将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

将棋マンガを描きたい


世に『鬼滅の刃』が流行している。内容について語るほどの知識を持ってないが、主題歌を聞かない日がないくらいだ。
ヒット作を出した次回作は難しく、『黒子のバスケ』や『暗殺教室』、『妖怪ウォッチ』などヒット作のイメージが強すぎて新作が読者に受け入れられず、そのまま消えてしまう例があまりにも多い。
続編なら無難だ。ドラゴンボールのように様々な鬼が現れ、鬼殺隊も際限なくレベルアップしていくような物語だ。
『北斗の拳』や『スターウォーズ』みたいに炭次郎の父の話を描いたり、あるいは父や母が甦ったり、『Super Natural』みたいに炭次郎と禰豆子とで神と悪魔の代理戦争を始めたり等々アイデアは尽きない。
しかし禰豆子が人間に戻って一応完結したので、これ以上続けるのは難しいし、仮に続けても盛り上がりに欠けるだろう。


うってかわって将棋マンガに挑戦したらどうだろう。
柔道マンガの最高峰『帯ギュ』の将棋版みたいなのを描いてほしい。
『帯ギュ』(正式名称は『帯をギュッとね!』)を知らない人のために説明すると、舞台
は高校柔道部。県立浜名湖高校の粉川巧、杉清修、斉藤浩司、宮崎茂、三溝幸宏、海老塚桜子、近藤保奈美というキャラの立った7人が倉田龍子(剣道3段)を顧問に新しく柔道部を立ち上げる。そのため運動部にありがちな上下関係も薄く、それぞれの得意技やプレースタイルも異なり、ギャグダッチを交えながら柔道の面白さに引き込まれる内容だ。
個人技の柔道だが、高校野球のような団体戦にかける思いが見る人を熱くさせる作品。
将棋も居飛車から振り飛車まで戦法が多彩で、攻め将棋や受け将棋とプレースタイルも様々なので多くのキャラ設定が必要だ。
鬼殺隊のメンバーのように個性あふれる将棋指しが揃えば面白い。


序盤の話


一昔前のとある高校将棋部の出来事。
二人の新入部員と先輩との会話。


新入部員A「先輩、初手は▲7六歩と▲2六歩、どちらがいいのですか?」
先輩「(どうでもいい事にこだわる奴だな。しかしここはビシッと先輩の貫禄を見せつけてやろう。)そうだね。飛車と角のどちらかの大駒を働かせるため▲7六歩と▲2六歩のどちらかが自然な手だね。ただ、▲2六歩というのは居飛車を明示した手で、そこから飛車を振りにくい。振り飛車なら初手は▲7六歩▲5六歩▲7八飛といった選択になる。居飛車党という前提で考えてみよう。角を働かせるなら一手で済む。飛車を働かせるには▲2六歩~▲2五歩の2手は最低必要。だから効率の良い▲7六歩がいい。」


新入部員B「先輩、その考えはおかしいと思います。いずれにせよ飛車を働かせなくてはいけないのですから2手かかる飛車先の方を優先すべきだと思います。」
先輩「(面倒な奴だな)▲7六歩の方が振り飛車の含みもあって手広いというのがある。▲7六歩に△3四歩なら横歩取りを狙って▲2六歩と居飛車で戦うし、▲7六歩に△8四歩なら▲5六歩と振り飛車にする。後手が▲5五歩の位取りを避けるなら△5四歩か△8五歩▲7七角△5四歩だが、△5四歩なら▲5八飛と中飛車、△8五歩▲7七角△5四歩なら▲8八飛と向かい飛車にする。」


と言いながら初手から次のように並べ始めた。
▲7六歩 △8四歩 ▲5六歩 △8五歩 △5四歩 ▲5八飛 △8五歩 ▲5五歩 △同 歩 ▲同 角 △6二銀

先輩「これが中飛車にした場合の狙い筋。ここから▲3三角成とすれば両王手の詰み。」
新入部員A「これはスゴイ。覚えておきます。」


今度は戻して下図のように向かい飛車に組む。

先輩「▲8六歩と突いて△同歩▲同角が王手になるのが後手の泣き所。王手をどんなに受けても角を切って飛車の素抜きだ。」
新入部員A「これもスゴイ。なるほど初手は▲7六歩の方が良さそうですね。」


新入部員B「先輩、ヤラセが過ぎます。中飛車に対しては△6二銀のところ△4二玉と躱しておけば大丈夫ですし、向かい飛車に対しても△6二銀の代わりに△3四歩と突いておけば仕掛けは難しいと思います。そもそも5五の位取りを許しても後手が悪くなるとは思えません。『5五のクライは天王山』と言われたのは過去の話です。」
と再び初形に戻した。

新入部員B「ここから▲2六歩は、相手の角頭の弱点を狙って自然な手だと思います。棒銀などで角頭を攻めた時、先に▲7六歩を突いていると、いつでも△3四歩から目標になる角を交換されてしまいます。
また、振り飛車党相手の二手目△3二飛戦法を防いでいます。」
先輩「しかし▲2六歩に△3四歩▲2五歩△3三角と受けられると、初手▲7六歩と比べて、横歩も取れないので損をしている気がする。▲7六歩から角換わりに進んで互角だろうけど。」
新入部員B「▲2六歩に△3四歩ならそこで▲7六歩とすればいいのです。相手が居飛車党なら横歩取りか雁木になりそうです。
AIは、この局面は先手がプラスと判断します。」


新入部員B「▲2六歩に△8四歩なら相掛かりか角換わりか先手が選べます。」
先輩「(結局▲7六歩と突くのか。それならどっちでも大差ないじゃないか)・・・」
新入部員B「横歩取りは純粋居飛車党なら避けたいはず。したがって初手▲2六歩の場合、私が後手なら相掛かりを指向します。
なお、AIの影響か、藤井聡太二冠の初手は必ず▲2六歩、後手の時は△8四歩です。
▲7六歩や△3四歩だと突いた歩を狙われるから?」


先輩「なるほど、角道を開かずに相手の角頭を攻めるという意図か・・・振り飛車の評価が低いAIらしい選択だな。
俺は振り飛車党だから初手は先手中飛車を狙う▲5六歩か▲7六歩、たまに▲7八飛だ。
居飛車は覚える戦型が多くて・・・」
新入部員B「簡単ですよ。お互いに飛車先を突き合えば相掛かり戦法。これが現代将棋の最先端です。」



先輩「矢倉とか角換わりは終わったのかい?」
新入部員B「昭和・平成では飛車先を7七銀と受ける矢倉戦法が主流でした。しかし、7七銀の形は桂馬で狙われる悪形です。」
と下図を並べた。



新入部員B「図から▲6五同歩△7五歩▲6六銀△8六歩▲同歩△7六歩▲5五歩△7四銀▲5七銀上△8五歩▲同歩△6五銀のように銀・桂で攻められて面白くありません。
後手に美濃囲いを許すと囲いに要する手数の差で後手に先攻されるため、先手は早めに飛車先を突いて牽制するようになりました。
それでも後手から桂馬で7七の銀を狙われることに変わりありません。
藤井聡太二冠が渡辺名人相手に棋聖防衛したのが下図の将棋で、後手が雁木&袖飛車で7七の銀を狙うのが最新の矢倉対策です。手数を費やした矢倉の先手が居玉の後手に敗れるのでは費用対効果はどうなの?と、先手矢倉は斜陽戦法という感じです。」




先輩「なるほど、俺も昔は居飛車を指していたが、団体戦の三将を務めていたら正統派の多い大将・副将と違って相手は曲者ばかり。横歩、角頭歩、パックマン、嬉野流エトセトラ・・・まともな角換わりや矢倉なんか指さしてくれない。
面倒くさくなって振り飛車に転向した。
振り飛車にすると、相手は居飛車穴熊ばかりだったので楽だった。左玉にして玉頭から攻めると必勝だ。
相振りでも左玉にして玉頭位取りにすれば楽勝。」
新入部員B「(こっそりと)三将が曲者って、あなたのことですね。」


先輩「それはともかく団体戦は組み合わせが大事なんだ。
相手のオーダーを予測し、対振りが得意な人間、相居飛車が得意な人間、うまく組み合わせれば勝てる。相手のエースにはこちらの最弱をぶつけ、こちらのエースは相手の二番手を、二番手には相手の三番手をと、うまく「当て馬作戦」を使うこと。
そしてマンガ『帯ギュ』でもあったが、大会前に一人すづ何かひとつ得意戦法をマスターすること。しかし、序盤だけでは勝てない。終盤の力をつけること。」

中盤の話

先輩「中盤から終盤にかけて大切な心得がある。戦うべきかどうかの判断だ。」
新入部員A「私は、玉の堅さが優っていれば戦い、逆なら戦わないと決めてます。」
先輩「それは大事だね。あと形勢によって使い分けている。

  • 大きく優勢の時は戦いを避け手堅く指す
  • 少し優勢の時は戦って一手勝ちを目指す
  • 少し非勢の時は戦わず粘って相手の焦りを誘う
  • 大きく非勢の時は戦って安全に勝とうとする相手の隙につけこむ

本来は局面によって判断すべきものだが、人と人との戦いだからね。

  • 攻め将棋の人が相手なら受けさせる
  • 受け将棋の人が相手なら攻めさせる
というように相手の苦手な展開にするのも有効だね。
将棋の本質からすると攻めにはriskが伴うが、人間は必ずミスをする。
そして攻めミスよりも受けミスの方が挽回が難しい。
『イモ攻めはザル受けに優る』という東大式格言もある。
プロでは、羽生・渡辺将棋の基本は攻めだが、藤井・永瀬将棋の基本は受けだ。

結果を自分で引き受ける覚悟がある限り『将棋は自由』だ。
ドストエフスキー風に『すべては許されている』といっていい。


また、相手の実力が上と思えば短手数の将棋を目指し、相手の実力が下と思えば長手数の将棋にして相手のミスを誘うというのもある。」
新入部員B「それで先輩は振り飛車党なんですね。」
先輩「角換わり戦法や横歩取り戦法みたいに、研究で負かされてしまうような将棋は怖くて指せないというのが本音だね。」

終盤の話

先輩「井口高志さんという神戸市の公認将棋指導員が生徒さんに繰り返し伝えている言葉があるんだ。

・相手の指した手の意味を考える。

・相手の陣形の弱い所を探る。

・持ち駒は全て使い切る気持ちで。

・盤全体を広く見て考える。

・終盤は詰んでいないか常に意識する。

この中の「終盤は詰んでいないか常に意識する。」というのが、簡単なようで実はなかなかできないことなんだ。」
と下図を並べた。

先輩「自玉はまだ余裕があるので、▲1一竜△4一歩▲4三馬としたが、△5二銀と受けられて足りなかった。」
新入部員A「▲3一竜と王手するのは△4一歩で続かない。実戦の▲1一竜の方が香車が手持ちになるだけ得ですね。
先に▲4三馬とするのは△2二銀と竜を取られてダメか・・・」
先輩「▲5二金と打てば詰んでいたんだ。もし自玉が必死だったら詰ましていただろう。ところが実戦だと見えない。詰まそうという意識がないと見えないんだ。
後手の△3三銀では、△3二歩と固く受けるか△5三銀と飛車の横利きを通しておくかしておけば、△5七桂からの攻めが早いので勝ちだった。△3三銀みたいな小手先の受けは危険なんだ。」


先輩「図は、先日の大会の将棋だが、ここで考えたのは6九と5九に金を並べれば受け切って勝てるということだった。そのため▲6八金と打ったのだが相手玉に詰みがないか意識してなかった。
ここで▲7二成香△同玉(△同金は▲4二飛)▲8三金△同玉▲8四銀と追えば△7二玉には7三からバラして詰むし、△9二玉にも▲8三金△8一玉▲8二飛△7一玉▲7二飛成から強引に玉をおびき出して7三からバラすと1一の馬が強力で詰む。
悲しいことに相手玉を詰ますという意識が全くなかった。」
新入部員A「この将棋に負けて決勝進出を逃したのですか、残念でした。」


先手:わたし
後手:N君
▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △3三角 ▲7六歩 △4四歩
▲4八銀 △3二銀 ▲6八玉 △4三銀 ▲3六歩 △3二金
▲3七銀 △7四歩 ▲5八金右 △7二飛 ▲7八銀 △6二銀
▲4六歩 △7三銀 ▲3八飛 △6四銀 ▲3五歩 △4五歩
▲3三角成 △同 桂 ▲3四歩 △同 銀 ▲2六銀 △3五歩
▲8八角 △2七角 ▲4八飛 △3六角成 ▲3七銀 △2五馬
▲4五歩 △同 銀 ▲4六銀 △4七歩 ▲同 金 △3六銀
▲同 金 △同 馬 ▲3七銀 △4七金 ▲3六銀 △4八金
▲3四歩 △3六歩 ▲3三歩成 △2八飛 ▲3二と △6二玉
▲1一角成 △4七金 ▲7九玉 △2九飛成 ▲8六香 △5八金
▲4九歩 △同 龍 ▲9五角 △7三桂 ▲8三香成 △6九金
▲同 銀 △5八銀 ▲7八銀打 △6九銀成 ▲同 銀 △5八銀
▲7二成香 △同 玉 ▲8三金 △同 玉 ▲8四銀 △9二玉
▲8三金打 △8一玉 ▲8二飛 △7一玉 ▲7二飛成 △同 金
▲同 金 △同 玉 ▲7三金 △同 銀 ▲同角成 △同 玉
▲5五馬 △6四角 ▲6五桂 △8三玉 ▲9五桂 △9四玉
▲8五銀 △同 玉 ▲7七桂 △7六玉 ▲6六馬 △8七玉
▲8八歩 △8六玉 ▲8五金


変化:63手
▲1六角 △6八銀 ▲8八玉 △6九銀不成 ▲4九角 △7八銀成
▲同 玉 △6八金打 ▲8八玉 △4九金 ▲8三香成 △8六歩
▲4二飛 △5二桂 ▲7七馬 △6九角 ▲9六銀 △8七歩成
▲同 銀 △7九銀 ▲9八玉 △8六歩 ▲同 馬 △7八金
▲7二成香 △同 玉 ▲7八銀 △同角成 ▲8四桂 △8三玉


詰将棋の話

愛上夫作

部の顧問のN先生は詰将棋好き。
N先生「この間『詰パラ』で凄い詰将棋に出会ったよ」
と上図を並べた。
N先生「ここから▲4八金△同金▲3九金△同金▲6八飛△3七玉▲8七飛△3六玉▲6六飛で詰みと解答したところ玉方に絶妙手があって不詰みだった。」
部員М「待ってくださいよ・・・。
そうか▲8七飛に△6七歩の中合いがあって飛車がダブって詰まないんだ。」
N先生「残念でした。それは▲6七同飛左△3六玉▲3八飛△同金▲3七歩△同金▲6六飛で詰みます。」
部員М「もしかしてそれが作意とか?」
N先生「いや歩でなくて△6七桂の中合いが妙手で、これなら詰まない。正解はここに飛を打つんだ。
と9八の地点に飛車を打った。
N先生「これなら桂打ちは禁じ手なので8八に中合いするのは歩になる。それで先の順になってそれが作意。
『行き所のない駒を打てない』というルールを利用して飛車打ちを9八に限定させたのがこの詰将棋の凄いところなんだ。
ところがこれには前例があった。」
とN先生が得意げに発見を披露した。


上田吉一作

N先生「これが先の手筋の角バージョン。
もちろん二枚の飛車を使った先の作品より創作する上での難度は高いし、難解さも増している。
▲2六角△7三玉▲4六角△8四玉▲4八角と追うと△5七桂合で不詰み。
正解は▲1七角△7三玉▲3七角△8四玉▲3九角△4八歩▲同角上という手順で△9五玉に▲7三角成△8四金寄以下23手で詰む。」
部員М「驚きました。よく上田吉一さんは天才だと聞きますけど本当ですね。恐ろしい作品だ。」


N先生「ミステリ作家で竹本健治という人がいる。
彼の『函の中の失楽』という作品は、中井英夫の『虚無への供物』や小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』夢野久作『ドグラ・マグラ』など日本探偵小説三大奇書に匹敵する怪作だし、『トランプ殺人事件』『囲碁殺人事件』『将棋殺人事件』というゲームものもある。
驚いたのは新作の『涙香迷宮』だ。」
部員М「涙香というのは黒岩涙香ですね。ビクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』を翻訳した『噫無情』やアレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』を翻訳した『巌窟王』などが有名ですよね。『鉄仮面』や『幽霊塔』なんか私は似た題名の小説と混同して失敗したことがありましたが・・・」
N先生「この作品は暗号を扱ったもので、驚嘆すべき数の『いろは歌』が中心の暗号になっているのだが、私は作中に出てくる『詰連珠』というのに感動した。。
詰将棋と同様に趣向詰めというのがあって、『完全案』というのは『煙詰』と反対に碁盤が白黒の石で埋め尽くされるという面白いものだ。
詰将棋作家として有名な田中至さんは、詰連珠でも多くの作品を残しているんだ。」




部員М「知りませんでした。こんな世界があるとは驚きですね。」
N先生「五目並べを連珠として発展させ、定石を研究したのが黒岩涙香なんだ。
高知県出身で『萬朝報(よろずちょうほう)』という新聞を起こしたジャーナリスト。
ペンネームは黒い悪い子という洒落だったのかも知れないけど、なかなかの通人であったようだ。」