そんな定跡の変遷があったにも関わらず、2021年になって加藤桃子女流三段対山本博志四段(王座戦)で、山本四段は下図のようにオールドファッションの△4三銀型に構えた。
果たして加藤女流三段は▲4五歩と仕掛けた。
対して△4二飛と受けるのでは三間飛車にした意味がない。
定跡の盲点△2二角
5七銀左急戦に対し、三間飛車が△5四銀と受けるのは、大山康晴15世名人が指し、弟子の中田功八段が得意とする指し方。
5五で銀交換となり、△4三金と手厚く構え、▲8八角(下図)までが定跡となっている。
図の▲8八角では▲6四角や▲4四歩とした実戦もある。
図の局面から△4五歩▲5五銀△4四銀▲同銀△同金▲2四歩△同歩▲2三歩△同飛▲3二銀△2二飛▲2一銀成に△2三飛と逃げて▲1五桂と使わせるのが巧い。
ここで△2二角とこちらに引く手が最近発見された。
▲2三桂成△4五金▲2二成桂△5一飛▲3三角成△4七歩が進行の一例。
微差だが後手良しとされている。
後手としては△6四歩に代えて△1四歩を突いておくのもある。
5筋不突を咎める加藤流速攻
急戦華やかな昭和の時代の定跡をご紹介する。
主役は、またもや加藤一二三九段。
当時のひふみんの強さを鑑賞してほしい。
後手の大山康晴は、兄弟子の大野源一九段のような捌く振り飛車ではなく、金銀主体の粘りの振り飛車だった。
米長邦雄は大山康晴の振り飛車に急戦で挑んだが、厚い壁に跳ね返されて全く歯がたたなかった。
その後玉頭位取りにシフトチェンジしてから勝てるようになった。
そんな大山だが、この将棋で急戦に手を焼いたためか、後手三間飛車だけは指さなくなった。
加藤一二三は▲5五歩と位を取ってから▲4五歩と仕掛けたが、その瞬間の△5四歩が気になるのか、谷川浩司は先に▲4五歩△同歩としてから▲5五歩と改良している。
図で△3五歩▲同歩△3二飛と動くのは▲3六銀で無理と見て△9四歩と手待ち。
これには「端歩は心の余裕」と▲9六歩と受けたいところだが、余裕がないひふみんは▲4六銀と急ぐ。
▲4六銀に△2四歩▲同歩△2六歩と動くのも考えられるが、▲5四歩と反撃される。
じっと△9五歩と待つのが大山流。
玉の懐を広くして非常に大きな手だ。
図の▲3二歩が巧妙。
△3二同銀は▲3八飛があるので△3二同飛だが、▲2四歩△3六歩という攻め合いは、と金の位置が違うので先手好調。
△3六歩では△2四同歩▲同飛△2二歩と辛抱した方が勝ったか?
▲4四飛の強襲が気になるが、△同銀▲5四歩に△4二飛として捌きを狙う。
また、△2四同歩▲同飛△2二飛もあるかもしれない。
▲2二同飛成から▲2七飛が嫌だが、△4四角▲2一飛成△4九飛に▲4七歩と受けると、△1九飛成▲5六桂に△7四香(参考図)と歩切れを衝かれて難しい。
したがって先の△2二歩に▲2三歩と攻めるのは、△3六歩の余地を与えて大損。
▲2二歩成△同飛から同様に進行したときに角の逃げ場がある。
参考図
実戦は▲4一飛に△5一飛と受けたが、▲4二飛成(下図)というが絶妙手があった。
「神武以来(このかた)の天才」と謳われた加藤一二三の面目躍如という局面。
図からの指し手
△3八と ▲4一と △4二金 ▲同 と △4九飛 ▲4三と
△2六角 ▲4二と △3一飛(下図)
両取りを放置しての△4九飛にうまぶって▲4三とと銀を取ったのがつまずきの始まり。
△2六角▲4二とに△3一飛が好手筋。
▲4三とでは、▲5一と△同金▲3一飛△4一歩▲4二歩とすべきだった。
図からの指し手
▲3一同と △4六飛成 ▲4一飛 △4八と ▲6八金寄 △5九と
▲6二金 △6九と ▲同 金(下図)
図の局面で大山は△7一金打と受けたが、△4八竜と王手すれば、▲6八銀△5七銀▲5九銀打から千日手になるところだった。
後手が玉側の端の位を取っているのが大きく、先手は攻め合いにできない。
大山はこの将棋のあと、加藤相手には後手三間飛車は指していない。先手三間飛車は好んで指しているが、勝負将棋で後手三間に振ったのは、昭和49年の中原誠16世名人との名人戦第7局の一局だけだ。急戦にこられて危険と判断していたのが理由で、本局は大山の後手三間飛車の評価に大きく影響した将棋だと推察できる。
(『三間飛車名局集』p.145より)
終盤までの基本定跡
早仕掛けに△4五同銀▲同桂△同飛▲3三角成△同桂▲2四飛までが今回取り上げる基本定跡。
まず△6五桂の変化。
図から▲4六歩が昔の定跡。
しかし平凡に▲6八銀の方が簡明。
△1五角と打たせて▲2一飛成△4八角成▲同金△同飛成▲2六角(図)で先手良し。
今度は△6五桂を止めて△4七歩。
これには▲5九銀(図)が固い。
ここでどう逃げるか?
△9三玉に▲6一飛成△同銀▲3七角と詰めろで好調なようだが、△7二飛がいい粘り。
▲3七角は早計で、▲4四角が良かった。
ここで▲8二金から清算するのは、敵玉が見えなくなる。
▲8二金△同飛▲9五歩と工夫するのも△7二飛▲9四歩△9二玉▲9三歩成△同桂▲9四歩△8五桂で寄らない。
正解は、▲8五桂△9二玉▲9五歩だが、際どい。
▲3七角がポカだった。
へなちょこ急戦(へな急)
初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △3二飛 ▲4八銀 △4四歩
▲4六歩 △6二玉 ▲6八玉 △9四歩 ▲7八玉 △7二玉
▲9六歩 △4二銀 ▲2五歩 △3三角 ▲3六歩 △8二玉
▲5八金右 △7二銀 ▲3七桂 △5二金左 ▲4五歩 (図)
振り飛車側が誘ったか、居飛車が機敏なのかよくわからないが、図の仕掛けは有力。
5筋の歩を突いていないのがpointで、後々▲5六銀と腰掛ける含みがある。
5筋突きあった形から▲3七桂に△2二飛と備えるのが昭和の定跡だった。
それなら腰掛け銀金無双急戦にされて少し不満と、令和の振り飛車は、堂々と△4五同歩と取る。
以下▲2四歩△同歩▲3三角成△同銀▲4五桂となって△2二銀も考えられるので後述するが、floodgateでは△4二飛が多い。
これに▲3三桂成△同桂は必然。
そこで、①▲2四飛②▲4七歩③▲8八角などが考えられる。
①▲2四飛は、△1五角▲4三歩△同飛▲3四飛と△4八角成に▲4四歩を用意するが、△4八飛成と飛車を切って▲同金△同角成▲3三飛成△5八銀▲6八金△4六歩のと金作りが間に合いそうだ。
②▲4七歩と守るのは、△2五歩として▲5六歩△2二飛▲5五角△4三金▲4四銀△同金▲同角△4一桂という実戦がfloodgateで戦われている。
以下▲3一金△4二飛▲6六角△4四歩以下後手勝ちとか、▲2九飛△4三歩▲6六角△2六歩以下先手勝ちなどといった感じで、難解だが形勢は先手が少しいい。
③▲8八角には△2五桂として▲4七歩の受けには△4六歩▲同歩△同飛、▲1一角成の攻めには△4七歩と反撃してどうか?
遡って▲4五桂に△2二銀▲6六角△1二香と辛抱するのは、▲7七桂や▲3五歩と攻めて先手が指せそうだが、玉形の差があるので実戦的にはいい勝負。
堅さ重視の平成の将棋では軽視される傾向があった▲4五歩急戦だが、令和になると、居飛車側が金無双やエルモ囲いを武器に有力な作戦になった。
5七銀左急戦では図の△5四銀の玉頭銀は有力な振り飛車の選択肢だった。
しかし、「へな急」に対しては勝手が違った。
図からの指し手
▲4七銀 △6五銀 ▲5六銀
図から▲2四歩△同歩▲4五歩という仕掛けは、△3五歩▲同歩△3六歩▲2五桂△5一角▲4四角に△3三桂で、それなりに捌ける。
しかし、お互いの攻めの銀をぶつけられると振り飛車が悩ましい。
交換に応じると右辺の薄さが気になるし、△7六銀と迫るのも居飛車の5六銀型が手厚く自信が持てない。
腰掛け銀+金無双急戦
J棋士18号の腰掛け銀急戦
前記「へな急」は、5筋を突いていないため、腰掛け銀にする含みがあるのが特徴。「へな急」を警戒して▲8八飛などと備えた振り飛車に対して、今度はゆっくりと腰掛け銀からの2次攻撃を図る。
振り飛車は、両方の作戦に対応しなければならないので大変だ。
初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩 ▲7八飛 △8五歩
▲7七角 △1四歩 ▲1六歩 △6二銀 ▲4八玉 △4二玉
▲6八銀 △5二金右 ▲3八玉 △3二玉 ▲2八玉 △6四歩
▲5八金左 △7四歩 ▲3八銀 △4二金上 ▲5六歩 △7三桂
▲8八飛 △6三銀 ▲4六歩 △9四歩 ▲3六歩 △5四銀
▲5七銀 △6五歩 ▲6八飛
▲6八飛としたが、▲6五同歩だと△8六歩▲同歩△6五桂▲2二角成△同銀▲6六銀△7九角▲6七飛△4六角成▲3七桂△6四馬で後手成功。
▲2二角成に△同銀と取れるのが金無双の最大の長所。
エルモ囲いだと形が崩れる。
先手が▲4六歩~▲3六歩と突いているのがキズになっていて、これらの歩を突かない将棋ついては次に検討する。
図からの指し手
△8六歩 ▲同 歩 △7五歩 ▲同 歩 △6六歩 ▲同 角
△6五桂 ▲2二角成 △同 銀 ▲6六銀 △7九角 ▲5五歩
△6八角成 ▲同 金 △8六飛 ▲5四歩 △6六飛 ▲6七歩
△4六飛 ▲4七歩 △8六飛 ▲7四角 △5四歩 ▲6五角
△8九飛成 ▲5四角 △3三銀 ▲4五桂 △5三歩 ▲3三桂成
△同 桂 ▲7二角成 △4四桂 ▲5五銀 △4八銀 ▲同 金
△5九飛 ▲4九銀打 △5五飛成 ▲7三角 △7五龍
まで74手で後手の勝ち
女流棋戦での金無双腰掛け銀
女流棋戦(脇田菜々子女流初段 vs室田伊緒女流二段)で上記と似た将棋が現れた。
初手からの指し手
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △4二飛 ▲4八銀 △6二玉
▲6八玉 △7二玉 ▲7八玉 △9四歩 ▲9六歩 △8二玉
▲2五歩 △7二銀 ▲5八金右 △3三角 ▲3六歩 △2二飛
▲3七桂 △4二銀 ▲4六歩 △5四歩 ▲4七銀 △5三銀
▲6八金上
後手は、角道オープン四間飛車から向かい飛車と、三間飛車ではない。
しかし、結局角道を止めたので下図のような前記と似た局面になった。
しかし、大きな違いがある。
△6四歩と突いていないところだ。
図からの指し手
△4四歩 ▲1六歩 △5二金左 ▲5六銀
後手が△6四歩を突いていないので△6四銀とする含みがある。
図の局面から△4三金~△6四銀~△5二飛と圧迫されるのが腰掛け銀の弱点。
しかし、実戦は△5二飛を省いて△5五歩といきなり仕掛けたため、手順に先手が捌けることになった。
難しい判断だが、振り飛車としては、押さえ込みに行くべきだった。
図からの指し手
△4三金 ▲7七角 △6四銀 ▲8八銀 △5五歩 ▲同 銀
△6五銀 ▲4五歩 △7六銀 ▲8六角 △4五歩 ▲4四歩
△同 金 ▲同 銀 △同 角 ▲5四金 △8八角成 ▲同 玉
△5二飛▲4三角
以下略先手勝ち
エルモ(elmo)囲い爆誕
急戦に強いと言われた先手三間飛車だったが
菅井八段が昭和の振り飛車についてこう語っている。
大山(15世名人)先生や升田(幸三元名人)先生、大野(源一九段)先生の将棋も好きですけれど、森安(秀光九段)先生のあの"重い"って感じの振り飛車は好きですよね。あのくらい重く指せれば居飛車党は簡単には勝てない。あの重さは良いですよね。昔の振り飛車党ってうまく粘るんです。いまはちょっと耐えて一発を狙うことが多いと思うので。底歩を一生懸命並べて金銀を2枚くらい貼り付けて。良いなと思いますよね。居飛車党の人が思う『きれい』の感覚とは違うと思うんですけど、振り飛車党はああいう"ぺったんぺったん"というのが好きなんです。
「令和3年版振り飛車年鑑」より
『だるま流』森安秀光九段の誠意持っていた棋聖位のタイトルに挑戦したのが米長邦雄。
森安秀光の四間飛車に対し、米長邦雄が5七銀左からの急戦でタイトルを奪った。
このように昭和期は、振り飛車に対する急戦は5七(5三)銀左が主流だった。
しかし、先手三間飛車については、大山康晴が下図のような駒組みを編み出し、加藤一二三や中原誠が挑んだが攻略は難しかった。
左銀を2段目に据え置いて角交換に備え、代わりに金を4七まで上がり、▲8八飛で飛車先を守るのが考え抜かれた陣形だ。
図からの定跡手順
△5五歩 ▲同 歩 △6五歩 ▲同 歩 △同 桂 ▲6六角
△6四銀 ▲5六金
▲5六金が手厚く、居飛車から攻めるのは容易でない。
以下△5三銀上に①▲7七桂と捌きに出るか、②▲4五歩と△4四銀を防ぐかだが、①▲7七桂には△6二飛と迎え撃ち、▲5四歩△同銀▲2二角成△同玉▲6五桂△同銀直▲同金△同飛▲6六歩△6二飛▲2六桂などが考えられ、難解な形勢だ。
また②▲4五歩には△5四歩▲同歩△6六角▲同金△5四銀▲4四歩に△3五角が好手で、振り飛車は捌きにくい。
このように薄い玉で攻勢をかけるのが従来の急戦だった。
ところが試しに図の局面をソフトにかけてみると、図から驚くべき手順を示してきた。
図からの指し手
△3一金 ▲3六歩 △5一銀 ▲5七銀 △4二銀上
何とelmo囲いがここで登場したのだ!
玉をコンパクトに固めて攻勢をかけるのが現代調の急戦だ。
振り飛車は高美濃に組むことができるが、急戦に対して得にならない。
エルモ▲4五歩急戦
最初からエルモ囲いに組んで急戦すると、通常の5七銀左急戦とどう違うか?
図の△6三金は、5七銀左急戦で定跡とされた受け。
先手の5八金型は、5九金だと4筋が薄いのでこの形にした。場合によっては▲4七金と手厚く攻める含み。
これには▲3七桂△2二飛▲4八飛(図)がエルモ特有の攻め。
以下△4三銀▲4五歩△同歩(△4二飛は▲4四歩△同銀▲4五歩△5三銀▲3三角成△同桂▲6六角で先手有利)▲3三角成△同桂▲4五桂△同桂▲同飛△4四歩▲4九飛と総交換して次の▲3三角を狙う。
単純な攻めだが先手が良い。
エルモ囲いの弱点を突くために、△5三銀▲2四歩△同歩▲4五歩△4二飛▲3七桂に△4五歩(図)が考えられる。
古い定跡に囚われていると仰天の受けだが、▲3三角成△同桂▲2四飛では△4六歩▲4八歩△1五角▲2七飛△3五歩▲1六歩△2六歩▲2九飛△3六歩▲1五歩△3七歩成▲2六飛△4七歩成となって後手優勢。
図からの指し手
▲3三角成 △同 桂 ▲8八角 △3五歩 ▲3三角成 △3六歩
▲4二馬 △同 銀 ▲4五桂 △3七歩成 ▲2四飛 △3六角
▲5九金 △4五角 ▲4三歩 △5一銀 ▲2一飛成 △4七と
図から▲6六銀には△4六と、▲4四桂には△4三金▲4一飛△5七と、いずれも後手が指せる。
エルモ△6五歩急戦(▲6七銀型)
△6五歩急戦に対しては、振り飛車は玉頭銀にして動くのが有力だ。
△6四銀急戦に対しては▲6七銀+▲5六歩型が固いが、△6五歩急戦に対しては▲5七銀型から▲4六銀とか▲6七銀型から▲5六銀が有力。
下図は、私の実戦。
とある名人戦の準決勝の将棋。これに敗れて三位に終わった。
居飛穴を警戒して▲6七銀とし、△6四銀急戦を警戒して▲5六歩としたところ、△6四歩~△6五歩と来られてしまった。
▲6七銀型なので前述の△6五同歩は使えない・・・
ここで角で取るか歩で取るか悩んだ。
角で取った場合、従来の5三銀左からの定跡と同様に進むとどうなるか?
図から▲8六同角とした場合の想定手順①
△6六歩 ▲同 銀 △6七歩 ▲同 飛 △8六飛 ▲同 歩
△7八角 ▲6八飛 △8九角成 ▲6九飛打 △7七桂(下図)
図から▲5九飛には△1五歩の端攻めが成立して急戦成功というのが郷田新手だった。
エルモ囲い急戦には、▲8九飛とあっさり角を取って▲8二角を狙うのが有力。
しかし直ちに▲8二角とするのは、△6二飛の返し技がある。
相手の角筋を止めたいところだ。
▲5五歩が普通だが、▲4五桂と跳ねて△4四銀なら▲8二角を狙う。
後手は手抜きで△1五歩とか△9九成桂とするが、▲5三桂成△同銀▲8二角でどうか?
図から▲8六同角とした場合の想定手順②
▲同 角 △6六歩 ▲同 銀 △6五歩 ▲7七銀 △8五桂
▲8八銀
ここで▲4五桂は、△6四銀で指し過ぎになる。
▲7七桂は、△同桂成▲同銀に△1五歩(下図)が機敏。
狙いは、一歩強奪しての△8五歩。
先手の最善は、▲2六歩の手待ちだろうが、△6六歩▲4五桂△6七歩成▲5三桂成△同銀と険しい変化になる。
▲5三角成は後手に響かないので、▲6三歩△6四歩と連打するが、△8三飛▲6七飛△8八角成▲6三歩成△4二銀に▲5二と△同金▲6一飛成と勝負することになる。
後手としても飛車の働きが悪いので、一筋縄ではいかないだろう。
今思えば、▲3七桂では▲9六歩もあったか?
仮に△8六歩▲同歩△6六歩▲同銀△6五歩▲5七銀△7七角成▲同桂△8六飛と進行したとすると・・・
図の▲6四歩がエルモ囲いの弱点を衝いた攻め。
取れば▲9七角だ。
しかし、当然相手も攻め方を変えてくるだろう。
△8四飛と浮いてから△7五歩▲同歩△6五歩と。
そうなると振り飛車自信ないので▲8八飛と受けて△6六歩▲同銀△6四銀▲5七銀△5五歩▲6六角△7五歩▲同歩が予想される展開で難しい。
やはり△8六歩を▲同角と取るのだった。
意外にも同歩があった
形によっては△4三銀型でも△4五同歩が成立するかもしれない。
▲1六歩と突いていないので△1五角の筋がある。
▲3三角成△同桂▲2四歩△同歩▲同飛△4六歩▲4八歩(▲同銀△4七角も難解)△1五角▲2七飛△2六歩▲2九飛△2二飛▲1六歩△2七歩成▲1五歩△2八と、となって角が取れても飛車が詰んでいる。
しかし▲6六角には慌てて飛車を取らず、△2七飛成▲3三角成△3七竜と桂を逃がさないのが肝心かなめの手。
逃げ場のない飛車を焦って取る必要はない。
ただし、エルモ囲いは堅く、形勢は先手悪くない。
△4五同歩が怖いと△7四歩とでも待つのは、▲2四歩△同歩▲3五歩△同歩▲4四歩△3四銀▲4六銀と真っすぐ攻められても振り飛車が嫌だ。
石川優太vs黒田堯之(新人王戦)
エルモ囲いに対する特効薬が、下図の▲5七銀。
ここから△6四銀の右銀急戦には▲6七金と6筋を強化する。
▲6七銀+▲5七金型でも良いようだが、後手が△6四歩から△6五歩急戦を狙ってきた場合、▲6八飛と受けることができるのが大きい。
実戦は、△6四歩に▲4六銀と玉頭銀に・・・
▲4五銀に△3三銀と受けさせて急戦を封じることはできた。
後手としては、受けずに△6五歩も有力。
ここで▲5五歩が捌きの手筋だが、△同角▲6八飛なら△7五歩で後手が面白い。
次に△3五歩の銀挟みがあるので▲6八角と受けたが、それでも△8六歩▲同歩△3五歩と銀挟みを狙う手段には、▲7五歩として△同歩▲同飛△7三歩となると▲5五歩と銀が生還できる。△4四歩と7筋を放棄する手には▲7四歩△6三金▲7三歩成△同金▲同飛成△同桂▲7四歩として△7二歩なら▲6三金と食いつく。
△4二金には▲7三歩成から▲3四桂、△4三玉には▲5三金△同玉▲3五角がある。
しかし、図の局面で△4二銀は有力だった。
6六の歩を守って▲7七角と戻すのは、△3三銀で千日手模様。
かといって▲6七金は△6五歩が厳しい。
こうなるので▲4六銀では▲6八飛をお勧めする。
実戦は後手が大人しく応じて先手十分のようだが、▲7七桂と跳ねると後手は△4四銀右▲3六銀△3五歩▲同銀△同銀▲同角△4四銀と銀を入手して△7五銀と飛車を詰まされる。
しかし、図の局面から△4四歩▲3六銀と進行して先手は安心した。
対▲4六銀型を得意にしていた中原誠
この形は何局も指しており、私の好きな戦型の一つです。
『中原誠実戦集1』p.110より
エルモ囲い対策として令和になって現れた三間飛車▲4六銀型だが、中原誠はカモにしていた。
印象的なのは、大山名人と戦った第10期十段戦第五局(『大山、中原激闘123番第44番』p.110)。
この▲8九飛は、無敵時代の中原誠の傑作のひとつ。
大山名人は△8三銀と飛車の直射を避け、▲8五歩△同歩▲同桂に渋く△6三歩と▲6四角を防ぐ、▲4五歩と次の▲4六角を狙う手にも△4六歩と先着し▲同銀直に△8四歩と桂を捕獲したが、歩切れになった。
以下、▲3三角成△同桂▲3二角△4二飛▲2三角成△8五歩▲同飛△5三角▲8四歩 △7二銀▲8九飛△9五歩▲3五歩△9六歩▲3四歩歩成 ▲3三歩成と実戦は進行。
「この人には勝てない」と思わせるような内容だった。
上の局を知っていたから第19期王位戦第五局(『大山、中原激闘123番第117番』p.182)でも、下図の飛車の転換を見て中原勝ちを確信した。
▲8三角の飛車取りに△2一飛と逃げる前、△8七歩成▲同飛の利かしが入ったのが大きい。
次に△7八角と△2五歩の両方の狙いがある。
玉頭戦になれば、3七の銀が桂で狙われる。
しかし、今ソフトで診断すると、▲6五角成△7八角▲5五歩と勝負すれば、先手がややプラスの形勢だったようだ。
といっても△8六歩は見えるし、踏み込むには勇気がいる順だ。
図からの指し手
▲8六飛 △6四歩 ▲7四歩 △2五歩 ▲7三歩成 △2六歩
▲2五歩 △8五歩 ▲同 飛 △4六歩 ▲2六銀 △2七歩
▲同 玉 △2四歩 ▲同 歩 △2五歩 ▲1七銀 △1五歩
▲同 歩 △2四飛 ▲4四歩 △同銀右 ▲6三と △同 金
▲7二角成 △4五角 ▲8一飛成 △2六歩 ▲2八玉 △6七角成
▲1一龍 △4九馬 ▲同 銀 △2七歩成
まで112手で後手の勝ち
この局のように、三間飛車▲4六銀型に対して、エルモ囲いから△4四歩~△4三銀とするのは有力だと思う。
▲4六銀に△4四銀と受けて、△5五歩と中央から仕掛けるのは案外うまくいかない。
終わりに『中原誠実戦集1』p.110~の対山中戦を紹介する。
格言「歩越し銀には歩で対抗」は、将棋の格言の中では汎用性が高く、スグレものだ。