将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【横歩取り】△8四飛+7二銀型

石垣島で指されていた△8五飛戦法

△8五飛戦法の大流行で一躍後手の主流戦法となった横歩取り戦法は、ループして30年以上昔の△8四飛+5二玉型に回帰、ただし、△7二銀型が比較的新しい。
と書いているうちに、何やらデジャブに襲われた。
「俺、昔指していた事あるじゃん」


後にアマトップになった蛭川敦君(三重県)が売り出してきた頃、有力と思ってアマチュア全国大会で彼相手に指したのが△7二銀型だった。
その将棋は、△7四歩~△7三桂~△6四歩~△6三銀~△6二金~△8一飛と組み、2筋のキズも痛く、大体歩損しているのに持久戦では作戦的に失敗。結果が出なかったこともあって、すっかり忘れていた。


当時の横歩取りの思い出がもうひとつある。沖縄で△8五飛戦法に出会ったことだ。

あれは何年前だったろう。中学校の先生をしているO君と沖縄に遊びに行ったときの話だ。

目的はスキューバだったが、暇つぶしに将棋がしたくなった。友人も乗り気で石垣島支部に連絡して指してもらうことになった。

中に横歩の得意な相手がいたが、彼の指し方が変わっていた。 

▲3四飛と横歩を取った手に対し△3三角。まあこれは普通の手だ。

私は▲3六飛とした。以下△8四飛▲2六飛△2二銀▲8七歩となるのが定跡。

ところが相手は先に△2二銀。

私は▲8七歩と打った。ここで△8四飛なら手順は変わっても定跡形に戻る。

ところが、相手は△8五飛と異様な位置に引いたのだ。 

定跡にない手なので、何とかこれを咎めようと試みたが、うまくいかず、連戦連敗した。

聞くと沖縄好きの森雞二プロに教わった戦法だという。


これが数年後に中原玉と組み合わさって『中座流8五飛戦法』として大流行するとは、夢にも思わなかった。ましてや、現在は廃れて指す人もいなくなるとは。。。


そういえば沖縄との直通便だった南西航空も無くなった。 


森雞二九段に教えてもらった戦法とのことだが、後日機会があって森雞二九段に確認したところ、「ゴキゲン中飛車は指していたが、△8五飛は違う」と否定された。


そういえば、ミレニアム囲いが流行った頃、米長邦雄先生に「A級順位戦の対熊谷達人でミレニアムに囲ってましたよ」とネットで指摘したことがあった。ご本人の将棋にもかかわらず、覚えてなかったご様子に驚いたが、記憶の風化は他人ごとではない。
米長邦雄は、中原誠の後任として日本将棋連盟会長に就任。「あの人は富士山や月と一緒で、近くで見ると汚いよ※」という理事の先生もいたが、故人となった今では大山康晴15世名人の次に尊敬する棋士である。
よく『アマデウス』について語っていた。
私は、ライバルの中原誠をモーツァルトに、自身をサリエリに擬えているのかと思っていたら、そうでなく、いわばニーチェの『悲劇の誕生※』のディオニソス的な存在としてモーツァルトを見、自身と重ね合わせていたようだ。中原先生は、どちらかというとアポロン的な存在かな?


※当時、一部女流棋士の連盟からの独立に高圧的な態度を見せていたことや天皇陛下の前での「君が代」発言、コンピュータソフト相手に自分だけが法外な対局料を取ったことなどが問題になっていた。
※日経新聞の「私の履歴書」欄に書かれていたが、ニーチェの『悲劇の誕生』『ツァラトゥストラかく語りき』は、'60年代頃の学生の必読書だった。同級生の中には小学生の時に読破していた猛者もいた。
付け加えると、最近話題になった吉野源三郎『君たちはどう生きるか』も小学校の図書館に置いてあって、良く読まれていた。
良い時代に育った。


22手目問題


旧ブログで「横歩取りの7つの門」と題し、22手目に△1四歩△5二玉△4一玉△6二玉△2三銀△7二銀△3四飛のどれが良いか研究したことがあった。
今では、17手目に青野流・勇気流という大きな門があって、なかなか7つの門までたどり着けないが、アベマTV主催の「魂の七番勝負」で木村九段は、近藤誠也五段相手に△7二銀を採用した。
近藤誠也五段の▲7七角に手損を厭わず角交換し、桂頭攻めを狙った。例えば▲3六歩と突くと、△2五歩▲2八歩△7四歩で次の△7五歩が受けにくい。
△9四歩に端を受けたのは、後手に手段が多く、先手が損だった。


現代の△7二銀型は、なかなか△7四歩を突かないのが特徴だが、桂頭を狙ってこの際の急所。
先手は、後手の飛車の横利きが止まった機会に▲1六歩の地獄頭突き。取れば▲1二歩~▲2一角で勝てる。
すぐに狙いの△7五歩を決行するのは、▲同歩△7六歩▲同飛△5四角▲6六飛△7六歩に▲6五桂と逃げられる。後手は△7三桂▲1五歩としてから△7五歩を決行。今度は△1八歩の狙いもあるので△5四角の筋がより強力。そこで▲6六角と据え、角切りを用心した△2三歩にじっくりと▲1四歩は近藤五段らしい指し口だ。
ここからこの将棋は意外な展開を見せる。
△1五歩▲7五角△1四飛▲5六飛に△5四飛とぶつけたのだ。
近藤は喜んで交換した。


△5四同歩と玉頭がぽっかり空いた後手陣をどう攻略するか?
例えば▲2一飛と打って次に▲2二飛成△同金となれば▲5三銀から詰む。
受けの棋風なら▲3九金を選んだだろう。
攻めの棋風なら▲5六歩~▲5五歩か?
近藤の選択は、▲3六歩。
この手は▲3五歩だけでなく、△2六飛~△7六飛といった筋の防ぎにもなっている。
先の▲1六歩といいプラスになる手を積み重ねていくのが近藤将棋。
将来の名人候補の一手だ。