【△4二玉型横歩取り】後手飛車先交換型
青野流対策のBreakthrough
令和の新定跡か?
長い間、横歩取られた後手の選択は△3三角の内藤(梶)流が主流だった。
しかし、最近、図の△4二玉を試みる棋士が現れた。
昭和・平成にはほとんど見なかった令和の新定跡だ。
△3三角型は、青野流が優秀で、角が右桂に狙われる。
それを避けたのが新定跡の利点だ。
もちろん一長一短で△2二角型だと角頭を狙われるので△2三歩が省けなくなる。
平成の感覚は△4一玉
一枡(マス)の違いだが
実は、類型は平成の時代にも指されていて、当時は中原囲いの影響もあって△4一玉だった。吉田(現渡辺)正和著『決定版横歩取り完全ガイド』の第一章第一節の「△4一玉戦法」がそうだ。
△4一玉の狙いは、自然な▲2四飛に△3八歩▲同銀△8八角成▲同銀△3三角の両取りをかけようとするもの。
プロの実戦もあるが、▲2一飛成△8八角成に▲9五角などで受かるため無理筋だ。
▲2四飛に△7六飛と横歩を取るのは▲8五角△8六飛に▲6三角成が王手になり、△5二金に▲8七歩△8二飛▲4五馬△3三角に▲6四飛が厳しく先手良し。
△6三歩なら▲同飛成だ。
そのような理由で廃れていた△4一玉戦法を2021年に三浦九段が、藤井二冠相手にぶつけたのには驚いた。
藤井二冠相手に、三浦九段は用意していた作戦だろう、▲2四飛に△8八角成▲同銀△3三角とシンプルに攻めた、
これに▲2一飛成も有力で△8八角成▲9五角△7六飛▲7七歩△8九馬▲7六歩△7八馬▲4八玉(▲8二歩)に△2八歩で悩ましい局面。
手順中の▲9五角では▲8七歩△同馬を利かせてから▲9五角もあり、△7六飛に▲8七金と取れる。
△4一玉型なので▲2四桂などが厳しい。
もしかしたら先手が指せるかもしれないが、藤井二冠の選択は▲2八飛。
△2七歩を利かされたが、▲5八飛と我慢して十分という冷静な判断だ。
実戦は、後手の中原囲いの偏りを咎めて金で2七の歩を払い、▲2八飛と戻して厚みで押し切った。
△4一玉と△4二玉はたった一枡の違いだが、△4二玉の方が優る。
たとえば、先の変化のように▲2四飛に△8八角成▲同銀△3三角の変化も少し得だし、△7六飛と横歩を取った場合も、▲8五角~▲6三角成が王手にならない。
それなら△8八角成▲同銀△3三角や△7六飛が成立するかというと、実は大きな問題がある。
船江六段は、「受け師」木村八段相手に△8八角成▲同銀△3三角を試みたが、強く▲2一飛成とされて敗れた。
△7六飛については先手に素晴らしい手段がある。
△3三角戦法との違い
横歩を取った飛車の位置が不安なので定位置に戻したいが、流行した△3三角戦法と違って▲2四飛が可能である。
ところが、定跡に馴染んで実戦では▲3六飛としてしまいがちである。
△7六飛を警戒してのことかと思うが、以下△8四飛▲2六飛となった時が危険。
角交換して△4四角がある。
▲2八飛か▲2一飛成かの二択だが、これが勝敗の岐路。
前者は互角、後者は敗勢。
しかし▲2八飛は△2七歩と打たれると飛車を逃げなくてはいけない。
気合としては突撃を選びたくなるのは分かる。
将棋俱楽部24より
早指しの将棋では、▲2一飛成としたくなる。
これに対するJKishi18gouの回答は?
開始日時:2017/12/21 09:41:34
棋戦:R対局(早指2)
先手:SNICKERS(2169)
後手:JKishi18gou(2986)
▲7六歩 △8四歩 ▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △4二玉 ▲3六飛 △8四飛
▲2六飛 △8八角成 ▲同 銀 △4四角 ▲2一飛成 △8八角成
▲同 金 △同飛成 ▲7七角 △8九龍 ▲4八玉 △7八龍
▲5八金 △7七龍 ▲2四桂 △2二金 ▲3一龍 △同 玉
▲5五角 △7九龍 ▲2二角成 △同 玉 ▲3四銀 △3八金
まで42手で後手の勝ち
山下数毅三段vs廣森航汰三段
新たな中学生棋士の誕生か?と注目される山下数毅三段。
高名な数学者を父に持つことでも話題を集めている。
ぜひ2023年9月9日の三段リーグ最終日で、宮嶋健太・上野裕寿とともに新四段となってほしいものだが、昇段のライバル上野裕寿の充実ぶりから見ると難しそうだ。
山下三段は、▲2八飛と引いたが△2七歩にどう逃げるか?
昭和の棋士は類似した局面で▲5八飛として▲5六歩と活用していたが、AIが降臨した現代では、壁形を恐れず▲4八飛が定跡だ。
▲6八飛は△8八角成▲同金△7九銀があって危険なようだが、▲7七角があって難しい。
一時的に壁形だった▲4八飛だが、図のように進展すると自然な形に収まった。
ただし、▲4五歩としても△5五角とされて返って損。
また、△3八歩の狙いがあるので注意が必要だ。
図からの指し手
▲同 歩 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲8七歩 △7六飛
▲7七銀 △7五飛 ▲6六銀 △同 角 ▲同 歩
先手としては、手持ちの角があるので後手から攻めてくれるのは楽な意味がある。
▲7七銀~▲6六銀と自然に指してこれで悪いわけがないという気持ちだろう。
後手は、△8八歩と△3八歩と、二つの有力な攻め筋があって悩ましい。
実戦は△3八歩だが、△8八歩は▲8六角△7四飛▲4七角(▲5六角は、△2四飛▲8八金△2八銀と攻められる。▲4七角なら▲2五歩がある。)△7八飛成▲同玉△8九歩成▲7四歩が変化の一例で、先手玉も薄いので大変な局面だ。
△3八歩に▲同飛△4九銀▲4八飛△5八銀成▲同飛△4七金▲5九飛△3八歩▲8六角△7六飛と進行。
どうやら山下三段は、丁寧な受け将棋という印象だ。
攻め将棋の人なら図から▲7四歩と攻めて▲5四桂を狙いたいところ。
△7四同飛なら▲5六角がぴったりだ。
逆に対戦相手の廣森三段は、攻め重視の棋風のようだ。
壁形のままでの強烈な攻めは、バランス型には思いつかない。
図からの指し手
▲3八銀 △同 金 ▲6七銀 △4八金 ▲7六銀 △5九金
▲7七玉 △8五銀 ▲同 銀 △同 桂 ▲8八玉 △2八飛
▲5五飛(決め手)
以下略先手勝ち
△7六飛の冒険
先手の馬づくりは不発
△4二玉に▲2四飛が自然だが、そこで△7六飛(上図)が成立するかどうかが課題。
まず角交換して△8三角から馬を作る手が浮かぶ。
△7二銀▲6五角成△8六飛に▲8八歩と△3三角を防いでも△3五角がある。
▲8七歩には△8五飛と馬取りに引き、▲7六馬には△4五飛で飛車成と△3三角の両狙い。また▲6六馬には△3三角から馬を消して後手が指せる。
お気づきの人もおられるだろうが、これらの変化は、実は勇気流(下図)に対して角交換から△2七角と打った変化と同じである。
図の3三の角を2二に戻し、7六の歩を後手の持ち駒にすると先後逆で課題局面になる。
いきなり終盤戦
△7六飛に▲2八飛と引いて△2三歩なら▲2二角成△同銀▲7七金とする手段もあるが、もっと有力な手段がある。
△7六飛には、▲8四飛が先手の最強手段。
△8二歩で受かりそうだが、▲8三歩の追撃が厳しい。
一見△7二金で何でもなさそうだが▲8二歩成△同銀▲2二角成△同銀▲7七歩として△7五飛なら▲6一角として△8三銀には冷静に飛車を引いて△8四歩に▲7二角成で先手良し。
△7五飛がだめならと△7四飛とぶつける手は、▲同飛△同歩の後、今度は▲8三歩が厳しい。
△同銀には▲6一角や▲8二歩があるので△7一銀と引くが、▲8二角△7三角▲7一角成△同金▲8二銀と絡まれ、ほどくのは困難だ。
NHK杯で伊藤匠四段が▲7七歩を省いて▲6一角△7一金▲7二歩としたが△9五角の王手飛車を喫した。▲7七歩が二歩なので打てないのが痛い。
仕方ない▲4八玉(▲5八玉が有力)△8四角▲7一歩成△同銀▲8二歩に松尾八段の△8六歩が好手で▲8一歩成△8七歩成▲7一と△7八歩が間に合った。
痛い敗戦だったが、アベマトーナメントで再びこの将棋になり、経験が生きることになる。
参考棋譜
開始日時:2018/01/29 10:50:12
棋戦:R対局(早指2)
先手:LiberaMeFromHell(2676)
後手:JKishi18gou(3097)
▲7六歩 △4二玉 ▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △8四歩
▲7八金 △8五歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △3二金
▲3四飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲2四飛 △7六飛
▲7七角 △7四歩 ▲6八玉 △2三歩 ▲2八飛 △7五飛
▲2二角成 △同 銀 ▲7七桂 △7二金 ▲8八銀 △7三桂
まで30手で後手の勝ち
最年少棋士の躍動
後手から角交換して先手の飛車を引かせた方が受けやすい。
△8八角成▲同飛△7二金▲8二歩成△同銀に▲7七金△7四飛▲6一角△7一金▲7二歩に△8七歩▲同飛△6五角(△5四角)でどうか?
フラッドゲートの実戦では先手が▲7一歩成と踏み込み、激しい戦いの末後手が勝っているが、▲8五飛と逃げるのが有力。
△6一金▲8二飛成△4七角成▲7一歩成△5二金▲6八玉△4四飛▲6一銀△6九馬▲同玉△4九飛成▲7八玉△3三玉という手順が予想される。
以下▲4一銀不成は△4二金で難しいので▲4一銀成が有力、△5八角(△4七角)の攻めには▲4九歩で受かるのが自慢だ。
プロの実戦(伊藤匠vs船江恒平)では、船江六段が飛車を7五に引いて敗れた。
最年少棋士である伊藤匠四段の短手数での快勝は、観る人に鮮烈な印象を与え、私もファンになった。
令和の定跡は、不思議な玉の運動
玉の一人時間差
ただちに△7六飛とするのは危険なので、後手としては4二の玉を△5二玉として▲6一角の筋を受け、次に△7六飛を狙うのが有力だ。手損だが、△3三角~△2二銀~△5二玉とする従来の構えより△4二玉~△5二玉の方が手数が少ない。
▲2四飛に△5二玉の一人時間差は、フラッドゲートでは数局実戦例があるが、人間としては▲2二角成△同銀▲7七角の変化が気になる。
△8九飛成▲2二角成に△1五角は①▲3四飛なら△2二金で▲3一飛成が王手にならないので失敗だが、②▲8八馬があり、△7九竜は▲同馬で△2四角の時に5筋を守っているので▲8二歩と反撃できる。この場合は5九玉型が生きていて、5八玉型なら△7八竜と金を王手で取られる。
したがって△1五角では△3三角▲同角成△同桂▲2一飛成△3一歩という進行が予想されるが、▲2三歩△8六桂▲6九銀△4五桂▲6六角で先手が良さそうに思える。
なぜかフラッドゲートでこの変化の実戦例を見つけることはできなかった。
例えばKristallweizen-E5-2620は▲2六飛と引き、角交換して△4四角に▲8七歩と収めて勝っている。
かといって先の▲7七角に△2三歩と収めようとすると▲3四飛△3三歩で後手が歩切れになり失敗だ。
また、gpsfish_normal_1cは、▲5八玉から逆に△8八角成▲同銀△3三角の両取りを掛けられ、▲2一飛成△8八角成▲7五角の変化を選び、後手のcatshogiは、△8九馬▲8六角△7八馬▲2四桂△4一金と進行した。
▲7五角は、△6九銀▲同玉△7八馬▲同玉△7六飛や△7六飛▲8八金△7五飛といった変化を与えるので▲9五角が優ると思う。
以下△8九馬で実戦の手順に還元する。
▲2八飛なら△7六飛(下図)が成立する。
飛車の安定度が違うが、歩の損得はなく、後手の手損は盤面からは窺われない。
次に△2七歩があるので▲7七角と受けるが、△7四歩でまるで後手番青野流だ。
先手もこの図は面白くないと見てか、▲2四飛のタイミングを計るようになった。
勝率が高い▲5八玉
▲2四飛を急がず▲5八玉と待ち、△7二銀とさせてから▲2四飛とする。
△7二銀型は△7六飛と横歩を取った場合に8二の空間がキズになると見ている。
後手の△5二玉に▲2八飛とし、△7六飛▲7七角△7四歩▲8三歩△7三銀▲3八銀△2三歩▲2五飛と進行したのが斎藤vs佐藤天(A級順位戦)。
△5二玉に▲3八銀△7六飛▲7七角△7四歩▲6八銀△7三桂に▲8七金と飛車をいじめにいったのが広瀬vs松尾(王座戦)。
松尾八段は、対三浦戦で△4二玉の対策に苦しみ、対広瀬戦で逆に△4二玉をぶつけた。
この将棋で、広瀬八段の▲6八銀~▲8七金に苦しんだ経験から、青野流に対する△4二銀~△2三金を評価し、藤井二冠▲4一銀の名局に繋がったと思われる。
青野流を避けたことが、巡り巡って青野流対策の発見に繋がったことは、興味深い。
今後の研究次第だが、後手番の作戦の選択肢が増えたことは間違いない。
シン・中座飛車
永瀬vs三枚堂(abemaトーナメント)にて後手の三枚堂七段が永瀬リーダー相手に用意した作戦が△4二玉。
永瀬王座は、ここで▲5八玉。
これに三枚堂七段の△7四歩が面白い一手。
取れば△7七歩がある。
三枚堂七段は、△8五飛として昔懐かしい「中座飛車戦法」のような形になった。
図からの指し手
△2五歩 ▲5六飛 △6四歩 ▲3六歩 △2六歩 ▲2八歩
▲2八歩と謝らせて2筋に歩を利かなくしたのは後手に取って大きな戦果。
しかし、どのような構想で指すか難しい。
先手は、好機の▲7五歩を狙っている。
図からの指し手
△2三銀 ▲3七桂 △6二金 ▲3八銀 △6三銀 ▲1五歩
△9四歩 ▲9六歩 △5四歩 ▲3三角成 △同 桂 ▲7七桂
△8一飛 ▲3五歩
▲3五歩は期待の一手。
桂頭を狙うとともに▲2六飛と歩が取れる。
図からの指し手
△5五歩 ▲2六飛 △7五歩
取れば△5四角なので▲2七角と先着したが、平凡に▲7五同歩と取ってよかった。
△5四角には▲3四角が強烈な一手で、△2五歩と歩を使うしかなく、▲8六飛と決戦して先手が良かった。
▲2七角△5一飛にそこでも落ち着いて▲7五同歩と取れば先手が良かったが、▲4五桂と手が止まらない。
フィッシャールールのabemaトーナメントらしい打ち合いの末、三枚堂七段が金星を挙げた。
図からの指し手
▲2七角 △5一飛 ▲4五桂 △2五歩 ▲6六飛 △4五桂
▲同 角 △4四歩 ▲2七角 △6五歩 ▲同 桂 △7四桂
▲4六飛 △6五桂 ▲4四飛 △4三金 ▲4六飛 △5四桂
▲1六飛 △6四銀 ▲4五角 △3二銀 ▲3四桂 △5二玉
▲2二桂成 △3三銀 ▲3二成桂 △4四銀 ▲2三角成 △6三玉
▲3四歩 △5六歩 ▲同 歩 △6六桂左 ▲同 歩 △同 桂
▲4八玉 △7八桂成 ▲3九玉 △6八成桂 ▲2九玉 △2六金
▲同 飛 △同 歩 ▲2四馬 △8一飛 ▲6八馬 △8七飛成
▲3三歩成 △5三金寄 ▲6六桂 △3七歩 ▲同 銀 △2七歩成
▲同 歩 △2六歩 ▲7四金 △7二玉 ▲8四桂 △8一玉
▲8二歩 △7一玉 ▲6三歩 △6一金 ▲6四金 △同 金
▲4六馬 △8四龍 ▲6二銀 △同 金 ▲同歩成 △同 玉
▲6四馬 △同 龍 ▲7四金 △2七歩成 ▲6三歩 △7一玉
▲8一歩成 △同 玉 ▲8二歩 △7一玉
まで134手で後手の勝ち
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