ツノ銀雁木が有力
2025年4月より、NHK将棋講座で「雁木王」深浦康市九段による雁木講座が始まった。
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- NHK 将棋講座 2025年 4月号 [雑誌] (NHKテキスト)
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- よくわかる雁木 (マイナビ将棋BOOKS)
マイナビ出版
本
最近の雁木は、銀を二枚並べずに、上の伊藤本の表紙のように、ツノ銀型に組む。
旧型雁木は、引き角からの角交換に弱かったが、新型雁木によって「角交換は雁木に利あり」という新しい感覚が生まれ、流行した。
ツノ銀雁木は角交換に強いだけでなく、桂馬を活用しやすいため攻撃力が強く、また桂馬を跳ねることによって好形の一段飛車に組めるため、守備力も高い。
増田康宏八段が若手の頃、「矢倉は終わった」と、雁木で高勝率を上げた。
そういったイメージから、「矢倉は古い作戦だから雁木に相性が悪い」と思われがちだが、矢倉も新しい雁木対策を生み出し、現状はむしろ矢倉が押し気味だ。

- 雁木伝説: 雁木の秘法を伝授 (MYCOM将棋文庫 2)
(株)マイナビ出版
本
↑昔はB級戦法扱いだった。
強烈な矢倉穴熊
将棋日本シリーズ
矢倉対雁木は、今、一番熱い戦型。
2026年将棋日本シリーズ、近藤誠也八段と服部慎一郎七段という対戦となった一回戦第二局。
この二人は「将棋日本シリーズプロ棋戦」では初出場同士だが、ともに「将棋日本シリーズ テーブルマークこども大会高学年の部」で優勝した実績を持つ。
プロ棋士となって再びこの舞台に立つことに感慨深いものがあるだろう。

それぞれの棋風
攻めの棋風の近藤誠也八段に対し、受けの棋風の服部慎一郎七段。
対称的な棋風の二人のどちらが先にペースを掴むか?
近藤誠也八段は、銀矢倉に組み替える。
対する後手は、△4五歩▲3七角△4四角と立体的に組む構想が有力だったが、受けの棋風の服部慎一郎七段は玉を2二まで囲う。

近藤八段は▲4六歩からの攻めを準備するために後手陣を牽制していた角を引いた。
後手は△6五歩▲同歩△同桂と攻めるチャンスだが、先手にも▲1五歩から反撃される。
ここでも服部七段は自重した。

手待ちする後手
手のない後手は角と飛車を動かしてひたすら手待ちをする。
後手から有効な手がないことを見越して先手は矢倉穴熊を目指す。

先手は理想形に組めた。
後手玉は2二まで囲っても堅くなっていない。
後手は図の局面で△5五歩と角道を止めるべきだったが、後手の危機意識は薄かった。
図からの指し手
△4二角 ▲6五歩 △同 歩 ▲4五歩 △5三角 ▲4四歩
△同 角
図からの指し手
▲同 飛 △同 銀 ▲4五歩 △3三銀 ▲3五歩 △1二玉
▲2五桂 △2二銀 ▲3四歩 △4五飛 ▲3三歩成 △同 桂
▲同桂成 △同 金 ▲1五歩 △6六桂 ▲1四歩 △1六歩
▲4六歩 △2五飛 ▲6六銀 △同 歩 ▲同 角 △4四歩
▲4五桂 △4三金寄 ▲2六歩 △同 飛 ▲3五角 △2九飛成
▲1六香 △2四銀 ▲4四角右 △同 金 ▲同 角 △3九飛
▲6九歩 △3三歩 ▲3二金 △4三金 ▲3三桂成 △同 金
▲同角成 △同飛成 ▲1三金
まで123手で先手の勝ち
【公式】2026年「将棋日本シリーズ」JTプロ公式戦 一回戦第二局 近藤誠也八段 対 服部慎一郎七段
増田流単純棒銀
初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩 ▲4八銀 △8四歩
▲6八銀 △3二金 ▲7八金 △4二銀 ▲6九玉 △6二銀
▲5六歩 △4三銀 ▲3六歩 △8五歩 ▲7七銀 △5二金
▲2五歩 △3三角 ▲7九角 △7四歩 ▲5八金 △7三桂
▲3七銀 △6四歩 ▲6八角 △6三銀 ▲2六銀 △8一飛
▲3五歩
後手は右玉に
増田八段がA級順位戦対糸谷戦で雁木に対して矢倉から棒銀を試みた。
増田八段は、若い頃は雁木を指していて矢倉を敬遠していたが、最近は矢倉>雁木という考えに変わったようだ。

糸谷九段の雁木は守勢寄りの構え。
△4二角~△3三金と3筋を手厚くし、△6二玉と戦線から遠ざかる。
唯一の懸念点は2二の地点で、▲2四歩△同歩▲2二歩の筋を△1四歩と備えたいところだが、受けに自信がある糸谷九段は来られても大丈夫とみている。
図からの指し手
△4二角 ▲6六歩 △6二玉 ▲7九玉 △3三金
▲6七金右 △5四歩 ▲9六歩 △9四歩 ▲8八玉
矢倉の完成

攻める体勢を築いてから玉を矢倉に入城。
ここまでは先手予定通りの進行だろう。
図からの指し手
△4五歩
▲2四歩 △同 歩 ▲3四歩 △同 金 ▲3五銀 △2五金
▲2二歩 △3四歩 ▲2四銀 △2六歩 ▲2三銀成 △3三桂
▲2四成銀 △3六金 ▲3八飛 △4七金 ▲2八飛 △4六歩
▲4八歩 △5八金 ▲4六角 △4五桂 ▲4七歩 △6九金
▲3八飛 △2七歩成 ▲3九飛 △3七と ▲同 桂 △同桂成
先手の選択

ここで▲3七飛と▲6九飛とどちらを取るべきか?
▲3七飛から▲3九飛として両方を払うのが理想だが、果たしてその余裕があるか?
実戦では▲6九飛としたが、△9五歩と迫られると先手は壁形なので気持ち悪い格好だ。
図からの指し手
▲6九飛 △4七成桂 ▲7九角 △9五歩 ▲4四歩 △同 銀
▲3四成銀
後手の選択

ここで▲4三金を避けて△4三歩が手堅いが、糸谷九段はあえて金を打たせる△5三角を選んだ。
持ち駒を増やして反撃に勝負を賭けた。
図からの指し手
△5三角 ▲4三金 △同 金 ▲同成銀 △9六歩
▲9八歩 △8六歩 ▲同 銀 △9四桂 ▲2九飛 △8六桂
▲同 歩 △8五歩 ▲3五角 △8六歩 ▲5三成銀 △同 銀
▲同角成 △同 玉 ▲2三飛成 △4三銀 ▲4五桂 △6二玉
▲5三金 △7一玉 ▲6二銀 △8二玉 ▲7三銀不成 △9三玉
▲8四角 △同 飛 ▲同銀成 △同 玉 ▲8一飛 △8三銀
▲7七金寄 △6九角 ▲8五歩 △9五玉 ▲8六金 △同 玉
▲7七金 △9五玉 ▲8七桂 △同角成 ▲同 金 △7九銀
▲同 玉 △5七角 ▲8八玉 △6六角成 ▲7七銀
まで131手で先手の勝ち
有力な本田奎流
対雁木の決定版ともいえる作戦が、「本田奎(ホンケイ)流」だ。
2019年、プロデビューしたばかりの本田奎五段(タイトル挑戦により昇段)が、渡辺明棋王に挑戦した第45期棋王戦。
当時三冠王だった渡辺棋王の壁は厚く、カド番となった第四局の先手番で、第二局で勝った得意の相掛かりを捨てて矢倉を採用した。
用意の作戦があったのだ。
結果、敗れたため当時はそこまで注目されなかった「本田奎流」だが、2023年にレジェンド羽生九段が「雁木王」深浦九段に快勝して日の目を浴びることになった。
(ちなみに上記「雁木王・深浦康市のNHK講座」のアシスタントは、本田の愛妻、山根ことみ女流三段)
以下三つのpointから「本田奎流」を解説する。

point1.▲4六角として雁木の△7四歩を牽制する。
後手は、相手の角のにらみが厳しく△7四歩と突くことができない。
△6四歩と角筋を止めたいが、角で△5四歩~△4二角~△6四歩と止めるか、飛車で△8四飛~△6四歩と止めるのかいずれかだ。
渡辺棋王(当時)は、角を引くと攻撃力が弱まるのを嫌って飛車で角筋を止めるルートを選んだ。

point2.玉は早囲い。
本田奎五段(当時)の工夫はそれだけではない。
相手の攻撃陣を牽制したことによって生まれた時間的猶予を生かして玉を早囲いに組む。

point3.▲3七銀は危険。
図の▲3七銀が角を狭くして危険な手だった。
渡辺三冠(当時)はチャンスを見逃さない。
△7四歩が機敏。
歩がタダだが、取ると△7三銀▲4六角△7五歩▲同歩△6四銀のように△4五歩の切り札を含みに後手の攻撃陣が躍動する。
逆に先手陣は▲3七銀の活用が鈍重(どんじゅう)だ。
▲5八金に今度は△7三桂と桂馬を活用して▲6四角に△6三金▲4六角△7五歩▲同歩△4五歩と後手が主導権を握った。
▲3七銀では▲5八金としておいて、攻めるなら▲3五歩から。

上図は、羽生vs深浦(達人戦)。
後手は△6四歩と突くために△4二角が必要で、先手の早囲いに対する圧力が軽い。
羽生九段は、▲2四歩△同歩▲同角△同角▲同飛△2三歩▲2六飛と交換して、後手の角引きを無駄手にした。
数手後に▲5五歩と仕掛けた。

実戦は△3四歩だが、5五の歩を取るとどうなるか?
図からの変化
△同 歩 ▲4五歩 △同 歩 ▲1六角 △3四歩 ▲4四歩
△同 銀 ▲3四角 △4三角 ▲2三角成 △2五歩 ▲3二馬
△同 角 ▲2五飛 △2三歩
以下▲4三歩△同玉▲2四歩△同歩▲同飛△3三銀▲4四歩などで攻めが続く。
実戦の手順に戻る。
図からの指し手
△3四歩 ▲5四歩 △同銀右 ▲7五歩 △6三銀 ▲7四歩
△同 銀 ▲4五歩 △5四歩 ▲7五歩 △6三銀 ▲7六飛
▲1六角や▲5四角の筋がチラつく。
どうも後手の陣立てが悪かったようで、雁木党の藤本渚五段は、後の対畠山鎮(棋王戦)で工夫した陣を敷いた。
詳しくは、深浦康市著『実戦で学ぶ雁木の勝ち方』「新工夫の矢倉と対抗」をご覧ください。

- 実戦で学ぶ雁木の勝ち方
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角による3筋交換
「将世2025.11号」の柵木四段講座は「右玉対策」。
現在加古川青流戦の対戦相手吉池四段の得意戦法を意識したものか?
第二局は、右玉でなく左玉となったが、柵木四段は講座と同様に3筋の歩交換をした。

対して吉池四段は、右玉ならぬ中住まいで対抗する。

図から飛車先交換の後4筋の取り込みから▲3四歩と△3三銀を防いで3筋の歩交換が威力を発揮した形だ。

吉池四段は得意の右玉に組み替えたが、▲4六角と盤上を制圧する。

序盤の△4二角では△7三桂から△8六歩と反撃するのが有力だった。
なお△4一玉は不急の一手。
柵木講座にあるように、居玉で反撃を急いだ方が良かった。

▲同銀なら△6五桂が矢倉戦特有の攻め。

次に△4五歩を狙っているが、▲6六歩には△8五歩がある。
▲8六同歩の場合は、△8五歩の継ぎ歩がねらい。▲同歩なら△4五歩とする。

▲6六歩が正着で△6四歩としても▲4五歩の取り込みが大きい。
もし図から▲4五歩なら△8五桂▲8八銀△8七歩▲同金△9七桂成が炸裂する。

やはり3筋交換は有力のようだ。
角による5筋交換
増田康宏八段オススメの雁木対策がこちら。

▲4六角型から▲5五歩とする。
無事交換できれば▲5六銀と好形に組める。
勢い△同歩▲同角△5四銀▲3七角△3五歩となってどうか?
▲2六飛△3六歩▲同飛に△6三金(下図)が厚い手。

▲5六銀には△5五歩▲同銀△同銀▲同角△5四金▲3七角△4五金▲2六飛△3六歩と、
一歩犠牲に押さえ込み、後手が面白い。
そこで△3五歩に▲4六角と変化する。

△3六歩には▲2四歩△同歩▲7五歩と揺さぶる予定か?
そこで△4五銀▲3五角△6五歩と角桂に活力を与える。
しかし、先手に▲2四歩△同歩▲2二歩△同金と形を乱してから角交換されると、▲7二角が残って苦戦。
△同金に代えて△6四角としたいが、▲4六歩ならそこで△2二金とすれば後手が利かした
感じだが、▲4六銀が好手。銀を取れば▲同角とぶつけて先手が指せる。
△2二金と手を戻すと▲5三歩(図)が飛んでくる。

この歩は取っても取らなくても始末が悪い。
△4二金は、▲2四角△2三歩▲4二角成△同玉▲6三金で先手勝勢。
△5三同角は、▲4五銀で後手陣は収拾のつかない格好だ。
△同金は仕方ないが、▲6五歩△同桂▲6六銀となって角が狭い。
△8六歩に▲6五銀もあるし、平凡に▲8六同歩△同角▲8七歩△5九角成▲4五銀でもいいだろう。
したがって、残念ながら△6四角は成立しない。
矢倉+斜め棒銀
高見泰地が中村太地にリベンジ
順位戦で中村太地七段の雁木に敗れた高見泰地七段が王座戦で同じ矢倉対雁木の戦型に。
十分に敗局を検討した高見は、斜め棒銀の工夫を見せた。
△5二金に▲3五歩△同歩▲4六銀△3六歩▲2六飛(図)と進んだ。
▲3五歩を△同歩と取った手では、△5四歩として△5五歩からの攻めを図る構想も考えられた。
歩を取ると▲3五銀を許すことになる。

ここで△8六歩▲同歩△8五歩と継ぎ歩したのがやや疑問。
△7五歩▲同歩△6五桂の筋で攻めるが最善らしく、次の将棋で詳述する。
図からの想定手順
△7五歩 ▲3五銀 △8六歩 ▲同 歩 △7六歩 ▲8八銀
△8七歩 ▲同 金 △8五歩 ▲同 歩 △4五歩 ▲2四歩
△同 歩 ▲同 銀 △8八角成 ▲同 金 △8五桂 ▲8三歩
△同 飛 ▲8四歩 △同 飛 ▲8六歩 △7七桂成 ▲同 桂
△同歩成 ▲同 金 △6五桂 ▲2三銀成 △2四歩 ▲6六角
△7七桂不成 ▲同角上 △7四飛 ▲3二成銀 △同 銀 ▲7五歩
△7一飛 ▲1一角成 △7六歩 ▲6八角 △7七銀 ▲2四角
△3三銀打
△3三角を省略したのが下の実戦。
佐藤和vs羽生(竜王戦)
佐藤和俊七段は、「三間飛車藤井システム」をテーマにしてNHK講座で講師を務めたこともある、振り飛車・居飛車の二刀流。
居飛車の場合は雁木を好み、著書もある。

- 新型雁木試論 バランスとカウンターの新体系 (マイナビ将棋BOOKS)
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- 現代調の将棋の研究 (最強将棋21)
浅川書房
本
対する羽生九段は、『羽生の頭脳2020』というべき、著書『現代調の将棋の研究』で下図の局面をテーマ2「右桂を使った急戦」として掲げている。

後手が歩を持てば、8筋の継ぎ歩と△7五歩▲同歩△7六歩▲8八銀△6五歩~△8四飛という有力な攻め筋がある。
このテーマ図に対する羽生の結論は、「この作戦は後手としては有力で、先手としては動き方に工夫が必要」。
下が実戦の図だが、この場合はどうだろう?
上図から△3三角と△4三銀、△4五歩に代えて△5四歩とすれば、先後逆で実戦の図と合流する。
しかし、△3三角は、角頭を棒銀で狙われた時に当たりが強くマイナス。
△4三銀は▲2四歩△同歩▲同角となった時に王手になってマイナスと、指した手がプラスになっていない。
しかも下図はまだ▲6五歩と角筋が通っていないのだ。
▲5六歩では▲5八金から右玉に組むのが自然だと思う。
詳しくは、『【minor戦法】右玉アラカルト』の「棒銀を受け流す雁木右玉」をご参考に。
・・・先手の作戦に疑問が残る。

ということは、雁木に対して「斜め棒銀」は有力な作戦といえる。
図からの指し手
△7五歩 ▲同 歩 △6四銀 ▲7四歩 △8四飛 ▲2四歩
△同 歩 ▲2五歩 △7五銀 ▲2四歩 △2二歩(図)

ここで▲7三歩成が期待の一手。
△同桂なら▲7六歩△8六歩▲7五歩△8七歩成▲9五角がある。
途中、△8六歩で△6五桂としても▲9五角がある。
ところが先に△8六歩▲同歩としてから△7三桂とされると、期待した効果はなかった。
継ぎ歩のところ、先の実戦で触れた▲3五歩はどうだろう。
▲3五歩 △同 歩 ▲4五桂 △2二銀(△4四銀については後述する) ▲6五歩 △7五銀 ▲7三歩成 △8六歩に▲6三と(図)が成立するのだ。
なお、▲7三歩成に△同桂と取るのは、▲7六歩△8六歩▲7五歩△8七歩成▲9五角。

勢い△8七歩成に、▲5三桂不成の王手が利くのが自慢。
△同角なら▲2二角成△同金▲5三とが詰めろ。
△3一玉と逃げても▲9五角が先手。△8五飛▲6一桂成△7八と▲5二とが詰めろ。
△8九飛成▲4八玉から△3三銀と受けるが、▲4一金から攻めが続く。
▲4五桂に△4四銀の変化の方が難しい。
▲6五歩△7五銀▲3三歩△同桂▲2四歩△同歩▲同飛△2七飛(▲3三桂不成もある)と一歩持って▲3四歩の痛打を狙うのが変化の一例。

ここで△8六歩▲同歩に単純に△同銀とするのは、▲4四角△同歩▲3三桂成△同金▲3四歩などと攻められる。
したがって△4五銀▲同歩と銀桂交換に甘んじて△8六銀とし、▲6八角(図)というような変化が考えられ、際どい勝負だ。

村上三段vs宮嶋四段(加古川清流戦)






矢倉+単純棒銀
図は筆者の実戦、便宜上先後逆表示。
実戦は△7五歩の代わりに△6三銀として▲2四歩の早い仕掛けに参った。
顛末は別記事『【minor戦法】右玉アラカルト』にて。
しかし、将棋上達のヒントはこういった敗局に隠されている。
痛みを乗り越えて血肉とするのが将棋指しという生き物。

受けの達人だった大山康晴15世名人は「最初のチャンスは見逃せ」とおっしゃったが、攻め将棋?のAI先生は「先にチャンスを掴んだ者が勝つ」と厳しい。
ここでも△8六歩▲同歩△8五桂の継ぎ歩攻めより△7五歩▲同歩△6五桂と攻めるのが正しい。▲6八角と備えてないからなおさらだ。
△7五歩▲同歩△6五桂とすれば、▲6六銀には飛車先交換してから△8四飛としておいて雁木不満なし。歩が入れば△7七歩▲同桂△7六歩がある。
したがって先手も▲8八銀と▲6六歩の桂取りを見せ、△4五歩に▲6八角と飛車先交換を防ぐ。
雁木としては、攻めの継続を図るなら△7二飛。
△5四歩は、次に△5五歩としても▲6六歩で桂を取られるので無効だ。

△7二飛は飛車の活用を図る自然な攻め。
先手は▲2四歩△同歩▲1五銀と攻め△7五飛に▲2四銀△4四角として▲7七歩(上図)と受けるくらいか。
▲7七歩で▲3五銀の強襲する手も浮かぶが、△同歩▲2一飛成に△4二玉で雁木陣に隙がない。
次に△7一飛と飛車をぶつけられると竜を自陣に引かなくてはいけないようでは攻めは失敗だ。
また、▲3五銀捨てには△2二角▲2四歩に△2五歩という受けもある。
これも覚えておきたい手筋だ。
図からは△9五歩▲同歩△7六歩と横歩取りを狙って、雁木有利の形勢。
端攻めへの対処

大昔だが、「雁木の弱点は端」と言われていた時期があった。
実際、図の▲1三歩を△同香と取ると、▲1二角で先手成功。
ところが△同桂と取られると▲1四香△6二玉といった進行で先手が冴えない。
さらに言えば手抜きで△6二玉が有力で、▲1四香に△1六歩の反撃が厳しい。
歩を成り合うのは、飛車をいじめられて先手が悪いので▲1八飛と受けるが、△2七角▲1九飛に△1三桂と手を戻して後手が良い。
△2七角では△4九角も有力で、そちらが簡明か?
矢倉には右玉にするのは作戦勝ちが望まれる。
また、次に示すように、正面から攻める順も有力だ。
土居矢倉
雁木対矢倉で気になったのは、角交換に強い土居矢倉に対して雁木が有効かどうか。
羽生vs松尾(竜王戦 2023/08/01)では、下図にて千日手が成立した。
先手が(5八の金が7八にいる)通常の矢倉なら△6五歩▲同歩△7五歩と仕掛けられて崩壊しそうだ。

お互いに守備が堅固なのと、火力が不足しているため、千日手はやむを得ないようだ。
何と言っても先手の羽生善治が打開を諦めたのだから。
矢倉サイドが角交換するとこの展開が予想される。
「角交換歓迎」が新型雁木のバックボーンだ。
コンピュータ選手権
マメット・ブンブクvs水匠(第32回世界コンピュータ将棋選手権)より取材。
後手の水匠は、勝率の低い角換わり後手番を避けて雁木に組んだ。
先手のマメット・ブンブクは、▲6八角と引いて土居矢倉の作戦。
先手の▲4六歩を見て後手は△6五歩と仕掛けた。

図からの指し手
▲同 歩 △同 桂 ▲8八銀 △7五歩 ▲6六歩 △7四銀
▲7五歩 △同 角 ▲7六歩 △8四角 ▲4七銀 △6一飛
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲2九飛 (図)

図からの指し手
△5五歩 ▲4五歩 △同 歩 ▲3五歩 △5六歩
▲同 銀 △5七歩 ▲5九金 △7三角 ▲5五歩 △4六歩
▲4八歩 △7五歩 ▲同 歩 △同 銀 ▲7六歩 △6四銀
▲6五歩 △同 銀 ▲同 銀 △同 飛 ▲6六銀 △6一飛
▲7七銀上 △8六歩 ▲同 歩 △8八歩 ▲同 玉 △6五歩
▲5七銀 △4七歩成 ▲同 歩 △5五角 ▲4五桂 △7五歩
▲5八金 △4四歩 ▲5六銀 △3七角成 ▲5五桂 △5四銀
▲2四歩 △同 歩 ▲5三歩 △4二金右 ▲2二歩 △同 玉
▲3四歩 △7六歩 ▲同 金 △2三銀 ▲2四角 △4五歩
▲4二角成 △同 金 ▲2四歩 △2八歩 ▲2三歩成 △同 玉
▲3九飛 △3八歩 ▲3五銀 △3九歩成 ▲2四歩 △2二玉
▲3三歩成 △同 金 ▲5二歩成 △8七歩 ▲同 玉 △7九飛
▲8八玉 △6九飛成 ▲2三金 △同 金 ▲同歩成 △同 玉
▲2四歩 △2二玉 ▲2三金 △3一玉 ▲3三歩 △8七金
▲同 玉 △8九龍 ▲9七玉 △7九角 ▲8八金 △3三桂
▲3二歩 △2一玉 ▲6一と △9九龍 ▲8七玉 △8八角成
▲同 銀 △9五桂 ▲同 歩 △7五桂 ▲同 金 △9六金
▲7八玉 △8八龍 ▲同 玉 △8七歩 ▲7七玉 △6六銀
▲7六玉 △7五銀 ▲同 玉 △7二香 ▲7四桂 △同 香
▲同 玉 △6二桂 ▲同 と △7三金 ▲同 玉 △5五馬
▲同 銀 △7二歩 ▲8二玉 △1四歩 ▲3一金 まで
雁木の桂損定跡だが、先手陣が手厚いので後手の指し手が難しい。
△7五歩と攻めても▲6五歩△同銀▲6六歩と力強く受けられて突破できない。
△4二金右と固めようとしても▲4五歩△同歩▲2四歩△同歩▲同角△2三歩▲4二角成△同玉▲4五桂と攻められる。
対雁木に土居矢倉は有力な作戦だ。
仕掛けは△6五桂から
阿久津主税vs斎藤明日斗(NHK杯)

▲6六銀と逃げるのは、飛車先交換されて主張がない。
しかし▲8八銀は壁銀なので強い攻めが飛んでくる。

先手の玉の位置が危険だった。
後手の攻めは止まらない。
チャラい手

仕掛けは△6五歩▲同歩△同桂から
斎藤vs増田(新人王)
現在では先手の駒組みが偏っていて危険と感じるのだが、2017年当時は平気でこんな矢倉囲いに組んでいた。
3筋の歩交換するところで▲7九玉~▲8八玉と玉を囲うのは、同じように△4五歩▲同歩△同桂と仕掛けられ、▲ 6六銀に△8六歩▲同歩△同角と角交換されて後手十分。

ここで▲8八銀と引いて桂得を図っても、△6六歩▲同金△6四銀▲6七金△6六歩▲同金△7五歩と歩を犠牲にスピード上げて攻めてくる。
△6六歩では、他に△6四角のノゾキも有力で、▲1八飛には△3八歩の垂らしが好手。
▲3七歩には△3四歩▲6八角から△5五歩▲6六歩に△5四銀と、桂損定跡の要領で攻める。
渡辺vs羽生(竜王戦)
2017年になるとタイトル戦にも矢倉vs雁木が現れた。

先手は、▲3七銀を▲4八銀と引くなど駒組に苦心したが、△5一角と引かれると、次に△6五歩から仕掛けが見えている。

図からの指し手
▲6八銀 △6六歩 ▲同 金 △6四銀 ▲6七銀 △8六歩
▲同 歩 △4五歩 ▲6八角 △3三角 ▲4五桂 △4四角
▲4六角 △7五歩 ▲9八玉 △3三桂 ▲同桂成 △同 角
▲7五歩 △7七桂打 ▲4五桂 △4四角 ▲7七桂 △同桂成
▲同 金 △7五銀 ▲5五歩 △7六歩 ▲同金寄 △同 銀
▲同 銀 △6九飛成
渡辺竜王は▲6八銀と引いて▲6六歩の桂取りを狙った。
そこで前述のように△6六歩の犠打でスピードを上げる。
▲6七銀で▲6七金とするのは、今度は△4五歩で角を狙われる。
桂損定跡も有力
図は、前の将棋で△1四歩とした局面。
△1四歩は羽生らしい好手でおそらく最善だろうが、ここで△6五歩の仕掛けも考えられた。

図からの指し手
△6五歩 ▲同 歩 △同 桂 ▲8八銀 △3一玉 ▲6六歩
△6四銀 ▲3七桂 △2二玉 ▲4六角 △6一飛

図からの指し手
▲6五歩 △同 銀 ▲7七銀 △7五歩
森岡正幸アマ(愛媛県)の桂損定跡
昭和の時代に雁木戦法の優秀性にいち早く目をつけていたのが、アマ強豪の森岡正幸(愛媛県)さん。
非公式対局だが、プロを何人か雁木で破っている。

ずいぶん前の話だが、対戦する機会があり、上図のように仕掛けられた。
図の局面から▲6五同歩△同桂▲8八銀△ 6四銀▲6六歩(下図)となって、後手の桂が助からない。
無理攻めだと思ったが・・・

しかし、次に▲6五歩と桂を取っても△6五同銀となると銀の圧力が強く、桂得くらいでは勘定が合わない。
30年以上前に、雁木の優秀性に気づいていた森岡正幸さんの慧眼には脱帽だ。
角による3筋交換
渡辺棋王vs永瀬七段(第43期棋王戦第一局)

渡辺明棋王 対 永瀬拓矢七段( 第43期棋王戦五番勝負 第1局 )で渡辺棋王が用意した雁木対策は、角による3筋の歩交換。
当然△8六歩と反撃されるが、▲同銀(△同歩は△8五歩の継ぎ歩が十字飛車狙いで厳しい)△6五歩▲5七銀△6六歩▲同銀△6五歩に対して▲7七銀とこちらに引いて、△8五歩には▲9七銀と端に引いて堅固な玉形が完成した。
ずっと前の▲9六歩(図)が銀の退路を用意した周到な一手。
先手は6筋を凹まされましたが、どこかで▲4六角が好ポジション。
後手の△6三銀を待って3筋から動いた理由も見えてきた。
渡辺棋王の精密な駒組みに唸った。
金銀四枚で固め、飛車角桂で攻めるという渡辺棋王の得意な展開になったが、勝率8割に届くかという挑戦者は持ち堪えた。

永瀬七段の粘りに手を焼いた渡辺棋王。
図では▲5一角の二枚角が決め手だったが、逃した。
お互いに持ち味を出し切った名局。
新人王を獲得した上野の3筋交換
矢倉戦法をメインに戦っている上野裕寿新人王の誕生は、昨今「矢倉は終わった」とまで言われていた矢倉党にとって救世主の誕生だった。
しかも若手エリートの藤本渚四段の雁木を打ち破ったのだ。

上野新人王の対雁木の作戦は、上図のような3筋交換。
パンチというよりジャブといった感じか?

歩を持った後手番の藤本渚四段は、第一局では上図のように、中央の薄みを狙われた。
▲3七銀が中央を薄くしたため、第三局では反省して手を変えた。

第三局では、上野四段が▲4六歩と中央に備えたため、定番といえる継ぎ歩で対抗した。
途中は雁木側が指せていたようだが、終盤でチャンスをとらえた上野四段が逆転勝ち。
上野裕寿四段の活躍により雁木に矢倉で対抗できることが認識された。
これからもこの戦型は指されていくことだろう。
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