将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

蘇った菊水矢倉(相居飛車ミレニアム囲い)

菊水矢倉の優秀性

菊水矢倉は昭和20年代に「日本一の攻め」と称された高島一岐代が考案し、出身地河内八尾の偉人・楠木正成の家紋「菊水」にちなんで命名した。
アマチュアでは鈴木英春さん、女流では矢内理絵子女流五段などが使い手。
▲8九(△2一)玉型は、角筋を避けていることが一番の長所。

居飛車振り飛車の対抗形で、藤井システム対策として流行したミレニアム囲いがこの形だが、相居飛車では菊水矢倉と呼ばれることが多い。

トーチカ囲いと混同されないためにも、菊水矢倉という名前を普及したい。

上図は、タイトル戦で現れた三間飛車藤井システムからの変化。
こうなると相居飛車の将棋だ。
△7三桂と自らの角道を塞ぐような桂の活用が面白い。
△8四角としてから△7三桂という先入観があっただけに衝撃的だった。


ソフトもオススメ

雷竜戦「タヌキの為に鐘が鳴る」vs「007(ゼロゼロセブン)」

相居飛車では珍しいこの囲いは、右玉に対して有効ということは知られていたが、ツノ銀雁木相手にも優秀。
矢倉と違って角筋を避けていることと、▲7七桂の活用で△6五歩の仕掛けに備えていることなどが大きい。


平成の終わりになって、相居飛車では矢倉が激減し、雁木が増えた。
若手棋士が菊水矢倉で名人の雁木相手に金星を挙げた。
また、最近、ソフト同との対局でこの囲いが出現して驚いた。
舞台は、「第二回電竜戦」、指したのは、強豪ソフト「タヌキの為に鐘が鳴る」だ。

がっちりと菊水矢倉に組み上げ、先手の作戦勝ち。
手順中そつなく入れた両端がポイント。
▲9六歩は玉の懐を広げている。▲1六歩は△1五角ののぞきを消している。比較して後手の両端は価値が低い。
図の△4五歩は突っ張りすぎで目標になった。


▲7七桂(上図)として△8六歩▲同歩△同飛の飛車先交換には▲8五歩の蓋歩を用意。
△7三桂としてから飛車先交換を企図したプロの実戦(石井健太郎 六段 vs. 渡辺 明 名人 第69期王座戦挑戦者決定トーナメント)もあったが、▲6五桂の返し技があって先手勝っている。
後手としては、6筋を狙って6八の角を負担にし、角を移動させてから飛車先交換を狙いたい。

図のように▲3五歩と自分の弱点である桂頭から仕掛ける。
自陣は堅固で、しかも仕掛けの権利を持つというのが菊水矢倉の利点。
アマチュア向きの作戦だ。
△3五同歩なら▲5五歩で、△同銀には▲4五桂、△同角なら▲5六銀△4四角▲4五桂と攻める。
▲1五歩などから角の活用も見込まれる。


実戦は、△8六歩▲同歩△同飛▲8七銀△8二飛▲8六歩△3五歩に▲5五歩△同角▲5六銀△4四角▲4五桂と進行。
銀冠に発展し、上部の手厚さが増した。


名人戦でも登場

渡辺明vs藤井聡太(第81期名人戦第五局)

最強藤井聡太六冠に対し、1勝4敗とカド番を迎えた名人戦第五局。
角換わりでは無類の強さを発揮する藤井六冠に飛車先保留が作戦。
後手の藤井六冠は、現代風に△4四歩から雁木に組んだ。
この組み換えを許すのが飛車先保留の欠点だが、もちろんこれも作戦。
第三局では、この作戦が成功した。
果たして二匹目のドジョウはいるのか?

上図のように、先手の渡辺名人の作戦は菊水矢倉だった。 

今期名人戦で渡辺名人が唯一勝利した第三局では、図のような局面で▲7七銀から矢倉に組んだが危険だった。
図でソフトは、▲7七銀ではなく▲7七桂を推奨していたので、今回菊水矢倉に組んだのは自然と言える。
ただし、右銀が5七でなく5六。
この違いがどう影響するか?

後手の右四間飛車に対しては、菊水矢倉の方が受けやすい。
矢倉なら四手角となるところを、三手角から▲3七桂とスムーズに攻撃陣を構えることができるのも長所だ。
なお、場合によっては▲3七角と牽制するのも有力だ。

図で実戦は△6五同銀としたが、その前に△7五歩と突き捨てておけば7筋の歩を同時に交換することができたようだ。
藤井聡太六冠にしては珍しい逸機。

思い切った打ち込みだが、▲2七銀と受けてこの銀を取ろうとするのはさすがに無理。
△5五歩▲同歩△6五歩と暴れられ、▲5七金とすれば銀を取ることができるが、△6六歩▲6四歩△同飛▲4七金△6六歩▲6八歩△7五歩と急所を攻められると持たない格好だ。 
渡辺名人は▲2四歩△同歩▲4五歩と反撃。
△3六銀成▲4四歩△同銀までは一直線だ。

ここで▲4四同角が最善の攻め。
△同角▲4五銀△3七成銀▲2四飛に△4六角が勝負手。

ここで△6六角と踏み込んだのが強手。
▲同金と取れないようではおかしいが、△3三歩▲5四飛△5三歩▲7四飛△6六飛▲6七歩と進み・・・

ここで△6五桂▲6六歩△7七歩▲同銀△7九金という強襲が気になる。
そこで実戦は▲2三桂だが・・・


佐々木大地七段の試行錯誤

下図は、佐々木大地vs渡辺明(王位戦2023年4月)で、先手の佐々木大地七段は、ここで▲7七銀と矢倉に囲った。 

しかし、一年名前の佐々木大地vs永瀬拓矢(2022年4月棋聖戦)では下図のように菊水矢倉を採用していた。 

後手の永瀬の対策は△9三香~△8二飛の雀刺し。
将棋は永瀬が勝った。
一年後の対渡辺明戦で▲7七銀としたのは興味深い。



時代はノーマル矢倉より菊水矢倉(ウソ矢倉)

ここで角道を止めるのは、昔ならウソ矢倉と言われた作戦だが、現代では通常の組み方より優っていると考えられる。

 

上図は、旧来の矢倉の組み方だが、△6五桂と急戦されて困っている。(佐藤天彦vs藤井聡太)
△6五桂では△7五歩▲同歩△6五桂でも同様、他には△5五歩の仕掛けもある。
このような急戦を食わないためにもウソ矢倉は有力だ。
さらに菊水矢倉にすれば、桂跳ねを防ぐことができるのだ。
 


先崎学vs南芳一(順位戦)

昭和・平成の時代には「飛車先交換3つの利あり」と、相手に飛車先交換されるのは損という感覚だった。
菊水矢倉は飛車先交換を許すため傍流の戦法だったが、あえて相手に交換させてハメるという手法がある。

△4九角の筋はよく見るが、3八角と短く打つのが盲点だった。
放置すれば△2七歩から桂香を取られる。
▲2八飛と引いても△4九角成として次の△2七歩が厳しい。


昭和・平成の矢倉全盛期には矢倉しか知らない居飛車党が多く、図のような菊水矢倉特有の陥穽は有力だった。

東和男 八段vs藤井聡太 七段(棋聖戦)

真剣師として知られた山本浩司(徳島県)さんが図のような菊水矢倉を得意にしていた。
先手の理想は、△4二角 ▲6五歩 △5二金 ▲6六銀 △3一玉に▲4六角 △7三桂 ▲7五歩 △8四飛 ▲8五歩 などの相手飛車のコビン攻めだが、以下△9四飛▲7四歩△同飛▲7五歩に△同飛でも後手が良い。
堅く指すなら▲4六角の前に△7三銀と守るのが良い。
▲4六角の瞬間△4四銀や△6四歩▲同歩△同角と反撃する。
▲6五歩~▲6六銀は、少し無理なようだ。