将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【矢倉】△6三銀型急戦

相矢倉は終わった

先手に苦労が多い

矢倉の5手目が▲6六歩か▲7七銀かという「矢倉5手目問題」について、以前は▲6八銀のままの方が中央に手厚く後手からの急戦に対応しやすいと考えられていたが、現在は、▲6六歩は6五が争点になって危険なので▲7七銀がほとんどだ。
つまり、お互いが三枚の金銀で囲い合う「相矢倉」は終わった。
「中原の▲5七銀」や「米長の▲6七金寄」のような将棋はもう見られないのか?


後手中住まい

△6二金+8一飛が好形

AIの出現によって△6二金+8一飛が流行した。
駒の可動域を広げるのがAI好み。
8一飛型は、地下鉄飛車と呼ばれ二段目にいるより働く。
そのため一段目にいた駒を活用し、空間を作る。
それが△6二金型であり、△5二玉型だ。
論より証拠、実戦をご覧あれ。

羽生vs斎藤(NHK杯)

初手からの指し手
▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲7七銀 △6二銀
▲2六歩 △7四歩 ▲2五歩 △3二金 ▲7八金 △6四歩
▲4八銀 △7三桂 ▲7九角 △8五歩 ▲6八角 △4二銀
▲6九玉 △3三銀 ▲3六歩 △5四歩 ▲3七銀 △6五歩(図)

先手陣は、羽生著『現代調の将棋の研究』、佐藤秀司著『矢倉は終わらない』で推奨された最先端の形。
後手の急戦を警戒している。

point

  • ▲6八角で△6五桂ポン跳ねの筋を防ぐ。
  • 争点になるので6・5筋を突かない。
  • 右銀を足早に活用する。

△3三銀としたのは平凡だが珍しい。
後述するが、渡辺明vs藤井聡太(棋聖戦第3局)のように雁木模様にする実戦例が多い。
斎藤八段の△6五歩の位取りは、▲6八角と一手使ったので後の▲4六角や▲3五歩△同歩▲同角が手損になるという細かい工夫。


図からの指し手

▲5六歩 △3一角 ▲3五歩 △同 歩 ▲同 角 △6三銀
▲4六角 △6二金 ▲7九玉 △8一飛 ▲8八玉 △5二玉(図)

解説の豊島九段は、実戦のように先手が▲7九玉から囲うのは、持久戦になって後手の6五のクライが生きるので面白くない。自分なら▲3六銀と急戦にしたいという見解。

その場合でも、後手は△6一玉から右玉に組めば悪くない。


後手の斎藤八段は、△6五歩とクライを取り、引き角から△6四角を狙う。

先手は、角で3筋の歩交換をし、玉を矢倉に囲ったが、かえって目標になっている。

いつでも△8六歩で▲同歩なら△8五歩の継ぎ歩攻めが厳しい。

▲8六同銀には△2二角と玉を睨む。


図の局面から羽生九段は▲5五歩△同歩▲同角とした。

後手の玉頭の歩を切って大きな手だが、右銀が遊んでしまったので▲3六銀と右銀を活用すべきだったかもしれない。

▲3六銀には△4四銀▲2四歩△同歩▲同飛に△5三角▲3七桂が感想戦で検討された。


△9四歩は△8六歩▲同銀△2二角▲9八玉の時に△9五歩から端攻めを睨んだ手。

したがって▲9六歩と受けたのは罪が重かった。

前述の変化の時に端攻めが早くなるからだ。

そのため△8六歩に▲同歩と取ったが、後の△8五歩の継ぎ歩攻めが厳しかった。


図からの指し手

▲5五歩 △同 歩 ▲同 角 △4四銀 ▲4六角 △9四歩
▲9六歩 △8六歩 ▲同 歩 △5四銀 ▲3六銀 △8五歩
▲2四歩 △同 歩 ▲8五歩 △9五歩 ▲同 歩 △5五銀直
▲5三歩 △同 角 ▲5五角 △同 銀 ▲5四歩 △6四角
▲5三銀 △同 金 ▲同歩成 △同 玉 ▲4五銀 △8五桂
▲8六歩 △9八歩 ▲5四金 △4二玉 ▲6四金 △同 銀
▲6三角 △7七桂成 ▲同 金 △8七歩 ▲7八玉 △5五角
▲3八飛 △3七歩 ▲5八飛 △5七歩 ▲同 飛 △8二飛
▲5四角成 △8八歩成 ▲同 玉 △6八銀 ▲3四桂 △4一玉
▲5五飛 △同 銀 ▲6三角 △5二銀 ▲同角成 △同 玉
▲5三歩 △6一玉 ▲5五馬 △7九角
まで100手で後手の勝ち


渡辺名人の△6五歩位取り対策





郷田vs千田(順位戦)

角換わりに革命を起こした千田翔太七段。
レジェンド郷田昌隆九段相手の順位戦で矢倉崩しの模範解答を見せた。
5手目▲6六歩に対する阿部光瑠の模範解答(対森内戦)とともに矢倉定跡に与える影響は大きい。
これで5手目▲7七銀も窮地に。

居玉のまま得意の△6二金型の布陣を敷いた後手陣。
△8一飛~△5二玉となれば完成だ。
図から▲3五歩に手抜きで△7五歩と攻勢をかける。
▲同歩なら△3五歩と手を戻し、▲同銀には△6五桂▲6六銀△7七歩▲同桂△8六歩▲同歩△6六角▲同歩△5七桂不成といった狙いがある。
郷田九段は△7五歩を相手せず▲3四歩と取り込み△6五桂に▲7五歩と手を戻し、後手は銀桂交換に成功し、▲7四桂と打たれるキズを△8一飛と消した。
先手の飛車先交換に△5二玉と上がった形が美しい。

とにかく後手は[△6二金・△8一飛型]を作ることが先決であり、この価値がすこぶる高いからこそ、▲3五歩を無視するという指し方が成り立っている。


先手陣の乱れが目につくが、郷田九段は構わず▲2二歩と攻める。
ここからの千田翔太七段の攻めが見事だった。
△8六歩▲同歩(▲同金だったか)△7六銀
以下▲同金△8七角に▲7八桂が疑問で、△7六角成▲2一歩成に△7七歩が激痛。
銀合ならこの手はなく、▲7四桂の楽しみも残っていた。
ともあれ千田翔太七段の緩みのない寄せは眼福の限り。
先手矢倉に対策が求められる。

袖飛車(△7二飛)

渡辺明vs藤井聡太(棋聖戦第3局)

第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局については、別の記事でも取り上げたが、今回は序盤について研究する。
藤井聡太の矢倉対策が秀逸だったからだ。

現代将棋では△6二銀型よりも△7二銀型が好まれる。
早い段階で戦いになった時にこの形が優秀なのは、アルファゼロの将棋を見ると痛感させられる。

△7三桂に渡辺棋聖は▲7九角と備えた。
△6五桂▲6六銀△8五歩に▲6八角を間に合わせようとする意図だ。

△8五歩を省略して△7二飛が面白い構想。
△6五桂だけでなく△8五桂や△7五歩など攻めの幅が広い。
本譜は△6五歩が銀を追いながら位を張る味の良い手になった。
以下▲5六歩に△4四歩と雁木模様にするのが歩越し銀に歩で対抗というセオリー通りの好形。
藤井聡太の序盤の巧さが光った。

銀の進軍よりも、△7五歩→△8五桂のほうが威力も速度も上なのですね。ゆえに、先手は先攻しても最終的には追い抜かされてしまうのです。


後手5筋歩交換

森内俊之vs沢田真吾(竜王戦)

上記のように、最近の先手矢倉は5筋を突かない。
後手に次のように争点を与えるからだ。

銀が▲7七へ上がると中央は薄くなる。そこで、後手は△5四歩▲3七銀△5五歩▲同歩△同角と動くが、その瞬間▲2四歩△同歩▲2五歩の反撃がある。大丈夫か?
その場合は△3三角(△4四角)▲2四歩△2二歩と受けて▲4六銀に△6五桂と反撃するつもりだろうか?類型から△6五歩と角の退路を開き、▲2四歩に△2二歩と凹む順もタイトル戦で現れているので後で触れる。


森内vs澤田戦では▲4六銀△2二角▲2四歩△同歩▲同飛△5二飛と進行。
後手番としては十分の分かれに思える。△5二飛が素通しだ。



羽生vs広瀬(第31期竜王戦七番勝負 第5局)

前局で気になったのが、△5五同角の時に▲2四歩△同歩▲同銀と継ぎ歩される変化は大丈夫なのか、というところ。

図の△5五同角に▲2四歩から継ぎ歩攻めしたのが、羽生vs広瀬(第31期竜王戦七番勝負 第5局)。
先手としては、前の将棋のように▲4六銀が自然。継ぎ歩は一旦交換した歩を合わせるので手損の意味がある。
後手は△6五歩と受けた。クライを取って持久戦になれば形が良くなるはずという意図。
中住まいや右玉にすれば2筋の屈服は気にならない。
そこで先手は▲7九玉と寄った後△4四歩に▲3五歩と歩交換した。

ここで△4三銀が「形で指した」と後悔した手。
△8六歩▲同歩△4五歩なら後手十分だった。
してみると継ぎ歩攻めを許しても指せるという大局観は正しかったか。


この将棋は、中盤から羽生竜王の異筋の攻めがスゴイ。
特にこの▲7一金を打てる棋士は何人いるだろう。
控室で渡辺棋王が図から△8七飛成を検討するが、無理筋という結論。
そこで本譜の順も調べるが▲3一角が厳しい。
このベタ金が最善手だった。
羽生善治の▲7一金と、後世に語り継がれる一局。


深浦vs稲葉(NHK杯)

図の△5五同角は、前より条件が良い。
△5二飛が先手なので継ぎ歩が効かないからだ。


図からの指し手
▲4六銀 △2二角 ▲6九玉 △5二飛
▲7九玉 △7五歩 ▲同 歩 △7六歩
▲6六銀


ここから▲9五角△6二金▲5八飛と流れを引き寄せた深浦九段がNHK杯優勝。
おめでとうございます!!
これからも人間代表としてのご活躍をお祈り申し上げます。


山崎流矢倉中飛車

▲2六歩に対して山崎隆之プロは、△4二銀を省いて矢倉中飛車にした。
後に△2二銀の含みがある。


開始日時:2013/06/06 10:00
棋戦:第72期順位戦B級1組1回戦
持ち時間:6時間
消費時間:122▲330△316
場所:東京・将棋会館
先手:阿久津主税
後手:山崎隆之


▲7六歩 △8四歩 ▲6八銀 △3四歩 ▲7七銀 △6二銀
▲5六歩 △5四歩 ▲4八銀 △3二金 ▲7八金 △4一玉
▲6九玉 △7四歩 ▲5八金 △6四歩 ▲6六歩 △6三銀
▲2六歩 △5二飛 ▲6七金右 △5五歩 ▲同 歩 △同 飛
▲5七銀 △5一飛 ▲2五歩 △4四角 ▲4六銀 △2二銀
▲3六歩 △3三銀 ▲7九角 △7一角 ▲6八角 △5二金
▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀 △4二金右 ▲3四歩 △4四銀
▲4六銀 △3一玉 ▲7九玉 △7三桂 ▲5六歩 △3三歩
▲同歩成 △同金右 ▲3八飛 △3四歩 ▲3五歩 △同 歩
▲同 銀 △3四歩 ▲4四銀 △同 歩 ▲8八玉 △2七銀
▲4八飛 △3六銀成 ▲9八香 △8五桂 ▲8六銀 △6二角
▲9九玉 △7三角 ▲4六歩 △2二玉 ▲8八金 △6五歩
▲同 歩 △5四銀 ▲6四銀 △8二角 ▲5七角 △6五銀
▲8四角 △6一飛 ▲7三銀不成△8三歩 ▲7二銀不成△6六歩
▲6八金 △3一飛 ▲6二角成 △5六銀 ▲5三馬 △5一飛
▲5二歩 △4一飛 ▲6四歩 △6七歩成 ▲6九金 △5七歩
▲8五銀 △4七成銀 ▲2八飛 △5八歩成 ▲同 金 △同成銀
▲2四歩 △同 歩 ▲2五歩 △7九金 ▲2四歩 △7八と
▲9六歩 △6七銀成 ▲1五桂 △6八成銀寄▲2三歩成 △同金上
▲同桂成 △同 金 ▲2四歩 △8九金 ▲同 金 △同 と
▲同 玉 △7八成銀上


まで122手で後手の勝ち


先手横歩取り

佐々木大地、大胆な飛車先逆襲

先手の横歩取りに対しては△3三角が形。
△8五歩と△8六歩▲同歩△同飛の攻めを見せるのは利かない。▲2四飛で大丈夫だ。
もし図で△8五歩▲7八金の交換があれば△8六歩▲同歩△8五歩の継ぎ歩攻めがあるので横歩は取れない。
このタイミングなら横歩取りが成立するというのが佐藤天彦九段の研究だろう。
対して佐々木大地五段も研究手順を見せる。
△3三角▲3五飛に△2三金▲2五飛△2二飛と向かい飛車に振って飛車先を逆襲したのだ。
まるで阪田流向かい飛車。