将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【ヒネリ飛車】古い皮袋に新しい酒を注ぐ

果たして終わった戦法なのか?

ヒネリ飛車戦法は、かつては「横歩取り」に対して「縦歩取り」と呼ばれた流行戦法だったが、後手が△3四歩を保留するようになってその名は自然消滅、ヒネリ飛車と総称されるようになった。
「先手必勝の戦法があるとすればそれはヒネリ飛車だ。(ヒネリ飛車最強説)」とまで言われたが、昨今は凋落が著しい。
減少傾向の中、竜王戦で佐藤康光が試みたのが、タイトル戦で見た最後。
渡辺竜王の意表をつくことはできたが、普通に指され、普通に悪くなった。
「ヒネリ飛車は終わった」
ところが、最近になって見直されているようだ。
いったい何が起こったのか?



伊藤匠の後手番ヒネリ飛車

伊藤匠六段が対広瀬章人八段(竜王戦)で70手で快勝。
後手番ながらヒネリ飛車を採用した。 

角交換して△3三桂、以下▲2六飛に△5四飛と中央を狙う。

▲3七桂が疑問手というから将棋は恐ろしい。
しかし、第一感の▲4八金は△1五角▲2八飛△3五歩▲同歩△2四飛▲2三歩△4八角成▲同玉△3六金と攻められてうるさい。
次に△3七歩▲同桂△3五金という要領だ。


▲3七桂は4五桂跳ねを阻止して普通の手のようだが、図のように△4四角▲2九飛△3五歩と桂頭を狙われる。
これに▲2七角や▲1八角と受けて飛車を狙うのは、△8八角成▲同金△3四歩▲同角△3四飛となって売れきれない格好だ。


仕方なく▲2六飛としたが、△2四歩(図)と飛車を圧迫するのが心憎い呼吸。


遡って図では、▲3五歩と自分から潰されにいくような手の方がまだ良かった。
△同角▲5六飛△同飛▲同歩△5七飛▲6九玉△5六飛成に▲8二角に期待する。
なお△5六飛成で△7一玉と角打ちを防いでも、▲3六飛の自陣飛車が好手で先手優勢。





斎藤明日斗四段のヒネリ飛車

第三回アベマ将棋トーナメントでヒネリ飛車が頻出しているが、火付け人は斎藤明日斗四段のようだ。
序盤の手順が若干昔と違う。
▲3八銀△7二銀▲9六歩△9四歩を経てから飛車先交換して浮き飛車が現代風だ。
昔は飛車先交換の価値が高いと思われていたため、急いで飛車先を交換し、▲2六飛と相手の飛車先交換を防いでいた。
ヒネリ飛車最強説も、先手だけ飛車先交換ができることが根拠になっていたと思う。


すぐに飛車をヒネるのではなく、対高野秀行戦のように6四の横歩を狙って機敏に仕掛ける(図)。
玉を美濃囲いに深く囲わないで、いきなり戦いを起こすこの形は、昔、塚田泰明九段も試みていて、「新・塚田スペシャル」と名付けていた。
アスト流は、▲4八玉と5筋の歩を守っているのがポイント。
場合によっては▲5八玉と戻す手も視野に入れ、△6二玉型横歩取りの感覚だ。


図から△1四歩とすれば6四の歩は受かっている。取れば△2八歩がある。
そこで塚田スペシャル風に▲1六歩と△2八歩に▲1七桂を用意すると、後手の指し方が難しい。
△8四飛には塚田スペシャルの▲1五歩ではなく、俗筋のようで打ちにくいが▲2三歩の直接手が厳しい。
△1三角に▲2五飛(▲2六飛は△3五角がある。)△2四歩▲4五飛△2三金▲1五歩で痺れている。△同歩なら▲同香で△1四歩も▲同香△同金▲1五歩で困っている。
角が窮屈なのだ。


△1四歩▲1六歩の局面で、加藤一二三vs有吉道夫では△7六飛として▲8二歩△9三桂▲6四飛に△3四歩▲7七桂と進行。
△2八歩や△2七歩など手段が多く、後手が面白い。
▲6四飛では▲8一歩成とすれば先手が良かった。


図の局面では、△3四歩が最善のようだ。
角交換して▲7七角の筋は△2三歩で受かる。
以下▲8六角(▲2三飛成△同銀▲8六角は、△2八歩で失敗)△2四歩▲7七角△3三桂▲8三歩△8四飛が変化の一例。
△1四歩▲1六歩の交換を入れてから△3四歩とすると、△2八歩の狙いがボケる。


もし△4二玉でなく、△4二銀型なら▲2三歩に△3一角があるので角は楽。
嬉野流のような戦いになる。
アスト流は、角を引かせて▲3六歩~▲3五歩。
対渡辺大夢などの実戦例がある。


「羽生の頭脳」では、▲1六歩を勧めていたが、違和感がある。
ヒネリ飛車を狙うなら△1四歩との交換は、後手から端攻めを狙われて損だ。
また後手が端を手抜きした場合、▲1五歩から端攻めを狙うことになるが、あまり自信がもてない展開だ。
具体的には、▲3六歩の瞬間△8六歩と合わされて▲8六同歩△同飛▲3五歩に△8二飛▲8七歩△3五歩といった変化が気になる。






▲7八銀型ヒネリ飛車


三浦九段が、豊島竜王名人相手のJT杯将棋日本シリーズ四国大会で、▲7八銀型ヒネリ飛車の工夫を見せた。
▲7八銀型でヒネリ飛車が成立すれば、玉の堅さが大きく違う。
元々は青野照市九段の新手で、私も何度か試みたが、キズが大きく破綻することが多かった。


例えば、図から△8八歩と垂らされると次の歩成が受からない。
▲8六飛とぶつけても交換してから△8九歩成とすれば終わっている。
三浦九段にどんな用意があったのか興味深い。



令和の縦歩取り


縦歩棒銀

冒頭に述べたように、△3四歩に▲3六飛と歩を取りにいく戦法を「縦歩取り」と呼んでいた。
しかし、後手がなかなか△3四歩を突かなくなり、それでも▲3六飛と「ネコ式縦歩取り(△3四歩と突けば取るぞという様子が、ネコがネズミを待ち構えるのに似ている。)」が指されたこともあったが、一手の価値が低いので指されなくなった。

図は、後手に△3四歩を突かせるために▲2七銀と棒銀を見せ、△3四歩に▲3六飛と縦歩取りにした局面。この戦法を「縦歩棒銀」という。
ここで自然な△3三金▲1六銀△6五歩▲2五銀△8四飛という受けは、実は先手の待ち受けるところで、▲7六歩△2四歩▲3三角成△同角▲3四銀△9九角成▲4三銀成で銀取りが受けにくい。
△3四香なら▲5六飛△6二玉▲5三飛成△7一玉▲5二金とガシガシ攻めてよい。
△3四角なら▲5三成銀で、後手の歩切れが祟る展開だ。


後手としては壁形だが△6二銀型の方が良い。
▲3六飛△3三金に▲1六銀△6五歩▲2五銀△8四飛▲7六歩△2四歩▲3三角成△同角▲3四銀△9九角成▲4三銀成と同様に進んで、△3四香▲4六飛△5二金に▲7二金が期待の一手だが、△6三角が受けの好手。
以下▲5二成銀△同玉▲4二金△同銀▲6二金△同玉▲4二飛成△5二金となって、

  1. ▲3二竜なら△5四角がぴったりで互角の形勢。
  2. ▲4一竜なら△5一金打▲2一竜△2七角成▲2八歩(▲7七桂△3八銀▲5八金△2九銀不成)△5四馬で互角の形勢。