将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【横歩取り】青野流対策

名人戦で現れた青野流

図の△2六歩が目新しい手。
それまで△7六飛(長岡新手)▲7七角を入れてから△2六歩と垂らす順が定跡とされていた。そこから▲3八銀と受けて先手の勝率が良かったが、さらに受けずに▲8四飛でも先手が指せることが発見され、長く後手の課題となっていた。
このタイミングの△2六歩(図)は、青野流に対する決め手となるのではと、一時期盛んに指された。
プチ自慢だが、実は、私はそれ以前から有力視していて、秘かに(洗面器の水くらい浅い)研究をし、△6二玉型で試みたりしていた。プロ間で流行するようになって、うれしい反面困ったと複雑な気持ちだった。


▲2八歩と受けると▲2二歩の攻めがなくなる。
青野流の黎明期に木村一基九段が図の局面を試み(2013.8.22第72期順位戦B級1組05回戦)、先手の丸山忠久九段は▲3八金と受けた。この将棋は結果が出なかった上、△7六飛が本命視されていたこともあって注目されなかった。
当時の定跡書である村山顕弘著『現代横歩取りのすべて』(P.205)では、「▲3八金と受けられて、利かしと判断するか指し過ぎと判断するか難しいが、以下△7六飛▲8四飛△8二歩▲7七桂と進んで△2六歩を生かすのは大変なようである。」と書かれている。


その後、大橋貴洸四段が図の△2六歩を復活させた。対戦相手の藤森哲也五段は▲3七桂と強気に対応したが敗れ、△2六歩には▲3八銀が有力とされた。
片上大輔七段著『平成新手白書』によれば、初めてこの手順が実戦に現れたのは上村五段vs大橋四段(2018.5.16竜王戦)らしい。大橋四段の慧眼だ。


陽の目を浴びるようになったのは、棋界のlegend羽生善治が絡んでから。
王位戦で羽生竜王(当時)相手に松尾歩八段が試み、この手の可能性に気付いた羽生竜王が数日後の名人戦第4局で逆を持ち、続けざまに図の局面が現れた。
時の名人は、佐藤天彦。
もちろん準備は怠っていない。用意の一手があった。





名人戦では、上図の局面から▲3八銀△8八角成▲同銀△2七歩成▲同銀△5五角(図)と前例通り進行。
最も自然な手順だ。
下図の局面が大きな分岐点。


ここでの候補手は、①▲7七角(上村vs大橋)と②▲8七銀(羽生vs松尾)。
①は、△7六飛▲2二歩△3三桂▲2一歩成△4二銀▲2四飛△2三歩▲8四飛に△2八角成▲3八銀△4五桂▲8一飛成△3七歩が予想され、先手の飛車成りも大きいが、△3七歩も厳しい。桂馬を入手すれば△6五桂がある。
②の▲8七銀が有力。
後手は勢い△同飛成▲同金△9九角成と二枚替えで勝負。
そこで▲2三歩が佐藤名人の新手。
並では思いつかない一手で、名人(当時)のセンスの良さが表れている。
対戦相手の羽生竜王は、△4四馬としたが▲同飛△同歩▲1六角の王手が気持ちよい。
△4三香▲8五飛△8二歩▲3八銀から先手の角を5六に転回して優勢になった。
△4四馬では△3三馬が優るが、▲3五飛△2三馬▲3七桂△8三歩に▲8二歩が佐々木大地五段の新手。
△8二同銀に▲2四歩と拠点を作り△3三馬に▲5六角が狙いの一手。△4二銀と受けるが▲8五飛と今度は8筋を狙う。
△7二金には▲8三歩△7一銀▲8四飛打で突破される。
仕方のない△8三歩に▲同角成△同銀▲同飛成△7一金▲8二銀△9四銀▲7一銀不成△8三銀▲8二飛△4一玉▲6二銀成△5一香▲8三飛成△7九飛▲6九金△8九飛成▲7八銀△9八竜▲8九歩


この将棋の印象が強く、最近まで先手有利と結論が出たものと思っていた。



図の△3三桂が驚きの一手で横山泰明七段の新手。
△3三馬なら常識的だが、2一に空間を作る△3三桂は盲点だ。
実戦も▲2一飛とした。次に▲2二歩成が厳しく当然の一手のようだが、先に▲8二歩の利かしが要ったか?
▲8二歩に手抜きして△8九馬は▲8一歩成△6二銀▲8二とで、飛車の手持ちが大きい。△6四香▲7七金△6七香成▲同金△6九銀▲4八玉△6七馬に、飛車取りに構わず▲8一飛で優勢だ。△7一桂の粘りには▲6四桂が厳しい。△同歩▲同飛が馬取りなので△5六桂▲同歩△5七金▲3七玉△4五桂(△4九馬は▲7一とが詰めろ)と攻めるが、危ない様でも▲4六玉と逃げて上部が広い。
▲8二歩には△同銀▲2一飛△6二玉が横山の予定で、以下▲8三歩△同銀▲1一飛成△8九馬▲5六角なら△7二銀で後手有利。
後手としては▲4一角が気になる変化だ。△8九馬▲2二歩成△6六桂▲4八玉△6七馬は▲6四歩で先手の調子が良い。


▲2一飛△5一金▲8二歩※1には△同銀と取ってくれない。
△8九馬▲8一歩成△6四香が遠く飛車を睨んで厳しい。
▲7七金と受けても△同香成から△6九銀で寄せられそう。※2
非常手段で▲6四同飛としたが、△同歩▲7一と△7八飛▲6八銀△7九銀の後、期待の▲9六角のタイミングが悪かった。
△7四桂に▲6九香と受けに回ったが、銀交換して△6九銀が決め手で▲5九玉に△4五桂で投了となった。
桂成を受ける▲4六銀は△7九馬が受からない。銀を手持ちに▲4八金は△7九飛成▲4九玉に△5八銀成▲同玉△7八馬で必死がかかる。


△6四香に単に▲5九桂と受けたのが服部四段。
村山七段は△2六歩▲同銀△6七香成▲同桂△6六桂▲4八玉△6七馬▲5六角△4九馬▲同玉△4五銀▲同角△同桂と攻めたが、▲7一とが回って先手優勢だ。
△6二銀▲8二ととして同様に攻めても△4五銀に▲3三飛成で先手一手勝ち。
したがって△6四香では単に△6二銀だったか?
▲8二とには△6六桂▲4八玉△6七馬▲5六角△4九馬▲同玉△2五香となって後手玉が遠い。


※1 羽生善治著『現代調の将棋の研究』(浅川書房)に詳しいが、羽生九段の見解は▲7七桂で先手少し良し。
※2 実際は、▲4八玉△6七馬に▲6四桂(取れば▲同飛が馬に当たる)△4二玉▲5六香で先手が良かった。





現代風の△6二玉

藤井vs西尾

藤井聡太七段との対局で、西尾明六段が▲5八玉に△6二玉の青野流対策を試みた。
対しては、青野流を目指す▲3六歩か、▲3六飛と通常形に戻すかの二択と思われたが、藤井七段は▲9六歩と打診、第三の選択肢があった。


『コンピュータは将棋をどう変えたか?』※という著書がある西尾六段は、▲3六歩の青野流に△8二歩と自陣のキズを消す手を用意していた。次の狙いは△8八飛成▲同銀△5五角だ。
また、▲3六飛と通常形に戻す手は、『【横歩取り】羽生九段vs永瀬叡王(△6二玉型)』で触れたように△7二銀とミノ囲い風に固め、2筋を圧迫していく実戦例が多い。
新鋭黒田尭之四段が、関西棋界のlegend谷川浩司九段を相手にした示唆に富んだ模範局(朝日杯)があるので、後に紹介する。


※「CSA著述賞」受賞作品


実戦は、▲9六歩△9四歩を入れて▲3六歩としたので、△8二歩に▲7七桂と角交換を避ける手が成立した。こうなると△8二歩が悪形だ。
終盤力が注目される藤井七段だが、序盤もカラい。
そして中盤から終盤に差し掛かる局面では、持ち味を存分に発揮する。


図からの指し手
▲9六歩 △9四歩 ▲3六歩 △8二歩 ▲7七桂 △7六飛
▲3七桂 △5五角 ▲8七金 △7五飛 ▲3八銀 △3三桂
▲9五歩 △4四角 ▲9四歩 △9六歩 ▲2四飛 △3五歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3六歩 △同 飛 ▲3四歩 △2三歩
▲3三歩成 △2四歩 ▲3二と △同 飛 ▲4五桂 

図の▲4五桂が大胆な一手。△3七歩に▲6五桂と攻め合って△3八歩成▲4四角△同歩▲5三桂右成△7二玉▲9三歩成の詰めろで勝ちというのが藤井七段の読み。
しかし、▲4四角に△4九と▲5三桂左成△5一玉の変化は難解。
後手としては踏み込むべきだったが、△3七歩に▲2九銀と耐える手もあって難しい。


図からの指し手
△3五飛 ▲4六金 △2五飛 ▲2六歩 △同 飛 ▲2七歩 
△3七歩 ▲2六歩 △3八歩成 ▲同 金 △3七歩 ▲3九金 
△3八銀 ▲2八金 △3九飛 ▲6五桂 △8八角成 ▲同 銀 
△7八角 ▲5九桂 △8九角成 ▲4一飛 △7八馬 

図の局面から▲5三桂左成で詰み。
すぐに指しそうな▲5三桂右成を保留していたのは、この手のためだった。
流石の終盤力!


図からの指し手
▲5三桂左成 △7二玉 ▲6一飛成 △8三玉 ▲6五角
まで75手で先手の勝ち




谷川vs黒田

谷川浩司九段は、△6二玉型を咎めるため、8筋の歩を打たないで、ヒネリ飛車模様にした。
黒田四段は西尾流の△8二歩を打たず、8筋に飛車を置いたまま戦う構想。
△9四歩が、後に大きな意味を持ってくる。
図の▲2六飛に対する後手の黒田尭之四段の応手が意表を衝いた。
△3一金!
▲2三飛成には△2四歩と蓋をする意図だ。
仕方なく▲4八銀と整備したところへ、△9三桂!(図)が跳んできた。
黒田四段にはじっくり美濃に囲う意志はなく、盤面全体を戦場にする決意だ。

放置すると△8七歩▲9七角△8五桂が厳しいので▲8七歩は仕方がない。
△5二玉は戦いの準備。
次の▲3六歩(図)は少し危険だったか?


図の局面では△8六歩のチャンスだった。
▲8六同歩△同飛に▲2三飛成は△8七歩▲9七角△7六飛で▲6八銀と受けても△8五桂がある。
▲8六同歩△同飛に▲3五歩は△8七歩▲9七角△8一飛で次の△8五桂を狙って十分。
▲8六同歩△同飛には▲8七歩△7六飛▲2三飛成が本線の変化だが、△8五桂が気持ちいい。
▲3三竜△同桂▲8五桂には△8四歩で、▲3四桂に△8五歩として、銀桂交換でも二枚桂を持って△5四桂の狙いが厳しい。
横歩取りでは桂馬の価値が高い。
ただ△8五桂に▲6八銀と受けられる変化に自信を持てず、実戦は△2四歩と妥協した。
▲3七桂に△3四飛と牽制し、▲4六歩に△7四飛のタテ歩取りが受からない。▲4七銀に△7六飛▲4五桂△4四角▲2四飛△2二歩▲2三歩と先手好調だが、後手もかねてから狙っていた△8五桂(図)が実現した。

前の△8五桂の変化と同じで、先手としては、▲4四飛と▲6八銀どちらも有力だ。
光速流は▲4四飛かと思ったが、実戦は▲6八銀。善悪はともかく後手としては8五の桂を取られることはないので安心した。
△7四飛▲6六歩△7七桂成▲同銀△3七歩▲4八金△8五桂▲7五歩△7七桂成▲同金(図)と進行。
飛車取りだが、後手の次の一手は誰も当たらないだろう。

ここで感覚破壊の一手が飛び出す。
△3三角と自分から飛車角両取りに飛び込んだのだ。
この手にどう応じても飛車が捌ける。
▲7四歩と飛車を取ると、△2四角と取られそうな角に逃げられる。
▲2九飛と飛車を逃げても、△2四飛と捌ける。
実戦は▲7四飛△同歩▲3三桂成と角を取ったが、後手は飛車を手持ちにできた。
△3三同銀に▲4五桂だが、他に▲8四桂も自然な攻めで、△8一銀は▲7三桂、△8三銀は▲8一飛で受けにならないので△8九飛と攻めるが、▲7九角打△8五桂▲7八金△7七銀に▲7二桂成が二手スキ。仕方のない△7二同金に▲9八銀と粘る。△7八銀▲8九銀△7九銀▲同角として次に△5五桂や△7六角があるが、攻めが細い。
実戦の▲4五桂にも、△8九飛(図)で受けが悩ましい。

平凡な▲7九角打は、やはり△8五桂~△7七銀が早い。
そこで▲7八金としたが、△6九銀▲6七玉(▲6八玉は△7六桂)△5五桂▲7七玉△7八銀成▲同玉△1九飛成が次の△6七金までの詰めろ。▲5八銀と受けても△7六香が痛い。
実戦は▲7七玉だが△7五歩と自然に歩を取られて詰めろ。
▲5三桂成が最後のお願い。
△同玉なら▲4五桂として△4二玉なら▲7五角成と粘る狙いだが、そこで△6九竜くらいでも後手優勢だった。
後手は△4一玉と逃げた。安全策のつもりだったが、逆に少しだけ怪しくなった。


図の局面では、▲9七角打とわざと両取りにかかる妙手があった。
△8五桂▲7四歩△4二銀に▲6五桂と数の攻め、△6四銀と受けて難解な形勢だ。


図からの指し手
▲7八金 △6九銀 ▲6七玉 △5五桂 ▲7七玉 △7八銀成 
▲同 玉 △1九飛成 ▲7七玉 △7五歩 ▲5三桂成 △4一玉 
▲5八銀 △8九龍 ▲7九銀(図) 


後手必勝の局面だが、図の局面で指した△7九同竜が大悪手で谷川九段は命拾いをした。
平凡な△7六香なら▲8六玉△7九香成の局面で後手玉にうまい詰めろがかからず、黒田尭之四段の勝ちだった。



飛車角総交換

第77期名人戦第一局は角換わりから千日手指し直しになり、後手番になった佐藤天彦名人は、得意の「横歩取り(取らせ)」を選択した。
先手の豊島八段は、最有力とされている青野流で対抗。
後手も△7六飛と横歩を取って▲7七角に△7四飛と交換を挑んだ。
△7四飛で昔は△2六歩▲3八銀が定跡だったが、▲3八銀の代わりに▲8四飛が有力なのが分かって後手が避けるようになったのは最初に記した通り。
△7四飛に▲同飛△同歩で先手の次の一手は、桂馬を活用する▲3七桂。
積極的だが飛車打ちの隙もできる。
他に▲2四歩も考えられた。

▲3七桂に角交換から△8六歩とした。
桂馬を跳ねさせたことによって飛車打ちの隙は生じたが、二枚桂は後手陣にとって脅威。
角交換せずに単に△8六歩も考えられた。
このあたりの判断は微妙。
先手は桂跳ねを楽しみに▲8八歩と謝った。
△6四角▲3八銀に△2八飛としたが▲6九玉とされるとパンチが軽かった印象。
△2八飛で2七歩は、▲2九歩なら△8九飛だが、▲2四飛 △3三桂 ▲2七飛 △2五歩 ▲6五桂 △6二玉 ▲6六角 △4二銀 ▲2五桂 △4五桂 ▲1一角成 △1九角成 ▲3五香 △5五香 ▲6八銀 △7五飛 ▲7九歩 △3一金 ▲同香成 △同 銀 ▲6六金が変化の一例で先手有利。



専守防衛の△2二銀~△4二玉

初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲5八玉 △2二銀
▲3六歩 △4二玉 ▲3七桂 △6二銀 ▲3八銀 △5一金

後手の飛車は8六の位置で頑張る。
当初は△8二飛と引いて△8八角成▲同銀△3三銀▲3五飛△4四角を狙うのが定跡だったが、3四の飛車を利用して▲8三歩~▲8四歩で先手有利になることがわかり、廃れた。
急戦は青野流の望むところで、戦略的にも図のように固めるのは正しい。


先手の▲3八銀は桂に紐をつけて必要な手のようだが、反面△2八角を狙われたり、△2七歩を利かされたりする。
▲3八銀に代えて▲2四歩と攻撃的に指すのも一案。


先手は▲8七歩△8二飛▲7七桂と攻撃力を増強したいが、△4四角と攻めの目標を躱されるて困る。
8筋の歩は手持ちにしておいてくことが大切だ。


先手は好きなように攻めの構想を組み立てる事ができる。
『長岡研究ノート』では▲9六歩を推奨している。
良い感じの手だ。
後手は△7四歩を突くために△2三銀▲3五飛△7四歩と動き、▲7七桂に△7三桂と対抗するのが一例だが、△7四歩は持久戦にしようという方針に反している。
また△2三銀の形も後に2四を狙われたり、角のラインを開けて不安だ。
▲9六歩には△9四歩と手待ちし、▲7七桂には△4四角と受けておくのが手堅い指し方で優秀だ。




青野流の勝率が良いというイメージを持っていたが、将棋年鑑2019を見ると、意外に△4二玉型が勝っている。
なぜか図から▲9六歩の実戦例は見当たらず、▲4五桂や▲3五飛が多い。
持久戦は先手不利という認識なのか?


斎藤vs髙見

横歩取りを得意とする高見七段や木村王位に△2二銀~△4二玉の採用が目立つ。


図からの指し手
▲3五飛 △8二飛 ▲2五飛 △8六歩 ▲8五歩 △2四歩
▲3三角成 △同 銀 ▲2九飛 △8五飛 ▲8八歩 △5四角 


髙見七段対斎藤慎太郎八段(王座戦)では、図の局面から先手は▲3五飛と目標になりそうな飛車の位置を安定させようとした。
しかし△8二飛と引かれてみると、▲8七歩と受けるのは△8八角成から△3三桂でやはり飛車が不安定。そこで強気に▲2五飛だが、△8六歩の垂らしに対し▲8五歩と受けるしかなく、結局△2四歩から取られてしまった。
後手はさらに8筋攻めを狙って△5四角と好調だ。
▲7七桂△8二飛の後、先手は▲5六角と対抗したが、▲6六角と攻防に打つ手も有力だった。
以下△7六角▲2五歩△5二玉(△6四歩)▲2四歩△2二歩が変化の一例で、互角の形勢だ。
他に▲4六歩として△7六角に▲4五桂△4四銀▲2四飛△2二歩と手持ちの歩を増やして8筋攻めに▲8三歩からの連打を用意するのも有力だ。



▲7七桂 △8二飛 ▲5六角 △7六角 ▲2五歩 △8四飛
▲1六歩 △2五歩 ▲同 飛 △2四銀 ▲7五飛 △5四角
▲8五飛 △同 飛 ▲同 桂 △2七歩 ▲同 銀 △3五歩
▲3八銀 △2六歩 ▲4五桂 △2七歩成 ▲同 銀 △2九飛
▲3八銀 △1九飛成 ▲8二飛 △6四歩 ▲7二歩 △3三桂
▲同桂成 △同 玉 ▲4六桂 △7六角 ▲8一飛成 △2六桂
▲3七銀 △5五香 ▲2六銀 △5六香 ▲同 歩 △6六角
▲3九桂 △2八龍 ▲3八桂 △4四歩 ▲3四香 △4三玉
▲3二香成 △同 玉 ▲5七金 △同角成 ▲同 玉 △6五香
▲6八玉 △6六金 ▲5八角 △6七金 ▲同 角 △3八龍
▲同 金 △6七香成 ▲同 金 △同角成 ▲同 玉 △4九角
▲7八玉 △6六桂 ▲8九玉 △6七角成 ▲7八香 △7七金
▲5二飛 △同 金 ▲2三角 まで先手勝ち


このように後手に専守防衛の構えを取られると、3四の飛車が負担になりやすく、青野流を指しこなすのは意外に難しい。
少なくともアマチュア向きの戦法ではない。
しかし多くのアマチュアは、後手で△5二玉~△7六飛のような好戦的な指し方を好むので青野流がツボにはまるのだ。





△4一玉型もあるが危険。
しかし、角取りを放置しての△2八歩など、郷田九段の指しっぷりには惚れてしまう。

優秀な△4二銀型

通常形に変化した場合

△4二銀型は、青野流に対しては最有力だが、通常形に戻された場合にどうか?
18手目△4二銀に対して▲3六飛と青野流を止めた場合、▲2六飛に対して2筋に歩を打たされる展開になる。
△2四歩と受けたのが髙見六段。
△8五飛として▲2六飛に△2五歩を用意したのが工夫。
▲2六飛△2五歩▲2八飛△8六歩▲3三角成△同桂▲8八歩の進行は、一応後手も満足の展開。
△2三歩と受けたのが小林七段。下図のように5筋の位を取って押さえ込む作戦は有力。




△4二銀型の基本形

▲3七桂に△2二歩とすれば▲4五桂は、角交換して△1二角(△2三角)▲3五飛△4四歩で桂馬の高跳び・・・
そして放置すれば△8八角成▲同銀△5五角▲7七角△7六飛などの狙いがあるので▲3八銀(下図)まで先手が青野流を選択すれば、下図の▲3八銀までは一般的な進行。

図の局面から△7二銀が豊島vs永瀬(叡王戦第四局)や梶浦vs羽生(竜王戦)など重要な将棋で戦われた注目の形。△8二飛の時の飛車の頭をcareしている。
△7二銀に豊島竜王名人は▲3五飛、梶浦五段は▲1六歩を選択、アベマAIは▲9六歩を推奨している。

今日の梶浦対羽生戦の25手目の局面は、5局あって、まだ後手が負けてないようですね。私も後手で2局やってて、1勝1千日手でした。先手は96歩か35飛が前例でした。16歩は新手のようですね。

              飯島栄治さんのツィートより

△4二玉+2二銀型だと後々▲3四桂が痛いが、△4二銀+4一玉+2二歩型にはそういった弱点はない。
おまけに△7二銀型なので8筋も強く、後々横歩取りも狙える。
あえて弱点と言えば、端(1筋)が薄いことくらいか。
端を詰めて△8二飛に対しても8筋に歩を打たずに頑張り▲8三歩をからめて飛車を切って▲5六角というのが一つの理想手順だが、△7二銀型だと効果がない。
先手陣は飛車打ちの隙がないが、後手の△2二歩型も堅い。


▲9六歩△8二飛▲8四歩△2三金▲3五飛△8四飛▲2五飛△8六歩▲8五歩△7四飛と進行したプロの実戦があり、後手が勝っている。


図の局面から△8八角成▲同銀△2八角の筋には▲3二飛成から▲2九金を用意している。
それに挑戦したのが横歩取りの研究家上村亘五段。
あえて△2八角と打って豊島将之竜王名人に勝利している。
研究する価値のある手段のようだ。


△2八角に対しては飛車切りの他に▲7七角も考えられる。
△8二飛と穏やかに引いてくれるなら角取りに▲2四飛と回って成功だが、△7六飛とされてどうか?
いずれにせよこの筋は軽視すると痛い目に遭うことがあるので注意が必要だ。
▲3八銀の代わりに▲3五飛~▲2五飛とすれば防げるが、後手に△7四歩~△7三桂と活用されると玉形の差で先手が大変かもしれない。

▲9六歩~▲7七桂と角交換を防ぐ手順も自然だが、▲9六歩の瞬間△8八角成▲同銀△3三銀▲3五飛△4四銀▲2五飛※△3五歩と桂頭を攻め、▲同歩なら△5五角で後手が指せる。


※▲2五飛では▲6五飛△5二玉▲3八金が安全。▲3八金で▲7七角などは△2七角▲6六飛△5五銀▲6五飛△4四銀と千日手にされる。





藤井聡太を破った△8二飛

初期によく指された対策。

△8二飛から△2二銀は先手の不安定な飛車を狙って初期に良く指された。
次に角交換して△3三銀とし、▲3五飛と逃げるのなら△4四角で後手優勢になる。
△3三銀の瞬間に▲8三歩~▲8四歩と連打して▲3五飛と引くのが定跡。
△8四飛に▲6六角と打って先手が指せる。
△8二飛▲4五桂△4四銀▲同角△同歩▲8三歩△5二飛▲5三桂成が変化の一例。
※ただし、勇気流の場合は△8六角の筋があって▲6六角は無効、▲7五角が正しい。


△2六歩の垂らし

この△8二飛の後△2六歩▲3八銀を利かせたのが大橋六段。
相手は藤井七段(当時)、同時に四段昇段した間柄だけに負けられない思いは強い。
この時点で対戦成績は2勝2敗の五分だった。


羽生著『現代調の将棋の研究』(浅川書房)に詳しいが、△2六歩に▲3七桂も成立する。
また▲8三歩を利かすかどうかも難問。
アベマ📺では、攻めるなら▲8三歩、受けるなら▲3八金で先手勝率52%と出ていた。
実戦は▲3八銀だが、評価値は変わらず。
最善手(のひとつ)だったようだ。


▲3五飛に対する△6二銀で△4四角は▲7七角と受けられても大したことがない。
△6二銀に対するAIの候補手に▲3七桂や▲2五飛▲8七歩などに交じって▲8六歩!という手があって三枚堂七段も解説にお手上げ。
8筋に歩を打つなら▲8三歩、▲8四歩、▲8五歩、▲8七歩は思いつくが、▲8六歩は謎だ。


人間としては▲3五飛の継続手として▲2五飛~▲2六飛としたいのだが、△4四角がある。
△4四角の筋を避けて▲8七歩と守ったが、それでも△4四角が飛んできた。
△2六歩を取られては後手の主張がなくなる。
なお、△4四角では△3三桂もあり、先手の指し方も難しい。


青野流が優秀過ぎて、横歩取りは終わった?と思っていたが、研究を深めると青野流はあまりいい戦法と思わない。
そういえば羽生九段は、あまり青野流を指さない印象がある。


ここで▲9二竜だった。
実戦は▲9二飛だったため△4五桂から後手が二枚飛車を封じ込めて逆転した。