【minor戦法】右玉(その2)
右玉攻略の自陣角
角換わり右玉には筋違い自陣角が有効。
升田・高橋・羽生の模範演技を紹介する。
升田図
まずは、「将棋の鬼」升田幸三から。
図は、1966年4月21日22日に福岡市西高宮「萩の宮山荘」で対局された升田vs大山の名人戦でのライバル対決。
升田が「将棋の鬼」と呼ばれたのに対し、大山は「勝負の鬼」と呼ばれた。
直接の狙いは▲7五歩の桂頭攻めだが、△6一玉で簡単に受かるように見える。
ところがこの角の効きが絶品で、先手が盤上を制圧することになる。
升田の名角のひとつ。
高橋図
次は、「地道流」高橋道雄。
図は、1988年2月15日に愛媛県道後温泉「ホテル春日園」で行われた棋王戦(高橋道雄vs谷川浩司)。
羽生世代が登場するまではこの二人が覇権を争っていた。
先手の高橋が自陣角を放ったところ。
相掛かりの出だしだったため、先手が歩を手持ちにしているのが大きい。
髙橋将棋は、天才谷川のような派手さはないが、確かな戦略眼があった。
この角は桂頭だけでなく、遠く9二の地点を睨んでいる。
そのため△8四飛としても▲7五歩△同歩▲9五歩と攻めが続く。
以下△7四銀と受けても▲9四歩△9五歩に▲同香△9四香▲同香△同飛▲9五歩△8四飛のの後、▲7六歩△同歩▲同銀直△7五歩▲7四角△同飛▲7五銀△同飛▲7七香や、△7四銀▲9四歩△9五歩に▲9三歩成(すぐに▲7六歩もある。△同歩▲同銀右△7五歩に▲同銀△同銀▲7六歩△3九角▲1八飛△8六歩▲同歩△同銀▲8五歩で△同飛なら▲7四角の両取りが厳しい。)△同香▲7六歩△同歩▲同銀直△7五歩▲同銀△同銀▲9二角成△9四飛▲7四歩など攻めが続く。
図から実戦の指し手
△8四飛 ▲7五歩 △同 歩 ▲7六歩 △5五銀 ▲9五歩
△4六銀 ▲9四歩 △5七銀成 ▲9三歩成 △6五歩 ▲2七角
△5八成銀 ▲同 飛 △6二玉 ▲8八玉 △2四角 ▲9二歩
△同 香 ▲同 と △5七金 ▲1八飛 △9八歩 ▲同 香
△9七歩 ▲同 香 △6四銀 ▲5九香 △6七金 ▲同 金
羽生図
そして最後に羽生善治の自陣角が、竜王戦の△6三角。
佐藤康光著『佐藤康光の一手損角換わり』で紹介された手。
銀の手持ちが大きく、△3五歩▲同歩△2七銀となれば後手が指しやすい。
▲9七角には△8六歩▲同角△同飛で後手良し。
1筋の位を生かすために右玉にした先手の谷川だったが、羽生の穴熊の構想はそれを上回った。
しかし、ソフトは穴熊を高く評価しないので、今日の目で見ると作戦的に悪くない。
▲5五銀ぶつけに代えて▲7五銀ともたれておけば先手良し。
右玉攻略の端攻め(渡辺手筋)
糸谷八段vs渡辺棋王(第46期棋王戦第二局)では、糸谷八段の右玉に対して渡辺棋王の端攻めが見事に決まった。
先手が端のクライを取り、後手はその二手を生かして早繰り銀で立ち遅れをつく。
左に囲うのは危険なので端が広い右玉にしたい場面だが、渡辺棋王はそれを狙っていた。
△1四歩を▲同歩と取った糸谷八段は、端攻めを軽視していた。
でなければ遠い攻めなので手抜きを考えただろう。
ところが△1七歩に対して応手が難しい。
取るのが自然だが△1八角に▲2八飛は△2七銀なので▲2六飛だが、△1六歩が好手で攻めが決まる。
仕方なく▲2七銀と受けたが、△1四香▲1六歩に△1八銀▲同香に香車を取らずに△1六香が好手。
これが渡辺手筋で、端攻めのお手本だ。
下図は右玉の定跡の一つ。
△8六歩▲同歩△同飛に▲5五銀と出て△8一飛▲8四歩に、△1四歩の端攻めが意表の一手。
右玉の急所を攻めているが、自玉にも近いので、AIの裏付けがないと指せない手だ。
▲同歩しかないが、△5四歩が狙いの一手。
▲1四の歩に期待して銀を引けば、△8四飛▲8七歩△1五歩くらいで後手十分。
取れば△1七歩の垂らしが厳しい。
▲1九飛は△2六角、▲2八飛は△1九角、▲1三歩成△同香▲同香成△同桂▲1九香(▲1九歩)は△1六角▲2七角(▲4八玉△2七香)△2六香など端の攻防は先手のキズの方が大きい。
そこで△5四歩に▲同銀と取ることになるが、やはり△1七歩(図)が飛んでくる。
縦に飛車が動くと△8九飛成があるので受けが難しい。
▲同香は△1八銀▲6九飛△1六歩▲同香△2七角の要領だ。
▲2七銀と受けるのは、先ほどの渡辺手筋がある。
雁木(風車)型右玉
米長邦雄の右玉
米長九段は裏芸の右玉で羽生世代を苦しめた。
図から▲2三歩成を受けるものと思っていたら・・・
先手の羽生の駒組みに問題があるとは思えないが、△6五歩と仕掛けて▲同歩△同桂▲6六銀に△6四銀と玉頭を圧迫されて嫌な展開だ。
以下▲3五歩と攻めたが、△6三金と放置されると▲3四歩は△3六歩と逆用され▲2五桂に△3七歩成▲同銀から△6六角▲同金△5七銀の攻めがある。
▲3五歩では▲9五歩△同歩▲9四歩の端攻めのチャンスだったか?
棒銀を受け流す右玉
上図のような棒銀の仕掛けは、雁木対策として良く見られる。
これに対しては、真正面で立ち向かわず右玉で躱すのが冷静だ。
図からの指し手
△3五同歩 ▲4六銀 △3六歩 ▲2六飛 △4二角 ▲3五銀
△6二玉 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 銀 △8一飛 ▲2三銀不成
△1五角 ▲2五飛 △3三桂 ▲1五飛 △2三金 ▲2四歩
△3四金 ▲2三歩成 △4五桂
手順中△1五角がpointで、先手の攻めをうまくいなした。
最初の△3五同歩では、単に△6二玉も有力だ。
対策1.菊水矢倉(しゃがみ矢倉)
菊水矢倉は、角のラインを避けて玉を囲いながら上部に厚いという利点がある。
右玉と比して玉が堅いので勝ちやすい。
また▲7七角~▲5九角~▲2六角とスムーズに三手角に組めるのも利点だ。
佐藤康光九段vs福崎文吾九段
兄弟弟子対決。
佐藤九段は、相手の駒組みを見て、左美濃から矢倉に、そしてミレニアムに組み替えた。
後手は△6五歩の仕掛けに自信を持てず自重したが、駒組みに進展性がないので作戦負け。
上図は対右玉の理想形。
右玉側の△4五歩が負担になっている。
対策2.へこみ矢倉
佐藤天彦九段vs広瀬章人九段
図のように角を5七に活用し、後手の弱点である端を狙う右玉対策は汎用性が高く、後手の陣形が雁木型でも使える。
先手は、6六の歩を突かず、へこみ矢倉にするのがポイント。
図から▲1五歩△同歩▲9五歩としたのが面白い仕掛け。
▲5七角が急所に利いている。
後手としては、1筋を手抜きして△6四角とした方が良かったようだ。
この筋は、通常の矢倉囲いでも応用できる。
髙橋は、わざと6筋のクライを取らせて6筋の歩を消し、▲4六の角を5七へ引いて9筋攻めを狙った。
ただこの場合△6六歩の反撃には注意が必要。
対策3.左美濃速攻
筆者が個人的に好んでいる対策は、下図の後手陣。
雁木型右玉は、振り飛車やツノ銀雁木とリンクしていて相手の駒組みによって使い分けるのがコツだが、そのどれに対しても図の後手の構えは優秀。
図からの指し手
▲8八角 △7五歩 ▲同 歩 △6四銀 ▲7七金 △7五銀
▲7六歩 △6四銀 ▲5八金 △4四歩 ▲2九飛 △4三金
▲2六歩
ここで▲2六歩などと指すと、△7五歩▲同歩△6四銀がスピードある攻め。
▲6五歩と反撃し、△7七角成▲同金となればうまいが、単に△7五銀▲2二角成△同玉で先手が困る。
▲8八角~▲7七金は涙の出るような辛抱で、棒銀を追い返すことに成功したが、角が隠居状態なのは辛い。
図から▲6五歩と角交換を挑んでどうか?
矢倉右玉
中川大輔の右玉
昭和の右玉党代表は、中川大輔。
雁木型も指すが、相矢倉から下図のような駒組みになることが多かった。
その将棋は、師匠の米長邦雄にも影響を与えた。
プロ同士なので先手の木村一基現九段も相手が右玉に来るのは承知、対策は用意している。
飛車先交換を急がず▲3六歩~▲3五歩(図)として△同歩なら▲同角△4四銀(△4四角)▲6八角と手順に歩を交換するつもりだ。△3五同歩▲同角△4四銀に▲2四歩とさらに欲張るのは△3五銀▲2三歩成△4四角▲3二と△2六歩で失敗。
図の局面から△3三金と受けたのが力強い。
ただ、穏やかに△3五同歩▲同角△4四角▲6八角に△6五歩と仕掛けるのも一局の将棋だ。
上部に手厚い▲5七金
右玉に対して飛車先交換を急がないのは、逆用されやすいからだ。
下図は、後手がごく普通に飛車先交換した局面だが、すでに右玉ペース。
図から8筋を受けずに▲4五歩と仕掛けて良い。
△8六歩には▲4四歩△同銀▲6六角で大丈夫。
二歩手持ちなので△8七歩成には飛車先連打できる。
△4五同歩には▲2四歩△同歩▲4五桂△4四銀▲4六銀左△3一玉▲1六歩△1四歩▲6六角△7四歩▲8四歩△7三桂▲7七桂△6四角▲2四飛△2三歩▲2九飛△8六歩に一旦▲5七金と上部を厚くする。
将来の▲8三銀~▲7二銀成を避けて△8一飛と引いた手に対し、いよいよ▲3五歩(図)と仕掛ける。
▲5七金を省くと▲3四歩と取り込んだ時に△3六歩がある。
右玉は手がつくと早いので、慎重な攻めが要求される。
図の局面、この歩を取ると▲2四歩△同歩▲同飛と十字飛車を狙い、△4五銀▲同銀△2三歩に▲2九飛で後手陣は修復不可能だ。
図の局面から△4五銀▲同銀△4四歩▲3四銀△同金▲同歩△2八銀も怖い変化だが、▲4九飛△3七銀成▲5八玉で、先手玉は広く、次に▲2二歩が厳しい。この変化も先の▲5七金が生きている。
そこで△7五歩と反撃するが、▲2二歩が手筋。
△同玉なら▲3四歩△7六歩▲3五銀△7七歩成▲4四角△同金に▲4四同銀が▲3三金以下の詰めろなので先手勝ち。
豊川孝弘vs千田翔太(第71回NHK杯)
図からの指し手
▲3四歩 △3六歩 ▲同 金 △3四銀 ▲同 銀 △3五歩
松江流右玉
藤井聡太七段が新人王戦決勝へ
青嶋五段の作戦は、アマチュア強豪の柳浦正明さん(島根)が得意としていたので「松江流」と呼ばれる右玉。
プロでは、佐々木勇気七段や高見泰地七段、勝又清和七段などの師匠である石田和雄九段が得意としていた。
5筋の銀交換に△5六歩(図)が覚えておきたい手筋。
狙いは桂頭だが、▲5六同銀にすぐに△3五歩では銀を引かれて効果ない。
△5二飛として△6四銀からの銀取りを見せ、▲5七歩に△3五歩とすると銀引きが間に合わない。
また、▲4七金と受けても△5四金(△5四銀)~△5五歩で銀が死ぬ。
相右玉
升田vs加藤
実戦は、▲8七歩としたが、ここでは▲8四歩が手筋だった。
以下△8四同飛▲7五銀△8五飛▲8四角が変化の一例。
先手が飛車を持てば▲4一飛が厳しい。
【右玉次の一手038】相右玉で飛車先の歩を切ってきた場合の手筋【有段向け】
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