将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【横歩取り】△8四飛型の攻防

横歩取りほど定跡の進歩が著しい戦法はない。
少し前まで大流行した横歩8五飛戦法は、▲7七角~▲6八銀~▲6九玉~▲5九金と後手玉以上に堅牢に囲う対策が有力で衰退した。


実は、その構想は昔からあった。
将棋界の一大epochとなった羽生七冠誕生の一局。
その将棋で、先手の谷川九段の趣向が先手中原玉。
羽生名人は、通常の中原囲いにせずに△5二玉~△7二金のバランス型に組み、△3八歩の垂れ歩で仕留めた。
この対応があまりにも秀逸だったため、長く省みられなかった。


数々の試行錯誤を経て、現代横歩取りは、玉形は△5二玉のバランス型が有力とされ、飛車の位置は、△8四飛が見直された。ただし、昭和の△6二銀+7二金型は廃れ、△6二銀+△5一金型にとって代わった。さらに△7二銀型が見直され、△6二玉も指されるようになった。


第一章 △5五角打ち定跡

居飛車も指すようになった菅井竜也七段が、菅井vs.豊島(朝日杯)で横歩取りの研究将棋を制した。
ファンから振り飛車を期待される菅井竜也七段だが、computerとの対戦では中飛車を採用して敗れ、revengeの一戦では相矢倉を採用して敗れるなど一時は閉塞感があった。
しかし、最近は、横歩取りのセンスも抜群。振り飛車一辺倒から脱皮した。


「豊島? 強いよね。序盤、中盤、終盤、隙がないと思うよ」との佐藤紳哉七段のphraseがある豊島八段。
最近は一人で研究しているようだが、この将棋でも研究の深さが窺われた。


▲4八銀は、相手の出方によって5八か6八にしようとする構想。場合によっては新山崎流のように居玉のまま戦う含みもある。
反面、2筋が薄く、飛車がいなくなると角打ちの隙ができる。また右が壁になっているのも弱点で、後手はそれを狙って△8六歩▲同歩△同飛と仕掛け▲3五歩に△2五歩▲5六飛を利かせてから飛車を切って△5五角と打った。
これが流行の△5五角打ち定跡だが、十分な事前準備がないと指せない。


△8六歩で、他に△7四飛も有力で後述する。 
以前は、▲3五歩に△8五飛が多く、また▲3五歩に△3六歩も考えられた。
さらに△2五歩を利かさずに△5五角打ちもあるし、△2五歩▲5六飛△8八飛成▲同銀の後△2八角もある。
岐路が多い中、選択した本譜の順がどうやら最善のようだ。
後手の弱点は8二の地点で、どこかで先手は8筋に歩を打ちたいが、▲8三歩として△8二歩成と銀を狙うべきか、直接▲8二歩と桂取りと打つべきか悩ましい。8筋に歩を打った瞬間、後手から歩の裏を取った反撃が飛んでくるのが目に見えている。
実戦は▲7七銀△1九角成▲8二歩だが、▲7七銀に△8八歩も嫌らしく、また▲5六飛が後に△5四香と狙われるため、△5五角打に▲同飛△同角▲8三歩(▲8二歩)も考えられた。以下△8六飛が歩の裏を取った攻防手で、▲7七角△同角成▲同桂△8九角▲6八玉△7八角成▲同玉△6八金▲同玉△8八飛成▲7八金△9九龍となって、先手陣は壁形で気持が悪いが、▲5九金△8七銀(△8六歩▲8二歩成△8七銀※)▲同金△8六歩▲同金△8八竜▲7八銀△8六竜は▲6五桂と反撃すると大変な形勢。


※以下の想定手順
▲6九角 △7八銀成 ▲同 角 △7九金
▲6九銀 △8七歩成 ▲同 角 △8八龍
▲7八角 △同 金 ▲同 銀 △8二龍
▲3七桂 △2七角 ▲8四歩 △3六歩
▲4五桂 △3七歩成 ▲5三桂成 △同 玉
▲3七銀 △4二玉 ▲6六角 △4四香
▲4六歩 △6四歩 ▲5五金 △6三銀
▲2八歩 △3八角成 ▲4八金 △7四馬
▲4五歩


いずれにせよ先手有利には程遠い。そこで本譜は角を取らずに▲8二歩とした。▲8三歩より▲8二歩の方が優るというのが現在の結論らしい。
▲8二歩に△8八歩が鋭手で、意表をついた。取れば△8三香がある。▲8二歩の裏を取られた形だ。
しかし、△8八歩では△5四香で後手有利だった。△5四香を逃し△8八歩と指したため▲8一歩成△8九歩成の後▲4五桂が突き刺さり、△7七角成▲同金に遅ればせの△5四香だが、▲3四飛打という鮮やかなcounterが決まり逆転勝ちを収めた。

※局後の感想※

38手目△8八歩に代えて△5四香なら後手が指しやすかった。菅井は遡って31手目▲5六飛の構想をどうだったかと振り返る。

本譜は41手目▲4五桂まで進むと後手がよくなる変化が見つからない。感想戦は同室の対局に配慮して別室に移り、30分ほど行われた。

△7二銀型にして▲3六歩の瞬間に△7四飛や△8八角成▲同銀△3三桂などと仕掛けるのはそれなりに有力であるが、最近の流行は△8六歩▲同歩△同飛▲3五歩に△8八飛成から△5五角だ。

図からの指し手(定跡)
△8六歩  ▲同 歩  △同 飛  ▲3五歩  △8八飛成 ▲同 銀
△5五角打 ▲8二歩※ △7三桂  ▲8一歩成 △6五桂  ▲8二と
△同 角  ▲3七桂  △8七歩


微差だが先手が指しやすい。
(永瀬拓矢『負けない将棋』p.136)
手順中の▲8二とで▲3四歩△4四角▲2五飛と先手が工夫したのが出口vs.黒田(新人王戦)で難解な形勢。
後手としては、後述する△7五歩の仕掛けを選ぶ方が無難。


第二章 △2四飛ぶつけ定跡

▲6八玉型に△2四飛ぶつけ作戦(菅井vs.松尾:王位戦)

初手からの指し手
▲7六歩  △3四歩  ▲2六歩  △8四歩  
▲2五歩  △8五歩  ▲7八金  △3二金
▲2四歩  △同 歩  ▲同 飛  △8六歩  
▲同 歩  △同 飛  ▲3四飛  △3三角
▲3六飛  △8四飛  ▲2六飛  △2二銀  
▲8七歩  △5二玉  ▲6八玉  △7二銀
▲4八銀  △2三銀  ▲3六歩  △2四飛 


さらに菅井七段の横歩取りを紹介する。
△2三銀~△2四飛ぶつけが、△8四飛型を生かした攻め。

取るか謝るかだが、▲2五歩と交換拒否すると△7四飛(図)。 

図から①▲3七銀と②▲3五歩が有力。③▲7七金は△3四銀で先手不満。


図からの指し手①
▲3七銀  △7六飛  ▲4六銀  △7四飛  
▲3七桂  △6二玉  ▲7七角  △7一玉  
▲8八銀  △8二玉  ▲7九玉  △9四歩
▲9六歩  △1四歩  ▲1六歩  △8三歩
▲5九金


△2四飛に▲2五歩と受けさせて後手は気分良いが、形勢はそれほどでもない。
△2三の銀が当たりが強い。

△7六飛に▲2四歩と突きたいが、△3四銀▲2八飛△2二歩の次の手が難しい。(略)

先手は▲3五銀から▲2四歩が楽しみだがその前に玉を固くしておきたい。(略)

2三の銀が負担になっていて先手が指しやすい。後手はもう一工夫必要だ。


吉田正和五段著『決定版!横歩取り完全ガイド』p.167~

(前略)7六歩をかすめ取った戦果も挙げたが、後手陣は進展性に乏しく、動かす駒が難しい。こうなってみると△2三銀の形があまり良くない。先手は機を見て▲3五銀~▲2四歩と仕掛けていくことができる。


村田顕弘五段著『現代横歩取りのすべて』p.128~


図からの指し手②
▲3五歩  △3六歩  ▲4六歩  △6二玉  
▲4七銀  △2八歩  ▲同 飛  △8八角成
▲同 銀  △3七角(図)▲1八飛  △2六角成
▲3八金  △7六飛  ▲7七銀  △同飛成
▲同 玉  △2七銀  ▲同 金  △同 馬
▲6八飛  △3七歩成 ▲5六銀  △3六馬
▲3七桂  △同 馬  ▲6九飛  △4六馬
▲2四歩  △同 銀  ▲2九飛  △2七歩
▲同 飛  △2五歩  ▲6六角  △1九馬
▲1一角成 △3三桂  ▲3四歩  △7四香
▲7六歩  △6四桂  ▲6五銀打 △7六香
▲同 銀  △同 桂  ▲3三歩成 △同 銀
▲8四桂


結論から言うと▲3五歩は良くない。
どう咎めるか参考にしてほしい。
▲3五歩には△3六歩が手筋。
飛車では取れないので▲4六歩から取りに行く。
そこで△6二玉と溜めたが、もし△7六飛と歩を取れば、▲3三角成△同桂▲2四歩△1四銀▲3四歩△2五銀▲3三歩成△2六銀▲3二とが変化の一例で先手が指せる。
ここでも△2三銀型がマイナスだ。
後手の△1四角の筋が気になるが、▲7七金で受かる。
また△8八歩▲同銀△1四角には▲5九金。

▲4七銀の瞬間△2八歩~△3七角と技が掛かった。


△2四飛ぶつけに対して、▲5八玉型なら飛車交換し、▲6八玉型なら▲2五歩の交換拒否がアマチュアの感覚。しかし、プロは違う。
上記の三浦・アベケン本によれば

『飛車交換は未開の分野です。△2四飛に▲2五歩と受けるのは、その後の駒組次第です。現状は先手をまとめる自信がありません。』

菅井七段は、未開の分野へ飛び込んだ。


図からの指し手
▲2四同飛 △同 銀 ▲3九金 △8八角成 ▲同 銀 △3三銀 ▲3七桂 △3八歩 ▲同 金 △2九飛※ ▲2五飛 △同飛成 ▲同 桂 △2二銀


※△2九飛は、▲2五飛以下後手を引くが、▲2五桂とソッポに跳ねさせて負担にさせようという狙い。代えて△4九飛は▲3九金(▲3九飛は△2七角)△5九角▲同銀△3九飛成▲4五桂で先手有利。
▲6八玉型が戦場から離れて好形だ。
そして▲8二角(下図)が天才の一手。

△9二飛で取られるのが見えているが・・・

 ▲8二角で▲2四歩としても次に▲2三角と打ち込むくらいです。それなら、2三へ打つ駒は香で代用できるので▲8二角がいいなと。後手が飛車を手放してくれれば、後で△2九飛と攻められる心配もありません。

三浦弘行・阿部健治郎著『三浦&阿部健の居飛車研究』p.228~

阿部健治郎七段も同様の構想を温めていたようだ。

華麗なる投了図。
▲5二銀の「空気投げ」に伝説の「羽生善治vs加藤一二三(NHK杯)」を思い出す人も多いだろう。



▲居玉に△2四飛ぶつけ作戦


△2三銀型は、最近の流行。それまでは△7二銀を優先していた。
居玉のまま▲3六歩と突いたため、△7二銀が間に合っていないが、それでも△2四飛。
先手玉の位置が悪く、▲同飛△同銀▲8四飛には角交換から△9五角がある。
この筋は、▲5八玉型でないと成立しない。


図から▲2五歩△7四飛▲3五歩(▲7七金は△3四銀で後手が指せる。)△6二玉(△3六歩は角交換から▲8三角で先手良し。)▲6八玉△7二玉▲5九金△8三歩▲7七角△同角成▲同桂△4四角▲5六角△6四飛▲8八銀△3四銀!(▲同角は△3五角)▲2八飛(▲2四歩は△3五銀▲2八飛△2四銀)で後手が指せる。


図からの指し手
▲同 飛  △同 銀  ▲2二歩  △同 金  ▲3一飛  △5一飛  
▲2三歩  △3一飛  ▲2二歩成 △8八角成 ▲3一と  △9九馬
▲3二飛  △4二香  ▲2一と  △8九馬  ▲3四桂  △5一金
▲3一飛成 △9五角  ▲5八玉  △3三銀


▲2二歩で▲3七桂は△2九飛で悪い。
▲2二歩に代えて▲3九金としてから▲3七桂を狙う順はありそう。
いい勝負だが、後手から1筋攻めや△3八歩の叩きの筋があり、後手は手に困らない。


△9五角が厳しく、▲8六金なら取って△4一金打ちで鉄壁になる。
続く△3三銀も攻めを遅らす好手で後手勝勢。


第三章 △7四飛の縦歩取り

第74期名人戦七番勝負第1局で、羽生善治名人の▲3六歩に挑戦者の佐藤天彦八段は△7四飛を選択。
通常の進行は、△8六歩▲同歩△同飛▲3五歩だが、△7二銀型のため8筋の歩を切ると、▲8二歩を打たれる傷がある。①△8八飛成▲同銀△5五角▲8二歩の△5五角定跡や②△8五飛▲7七桂△3五飛は▲8二歩で先手有利といった変化が考えられる。
そこで△7四飛が巧みな攻め。
▲3五歩△2五歩▲同飛△7六飛が△8八角成の先手で、▲7七角△同角成▲同金△3六飛と進展すると、先手の右銀の立ち遅れが目立つ。


糸谷哲郎八段vs佐藤天彦名人

初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角
▲3六飛 △8四飛 ▲2六飛 △2二銀 ▲8七歩 △5二玉 ▲4八銀 △7二銀
▲3六歩 △7四飛

糸谷哲郎八段が王座戦挑戦を決めた糸谷哲郎八段vs佐藤天彦名人(第64期王座戦挑戦者決定戦)で、居玉での▲3六歩に△7四飛と反応した。
△7四飛では、菅井vs豊島のように、△8六歩▲同歩△同飛▲3五歩△8八飛成▲同銀△5五角の△5五角打ち定跡も有力。
△7四飛で△2四飛ぶつけは危険。▲2四同飛△同角▲2三歩△3三銀▲2八飛で先手が指せる。
△2四飛とぶつける場合は、事前に△2三銀が必要。
図から▲3七銀と上がり、以下△7六飛▲6九玉△7四飛▲2八飛△1四歩▲6六歩と進行した。
▲3七銀の代わりに▲3五歩は少し危険で、△2五歩や△3六歩はもちろん、△8八角成▲同銀△1五角▲2八飛(▲1六飛は△2四飛。▲2五飛は△7六飛▲7七銀△2六飛)△7六飛▲7七銀△2七歩▲同飛△2六飛と強襲しても後手が指せる。


図からの指し手
▲3七銀 △7六飛 ▲6九玉 △7四飛 ▲2八飛 △2四飛
▲2五歩 △3四飛 ▲5六歩 △6二玉 (図)▲5五歩

本譜は、△7六飛と歩を掠め、△7四飛と戻り、その後△2四飛とぶつけて▲2五歩と謝らせて△3四飛と気持ちよく転換した。
▲5六歩に△6二玉では、△8八角成▲同銀△3三桂と角を捌いておくべき。▲8二角が気になるが△2七歩~△4五桂と反撃して後手が指せる。▲5五歩と止められて角が負担になった。

この将棋の名場面が、終盤の上図。
△8一歩が痛恨の一手。
一路の違いだが、この△8一歩で△8二歩なら8一に逃げ場があるので後手勝ち。
この将棋は、2016年度のベスト対局のひとつとして「将棋世界2017.6号」p.66~で取り上げられた。

「難解な終盤戦でした」(澤田真吾六段)

「レベルが高い内容の上で糸谷さんでなければ勝てない将棋」(及川拓馬六段)

「心地よい緊張感が続いた好局」(遠山雄亮五段)

「両対局者の「力」と「技」が存分に発揮された一局だったのでは、と思います」(村田顕弘五段)



なお、△7四飛▲3七銀△7六飛▲6九玉△7四飛の局面、前局や糸谷哲郎八段vs稲葉陽八段(王座戦準決勝)のようにじっと▲2八飛が正解。
▲阿久津主税八段vs糸谷哲郎八段(順位戦)は▲4六銀だが、図の△3八歩が絶妙手。

その後、まったくの同形で、佐々木大地四段が同じ△3八歩で快勝。
覚えておきたい手だ。 

第四章 △8六歩合わせから△8五飛

▲3八銀型は、郷田九段や渡辺三冠が好む。
後手は、△5二玉型中原玉。

▲3六歩に△8六歩▲同歩△同飛と仕掛け▲3五歩に△8五飛としたのが上図。

▲7五歩は、△2八歩の好手で後手有利が郷田vs豊島(王将戦)の結論。
図から▲7七桂△3五飛▲8二歩が見える。


変化①
△5五角 ▲3七歩 △2八歩 ▲同 飛 △3六歩 ▲6五桂
△3七歩成 ▲同 銀 △同角成 ▲同 桂 △同飛成 ▲5五角
△2八龍 ▲同 角 △3六歩 ▲3八歩 △2七歩 ▲4六角
△2九飛 ▲8一歩成 △6九銀 ▲同 玉 △4九飛成 ▲6八玉
△6九金 ▲7七玉 △7九金 ▲6八金 △4七龍 ▲3五角打
△5九銀 ▲7三桂成 △6八銀不成 ▲8六玉 △2三桂 ▲6二成桂
△同 金 ▲7四桂 △6一金 ▲8二飛 △4一玉 ▲5三角成
△5二歩


変化②
△2八歩 ▲同 飛 △5五角 ▲3七歩 △3六歩 ▲6五桂
△3七歩成 ▲同 銀 △同角成 ▲同 桂 △同飛成 ▲5五角
△2八龍 ▲同 角 △3六歩 ▲3八歩 △2七歩 ▲5五角
△2九飛 ▲3九飛 △同飛成 ▲同 金 △8九飛 ▲8八飛
△同飛成 ▲同 角 △2八歩成 ▲同 金 △3九飛 ▲8一歩成
△1九飛成 ▲2九飛 △同 龍 ▲同 金 △3三桂 ▲9一と
△5四香 ▲8一飛 △4五桂 ▲6八玉


変化③
△8七歩 ▲同 金 △5五角 ▲3七歩 △3六歩 ▲同 歩
△2五歩 ▲2七飛 △3四飛 ▲3七桂 △8四飛 ▲7八銀
△8二飛 ▲8六歩 △3三桂 ▲4八金 △7四歩 ▲5六歩
△6四角 ▲4六歩 △同 角 ▲4七銀 △6四角 ▲4六歩
△7三桂 ▲9六歩 △8六角 ▲同 金 △同 飛 ▲9七角
△8二飛 ▲8七歩 △7五歩 ▲2五桂 △同 桂 ▲同 飛
△7六歩 ▲6五桂 △同 桂 ▲同 飛 △7三桂


変化④
△3七歩 ▲同 銀 △1五角 ▲2七飛 △3七角成 ▲同 飛
△3六銀 ▲3八飛 △2六歩 ▲4六角 △2七歩成 ▲3五角
△3八と ▲同 金 △2五飛 ▲2六歩 △3五飛 ▲3七歩
△4七銀成 ▲同 金 △2八角 ▲4六銀 △1五飛 ▲1六歩
△1四飛 ▲6五桂 △1九角成 ▲8一歩成 △2九馬 ▲8二飛
△8七歩 ▲同 金 △9五桂 ▲8六金 △1六飛


変化⑤
△1五角 ▲2七飛 △3三桂
▲8一歩成 △3六歩 ▲1六歩 △2六歩 ▲2八飛 △4五桂
▲1五歩 △3七歩成 ▲同 銀 △同桂不成 ▲3六歩 △同 飛
▲4八金 △2七銀 ▲2五角 △2八銀成 ▲4四桂 △4一玉
▲2三歩 △同 銀 ▲3二桂成 △同 飛 ▲6五桂 △2七歩成
▲1一角成 △3八と ▲3三歩 △4八と ▲6八玉 △4二飛
▲3二金 △同 銀 ▲同歩成 △同 飛 ▲4三角成 △4二飛


実戦は、図から▲3七銀と修正。そこで△3五飛と取れば穏やかだかが、△8六歩が局面を良くしようという手。飛車交換になれば後手玉の堅さが生きる。


図からの指し手
▲3七銀 △8六歩 ▲7七桂(図) 


このタイミングで△2五歩が巧い。▲同飛は△8七歩成で角交換すると飛車に当たる。 ▲2八飛が最善。△7七角成▲同角△8七歩成の時、▲2二角成から▲2五飛と飛車を活用できる。 
しかし△8四飛▲8五歩△2四飛の2筋逆襲は効果薄で▲9六歩~9七角が間に合う。
△8六歩は無理筋で△3五飛▲4六銀(△1五角の筋を避けた)△8五飛▲8七歩△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△2五歩!▲2八飛△7六飛なら互角の形勢。





第五章 △7五歩の仕掛け


△7二銀~7四歩型も多い形だ。
次に△7五歩の攻めが見えているのにもかかわらず、先手の▲3六歩は強気。
安全に指すなら▲7七角~▲6八銀(▲8八銀)と備えてから▲3六歩だ。
▲3六歩には後手も△7五歩と仕掛ける一手。

△7五歩に▲同歩と取るのは危険なので▲3五歩が定跡。後手は当然△7六歩と取り込む。先手は▲同飛と取りたいが△2四飛▲2七歩△2八歩▲3七桂△2九歩成で悪い。
▲3七桂の屋敷新手がこの際の好手だ。
△2七歩(△2三歩▲7六飛△2八角▲4六角△6四歩▲7四歩は先手良し)▲2九歩に△7四飛が渡辺棋王vs佐藤八段(棋王戦第4局)で佐藤天彦名人が指した新手。▲7五歩を打たせた方がダイレクトに▲7六飛とされるより得だ。
2016年の名局賞を受けた将棋で、中盤で渡辺棋王が▲3三角成△同玉▲3四桂と踏み込んだのも凄いし、それに対し▲2五銀を防いだ佐藤天彦八段の△2五桂の切り返しも思いつかない。
そして▲7七桂が、衝撃的な勝負手。
これに対する正解は、△8五金だったが、佐藤八段は△8五桂と誤った。
次世代に語り継がせるべき名局。


△7五歩以下の想定手順
▲7五同歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲8七歩 △7六飛
▲6九玉 △7七歩※ ▲同 金 △同角成 ▲同 角 △同飛成
▲同 桂 △4四角 ▲3四飛 △3三桂 ▲4四飛 △同 歩
▲7六角 △4二金打 ▲7八玉 △2五歩 ▲2七飛 △7三銀
▲8三角 △6四銀 ▲7四角成 △6二金 ▲3七桂 △7三金
▲8五馬 △8三金 ▲7四歩 △7一飛 ▲3二角成 △同 金
▲7六馬 △3一銀 ▲2五桂 △4五桂 ▲4六歩 △7四飛
▲6六金 △3七歩 ▲4五歩 △3八歩成 ▲同 金 △8四金


※変化:36手
△7三桂 ▲6六歩※ △同 飛 ▲5八玉 △7六飛 ▲6六歩
△7五飛 ▲3七銀 △6四歩 ▲7七金 △6五歩 ▲7六歩
△8五飛 ▲6五歩 △2五歩 ▲2八飛 △6六歩 ▲9六歩
△6五桂 ▲7八金 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲8七歩
△7六飛 ▲7七歩 △7四飛 ▲6八銀 △2四飛 ▲3八金
△4四角 ▲4六銀 △2六歩 ▲9七角 △3三桂 ▲3七桂
△7六歩


変化:37手
▲3三角成 △同 桂 ▲6六角 △6五桂 ▲6八銀 △8六歩
▲同 歩 △4五桂 ▲5八金 △6六飛 ▲同 歩 △5七桂右成
▲同 金 △4八角 ▲2二飛成 △同 金 ▲5八金 △6六角成
▲6二歩 △同 金 ▲7四桂 △6一金 ▲6二歩 △5一金
▲7一飛 △9四角 ▲8五銀 △8三角


変化:37手
▲7七金 △同角成 ▲同 桂 △8九金 ▲5五角 △3三桂
▲7八玉 △7九金 ▲同 角 △6四銀 ▲6六金 △7七飛成
▲同 玉 △5五銀 ▲同 金 △8五桂 ▲7八玉 △7七角
▲5六歩 △9九角成 ▲6九玉 △7七桂成 ▲2一飛 △2五歩
▲4一銀 △4二玉


図からの指し手①
△7五歩  ▲3五歩  △7六歩  ▲3七桂  △8八角成 ▲同 銀
△5四飛  ▲7六飛  △2七歩  ▲2九歩  △2四飛  ▲3九金
△8二歩  ▲7七桂  △3三銀  ▲7四歩  △5四角  ▲7五飛
△7三歩  ▲4五桂  △4四銀  ▲6五桂  △7四歩  ▲5三桂右成
△同 銀  ▲同桂成  △同 玉  ▲5五飛
(永瀬拓矢『負けない将棋』p.140~)




後手△7二銀+△1五歩型

この後手陣は永瀬の主力戦法であると同時に、現代横歩取りの主流戦法でもある。
△1五歩の端攻めを見て、先手の駒組みに制約を与えている。


△5五角に▲7七桂(▲7七銀△1九角成▲3七桂△8二歩▲7五歩や▲6六歩△1九角成▲3七桂また▲8二歩もある)△8七歩▲同金△1九角成▲3七桂△1八馬▲7五歩に△5四馬や△3六歩や△5五角が指されていて、後手の勝率が良い。


開始日時:2016/07/06 10:00:00
終了日時:2016/07/07 0:27:00
棋戦:順位戦
先手:渡辺 明竜王
後手:広瀬 章人八段
場所:東京・将棋会館
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角
▲3六飛 △8四飛 ▲2六飛 △2二銀 ▲8七歩 △5二玉 ▲5八玉 △7二銀
▲3八金 △1四歩 ▲4八銀 △1五歩 ▲3六歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲3五歩 △8八飛成 ▲同 銀 △5五角打 ▲7七桂 △8七歩 ▲同 金 △1九角成
▲3七桂 △1八馬 ▲7五歩 △5四馬 ▲8六飛 △8三歩 ▲4六歩 △7四歩
▲7六金 △5五角 ▲5六歩 △4六角 ▲4七金 △3五角 ▲5五歩 △同 馬
▲6五金 △4四馬 ▲5四歩 △同 歩 ▲7四歩 △7八歩 ▲8二歩 △7九歩成
▲8一歩成 △7八と ▲8二と △6八角成 ▲4九玉 △8八と ▲7二と △同 金
▲7三歩成 △5八銀 ▲3八玉 △7七馬引 ▲6三と △同 金 ▲8三飛成 △6二金
▲7四桂 △6一金 ▲6四飛 △6二歩 ▲5四金 △3五桂 ▲3六金 △4一玉
▲3五金 △同 馬 ▲4三金 △5三歩 ▲3二金 △同 玉 ▲2四桂 △4二玉
▲4三歩 △3三玉 ▲3四銀 △同 馬 ▲3二桂成 △同 玉 ▲3四飛 △3三香
▲5三龍 △4六桂 ▲2八玉 △2七歩 ▲同 玉 △3八銀 ▲2六玉 △2七金
▲2五玉 △2四歩
まで114手で後手の勝ち


開始日時:2016/11/01 10:00:00
棋戦:王将戦
戦型:横歩取り
先手:渡辺 明 竜王
後手:羽生善治 三冠
場所:東京・将棋会館
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲3六飛 △8四飛
▲2六飛 △2二銀 ▲8七歩 △5二玉 ▲5八玉 △7二銀
▲3八金 △1四歩 ▲4八銀 △1五歩 ▲3六歩 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3五歩 △8八飛成 ▲同 銀 △5五角打
▲7七桂 △8七歩 ▲同 金 △1九角成 ▲3七桂 △1八馬
▲7五歩 △3六歩 ▲4五桂 △3七歩成 ▲3三桂成 △4八と
▲同 金 △3三桂 ▲2三歩 △3一銀 ▲3四歩 △1七馬
▲4六飛?
(▲8六飛△8五歩▲同飛△4五桂▲3三歩成△同金▲2一飛△3二銀▲3一飛成+=) △2五桂 ▲3三歩成 △同 金 ▲2二歩成 △3九馬
▲3一と △4八馬 ▲同 玉 △3七銀 ▲5九玉 △4六銀不成
▲4一銀 △6二玉 ▲4二飛 △7一玉 ▲8三歩 △3九飛
▲4九角 △5一金 ▲5二銀成 △同 金 ▲同飛成 △6九金
▲5八玉 △4七銀不成 ▲同 玉 △4九飛成 ▲5六玉 △6四桂
まで84手で後手の勝ち


開始日時:2016/11/24 10:00:00
終了日時:2016/11/24 19:49:00
棋戦:順位戦
先手:畠山 鎮七段
後手:飯島 栄治七段
場所:関西将棋会館
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲3六飛 △8四飛
▲2六飛 △2二銀 ▲8七歩 △5二玉 ▲5八玉 △7二銀
▲3八金 △1四歩 ▲4八銀 △1五歩 ▲3六歩 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3五歩 △8八飛成 ▲同 銀 △5五角打
▲7七桂 △8七歩 ▲同 金 △1九角成 ▲3七桂 △1八馬
▲7五歩 △5五角 ▲7六金(▲3四歩) △3六歩 ▲4五桂 △3七歩成
▲5三桂成 △同 玉 ▲3七金 △4二玉 ▲8二歩 △1七馬
▲2九飛 △1八馬 ▲2六飛 △3六歩 ▲4六金 △同 角
▲同 歩 △3七歩成 ▲6五桂 △2五香 ▲5三角 △4一玉
▲8一歩成 △2六香 ▲6八玉 △8四桂 ▲8六金 △5四馬
まで72手で後手の勝ち


後手△2三銀型+1五歩型

△8四飛型の長所は、いつでも△2四飛とぶつけられること。

△7二銀よりも△1五歩や△2三銀を優先して好機の△2四飛を狙う。


まずは屋敷九段の模範演技を・・・
後手は、△7二銀や△6二銀よりも1筋の端歩が大きいという判断。
△8四飛型は、△8五飛型と違って△2四飛と交換を挑む順や、△3三桂~△2五歩~△2四飛と相手の飛車を圧迫する順が見込まれる。
その時、1筋の位は△1六歩▲同歩△1八歩や△1六歩▲同歩△1七歩という筋を狙って威力を発揮する。
しかし▲3六歩の瞬間、△2四飛とぶつけるのは、▲同飛△同銀▲8四飛がある。

図の局面から次の飛車ぶつけを狙って△7二銀と備える手は、▲3七桂が大きな手。
今度△2四飛とするのは▲3三角成が利きます。△同桂と取るのは▲2四飛△同銀▲2一飛で悪いので、勢い△2六飛と取りますが、▲1一馬として後手は△2九飛成が空成りなのがツラい。
後手は、△5一金~△6二銀と相手に隙ができるのを待つ。
▲4七銀の瞬間、5九に銀の利きがなくなったので、小さな隙ができた。

後手は待望の△2四飛。先手は図のように▲2五歩と交換を拒否したが、▲2四同飛△同銀▲8四飛には、△9五角▲2四飛△5九飛▲4八玉△6九飛成で先手陣は壊滅。

銀の利きが5九から逸れたためだ。
図の局面から△2五同桂には意表を突かれた。
△3七歩も細かい利かしで、これを入れないと▲3七桂の受けがある。

後手の華麗な技が決まったと思われた本局だが、後で調べると次の一手が問題だった。
▲2九飛は自然のようだが、▲2七飛と引いて△2五銀に▲2六歩と受けておけば難解だった。
実戦の▲2九飛△2五銀に▲2六歩は、△2六同銀で網を破られる。



上と同一局面で、△8八角成▲同銀△3三桂に対し、永瀬六段(当時)は、手損ながら▲6八玉と△2四飛に備えた。
以下永瀬らしい受けで優勢になったが、一失があって三浦が勝ち。
棋王挑戦を決めた。



その棋王戦で渡辺棋王が決定打を出す。
▲3八銀型から▲3六歩~▲3七銀~▲4六銀~▲3七桂と組むと、先と銀と歩が入れ替わった形だが、これが優秀な構え。
△1五歩に▲2八飛も用意周到で、△1六歩▲同歩△1八歩▲同香△2四飛の変化を避けた。




後手△7二銀+△9五歩型
△9五歩型もよく指される。
△1五歩型と違って攻撃力は少ないが、玉の右辺が広く、8二の弱点をcareしているなど守備力は強い。

1.△7四飛の攻め
△7四飛と攻めるのが△9五歩の守備型を生かしている。
△8六歩からの仕掛けがなぜダメかは次に述べる。
郷田真隆 九段 vs. 山崎隆之八段 (第76期順位戦B級1組1回戦)が題材。
1筋は突き合い、9筋は後手が突き越している。
▲3六歩に△7四飛として▲3五歩に△2五歩が狙い。
▲2五同飛は、△7六飛▲7七角の後、△同飛成▲同桂△5五角▲3四歩△4四角▲5五飛△同角▲3七桂△同角成▲同金△7四飛。
本譜は▲5六飛と逃げたので、手薄になった2筋を△8八角成▲同銀△8四飛と攻めて後手十分。
以下▲3七桂△3三銀▲7五歩に△5四角が1・2筋の攻めを見て厳しい。


同様に△7四飛~△2五歩としたのが郷田vs.斎藤(王将戦)
郷田九段は、△7六飛に▲7七金と力強く受け、左右の金で抑え込みを図った。
先手が勝ったが、途中までは後手が大優勢だった。


2.△8六歩の攻め


羽生善治 vs. 豊島将之(第29期竜王戦1組)では、1筋の突き合いがない形で、激しい研究勝負になった。
図の▲8三歩では、上記のように▲8二歩もあり、▲7七桂や▲7七銀も有力。
△1五歩型でなく△9五歩型なので、先手は右辺へ逃げる展開になった時に玉が広い。
▲8二歩成~▲8四歩で、研究合戦自体は羽生九段の勝利。しかし将棋は・・・


図からの指し手
△8八角成 ▲同 金 △同角成 ▲8二歩成 △2五歩 ▲3六飛 △9九馬 ▲8四歩 △8九馬 ▲7二と △同 金 ▲8三歩成 △7一金 ▲7二銀 △6九銀 ▲4九玉 △6七馬 ▲3九玉 △4九金※ ▲2八玉 △4八金 ▲同 金 △2四桂


途中の△2五歩に▲3六飛と逃げたが、▲同飛もある。
▲4八銀を省略した形の屋敷 伸之九段 vs. 稲葉 陽八段(第75期順位戦A級1回戦)で、同様に△8八角成 ▲同 金 △同角成 ▲8二歩成 △2五歩と仕掛けられ、▲同飛と取った。しかし△9九馬に▲8四歩と攻めると△3三桂から香打ちを見せて先手の飛車をいじめられる。仕方なく▲3四歩だが、△8九馬▲7二と△同金▲8五飛と両取りをかけたものの△6九銀▲4八玉△3六香から寄せられた。
この将棋は大駒よりも桂香を拾う方が価値がある。

図からの指し手
▲6三銀成 △同 玉 ▲6四歩 △5四玉 ▲6三角 △6四玉 ▲6六飛打 △6五香 ▲6七飛 △同香成 ▲5六飛 △6三玉 ▲4一角 △5二銀 ▲6四歩 △7四玉 ▲7三と △8五玉
▲5二角成 △8六玉 ▲8八金 △3六桂
まで82手で後手の勝ち


図から▲6三銀成とした手が、敗着になった。
後手は6七の馬が3四の地点に利いているのが急所。
ここで一旦▲5六飛と逃げておけば、飛車と銀の質駒を取られてもわずかに先手玉は詰まず、先手勝ちだった。とはいうものの人間に▲5六飛は指し難い。
この将棋の後、△8六歩からの仕掛けは下火になった。


第5章 ▲7七角型からの▲3六歩

△8六歩からの仕掛けを避けるなら、▲7七角と備えてから▲3六歩とすれば良い。
▲7七角は、▲3六歩△8六歩▲同歩△同飛▲3五歩と上記で研究したような激しい戦いを避けている。
後手は▲7七角に対して早く角交換すべきか、にらみ合ったまま戦うべきか悩ましい。
基本的には交換しないで△2三銀から△2四飛ぶつけを狙いたいが、先手に▲6八(8八)銀と好形にされる。
第87期棋聖戦第一局から取材。


初手からの指し手
▲7六歩   △3四歩   ▲2六歩   △8四歩   ▲2五歩   △8五歩
▲7八金   △3二金   ▲2四歩   △同 歩   ▲同 飛   △8六歩
▲同 歩   △同 飛   ▲3四飛   △3三角   ▲3六飛   △8四飛
▲2六飛   △2二銀   ▲8七歩   △5二玉   ▲5八玉   △7二銀
▲3八金   △1四歩   ▲4八銀   △1五歩   ▲7七角   △2三銀
▲3六歩   △7七角成  ▲同 桂   △3三桂

△2三銀は、次に△2四飛ぶつけを狙っているので▲3六歩と備えた。△2四飛には▲2五歩△7四飛▲3五歩で先手陣が伸び伸びしている。そこで後手は角を換えて△3三桂。
図の後手陣は当時最善と思われていたが、研究家の永瀬六段は第三局で△6二玉型を採用し、さらなる改良を見せた。


図からの指し手
▲3七桂   △2五歩   ▲2八飛   △2四飛   ▲6八銀


先手は、飛車の押さえ込みを回避して、第三局では▲3七桂を▲3五歩と変えた。もちろん後手は対策を用意していて、△3六歩の軽手で返した。
▲2八飛では▲2九飛と引きたいが、△2四飛の後△1六歩▲同歩△1七歩▲同香△1八角を狙われる。
▲6八銀では▲4六角と飛車取りに打ちたいが、△3四飛▲2五桂に△4五桂の跳ね違いがあっで先手不満。
以下▲5五角なら△3七歩▲同銀△同桂成▲同金△5四飛が予想され、先手が▲1一角成と香を取れば△3九角で壊滅する。


一歩得の先手だが、図のように飛車を押さえられては△1五歩の位が生きて不満。

図からの指し手
△5四角   ▲4六角   △3四飛   ▲2五桂   △2七歩   ▲同 金
△2五桂   ▲2六金   △7六角   ▲5五角(図)


22分の考慮で▲2五桂。

駒組みや牽制の局面は終わり、本格的な戦いを予感させる桂跳ねを羽生が敢行した。控室で主に検討されていた変化で、代えて▲2七金には△2四銀▲2六歩に(1)△2六同歩▲同金△2五歩で後手が指しやすい。ちなみに(2)△3五歩で5四角を生かすと、▲2五歩△3六歩▲2四歩の攻め合いで先手がやや指せる。両者は同じような角度の前傾姿勢になったまま固まっている。

図からは△1七桂成▲同香△1六歩▲同香△同香▲同金として△3六飛▲2六金△6六桂とか△5四飛▲1一角成△2二歩等と攻めれば後手有望だった。
永瀬六段は棋風に忠実に△2二歩と受け、結果は千日手。


先手が▲8八銀と備えてから▲3六歩と突き、後手が△7七角成とせずに△7四歩~△7三桂としたのが、第57期王位戦七番勝負 第7局羽生善治王位vs木村一基八段

結論からいえば、いかにも理想形のような後手の構えは、攻撃面でも守備面でも今一つ冴えなかった。
かといって△6二金~△8一飛と待機するのは、佐藤天彦名人vs稲葉陽八段(第75期名人戦第一局)のような稀な成功例があるものの、2筋が薄く、▲2四歩~▲5六角などと先手に好きなように攻められる。
△7四歩では、前述の△8八角成から△3三桂が優る。


図からの指し手
△1六歩▲同 歩△7五歩▲同 歩△8五飛▲2五飛△7六歩▲5五角△同 角▲同 飛△3三桂▲5六飛△6四角▲3七桂△2五桂▲4五桂△6二金▲4六歩△7五飛▲2六歩△4五飛▲同 歩△1九角成▲4四歩△4六桂▲同 飛△同 馬▲4三歩成△同 金
▲4四歩△同 金▲2一飛△1三馬▲5六桂


木村八段は、端を突き捨ててから△7五歩▲同歩△8五飛と凝った手順を見せた。
しかし、▲2五飛と浮かれて△7六歩に▲5五角△同角▲同飛となると、歩損と5筋の薄さが気になる展開だ。
△1六歩▲同 歩△7五歩▲同 歩に△8五飛では、右桂を活用した後手の構えからして△6五桂と跳ねて攻めたいが、気になるのが2点。

  1. △7五歩に▲3五歩と飛車の横利きを通されて△7六歩▲同飛となると7三の桂馬が負担。△8八角成▲同 銀△5四角と飛車取りに打って△1八歩を狙うが、▲9五角の返し技が厳しい。△9四飛▲7三角成△7六角▲9一角成△6五角の進行は、▲7三歩△8三銀▲6六香△5四角▲8二馬と先手の攻めがわかりやすい。ただし、本譜で羽生王位が▲3五歩としなかったところから推測すると次の順が有力か?
  2. ▲7五同歩と取られても、△6五桂▲3三角成 △同 桂となって、次に△4五桂が実現すればうまいが、▲5六角が攻防手で、6五の桂馬が負担。△2五歩▲2八飛△7七歩 ▲7九金 △7六角 と受けるが、▲7四歩と飛車の横利きを止めるのが軽手で 先手が指せる。△7四同飛には▲7七桂を用意している。

控室では▲3五歩以下の進展が調べられていたが、羽生は堂々と歩を取った。控室には原田泰夫九段の「堂々と勝ち 堂々と負ける」という書が掛けられている。本局を堂々と勝つのはどちらだろうか。そのほか、陣屋には過去の対局のパネルや対局した棋士の色紙が飾られている。

(1)△6五桂は▲3三角成△同桂▲5六角△7七歩▲7九金△6四歩▲3五歩が調べられている。この変化は後手が桂を狙われて忙しいか。「▲5六角と打つ村田五段説は正しいと思います」と松尾八段。

(2)△8五飛で7五歩を取りにいくのも有力だ。

■Twitter解説■

村田顕弘五段>▲7五同歩でした。先手としては、だいぶ利かされた感があり怖い局面です。後続手として△8六歩があるかもしれません。あまり見たことのない手ですが、▲同角なら△同飛▲同歩△4四角打がありますし、▲同歩なら△6五桂▲3三角成△同桂と進んだとき、▲5六角と打ちづらい意味があります(△8六飛と走れるので)。手順の組み合わせと攻めのパターンがある局面なので、読みと確認に時間を使われそうです。(互角)

【1日目午後の検討風景】

http://kifulog.shogi.or.jp/oui/2016/09/post-c67c.html

第二部 △6二銀・△5一金型


初手からの指し手
▲7六歩  △3四歩  ▲2六歩  △8四歩  ▲2五歩  △8五歩
▲7八金  △3二金  ▲2四歩  △同 歩  ▲同 飛  △8六歩
▲同 歩  △同 飛  ▲3四飛  △3三角  ▲5八玉  △5二玉
▲3六飛  △8四飛  ▲2六飛  △2二銀  ▲8七歩  △5一金  


青野流を見せて▲3六飛と通常形に戻した序盤で、微妙な駆け引きがあった。
△5二玉型に限定させたという先手の言い分だが、先手も▲5八玉型に限定されている。
△6二銀・△5一金型に組んだが、これが△8四飛との相性が一番いい。
△7二銀だと一手で陣形が引き締まるが、その反面▲8三歩などと攻められた場合に当たりがきつい、また中央が薄いのが弱点。
しかし、△6二銀+5一金型は▲7五歩が気になる。

25手目▲3六歩

後手陣は、△6二銀+5一金で一人前の構え、先手に早く▲3六歩とされると中途半端な陣形のまま仕掛けるかどうか。
△6二銀型は、壁形なので仕掛けは無理。△5一金と締まるくらいだ。
△5一金型(上図)なら△7四飛は可能。▲3五歩に△2五歩▲5六飛(▲同飛△7六飛▲7七角△3六飛 ▲3八銀 △2四歩 ▲2八飛 △3五飛 ▲2六飛)△8八角成▲同銀△2七角から馬を作る。後手陣には角打ちの隙がない。


27手目▲3六歩

先手は、▲4八銀を省いて▲3六歩。3八の金が紐付きだが、壁形。
図から△8六歩▲同歩△同飛▲3五歩△8八飛成▲同銀△5五角打▲8二飛△1九角成▲8一飛成※△2五歩▲2八飛※※△5五角松尾歩 vs. 木村一基(2011-03-25 竜王戦)などで現れた△5五角打定跡で、後手が指せる形勢。
※▲3七桂△1五角▲3六飛△1八馬に▲2七歩?△2六歩で後手有利。これは、松本佳介 vs. 村山慈明(2011-06-28 棋聖戦)の変化。▲2七歩では▲1六飛△1四歩▲1五飛△同歩▲2一飛成の方が良いが、それでも後手が指せる形勢。
△8八飛成では△8五飛が一般的だが、強く攻めた方が壁形を咎められる。
△2五歩のタイミングは微妙で、早く決めると△4四角が飛車取りにならないため▲3四歩の利かしが生じるのと、△1五角の味がなくなる。
※※最後の△2五歩に飛車が横に逃げると△2九馬、▲2五同飛は△2三香、▲2七飛も△2六香で困る。遺された手段は▲2八飛だが、△5五角▲2五飛△3六香▲3七桂打△3三桂と攻めて、後手の方が楽しみが多い形勢。


29手目▲3六歩

横歩取りが多かった羽生善治名人vs佐藤天彦八段の名人戦シリーズ。
これまでの後手番の陣形は、△8四飛+△5二玉+△7二銀型だったが、第五局では、佐藤天彦八段は少し前に流行した△6二銀+△5一金型を採用した。
対する羽生名人は、郷田九段や渡辺棋王が得意とする▲5八玉+▲3八銀型。



初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲3六飛 △8四飛
▲2六飛 △2二銀 ▲8七歩 △5二玉 ▲5八玉 △5一金
▲3八銀 △6二銀 ▲3六歩

例によって▲3六歩と飛車の横利きが止まった瞬間がchance。


名人戦第一局は3八銀を省略して早いタイミングで▲3六歩とし、△7四飛から後手が主導権を握り有利に進展したが、先手の羽生名人が逆転勝ちした。


名人戦第三局では、△2三銀型だったので、逆に△7四歩と飛車の横利きが止まった瞬間、先手から▲2四歩△3四銀▲3六飛と仕掛けたが、2八のキズを△2七歩▲同銀△2八歩と咎められ、後手の佐藤八段が快勝した。


名人戦第四局では、先手の佐藤八段が▲3八金+▲4八銀+▲7七角と▲3六歩のタイミングを計り、▲3六歩の瞬間△2四飛▲2五歩△7四飛と小競り合いが始まった。


渡辺明棋王vs羽生善治棋聖(第84期棋聖戦五番勝負 第4局)では、羽生棋聖は、△9四歩~△9五歩と様子を見、相手の陣形(▲4八銀+▲3八金)を見てから△5二玉型中原囲いに組んだ。その後1筋のクライも取って△1六歩~△1七歩と仕掛けて勝った。


渡辺明棋王vs羽生善治名人 (第40期棋王戦五番勝負 第1局)では、羽生名人では▲3六歩に仕掛けずに△9四歩~△9五歩とした。仕掛けに自信を持てなかったのか、あるいは△7四歩を突かずに飛車の横利きを通したまま、先手陣が伸びきったところを叩こうという意図か。


図から△8六歩▲同歩△同飛▲3五歩までは一直線。
対して△2五歩や△3六歩というvariationもあるが、この場合▲同飛で今一つ。したがって△8五飛までは横歩取りで頻出する手順。


▲7七桂跳ねの得失

△8五飛の隠れた狙いは△2八歩で、▲3六飛や▲7五歩は△2八歩▲3七桂△2九歩成で不利。▲7五歩は実際にプロ公式戦で現れ、△2八歩▲3七桂(▲同飛は△8八飛成▲同銀△5五角打)△2九歩成▲3三角成△同桂▲8八歩△1五角▲1六飛△1四歩▲3四歩に△2八とが厳しく後手が快勝した。
▲3三角成△同桂▲8八銀△3五飛(△2八歩も有力)も公式戦で現れているが、▲4六角(▲8二歩は△4四角)△2五歩(△4五飛▲8二歩△4四角▲2四飛△8八角成▲同金△8五飛▲8七角も公式戦で現れている。)▲2八飛△8五飛で①▲8二歩には△4四角②▲3四歩には△4五桂で先手つまらない。
(村田顕弘五段『現代横歩取りのすべて』p.63~)


実戦例はないが、他の手段として▲7七桂も有力。
▲7七桂は△3五飛と横に動けば▲8二歩と桂頭のキズを衝く狙いで、飛車を引けば▲8五歩からヒネリ飛車模様に進めるつもり。
私が後手の立場なら▲7七桂とされるのがかなり嫌だが、先手の立場では角道を止める損が大きく感じる。
具体的には、▲7七桂以下△3五飛▲8二歩△2八歩▲同 飛△5五角▲3七歩△3六歩▲6五桂△3七歩成が想定手順で先手が嫌か。


現在最有力とされているのは▲3七銀。
▲3七銀に△3五飛の変化は、▲4六銀△8五飛▲8七歩となって「後手から見ると非常に圧迫感がある。また桂が4五に跳ねづらいので、後手の攻撃も制限される。(中座真七段『中座の横歩取り』p.124)
また、△3五歩に▲8二歩も有力で、△1五角▲2二角成△2六角▲同銀△2八飛▲4八角で先手有利。
(村田顕弘五段『現代横歩取りのすべて』p.67)


▲3七銀に対する本筋は、△8六歩。
無理矢理▲7七桂とさせてから△3五飛として、次に△1五角を狙う。


△8六歩▲7七桂に△2五歩が押さえておかなければいけない変化。
▲同飛は△8七歩成▲8五桂△7八とで、▲3三角成△同桂が飛車取りになる仕組み。
そこで▲2八飛だが、△7七角成▲同角△8七歩成の強襲には▲9六角がぴったりで△7八と▲2二角成△8九飛成▲3二馬△7九竜▲4八玉は先手良し。△7七と▲8五角△7八と▲同銀も先手良し。
△8六歩▲7七桂△2五歩▲2八飛に△8四飛▲8五歩△2四飛(下図)は互角の形勢。

△8六歩に▲3三角成△同桂▲8八銀なら、△3五飛から▲4六銀に△2五飛と暴れることができる。
△3五飛までは双方最善の進行か?
△3五飛には▲7五歩として▲8六飛を狙いたいが、△8七歩成▲同金△1五角▲8六飛△3七角成▲同桂△同飛成▲5五角△3五竜▲6五桂△4四銀という変化が想定され、後手良し(中座本p126~p127)。また△3六歩という軽手もある。


本譜▲5六飛は△1五角を避けた手。


図からの指し手
△8六歩   ▲同 歩   △同 飛   ▲3五歩   △8五飛   ▲3七銀
△8六歩   ▲7七桂   △3五飛   ▲5六飛   △3四飛   ▲3八金

郷田新手▲3八金で小康状態

図の▲3八金が郷田九段の新手で、対戦相手は村山七段(2017.3棋聖戦)。
▲3八金で▲8二歩は△8七歩成▲同金△8四飛で受かる。
図の局面では後手が歩損を取り返したが、△8六歩が負担で、後手が少し無理をしている感じ。
そんな理由からか、定跡書では△8六歩の仕掛けでなく△9四歩の手待ちが後手の最善とされている。

「この局面では△9四歩の価値が高いと思う。

(長岡裕也五段『長岡研究ノート(相居飛車編)』p.204)」

仕掛けずに△9四歩と一手待って▲3五歩には△2三銀と備えます。

△9四歩に▲3七銀なら△8六歩▲同歩△同飛▲3五歩△2五歩と攻めます。(中座真七段『中座の横歩取り』p.128以下)

図からの指し手
△9四歩   ▲7五歩   △8七歩成  ▲同 金   △9三桂   ▲8六飛
△8五歩   ▲7六飛   △4一玉   ▲9六歩   △2四飛   ▲2六歩
△8四飛   ▲6八銀   △5四歩   ▲9七角   △4二角   ▲7四歩


局面の複雑化を図る▲7四歩

▲7四歩の代わりに▲4六銀とするのは△3三銀▲8八金△5三銀と左右の銀を活用されて不満。
▲7四歩は飛車交換を挑んだようで、相手の飛車を8筋から除けて負担になっている▲8七の金を収めるのが真の狙い。
△7四同飛では△9七角成が読みの本戦だったらしく、△同飛に対する▲4二角成に羽生は69分の長考。
△9七角成とすると▲同香以下△7四飛▲同飛△同歩▲8八金が変化の一例で先手が指せる。
佐藤は角交換して香車に逃げられるのを嫌った。


図からの指し手
△同 飛   ▲4二角成  △同金寄   ▲4六飛   △5五歩(図)       


▲6五角のタイミング

図の△5五歩は、好機での△5六歩を狙った有効な手待ち。
対して一目▲6五角が浮かぶが、羽生名人は▲8八金と形を整えた。
▲6五角には、△8四飛と逃げて▲4三角成に①△8六歩と攻め合うか、②△4五歩▲同飛△3三桂と受けるかだが、先手にとっては実戦の変化より有力だった。


本譜のタイミングの▲6五角は意外で、先に▲9五歩△同歩と、▲9四歩や▲9二歩の味を作ってから▲6五角とするものと見られていた。
▲6五角は名人位を失った失着で、じっと▲7八金と手を渡す方が良かった。


次の▲3四歩を防いで△2三銀とし、そこで▲9五歩としたが、この局面では相手してもらえない。
それどころか△7四飛の角取りが受からない。▲9六飛には△9五歩だ。
   
図からの指し手
▲8八金  △8四飛 ▲8七歩 △3三桂 ▲6五角 △2三銀   
▲9五歩  △3四銀 ▲9四歩 △4五銀 ▲9六飛 △6四歩   
▲7六角  △9五歩 ▲同 飛 △7四飛  


名人位を奪った妙手△2五桂

図からの指し手 
▲3四歩 △2五桂 ▲同 歩  △7六飛 ▲9三歩成 △5六歩


△2五桂が▲3三歩成△同金▲2五桂の攻め筋を消した妙手。

「いい手だね。もし名人誕生の一局になれば、世紀の名手になるかも」


幻の勝負手▲2三角

図から▲2三角が勝負手だった。


図からの想定手順①
▲2三角   △3二銀   ▲同角成   △同 金   ▲6九銀   △3六歩
▲5九玉   △3七歩成  ▲2四桂   △3八と   ▲6八玉   △4二金寄
▲2三角   △5二玉   ▲3三歩成  △5八歩成  ▲同 銀   △4八と
▲4二と   △同 金   ▲5三歩   △同 飛   ▲5四歩   △同 飛


図からの想定手順②
▲2三角   △3二歩   ▲3三歩成  △5八歩成  ▲3九玉   △4八銀
▲同 銀   △同 と   ▲同 金   △同角成   ▲同 玉   △5九銀
▲3八玉   △5八飛成  ▲2七玉   △3六金   ▲1六玉   △1四歩


開始日時:2016/05/30 9:00:00
棋戦:名人戦
先手:羽生善治
後手:佐藤天彦
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲3六飛 △8四飛
▲2六飛 △2二銀 ▲8七歩 △5二玉 ▲5八玉 △5一金
▲3八銀 △6二銀 ▲3六歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲3五歩 △8五飛 ▲3七銀 △8六歩 ▲7七桂 △3五飛
▲5六飛 △3四飛 ▲3八金 △9四歩 ▲7五歩 △8七歩成
▲同 金 △9三桂 ▲8六飛 △8五歩 ▲7六飛 △4一玉
▲9六歩 △2四飛 ▲2六歩 △8四飛 ▲6八銀 △5四歩
▲9七角 △4二角 ▲7四歩 △同 飛 ▲4二角成 △同金寄
▲4六飛 △5五歩 ▲8八金 △8四飛 ▲8七歩 △3三桂
▲6五角 △2三銀 ▲9五歩 △3四銀 ▲9四歩 △4五銀
▲9六飛 △6四歩 ▲7六角 △9五歩 ▲同 飛 △7四飛
▲3四歩 △2五桂 ▲同 歩 △7六飛 ▲9三歩成 △5六歩
▲8五飛 △5七歩成 ▲同 銀 △7九角 ▲7八金 △5七角成
▲同 玉 △5六飛 ▲4八玉 △5九角 ▲4九玉 △5七歩
▲4五飛 △5八歩成 ▲3九玉 △3六歩
まで100手で後手の勝ち


変化:97手
▲2三角 △3二銀 ▲同角成 △同 金 ▲6九銀 △3六歩
▲5九玉 △3七歩成 ▲2四桂 △3八と ▲6八玉 △4二金寄
▲2三角 △5二玉 ▲3三歩成 △5八歩成 ▲同 銀 △4八と
▲4二と △同 金 ▲5三歩 △同 飛 ▲5四歩 △同 飛
▲5五歩 △4四飛 ▲3二桂成 △同 金 ▲同角成 △7六桂
▲7九玉 △3五角 ▲8九玉 △5八と


変化:98手
△3二歩 ▲3三歩成 △5八歩成 ▲3九玉 △4八銀 ▲同 銀
△同 と ▲同 金 △同角成 ▲同 玉 △5九銀 ▲3八玉
△5八飛成 ▲2七玉 △3六金 ▲1六玉 △1四歩


変化:63手
▲6五角 △8四飛 ▲9五歩 △3六歩 ▲同 飛 △2八歩
▲同 金 △9五歩 ▲9四歩 △同 飛 ▲8三角成 △4四飛
▲8八金 △7四角 ▲同 馬 △同 飛 ▲9四歩 △2七歩
▲3八金 △1四角 ▲4六飛 △2八歩成 ▲同 銀 △9四飛
▲9二歩 △同 香 ▲6五角 △7四歩 ▲2五歩


変化:65手
▲4三角成 △4五歩 ▲同 飛 △3三桂 ▲4六飛 △4五歩


変化:58手
△9七角成 ▲同 香 △7四歩 ▲8八金 △3三銀 ▲6六角
△7五角 ▲同 角 △同 歩 ▲同 飛 △7四歩 ▲7六飛
△8六歩 ▲8五歩 △同 桂 ▲8六飛 △6四角 ▲8五飛
△同 飛 ▲同 桂 △9九飛 ▲7九歩 △8七歩 ▲同 金
△9八飛成 ▲8八歩 △8六歩 ▲7六金 △8七歩成 ▲8一飛
△8八龍 ▲6六角 △9八龍 ▲3四歩 △2二銀 ▲4五桂
△9七角成 ▲9一飛成


変化:60手
△7四飛 ▲同 飛 △同 歩 ▲8八金 △8六歩 ▲8一飛
△8七歩成 ▲同 金 △8九飛 ▲7九歩 △8六歩 ▲同 金
△6四角 ▲8八歩 △4二金寄 ▲8七金 △3二玉 ▲2五歩
△3三銀 ▲6五桂 △9九飛成 ▲2四歩 △同 銀 ▲2二歩
△同 玉 ▲4六角 △2三玉 ▲6四角 △同 歩 ▲7三桂成


変化:60手
△6四角 ▲7三歩成 △同 銀 ▲6五桂 △7五歩 ▲3六飛
△3五歩 ▲同 飛 △6二銀 ▲7七銀 △7六歩 ▲同 銀
△8六歩 ▲8八金 △5五角 ▲8九歩 △8七歩成 ▲同 金
△4四角 ▲3六飛 △6四歩 ▲7三角 △同 銀 ▲同桂成
△2三銀 ▲4六銀 △3一玉 ▲7四歩 △2二玉 ▲2五歩
△9九角成 ▲3七桂 △8九馬


変化:47手
▲同 桂


変化:45手
▲9六歩 △8四飛 ▲8五歩 △3四飛


変化:40手
△8四飛 ▲8五歩 △2四飛 ▲2六歩 △2三銀 ▲7五歩
△7四歩 ▲8四歩 △7五歩 ▲8三歩成 △7四飛 ▲8六飛
△7六歩 ▲8四と △6四飛 ▲7六飛 △8四飛 ▲9六歩
△7三歩 ▲8五歩 △3四飛 ▲8六飛 △5五角 ▲8四歩
△3七角成 ▲同 金 △2八歩 ▲3五歩 △同 飛 ▲3六金
△3四飛 ▲3七桂


変化:36手
△2五歩 ▲2八飛 △8四飛 ▲8五歩 △2四飛

難解な△5五角打ち定跡

前記名人戦では、図から△8五飛とした。


これに▲3六飛と受けると、△8八飛成▲同銀△5五角打が成立する。


次の△1九角成が2九桂取りの先手になり、△2九馬と桂を取った後△2四桂の飛車取りが厳しい狙いとして残る。


△5五角打に▲3四歩△4四角上▲3七桂が最善だが、△8八角成▲同金△同角成▲8五飛△9九馬▲8一飛成に△8三歩がまったりとした手で後手有利が定跡。
実戦
もある。


単に△8八飛成▲同銀△5五角打は▲8四飛で先手良し。
以下△1九角成▲8一飛成△2五歩▲1六飛に△5五角とした実戦が、牧野光則 vs. 中村太地(2011-09-20 順位戦)であり、他に△1九角成▲8一飛成△2五歩▲1六飛△2九馬▲3九金△同馬▲同銀△5五角という変化も有力。


なお、▲8四飛が唯一の打ち場所で、▲8七飛に打つと、△7三桂が好手。これに▲3七桂と香取りを受けるのは、△8六歩▲同飛△8五歩▲8七飛△8八角成▲同金△8六銀で困る。


本筋の▲3七銀

図からの指し手①
△8五飛  ▲3七銀  △3五飛  ▲8二歩  △7三桂  ▲8一歩成 
△8八角成 ▲同 銀  △8七歩  ▲7七銀  △4四角  ▲4六飛
△2五飛  ▲2八銀  △5五角


先手は、▲8二歩からと金作りに成功。この手順は、渡辺明二冠獲得の将棋だが、駒の効率で優る後手が指せる形勢。
この変化は、稲葉陽著『横歩取り必勝ガイド』p180~では、「先手のと金が間に合うかどうかの難しい将棋である。」とか、長岡裕也著『長岡研究ノート 相居飛車編』p147~とかに詳しく解説されている。


▲3七銀に△8六歩も指したい手だが、角交換から▲8八歩と固められ、△3五飛に▲4六角があって損。(単に△3五飛なら角交換から▲4六角には△8五飛があり、▲8六歩△同飛▲8七歩△7六飛▲7七歩△4六飛▲同飛△6四角が変化の一例で後手が指せる。)


△8七歩では単に△4四角と打って▲2八飛△8五飛▲7七角△2七歩▲同飛△2六歩▲同銀△7七角成▲同桂△8一飛とする順も有力だが、長岡本によると「△8七歩の利かしは先手王が狭くなるので打ち得である」。
具体的には、△4四角▲5六飛△8五飛に▲7七桂と受けることができる。
△4四角に▲4六飛と逃げたが▲2四飛と飛車切りを狙うのは、△8五飛▲4四飛△同歩▲9一とに△6五桂が厳しい。
また、▲2八飛と逃げるのは、△8五飛▲8六歩△8一飛と、と金を取られてしまう。しかし、以下▲6六歩と受けて、後手だけ角を手放しているという主張はある。


△8五飛に▲7五歩という変化球もある

図からの指し手②
△8五飛   ▲7五歩   △同 飛   ▲3三角成  △同 桂   ▲3四歩
△2五桂※


※△3五飛▲3七銀△3四飛は、▲8六飛や▲1六角△3五飛▲3四歩がある。△3五飛▲3七銀△4五桂▲3六銀に△4四角とした中村太地vs.佐藤天彦(棋聖戦)の実戦例があり、先手が勝っている。


長岡裕也著『長岡研究ノート 相居飛車編』p.154~
瀬川晶司著『横歩取りマップ』p.145~ 


覚えておくべき△8五飛(▲3六歩に△7三桂の変化)

稲葉本のオススメは、▲3六歩に△7三桂とする順で、以下▲3五歩に△8五飛が知らないと指せない手で、▲3三角成△同桂▲3四歩に△2五飛を狙っている。したがって△8五飛には▲3六飛と受けるが、△8八角成▲同銀△5四角▲2六飛△3五飛▲3七銀△3三桂と跳ねた結果は、「後手に駒の勢いがあり、十分指せる分かれである」。


羽生善治vs.中村太地(大和証券杯)飯塚佑紀vs.中村太地(王将戦)畠山成幸vs.小林裕士(王将戦)などの実戦例があり、後手の勝率が良い。

終わりに

ずっと以前の話だが、プロ将棋を観戦しても理解できず、危機感を覚えた。
当時流行していたのが「横歩取り」。
そこで「横歩取り」に関する棋書を買いあさり、それをblogに乱雑にまとめ、朧気ながら理解できるようになった。下手の横歩好きの誕生である。


さらに時を経て、昔書いた変化はすっかり忘れ、「横歩取り」は時代の隅へ追いやられ、主流の「角換わり」は新型が出て全く理解不能。


そこへblog終了のお知らせが届き、そのまま放置しようかとも思ったが、せっかくの苦労がもったいないのでここに移設した。
読み返すと酷い内容に赤面するばかりだが、こればかりは自分の実力なので正面から受け止めるしかない。
少しでも皆さんの棋力向上に役立てば、この上なくありがたい。
ここまで読んで下さった読者の皆さんに感謝申し上げます。