将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

ソウタの棋(その3)~竜王獲得、四冠王へ

最強の敵 豊島将之

第91期棋聖戦第二局、ソウタの△3一銀は、棋界を震撼させた。
攻め駒に必要そうな銀を自陣の守りだけに打つのは抵抗がある。
数多のプロ棋士の中で△3一銀が指せるのは唯一人。
「コイツにはかなわない」と、改めてソウタの実力を認めたのだ。
渡辺名人自身も「訳も分からないうちに不利になっていた」と認め、以後、なすすべもなく棋聖位を奪われた。
そして渡辺明名人がリベンジを図った第92期棋聖戦は、三タテでソウタが初防衛を果たし、渡辺名人との格付けは済んだようにさえ見えた。


棋界のトップタイトルは、名人と竜王。
次なるソウタの相手は、竜王位を持つ豊島将之。
豊島竜王とは、七番勝負の王位戦、五番勝負の叡王戦、七番勝負の竜王戦と合わせ、異例の十九番勝負。
中でも賞金額が四千四百万円の竜王戦は、八大タイトルで序列トップの棋戦。
竜王位の保持者は、最も伝統がある名人位と共に別格として扱われる。
これまでの対戦成績は、ほぼ互角。
最強の敵に対してどのような将棋を見せるか?

第34期竜王戦~最年少四冠

第四局 角換わり腰掛け銀

第四局、四連敗で終わるわけにはいかない豊島竜王。
先手番を生かし、主導権を取って積極的に指す方針。
双方に小ミスが出た後、終盤に竜王にチャンスが巡ってきたが、それは断崖から飛び込むような危険な順。
持ち時間を多く残していたのが、返って迷いを生んで、踏み込むことができなかった。


先手番豊島の作戦は角換わり腰掛け銀。
相掛かりは先手の得が活きないと考えたか。
ソウタの作戦は、端歩手抜き。
最近の流行形だ。
端歩を突き越されて8筋~1筋だけ見ると後手が、先後逆でさらに一手得した形になるが、手番を生かすのが難しい戦型なので、一手得は大きなアドバンテージにならない。
しかし、先手も9五のクライを生かすのは難しく、後手に△9二香~△9一飛や△9四歩と逆用されることも多い。

図の▲3八金では▲4八金が自然だが、角換わり腰掛け銀同型の後手番で開発された手法の応用で、手番調整と同時に▲4九飛の含みもある。
後手は△4一玉と一手パスし、▲4八金△4四歩▲7九玉△3一玉となった局面は、図の局面で▲3八金の代わりに▲4八金△4四歩▲7九玉△3一玉となった局面と同じ。
結局、後手が手番を選ぶ権利があることになる。
これが不満と△4一玉に▲4五歩とか▲5六銀△4四歩▲4五歩(▲4九飛)と指した実戦もあるが、豊島は現時点では▲4八金が最善との判断だ。


△4一玉でなく△3一玉とした場合の想定図

羽生著『現代調の将棋の研究』テーマ10「端の位を取る積極策」で、パスした先手の狙いを解説している。
想定図のように後手玉を2二まで囲わせて▲4五歩と仕掛けようというのだ。
図の局面から△4一飛▲4四歩△同銀▲7九玉という変化が考えられる。
実戦は、後手が△4一玉と一手パスして後手玉が3一にいて▲4五歩とは仕掛けにくい。
しかし、図の仕掛けも成否は微妙。
先手からの仕掛けが難しいことが「角換わり激減の理由」だ。


さらに▲3八金などと手待ちするのは、△6五桂の仕掛けが気になる。
記憶に新しい郷田vs藤井(B級1組順位戦)では、▲9七角という定番の反撃に対し、ソウタが飛車を4筋に転回して4筋から銀桂交換の猛攻で勝利した。

9五のクライを生かすために、先手は▲7九玉~▲8八玉と囲った。
後手は逆で、△2二玉とすると、将来▲4五歩の仕掛けを与えてしまう。
そこで△6五桂と仕掛け▲6六銀(上図)に△4二玉と戻った。
△8六歩と飛車先を交換したいが、交換後の▲8七金が好形で、9五のクライが活きる展開になる。
▲5六銀のタイミングで△8六歩▲同歩△同飛と交換する。
今度▲8七金とするのは△8一飛▲8六歩に△3五歩がある。
△4二玉で△2二玉だとキズになるところ。
双方の玉形が囲いの内・外と正反対だが、それぞれ必然の進行なのだ。


そこで▲8七歩△8一飛に▲4五歩△3五歩▲4四歩△3六歩▲4三歩成△同玉▲4五桂△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛△3五角▲2九飛に△2七歩(下図)まで、ほぼ定跡と言っていい展開で、豊島竜王は殆ど考慮時間を使っていない。

4五の桂を守るため、図から▲2五角△4二玉▲3六角と進行。
攻めのターンが回った後手は、△7五歩と確実な攻め。
他に△9四歩や、玉頭の継ぎ歩攻めも目に映るところだ。
手番を握った先手は、▲2二歩から負担になった桂を捌いた。


図からの指し手
▲2五角 △4二玉 ▲3六角 △7五歩 ▲2二歩 △3三桂 
▲同桂成 △同 銀 

図の局面では▲3九飛が有力だった。
素抜きの筋を△3四歩と受けると▲5五銀直が厳しい。
△3四銀なら▲4七桂だ。
△8四桂と受けずに攻めてくる順には、角切りは危険なので、そこで▲4五銀とする。以下△3八歩▲同飛△2八歩成▲3七飛△7六桂▲9七玉△6三銀という変化が考えられる。


実戦は、後手の角が大威張りする反面、先手の角が負担になった。


図からの指し手
▲4五銀 △同 銀 ▲同 角 △5四銀 ▲4三歩 △同 金
▲2三角成 △3四銀 ▲3九飛 △2三銀 ▲3五飛 △4四角
▲3八飛 △7六歩 ▲3五桂 △8五桂 ▲8六銀 △7七歩成
▲同 桂 △同桂左成 ▲同銀左 △同桂成 ▲同 金 △6五桂
▲4三桂成 △同 銀 ▲5五桂 △7七桂成 ▲同 玉 

ここでソウタに小ミスが出る。
△7六歩▲6八玉に△7七銀としたいが、▲5九玉△6六銀生▲4三桂成△同玉▲4五歩でヒットしない。
△7六歩で△6五桂なら同様に進んだ時に△6八銀▲同玉△5七銀成と攻め切れた。


図からの指し手
△7六歩 ▲6八玉 △8七飛成 ▲4三桂成 △同 玉 ▲5五桂 
△同 角 ▲3五桂 △5二玉 ▲5五銀 △5六桂 ▲同 歩 
△7七歩成 ▲5七玉 △6七と ▲4六玉 △3四桂 ▲4七玉 
△5八と ▲3六玉 △2五金
まで122手で後手の勝ち


しかし、最後に豊島も誤る。
△5五同角に▲3五桂が考えすぎのミス。
「王手は追う手」と後手玉を安全にさせた。


平凡に▲5五同銀なら△5六桂▲同歩△7七歩成▲5七玉 △6七と ▲4七玉△5八と▲5七桂△6八と▲同玉△5九銀▲4七玉△4八金▲3六玉△3五歩▲同玉!△3四銀▲2六玉△2五金▲1七玉△3八金に▲4四金△5二玉▲3四金が詰めろ逃れの詰めろで、先手勝ちだった。


手順中の△3五歩が厳しく見えたため、実戦は▲3五桂と先着したのだが、代わりに桂打ちがあって、受けになってなかった。


point

  • ▲9五歩を生かして▲8七金型が好形になる。
  • 後手は、▲8七金型を作らせないよう飛車先交換を保留。







第三局 角換わり相早繰り銀

このタイミングで端歩を突くのが最近の角換わりの定跡。
後手としては、手抜いて早繰り銀にするのもあるが、△1四歩と受けることが多い。
この交換を経て先手のソウタの作戦は、早繰り銀。
豊島竜王も早繰り銀にして▲6六歩(下図)となった。

ほぼ同型だが、先手の銀の進出が早く、端歩の代わりに▲6六歩と継ぎ歩の筋を防いだ。
一見すると先手がうまく立ち回ったようだ。
しかし、▲6六歩はプラスだけではなく、△4五角の筋が生じた。
具体的には、次に▲3五歩△同歩▲同銀△3四歩に▲2四歩△同歩▲同銀なら△2七歩▲同飛△4五角がある。
以下▲2八飛△7八角成に▲3三銀成から激戦が予想されるが、後手陣も最善形を維持する次の一手が悩ましい。
△9五歩と形を崩さず待ちたいが、▲6八玉と△4五角の筋を受けられた時にどう指すか?
結局△6四銀と守備形が崩れたため▲3五歩△同歩▲同銀と先手が先攻した。
△8六歩▲同銀と先手陣を弱体化させた後、△5五銀とした前例があるが、豊島は△4四銀を選び、▲同銀△同歩に▲5六銀(下図)と進行。

この銀打は知らないと指せない手だが、先に▲2四歩△同歩を入れた方が良かったかも。
というのが△3六歩▲6八玉△4五銀とした後に▲2四歩としたのだが、これが通らなかった可能性があった。
△5六銀と強く取られて▲同歩は△2四歩で王手飛車のラインがあるので飛車を走ることができない。
そこで△5六銀に勢い▲2三歩成だが、△3七銀と俗に打たれるのが厳しい。
いつでも△5七銀成と王手で歩を補充できるのが大きく、飛車の行き場がない。
▲5八飛は△4七銀成、▲1八飛は△2三金なので縦に逃げるしかないが、▲2四飛は△3五角、▲2五飛は△3四角、▲2七飛は△5七銀成から△2六歩。
▲同桂△同歩成▲2九飛が最善だが△5七銀成▲同玉△2七歩が厳しい。


図からの指し手
△3六歩 ▲6八玉 △4五銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲4五銀 
△同 歩 ▲2四飛 △2三歩 ▲3四飛 △3三金 ▲3五飛 
△5五角 ▲2二歩 △同 飛 

図の局面では▲3二歩が第一感だが、△1九角成も大きく▲3一歩成には△8二飛▲8一と△4四銀▲3六飛△2九馬で自信なし。
そこでAI推奨が▲3四歩△4三金▲2八歩!
ソウタがもしこの順を選べば、いよいよ地球人を卒業となるところだが・・・


図からの指し手
▲3四歩 △4三金 ▲4五飛 △5四銀 ▲2五飛 △3七歩成 
▲同 桂 △同角成 ▲3一銀 △3二飛 ▲2二角

先手の攻めが渋滞しているところだが、後手も誤った。
△2四桂と受けたが、▲8五飛とされて空振り。
△8八歩や△3四飛▲2三飛成△8八歩なら互角の形勢が続いただろう。


それにしても△2四桂は感触悪い手。
豊島竜王らしくない将棋だった。


図からの指し手
△2四桂 ▲8五飛 △2七馬 ▲5八金 △3四飛 ▲8一飛成 
△4九馬 ▲9一龍 △3八飛成 ▲5九香 △4六歩 ▲同 歩 
△4七歩 ▲8四桂 △4八歩成 ▲7二桂成 △5八と ▲7七玉 
△5九馬 ▲8八玉 △7一香 ▲同成桂 △6八と ▲6一成桂 
△4一玉 ▲5一成桂 △3二玉 ▲8二龍 △4二金打 ▲6八金 
△同 馬 ▲3四香
まで93手で先手の勝ち



第二局 相掛かり 70手勝利という神局

叡王戦第四局では、図の局面から▲1六歩△1四歩としてから▲7六歩とし、△7四飛に▲2六飛と受けたが、本局では単に▲7六歩とした。
ここで同様に△7四飛も有力で、少し前の屋敷vs藤井(B級一組順位戦)では△7四飛▲7七金と進行していた。


本局では▲7六飛に△5二玉とし、▲6六角△7四飛▲7五角と歩を受けた。
ここまでの豊島の消費時間はわずか4分。
豊島竜王の事前研究があったことは疑いない。
しかし、ソウタの対応は豊島の研究の上を行った。
△5四飛▲8八銀に△8三銀~△7四銀と積極的に銀を繰り出したのだ。





第一局 相掛かり

いよいよ次のタイトル(竜王)に照準を当てた藤井三冠。
第一局は振り駒の結果、先手番を握った。
武器とする相掛かりを選択し、腰掛け銀でなく、飯島流の▲6八玉型を採用。
豊島竜王は△7四歩取らせで対抗。

ここから▲7七金△8四飛▲8六歩が新しい感覚。
豊島竜王が△3四歩▲4六歩に△3五歩と冴えた手順でリードを奪った。
面白いタイトル戦になりそうだ。


A級昇級に向けて~鬼の住処(すみか)B級1組 part1

対三浦九段(1回戦)横歩取り

初手からの指し手
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲5八玉 △5二玉
▲3六歩 △4二銀 ▲3七桂 △2三金 ▲3五飛 △5一金


鬼の住処と言われたB級1組順位戦。
藤井二冠の最初の相手は去年までA級棋士だった三浦九段。
三浦九段の作戦は、横歩取らせ。
藤井二冠の青野流に対し、ソウタの▲4一銀で有名な松尾八段の対策をそっくりそのまま拝借。

図から▲3八銀△8四飛に▲3三角成△同桂▲7七桂となって松尾戦から離れた。
好機に▲8五飛と飛車交換を挑む狙いだ。
困ったかと思えたが、三浦九段がさすが前A級棋士という対応を見せる。


図からの指し手
▲3八銀 △8四飛 ▲3三角成 △同 桂 ▲7七桂 △4四角
▲6六角 △同 角 ▲同 歩 △2七歩 ▲2九歩 △2四飛
▲3九金 △8四飛


ここで▲8二歩△同飛▲8三歩△同飛▲5六角と両取りをかけたが、△3四歩▲8三角成△3五歩と自然に応接され、次に△3六歩があって忙しく、かえって混戦を招いた。
▲8二歩では▲4九金と形を直しておけば先手が指せた。

先手が苦しい中、図の▲8五飛がソウタmagic。
怪しい一手に三浦は△4六桂▲同銀△同金と間違え、▲2五飛で形勢が急接近。
桂でなく△4六金なら▲2五飛に飛車でなく銀を取る△3七金が好手で、次に△3八歩という確実な攻めがあり、後手が面白かった。


逆転勝ちを収め、とりあえず第一関門を突破した。
果たしてA級昇級成るか?


対稲葉戦(2回戦)角換わり

ソウタが愛用していた角換わり先手番だが、稲葉先手でこの局面を迎えた。
合理的な渡辺名人なら、先手で愛用する形を後手もって受けるのは矛盾が生じると、敬遠するところだ。
実際、後手が苦しい展開となった。
ソウタとしては、この形の結論がどうなるか、とことん追及したい気持ちなのだろう。


それでも7九玉型で相手が4二玉型なのは、条件がいい。
後手が豊島竜王あたりなら一手パスして手番調整しそうなところだ。
また、△4二玉の代わりに△6三銀▲8八玉△4二玉▲4五桂△2二銀▲3五歩△同歩▲6五歩△同歩▲5五銀△3三桂▲1八角の変化も難解だ。


図の▲4五桂では、▲3五歩△同歩▲4五桂と「仕掛けは歩の突き捨てから」というのが昔の感覚だった。
現代は、▲4五桂と単に跳ね、△2二銀と壁銀にさせた得が大きいという大局観だ。

角換わりの結論は千日手」というソフトの研究がある。
升田幸三の時代から言われていた話だが、技術革新が進んだソフトによる研究だけに信憑性が高い。
もし、結論が千日手なら先手で角換わりにするのは面白くないか?
そういえば、最近の角換わり激減、相掛かりが増加した。

ちなみに第二回電竜戦に人間として参加したあらきっぺさんは、図の局面の後手番をもってkoronというソフト相手に千日手に持ち込んでいる。


▲6五歩△同歩▲6九飛となった図は、渡辺vs広瀬(A級順位戦)などの前例があり、もはや定跡と言っていい局面。

▲6九飛の前に▲4五歩△同歩を入れた渡辺王将vs永瀬拓矢王座(第70期王将戦七番勝負第1局)などもあるが、▲4五歩に△5五歩の変化が難解。

▲4六桂△5六歩▲5四桂に△同玉なら▲7四銀△7二金▲6五銀で攻めが決まるが、△6三玉が良い粘り。
▲4四歩△4七歩▲5八金△4五銀▲5六歩△5四銀▲5五銀△同銀▲同歩△4六角▲6八歩△5五角▲6七金△6四金▲5九飛▲4八歩成▲5五飛△同金▲7三歩で①△同玉なら▲5三角△5四金▲6二角打△7四玉に▲7五角成が好手で、△同玉に▲7三角成で攻めきれる。
②△5一飛が正着で、▲7二歩成△5四玉▲7三角などが変化の一例。


手順中、△6五歩の代わりに▲4五歩と攻めるのは、△5五歩▲4六桂△5六歩▲5四桂△同玉に▲5五銀等の実戦例があるが、先手の攻めが細い。


▲6五歩に△5五歩とするのは、▲6六桂△5六歩▲5四桂△同玉に▲7四銀が厳しい。
以下△7二金▲6四歩△同玉▲7三歩△同金▲同銀不成△同玉▲5四角△3一飛▲6九飛が変化の一例。


藤井二冠は、広瀬八段が打った△7四角の自陣角を放つ。
以下▲4五歩△5五歩に▲4六桂△5六歩▲5四桂△同玉▲5六歩△5三玉▲5五歩△6二桂▲5四歩△同玉に▲7六歩と合わせた。
次の△3三銀で前例から離れ▲7五歩と取り込んで角の逃げ場所を問う。

▲7五歩に△8三角と引いた局面だが、△6三角の方が勝った。
図で▲8四銀という鬼手があり、同金に▲7三角で先手優勢だった。
しかし、稲葉八段はこれを逃し▲6六歩の合わせ。
△4三玉▲6五歩と進行。

藤井二冠は、△6八歩▲5九飛△ 5八歩と飛車の弱体化を図る。
しかし、▲同金△8六歩▲同歩△6五角▲6八金と遊び金を活用でき、先手が得した。
△5七歩▲同飛△5六銀から△6七歩と金を一枚はがして△4二金と決め手を与えない。

ここが決め所と稲葉八段が長考に沈む。
そして▲6六歩としたが、有力な手が多く難しかった。
後手で一番守りに効いている6二の桂を狙って▲5一銀とするのが最善だったようだ。
優勢を守ろうとすると自陣の嫌な筋が目につく。
△8七角成と成らせて▲7八銀と固めようとしたが、△5四角と敢えて角を成らずに嫌味を残す。
▲5五歩△4五角に▲7六角となって形勢混沌。
しかし、そこで△6五歩を逃して△5二玉としたため、先手の良さは残った。
▲5四歩△同桂▲5六銀△5八歩に▲4五銀と決めに行く。
△5九歩成▲5四銀△4八飛に▲5三歩△4一玉を利かせてから▲6八桂と受けたが、△6四桂▲6五角に△3一玉の粘りを与えたので、利かしは余計だった。
狙っていた▲4三歩は△4一金で空振り。
仕方なく▲4三銀成とした。

4三の地点で金銀交換があり、△3二銀に▲6五馬と引いたところ。
ここで△5五金という幻の鬼手があった。
▲同馬なら△7六歩で△5八飛成が狙い。

しかし、藤井二冠も見せ場を作る。
図から△6三金
取れば△8七金が受けにくい。
詰めろでないが、次の△6九角や△7八角が必死。


敗れて順位戦の連勝記録も止まったが、名局だった。
まだまだ昇級のチャンスがある。
頑張れソウタ!

対屋敷戦(3回戦)相掛かり

先手屋敷九段は、相掛かりを選択。
▲7六歩と角道を開けたタイミングで△7四飛の揺さぶりだが、その後対局した対豊島戦(第34期竜王戦第2局)では単に△5二玉としている。
想像だが、△7四飛に▲9七角△5二玉▲7五角という変化を嫌がったか?
対豊島戦では▲6六角△7四飛▲7五角と、結局その変化に合流した。


また、△7四飛に▲2六飛も有力。
飛車で7六の歩を受けた後、▲7七角と形を整える。
後手が▲2六飛をとがめてヒネリ飛車模様にするのが有力で、下図のような進行が一例。

▲7七金と受けた屋敷九段の構想は、早繰り銀。
これに対してソウタは、△8四飛~△7四飛と千日手模様で揺さぶる。

ソフトに解析させると、千日手やむを得ない局面のようだ。
屋敷九段は、▲2二角成△同銀▲7七金と打開したが、形勢の針が若干後手に振れた。
ソフト研究による序盤の理解の差を感じた一局。


対久保戦(4回戦)対角交換振り飛車


対木村戦(5回戦)相掛かり

下図の局面は、先手の▲4六歩を狙って飛車先交換した局面。

9筋の付き合いがあるので▲4七銀と受ける手も考えられる。
以下△8七歩▲9七角△8二飛▲7五角△3四歩などが変化の一例。
後手は歩を入手して9筋の端攻めを狙う。


先手は、その変化を避けて▲7六歩とする。



後手は△7六飛と横歩を取り、先手は▲8二歩△9三桂▲9五歩と反発した下図。
藤井聡太 王位・棋聖 vs. 永瀬拓矢 王座 (第34期竜王戦挑戦者決定三番勝負第2局 ) など実戦例が多い。


ここで△8五桂が木村の工夫だが、▲8一歩成△同銀▲2五飛△8四歩に▲8七金が挑発の一手。(実はフラッドゲートの前例多い、定跡の一手)
△7九飛成と挑発に乗ったため、▲同角△7八銀に▲7四歩が厳しく不利に陥った。
この歩を取ると、▲8三飛△7二銀▲8四飛成で、次に▲7三歩と▲8五竜の両狙いが受からない。
▲8七金におとなしく△7四飛と引いておけば、▲8六歩には△3四歩があって、これからの将棋だった。


その後行われた木村一基 九段 vs. 永瀬拓矢 王座 (第69期王座戦五番勝負第4局 )では、1筋の端歩の突き合いがある形で、木村一基九段は、ソウタの指し手を踏襲。
永瀬拓矢王座は△7四飛と改善し、▲6八玉に△2四歩と飛車を負った。
その将棋は、途中、▲5五角で▲6六飛としておけば、先手が先手が指し良い形勢だった。
△2四歩では△3四歩もあり、後手に選択権がある。


最近のソウタは、飛車先交換の前に▲4七銀と備えてこの変化を避けている。

point

  • 受け将棋相手なので、先手は▲4六歩を敢えて守らず攻めさせた。
  • 後手はその歩を十字飛車で狙う。
  • 飛車先交換保留、9筋の歩の突きあい、△5二玉で準備完了。
  • 後手は歩得するが、不安定な飛車と陣形の乱れから、しばらく受けに回る展開になる。
  • 先手は攻め駒不足なので、飛車を中段で活用。