将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【将棋格言】助からないと思っても助かっている

大山康晴の名言

「助からないと思っても助かっている」は大山康晴15世名人の金言である。
大山名人の受けの名手は数々あるが、代表的なのは、下図だろう。

中原が大山名人に挑戦した名人戦第二局。
絶体絶命に見えた大山玉だが、ここで△8一玉と逃げたのが絶妙手。
不思議なことにこれで受かっている。
私はこの手で将棋の奥深さを知った。
なお、NHK朝ドラ「ふたりっ子」では、真剣師銀爺いの妙手として使われた。

アマ界では、「大山康晴全集を並べるとアマトップになれる」と言われている。
将棋の奥深さを知る絶好の教科書だ。
試しに上図での次の一手を考えてほしい。
なお、平凡な▲6七歩には△5七歩がある。

玉の遁走で助かっている

菅井vs畠山鎮(王座戦)より取材。
先手中飛車にクロスファイアという序盤から大激戦になった。

実戦は、▲7八金△5九竜▲8八玉△6七金以下後手勝ち。
実際、図の局面を調べると、当初はマイナス1000近くの評価値が出る。
ところが▲5八金△同金▲3九角△6九香成▲8八玉△3一金と進めて評価値を見るとプラス1000点を超えているではないか!
△6九香成では単に△3一金が正解のようだが、それでも▲8八玉△6七銀成▲9八玉の進行は先手にプラス評価。
▲9六歩~▲8五竜とすると先手玉は捕まらない。


菅井八段は、▲5八金は気付いていたが、後の△3一金まで読んで負けと即断したらしい。
惜しい逸機だった。


馬の守りで助かっている

形作り。
羽生善治名人(当時)の▲5三香成を見て、そう思ったプロが多かった。
先手玉が詰まないはずがないと思ったからだ。
ところが森内挑戦者は動かない。
第一感危ないと思われた先手玉だが、詰ます具体的な手順が見つからないのだ。
東京で大盤解説していた米長邦雄永世棋聖から立会人の中原誠16世名人のところに「詰まないんだけど」と電話がかかってくる。「何かこの局面おかしいね、変だね」


一例として△7八銀成▲同玉△6九銀▲8八玉△4八竜▲9七玉△8六金▲同歩△8七金▲同玉△7八角で▲9七玉なら△9六角成で詰むが、▲9八玉とわざわざ竜がいる筋に逃げる「不利逃避」の妙手があった。△8九角成と、わざと桂馬を取らせてから▲9七玉と逃げて詰まない。


また、もう一歩あれば△7八銀成▲同玉△4八竜▲6八金△6九銀▲同玉△5九成桂▲7九玉△7八金の筋で詰む。


他にも変化が膨大だが、3三の馬がよく効いて詰まない。
筋にみえた△6九銀では△9七銀▲同香△9九銀なら後手勝ちだった。
詳しくは、勝又清和著『つみのない話』にて。


飛車の守りで助かっている

abemaTVの普及もあって、最近あまりNHK杯を見なくなった。

勝因・敗因不明のまま放送が終わることが多く、スッキリしない。

AIの形勢判断を見ることができるようになったのは進歩だが、解説者がそれを説明できず、聞き手も忖度して突っ込まない。

せめて故米長邦雄会長や藤森哲也五段みたいなサービス精神があればいいのだが・・・


海老沢NHK元会長が横綱審議委員長になるためとはいえ、相撲協会との契約に年間30億円払うくらいなら、日本将棋連盟との契約金をもっと上げるか、せめてコンテンツを充実してほしい。
今のままでは、人目も構わず頭脳を振り絞って戦う対局者が報われない。


さて下図は、佐々木大地vs山崎隆之(NHK杯)から取材したもの。

図の局面から自然な△6四銀は、▲9七角で手がない。
△8四銀と反対方向に出て▲9七角には角交換して△6四角を用意。
しかし、金銀が真っ二つに分裂、危険きわまりない。


図からの指し手
△8四銀 ▲6五桂 △7五銀 ▲5六飛 △6四銀 ▲5四飛 
△4一玉 ▲3三角成 △同 金 ▲2二歩 △6五銀 ▲2一歩成 
△5四銀 ▲3一と △同 玉 ▲4六桂 


図の▲4六桂で単に▲5三角と打つのは△4二桂で受かる。
▲4六桂と打って△5五銀に▲5三角と打てば△4二桂には▲5四桂の二段活用がぴったりだ。
かと言って6五や4五に逃げると▲5五角の両取りがある。
後手が困ったように見えたが、評価値は互角。
解説の中村太地七段も首をひねる。
それ以上に苦しそうなのが対局者の山崎隆之八段。
時間を使って△5一飛と苦心の自陣飛車だが、その途端先手の評価値が跳ね上がった。


正着は、△5五銀だった。
▲5三角には△3二玉と逃げ、▲5四桂に△5二飛なら互角の形勢。
後手は△7七歩の反撃が楽しみだ。


図からの変化手順
△5五銀 ▲5三角 △3二玉 ▲5四桂 △5二飛 ▲4二銀 
△2四角 ▲3三銀成 △同 玉 ▲3一角成 △5四飛 ▲6八銀 
△5一飛 ▲4一金 △5二飛 ▲2五歩 △3五角 ▲3六歩 
△2六角 ▲3七桂 △4四玉 ▲4八玉 △5六歩


abemaTVでも将棋中継が面白くない時は、隣の麻雀チャンネルに切り替える。

そこでは解説者の「最速最強」多井隆晴が芸人並みのトーク。

聞き手の小林美沙の回転の速い返しと、そつのない実況。

「地震・カミナリ・火事・親リー」「配牌の格差社会」などアナウンス学校やボイストレーニングで得た多井の話術はとどまるところを知らない。

もちろん技術解説も怠りなく、初心者でも理解しやすい。

対局者を持ち上げ、いじり、絶妙に上げ下げする。

時には返答に困るようなスレスレのセリフ。

「正常位は永遠なれ」と書いた「さわやか流」の先生を思い出す。

「加藤一二三さんとは顔は合うけど気は合わない」などとも言ってたっけ。


ファンサービスという点で麻雀界と将棋界とでは、新庄ビッグポスと「嫌われた監督」落合博満くらいの違いがある。

残念なことだ。

麻雀放送ができる前、プロのみんなが誰もいないところでひたすら麻雀打ってる中、ボクは片っ端からお笑いのライブ見に行ったり、お笑いのDVD見たり。それからNHKのアナウンス講座を受けたり。これから絶対にこういう文化になると思っていて、やっと間に合いましたよ。

(多井隆晴)