将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【相掛かり】▲3七銀(早繰り銀)

ソウタの▲3七銀

浮き飛車か引き飛車か


第92期棋聖戦第二局は、藤井二冠と渡辺名人と双方の将棋観がぶつかった名局だった。
お互い、3六の歩や3四の歩の横歩取りには目もくれず、飛車をタテに使うが、後手の渡辺名人は引き飛車(8二飛)にし、先手の藤井二冠は浮き飛車(2六飛)にした。
これに渡辺名人は△4四角と飛車取りに出て、▲2八飛と双方引き飛車になった。
先手は手損だが、4四の角は目標になりやすいので悪くない。


藤井が初タイトルを取った第61期王位戦第二局では、先手の木村王位(当時)は飛車を2七へ引き、▲4六銀~▲4五銀△5五角に▲3七桂の受けを可能にした。
この飛車の位置については、後手番で△8三飛としたフラッドゲートの実戦例があり、後に触れる。


後手は飛車を引かせてから△8三銀が予定の行動。
飛車を追わずに△8三銀とするのは、▲7六歩△8四銀に▲3五歩と飛車の横利きを通し、△8五銀に▲7七桂で受かる。
▲7六歩△8四銀(図)と早繰り銀対棒銀になる。

△7四銀のUFO銀でなく、△8四銀としたのは、▲7七桂と受けられた時に△7四歩と桂頭を攻める用意だ。
通常、角交換から▲8八銀と受けるところだが、ソウタは△6五角と打たれる筋を気にした。
それに、後の展開を見ればわかるが、ソウタは、左銀は▲6八銀と活用するのが本筋と見ている。


実戦は、角交換して▲5六角。
棒銀に筋違い角は、角換わりで升田幸三九段が編み出した対策だが、相掛かりでも有効だ。
受けだけでなく、次の▲3四角が金取りと2筋突破の両狙いで厳しい。
後手の△2二銀の受けは当然で、△5二金のような受けは▲3五歩と攻められる。
▲3四角に△5二金。
金を上がらせたのは、先手にとって大きな成果で、7筋の歩が切れた時に▲7二歩がある。


図の局面では▲3五歩と攻めるのも有力。
取れば▲3四角があるので△8五銀▲3四歩と攻め合いになるが、3四の歩を角で取るより、歩で取る方が攻めとしては厳しい。

図の局面は、△4三金右に当たりになった角を歩取りに引いたところ。
7四の歩を受けようと△7五歩と突くのは▲6八銀△7六歩に▲7二歩と応接して先手が良い。
先手は、左銀を8八でなく6八に使う心づもりだ。


図の局面では、△5四歩と角を圧迫するのが面白かった。
▲7四角には△7三銀が用意の一手で角を成っても△6二歩で馬が詰む。


渡辺名人は△7三銀と棒銀を諦め、▲1五歩に△6四銀と繰り替えた。
▲1四歩△同歩▲2四歩△3四歩▲2三歩成△同金▲2四歩△3三金寄り▲3五歩は、△2七歩▲同飛△5四角と反撃して後手も指せる。


そこで▲7四角と歩を取ったが、歩得でも角の働きが悪い。
ここで渡辺名人は、△5四角と打って歩損の代償で得た手得を玉の整備に充てた。
善悪はともかく「堅さは正義」という名人らしい構想。
終盤、藤井二冠は攻めながら玉の周りの敵駒を一層。薄い玉での戦い方の巧さを見せて勝利した。


中原16世名人の早繰り銀


早繰り銀といえば中原流相掛かりのひとつ。
▲3七桂型や▲6九玉~▲5九金型と併せて、中原16世名人はそれまで相腰掛け銀しかなかった相掛かりに新しい風を吹かせた。
順位戦で羽生に勝ったこともある。

中原流は▲7四歩の垂らしだったが、屋敷九段が▲7三歩という新手を出した。
放置すれば▲7一角と打って、飛車が縦に逃げれば▲7二歩成だし、横に逃げれば▲8六飛だ。
清水女流プロも女流王将戦第4局(平成13年6月)でこの新手を採用。
矢内女流プロの攻防の△9四角と対し、端から逆襲して快勝している。




飯島七段が、後手番中原流の工夫を見せた。
▲6七金が郷田流の力強い受けだが危険だった。

図から△8六飛が成立した。
▲8七歩△同飛成▲8八銀があって失敗のようだが、△7七歩成▲同桂△同角成▲同金△8五竜で後手が指しやすい。




かなきち将棋道場 相掛かり中原流37銀戦法

現代は▲6八玉型

中原流は、現代も指されているが▲6八玉型が多い。
人間的には▲5八玉としたいが、この方がソフトの評価値が高い。
下図のような銀冠への発展を視野に入れている。

図から△3四歩▲4六銀△3一玉▲7九玉△2二玉▲8八玉とお互い入城し、先手としては▲2九飛~▲4八金と陣形を整えてから仕掛けたい。


参考棋譜
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲3八銀 △7二銀 ▲9六歩 △9四歩 ▲3六歩 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲6八玉 △1四歩 ▲2四歩 △同 歩
▲同 飛 △2三歩 ▲2六飛 △3四歩 ▲8七歩 △8二飛
▲7六歩 △6四歩 ▲3七銀 △6三銀 ▲4六銀 △4四角
▲3五歩 △同 歩 ▲4四角 △同 歩 ▲8八銀 △5四銀 
▲3五銀 △4三銀 ▲7七桂 △2二銀 ▲3八金 △4二玉 
▲3七桂 △5二金 ▲8六歩 △3三銀 ▲8七銀 





上記の△4四角も有力だが、下図の△5四銀も早繰り銀に対する自然な対応。
腰掛け銀は早繰り銀の天敵だ。

図の局面から▲3五歩△同歩▲同銀と仕掛ける。
△8五飛が常用の筋だが、これに▲3六歩と利かされのような歩を打つのが面白い。
△8二飛▲3七桂に二歩手持ちにした後手は早速△9五歩▲同歩△9七歩と端攻め。
▲同香と取れば△7四角の筋がある。
▲4八金△9五香▲9六歩△同香▲9七桂と収め、△6五歩に▲2九飛と形を整える。
△6六歩▲同角△同角▲同歩△6五歩に▲7五角が用意の受けで、5筋を受ければ▲9四歩△9二歩を利かせて▲8八銀。△6六歩▲同角△3三桂(△2二銀)には▲6七歩と整形して互角の形勢だ。


飛車切りの筋

初手からの指し手
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲3八銀 △7二銀 ▲5八玉 △4二玉 ▲7六歩 △8六歩 
▲同 歩 △同 飛 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 
▲2六飛 △3四歩 ▲8七歩 △8四飛 ▲3六歩 △7四歩
▲3五歩 △同 歩 ▲3七銀 △7三桂 ▲4六銀 △8六歩 
▲同 歩 △同 飛 ▲8七歩 △7六飛 ▲2二角成 △同 銀 
▲7七歩 

図から△4六飛が鋭手。


▲同歩には△3六歩として△3五銀を狙う。
次に△4六銀と出られると先手は歩切れなので追うことができない。そこで△3六歩には▲2七飛と先受けするが、△3三銀と形を整えた後、△6四角を狙う。
単純な歩取りだが受けにくい。


また▲4六同飛は、△2八角▲3七角△同角成▲同桂△6四角で後手良し。
先手陣は7筋が壁なので△2八飛と打たれるとひとたまりもない。

図は△8五飛型から△3五歩の桂頭攻めをし、▲2六飛の受けに対し、△8六歩▲同歩△同飛と合わせの歩を駆使し、▲8七歩と受けた瞬間がチャンスだ。


△4六飛!
取れば勿論△1五角だ。

(参考)UFO銀にも飛車切り

この十字飛車の筋は、UFO銀でも現れる。
プロでもうっかりすることがあるくらいなので、気をつけないと。


極限早繰り銀


▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲3八銀 △7二銀 ▲9六歩 △9四歩 ▲3六歩 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3七銀 △3四歩 ▲4六銀 △6二玉
▲8七歩 △8四飛 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩
▲2八飛 △4四歩 ▲7六歩 △4二銀 ▲5六歩 △4三銀
▲5五歩 △7四飛 ▲6六角 △7六飛 ▲7七金 △7四飛
▲6八玉 △1四歩 ▲7八玉 △6四歩 ▲5八金 △6五歩
▲4八角 △9三桂 ▲7五歩 △6四飛 ▲5七銀 △4五歩
▲5六銀 △3五歩 ▲同 歩 △4四銀 ▲7六金 △5五銀
▲6五銀 △4四飛 ▲5四歩 △6四歩 ▲5三歩成 △同 玉
▲5六歩 △6五歩 ▲5五歩 △4六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲6五金 △7六銀 ▲6六金 △6五歩 ▲7六金 △同 飛
▲7七銀 △4六飛 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩
▲3四飛 △3一歩 ▲7四歩 △同 歩 ▲5四歩 △6三玉
▲3七角 △4九飛成 ▲6四銀 △6二玉 ▲3二飛成 △7一玉
▲8二金


変化:58手
△8八歩


後手早繰り銀

後手早繰り銀は、▲6八玉型に対して有効
中原流相掛かりのように浮き飛車で攻めるだけでなく、引き飛車から雁木にしてゆっくり戦うのもある。
角交換を避けて△3四歩を突かないのがpoint だ。
また、△7四歩を急いではいけない。
下記のような、よく知られた早繰り銀対策があるからだ。


早繰り銀対策の高飛車△2五飛

7四の歩取りに△1四歩が定跡の受け。

▲7四飛に△2八歩は▲2四飛で先手が良いが、△1三角が大切な手。

角成を受けると△2八歩で後手良し。

▲7六歩△7三銀に▲2五飛として△2三歩なら▲9七桂と強引に飛車交換を狙う。

▲9七桂では▲6六角として次に▲7七桂を狙ってもよい。


浮き飛車(△8四飛)

図の△7三銀は自然な手だが、叡王戦第5局や第62期王位戦第5局など、プロの対局では△2三歩▲7四飛と横歩を取らせることが多い。
しかし、どうせ△2三歩と受けるなら△1四歩と突く意味はないのでは?
ということで、中座vs出口(C級2組順位戦)では、△1四歩を省いて△7四歩とした。
▲2四歩なら△2三歩▲7四飛と横歩を取らせる構想。
実戦は、先手が▲2四歩と突かなかったため、後手は△1四歩を省略して早繰り銀にでき、
気分は悪くない。


手堅く△1四歩から早繰り銀にするなら下図のような進行が一例だ。

フラッドゲートでは、図から▲6八銀△6二金▲4七玉△6四銀▲7七銀△8五桂と進行、形勢の針が少し後手に振れた。

中座vs出口は、上図の進行。
図の△6二金では△7二金もあって比較は難しい。
一見すると、3・4筋の位を取って先手陣が伸び伸びしているようだが、▲5八玉と逃げた時に傷になる。
後手陣は角の活用がポイントだ。
図の局面から▲7五歩△同銀▲7六歩も良い勝負。
先手は、▲6六角と7五の歩を狙った。
△7四飛なら▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩に▲7五歩だ。
そこで△3四歩と角を活用。
▲4四歩の手筋で返し、△同歩に▲3四歩としたが、▲4四歩では、角交換してから▲4四歩もあるし、次の▲3四歩でも▲7五歩△3五歩▲4五歩もあった。
▲2二角成△同銀▲4四歩とした場合の変化の例としては、△4四同歩に▲7五歩△3五歩に自陣が怖いが▲7四歩△同飛と呼び込み、▲8二角(▲8三角もある)で勝負する。
△7七歩には▲8八金と耐えるつもりだ。
そこで、先に△5五角と打って▲6六歩に△7七歩が後手としては有力な変化だ。
▲8八金には△3七角成▲同銀△7六桂があるので▲7七同金と取るが、△同飛成▲同玉に重く△3六金と打って▲1六飛に△6五桂の活用が後手の狙い。
▲6七玉と逃げれば△5七桂成があるし、他の逃げ場には△6六角がある。
ソフトに掛けると△5七桂成を食らっても▲同玉△4六角▲4八玉△7九角成に▲7一角成が厳しく、△4六金には▲7七飛が名手。
△6八馬には▲7四桂が間に合うし、△8九馬▲4六飛△3六桂には▲同飛から▲7四桂。
△3六歩には▲同飛△同金▲7九飛で先手が余せる。

深慮遠謀の△8三飛

先手の下段飛車を見て、後手は△8三飛から図のような駒組み。
この飛車の位置を見て思い浮かぶのは、第61期王位戦第2局。
先手で木村王位(当時)が角に当てられて逃げた位置が2七だった。
最初から△8三飛は珍しいが、フラッドゲートで実戦例がある。


引き飛車(△8二飛)

このまま△7五歩▲同歩△同銀としてもいつでも角交換されると効果がないので、△4四歩から雁木に組むのが面白い構想。

引き飛車の形はいつでも▲5五角で狙われるので、後手としても単純に攻めるわけにはいかない。

ほぼ互角の形勢だ。

前記のように角道を止めて雁木にするなら、そもそも角道不突にしてはどうか?

▲5五角の筋を△5四歩でcareし、5四の歩を△4二銀でcareする。

人間的には後手が勝ち易いと思う。

初手からの指し手

▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲9六歩 △7二銀 ▲3八銀 △9四歩 ▲6八玉 △1四歩
▲3六歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲3七桂 △7四歩
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △7三銀 ▲8七歩 △8二飛
▲7六歩 △2三歩 ▲2九飛 △6四銀 ▲4六歩 △5四歩(図)
▲4八金 △4二銀 ▲5八玉 △4一玉 ▲4七銀 △7五歩
▲同 歩 △同 銀 

下段飛車(△8一飛)

△8一飛型の好形を目指すのも有力。

下の将棋は、佐藤天彦九段の名局になるはずだったが、意外な結末に。


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