上がった方がいいなあという思いからやってみたが、▲3五歩△同歩の次の手は▲同銀でなく▲2四歩を気にしていた。以下△同角▲5六歩△4四歩▲5五歩△4三銀▲7八玉となると後手自信なし。だから、▲3五歩△同歩▲2四歩には△同歩▲3五銀△6二玉でどうか。実戦もぎりぎりだったので、それなりに手ごたえもあった。現状は希望的観測で後手勝率のイメージ50パーセント。ただ、後手がよっぽど頑張らないと50パーセントいかない。これからも指すか?それは企業秘密です。(久保利明)
初手からの指し手
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △5四歩 ▲2五歩 △5二飛
▲4八銀 △5五歩 ▲6八玉 △3三角 ▲3六歩 △4二銀
▲3七銀 △5三銀 ▲4六銀 △5四銀
実を言えば、△4四銀は形が重くてちょっとつらい。本当は△5四銀で耐えらればりそうなのだが、それは先手も怒ってくるだろう。
私も一度△5四銀を試してみたが、以下▲3五歩△同歩▲2四歩△同歩▲3五銀△6二玉。あるいは▲3五歩△同歩▲同銀△5六歩でなかなか難しい戦いになる。
私的には「ほぼ互角」と見たいが、賛同してくれる人は少ないようで、△5四銀を指す人はあまりいないのが現状だ。
「将世2012.3号」久保利明『さばきのエッセンス 第27回 見直された銀対抗その2』より
最初に指した久保九段は、その後指していない。
「久保さんが今後もやるなら有力。やらないならダメ。」(渡辺明)
筆者も否定的だったが、元奨励会H君が奨励会時代、この作戦を得意としていたようで、変化を聞いているうちに研究する価値があると感じた。
しかし、余りに危険なので実戦で試す機会もないうちにプロ棋戦で出現した。
実戦は図から▲3五歩△同歩▲同銀だが、広瀬vs田村では▲7八玉と大人しく指し、△6二玉▲6八銀△6五銀に▲2四歩△同歩▲3五歩と動いて先手が勝った。
しかし、後手の居玉を見ると、人間としては仕掛けたくなる。
図からの指し手
▲3五歩 △同 歩
▲同 銀 △5六歩 ▲3三角成 △同 桂 ▲5六歩 △6五銀
▲3四歩 △4五桂 ▲4六銀 △5六銀 ▲4五銀 △同 銀
▲3三歩成 △5六歩 ▲5八歩
△5四銀 ▲4六桂 △6二玉
▲2四歩 △5五角 ▲8八角 △同角成 ▲同 銀 △7二玉
▲2三歩成 △3六角
図からの指し手
▲3八金 (▲3八角は△4五銀)△2七歩 ▲1八飛 △2八銀
▲3二と右 △同 金 ▲4一角 △2九銀不成 ▲5二角成 △同 金
▲3二と △3八銀不成 ▲7七銀 △5七歩成 ▲同 歩 △4七銀成
▲5四桂 △5七成銀 ▲7九玉 △6五桂 ▲5八歩 △7七桂成
▲同 桂 △6七成銀 ▲6八銀 △4六角 ▲5七金 △同成銀
▲同 銀 △5五角 ▲6六銀打 △6七金 ▲5五銀 △7七金
▲8八角 △8七金 ▲6七飛 △8六銀 ▲7八金 △9五桂
▲4二と △4五角 ▲5六桂 △5三金 ▲6二歩 △5四金
▲6一歩成 △6五桂 ▲5四銀 △7八金 ▲同 玉 △7七金
▲同 角 △同銀成 ▲6九玉 △5四角 ▲7一と △同 玉
▲6二金 △同 玉 ▲5三金 △7一玉 ▲5四金 △5七桂不成
▲同 歩 △3六角 ▲5九玉 △5八歩 ▲同 飛 △同角成
▲同 玉 △6七成銀 ▲4七玉 △4五飛 ▲4六銀 △3七金
▲同 玉 △2六銀
まで122手で近藤六段の勝ち
この一局の勝利だけでは、後手を持って△5四銀を試す勇気は、私にはない。
また、△5四銀を許しても▲3五歩△同歩▲3八飛という阿久津流の仕掛けが有力なので、後手が苦しい。
図以下、△4五同銀▲同桂△3四金に▲5四銀が厳しい。
対超速穴熊囲い
△2二角とこちらに引いたのには驚いた。
当然の▲2四歩△同歩▲同飛に△3三桂として▲同桂成なら△同角▲2一飛成△2二飛とぶつけて穴熊ペース。
実戦は、▲2三歩△3一角から▲3三桂成△同銀▲2九飛△6五歩▲同銀(▲7七銀は△4四銀)△6四歩▲5五角△同飛と進行し、結果は中飛車勝ち。
その後の対斎藤明日斗(竜王戦)では、上図から今度は△4二角と引いた。
△6四角の狙いを残すため6四の歩を突かないのが工夫だが、角覗きに備えて4一の金が釘付けになったのは痛い。
試行錯誤はまだまだ続く。
先手中飛車でも穴熊
▲5八金に△1三角と覗き、▲7八飛を強いる。
ここですぐに△7三桂とするのは▲7五歩で危険なので、△8六歩と▲9五角の筋を消してから桂跳ねようとする。
戸辺七段は、▲8六同角と5筋を放棄し、△5五銀右▲同銀△同銀▲7五歩と飛車を7筋で活用する。
△5七角成▲7四歩△7二歩に▲5八金△2四馬▲4八金と馬を作らせたが、△4四銀に▲7五飛△5一馬▲7七桂△8四馬▲4六歩と飛車馬交換を恐れずに攻める。
これが噂の「戸辺攻め」だ。
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