将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【角換わり】▲4五(△6五)のクライは天王山

飛車先保留を生かす▲4五歩位取り

昔の定跡

飛車先保留が将棋の進化だと思われていた時代があった。
▲2五歩から▲2六歩型そして▲2七歩と時代が進むにつれ飛車先の歩が下がっていった。
矢倉でその潮流がはじまり、やがて角換わりでもその波が押し寄せた。
AIという神が降臨してから矢倉では飛車先保留が否定されたが、角換わりでは▲4五クライ取りと合わせると有力な作戦かなと思う。

初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲4八銀 △8四歩 ▲2二角成 △同 銀
▲6八銀 △3三銀 ▲9六歩 △3二金 ▲4六歩 △7二銀
▲4七銀 △6四歩 ▲7八金 △6三銀 ▲5八金 △7四歩
▲6九玉 △4二玉 ▲6六歩 △5二金 ▲3六歩 △3一玉
▲5六銀 △5四銀 ▲4八飛 △8五歩 ▲7七銀 △7三桂
▲4五歩 △9四歩 ▲7九玉 △1四歩 ▲1六歩 △2二玉
▲4六角 △6二飛 ▲8八玉 △6一飛 ▲3七桂 △9二香
▲2六歩 △4二金右 ▲2五桂 △2四銀 ▲2八角 △5二金
▲5五銀 △6三銀 ▲4四歩 △同 歩 ▲同 銀 △4三歩


米長邦雄九段の角換わりを並べていた頃、飛車先不突から▲4五歩の位を取れば必勝と思っていた。
たとえば下図のような形。

図から▲2五桂△2四銀に▲5五銀とぶつけて攻めが続く。
名人になる前後の米長邦雄九段は、序盤が巧妙で終盤の腕力も強く、こんな形になったら逃さなかった。


図からの指し手
▲2五桂 △2四銀 ▲2八角 △5二金 ▲5五銀 △6三銀
▲4四歩 △同 歩 ▲同 銀 △4三歩


図からの指し手
▲同銀成 △同金右 ▲5五角 △3三銀打 ▲4四歩 △4二金引
▲3三桂成 △同 銀 ▲3五歩 △5四銀 ▲3四歩 △5五銀
▲3三歩成 △同金右 ▲4三銀 △4六桂 ▲4七金 △8六歩
▲4六金 △8七歩成 ▲同 金 △8六歩 ▲3四桂 △1二玉
▲8六銀 △8五歩 ▲3二銀成 △同 金 ▲4三銀 △8六歩
▲同 金 △6二飛 ▲5五金 △5九角 ▲3二銀成 △同 飛
▲2二金 △同 飛 ▲同桂成 △同 玉 ▲8二飛


図から▲4三同銀成が好手で、銀損しても次の▲5五角で攻めが続く。
△1二玉なら▲4三飛成だ。


このように後手が玉を深く囲うとかえって攻略されることが分かった。
その結果、現代の角換わりはバランス型の陣形にシフトした。
△8一飛+△6二金+△4二玉の形から先攻する順を狙っている。


このクライ取りについては、【角換わり旧新対抗】をご笑覧下さい。
私の実戦から、初手からの指し手
▲2六歩 △3四歩 ▲2五歩 △3三角 ▲7六歩 △2二銀
▲4八銀 △3二金 ▲3六歩 △6二銀 ▲4六歩 △6四歩
▲3七桂 △5二金 ▲3三角成 △同 銀 ▲8八銀 △4二玉
▲7七銀 △7四歩 ▲7八金 △6三銀 ▲6八玉 △1四歩
▲1六歩 △4四歩 ▲4七銀 △5四銀 ▲5六銀 △6五歩
▲4八金 △7三桂 ▲2九飛 △6四角

図からの変化①
▲同 桂 △4四銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲2二歩 (途中図)


途中図

図から△2二同金なら▲2四飛△2三歩▲3四飛と暴れる狙い。
これには△1三桂と相手にしないのが正解で後手良し。


図からの変化②
▲6六歩 △同 歩 ▲同 銀 △6五歩 ▲5五角 △同 角
▲同銀左 △同 銀 ▲同 銀 △4七銀 ▲4九金 △3六銀不成
▲3八歩 △6二飛 ▲9五角 △8二角 ▲6四銀打 △7二飛
▲5八金 △9四歩 ▲8六角 △3五歩 ▲4五歩 △同 歩
▲2六飛 △8五桂 ▲4八金 △7五歩
にて後手有利
 

図からの指し手
▲4七金 △6二飛
▲7九玉 △3一玉 ▲8八玉 △9四歩 ▲9六歩 △8四歩
▲2六角 △8五桂 ▲8六銀 △5五銀 ▲4五歩 △7五歩
▲6五銀 △7六歩 ▲同 銀 △8六角 ▲同 歩 △3八銀
▲2八飛 △4七銀成 ▲7三角 △7七歩 ▲同 桂 △同桂成
▲同 玉 △6四桂 ▲6二角成 △同 金 ▲7一飛 △2二玉


岡部四段の位取り

岡部怜央四段が、対小山直希四段戦で、飛車先保留の工夫を見せた。
これに△4四銀としたが▲4五歩に△5五銀とする意味ではなく、歩を突かせて桂跳ねを消そうという狙い。
銀交換すると▲6三銀が痛打になる。

彼我の玉形の差を見ると勝ったも同然。
先手は▲4四歩が切り札。
△同歩は▲5五銀、△同角は▲4五銀で攻めが続く。


△2二角では△3三桂から桂を入手して△8四桂を狙いたかった。


チダショーの位取り

昔の定跡が甦った。
後手の屋敷九段が、図の局面から△3一玉~△4二銀と囲ったため▲4六角からの必勝定跡が甦った。
飛車先保留がpointだ。

図からの指し手
△3一玉 ▲6九飛 △4二銀 ▲4六角 △6三金 ▲5五銀 
△6一飛 ▲5六歩 △6二飛 ▲3五歩 △2七角 ▲5四銀 
△同 金 ▲3四歩 △3六角成 ▲4七銀 △同 馬 ▲同 金 
△5八銀 ▲3九飛 △4七銀成 ▲5五歩 △4六成銀 ▲5四歩 
△5七角 ▲5三歩成 △同 銀 ▲3五角 


この戦法はアマチュアでも真似しやすい。



激辛流のクライ取り

図の局面、後手は△3一玉と深く囲い△6三金と積極的だ。
図の▲4五歩があまり見ない位取り。丸山九段の新手か?


想像するに、行方八段は、▲4五歩で▲6六歩を予想し、△6五歩の仕掛けを狙って駒組みを進めていたのだろう。作戦に齟齬が生じた。
△7三桂として次に△6五銀を狙ったが、それも次の一手で覆されることになる。


図の▲4五歩に驚いた。しかし△7三桂の次の手にはもっと驚いた。
▲4七銀。
手損にしか見えない・・・▲5八玉からの右玉を視野に入れ、先攻を狙っている後手を牽制した手か・・・しかし、この手が行方八段を苦しめる。
2017年3月23日の日経新聞の王座戦観戦記(上地隆蔵)によれば、

▲4七銀を見て、行方は悩みの長考(63分)に沈んだ。トッププロの第一感として『しっくりくる手がない』という。

考えられる応手は以下の通り。

  1. △6二金・・・▲4六角
  2. △4四歩・・・▲同歩△同銀▲2四歩
  3. △6五銀・・・▲5八玉
  4. △6五桂・・・▲8八銀△5五銀▲5八玉
  5. △6五歩・・・実戦の指し手だが、「△6五桂が消えるので突く人はいないだろうなと思いながら指した」「けっこうな作戦負け」(行方)

丸山九段は、▲5六歩と突き△6四角に角を合わせて手順に▲4六銀と進出した。
次に▲5五歩で銀が死ぬ。
後手としては手損してつまらない順だが、▲4六角と打たれるのを嫌がった。
△4四歩と銀を助けたが、間隙を縫って▲7九玉と玉を戦場から遠ざけることができた。
大きい一手だ。
4筋がほぐれたことで先手の桂が使いやすくなり、丸山は確かな手応えを感じた。
後手は△6四角打ちから7筋の歩を交換したが、その瞬間が怖い。
相撲になぞらえて「腰が浮いている」とでも表現すればよいのだろうか、いかにもワザがかかりそうな形だ。


▲5五歩△4三銀(△同銀▲4五桂)を利かせて▲7四歩△同金▲7六歩△6四角▲6三角と攻めたが、△8四飛と受けられてみると、若干厳しさに欠けたかもしれない。
▲7四歩では▲7六銀も有力だった。

  1. △6四角・・・▲7四歩△同金▲6三角△8四飛(△8四金▲7四歩)▲7五歩
  2. △9三角・・・▲7四歩△同金▲7一角
  3. △8四角・・・▲7四歩△同金▲7一角△5二飛▲7五歩
  4. △8六歩・・・▲7五銀△8七歩成▲8三歩△7八と▲同玉△4二飛▲7四歩△8五桂▲5一角

実戦に戻って、△8四飛に丸山九段は▲4六銀としたが、後手から△8六歩▲同銀△7七歩▲同銀△8五桂の攻めが生じた。桂馬が捌けると、どこかで△7三金が味が良い。
しかし、銀取りを手抜きで▲4五桂としてまだ先手有利のようだ。
△4四銀に▲3三歩△同桂▲2四歩△同歩▲3三桂成となったが、▲3三桂成では▲3四歩△同銀▲2四飛△7七桂成▲同桂△2三銀打▲2九飛の変化も有力だった。


実戦は、桂交換から▲3五銀と進出した手に△5五角と角を活用して攻め合いを図ったが、△7七桂成▲同桂△7三金として▲4五角成なら△4四銀打と受けに回れば、まだ難しかった。
しかし攻め合いは、終盤に自信を持つ行方八段らしい選択。受けに回る棋風ではない。
▲4五桂に△7七桂成▲同桂△8五桂▲同桂△7七歩▲8八金に△6四金が味が良い。
しかし、▲4七桂と催促したのが、「激辛流」の好手。
将棋の勝ち方をよく知っている手だ。


図から△7八銀▲同金△同歩成▲同玉△9九角成としたが、単に△7八歩成が優った。
実戦は、▲3三桂成△同金▲3四歩△同銀▲3二歩!△4二玉▲3一銀△3二玉▲5二角成△3一玉と進行して先手玉に分かり易い詰めろがかかったが、形勢は先手勝勢。
▲4二銀△2一玉を決め、次の手が決め手だった。


▲8八桂
この好手で熱戦にピリオドを打った。先手玉は広い。
行方八段は、△8九馬▲同玉△7七金と迫ったが、形作り。
丸山九段は、▲2四飛以下見事に後手玉を詰めあげた。



渡辺新手▲6五同歩から▲4五歩位取り

この△6五歩には、▲6九飛と飛車を転回して受けるのが一般的だった。
図の△6五歩に▲同歩と取るのは、△同桂▲6六銀となって先手陣は弱体化し、後手の桂は威張っていて十分というのが共通認識だった。
ところが、その展開は、▲4五歩とクライを取って先手も指せると考えたのが渡辺棋王。
一見、攻められているようだが、桂を跳ねさせて▲4六角と打ち、その桂を狙っていく構想だ。



以前から参考図のように旧新対抗の局面で▲4五歩~▲4六角が試みられてきた。
しかし、飛車の位置が悪く△7五歩と攻められて▲同銀と取れない。
取れば△3九角で潰れる。
後手の攻めが早いため、この位取りは失敗と認識されていた。


参考図


しかし、下図のように、新新対抗形では2九の飛車の位置が隙が無く、▲4五歩~▲4六角が間に合う。
渡辺棋王の慧眼だ。


図から広瀬竜王は、△6三銀▲4六角△5四歩とした。
また、豊島名人は、△3一玉▲4六角△6三銀とした。
棋界最高峰の二人がなぜ、自然に△8六歩▲同歩△同飛と飛車先交換しなかったのか?
▲8七金△8一飛▲8六歩は△3五歩で後手が良いし、▲8七歩なら歩を手持ちにできるのに・・・不思議だ。
その疑問が解けたのが、村山vs藤井(叡王戦段位別予選七段戦)
▲8七歩と受け、△8一飛▲4六角△6三金が藤井新手。
ひとめ7二にキズがあるので先手がチャンスに見える。
▲2四歩 △同 銀 ▲5五銀左 △同 銀 ▲同 角と先手好調な仕掛け。
この香取りを受けずに△5四金で返したのがソウタらしい強い手。
以下▲1一角成に△3三桂が狙っていた一手。
▲2一銀と馬を助ける手には△6六角▲7七香△8六歩▲同歩△8五歩▲同歩△5七桂成▲6七歩に△同成桂で後手成功。
しかし▲6六歩と馬取りを放置する手があった。
1一の馬は「最強の囮(ハイキュー)」だ。
以下△7五歩 ▲6五歩 △7六歩 ▲6四歩 △1一飛 ▲6三歩成 △8一飛 ▲4六桂 △3一玉 ▲3四桂(図)と進行。 


なお、斎藤著「斎藤慎太郎の角換わり腰掛け銀研究」によると、▲6六歩に△8六歩▲同歩△8五歩▲同歩としてから△1一飛で後手も戦えるようだ。
以下、▲6五歩△同金▲同銀△同歩で▲4六桂には△5五角を用意している。


図から△7五角が難しい手。
ひとめ△6六角(下図)と王手したいところだが、なぜ打たなかったのか?

上図の△6六角には、▲7七歩 △同歩成 ▲同 金 △7六銀(下図)が予想される。

図からの指し手
▲6六金△8七飛成▲7九玉△7七角(図)

▲同桂△同銀不成▲6九玉に△4六桂の詰めろが受けにくそうだが、▲5九玉△6六銀成に▲2二角△2一玉▲3五角(図)が鮮やかな詰めろ逃れ。


△同銀は▲1二銀から詰むし、放置して▲4六角と桂馬を外せば安泰になる。
そこで実戦は△7五角▲6七銀打△8六歩▲同歩△8七歩▲同金△6八角と変化したが、▲7六銀△8六飛▲8七歩△7六飛▲7七歩△6六角▲6七銀△7七角成▲同桂△4六飛に▲8四飛と金取りを放置して詰めろをかけたのが好手で、先手が後手の攻めを余して勝ち切った。


再掲図


最年少タイトル挑戦が望める竜王戦で、藤井聡太は豊島名人相手に、同じ中学生棋士であった渡辺明のこの新手を承継し、さらなる工夫を見せた。


図からの指し手
△3一玉 ▲4六角
△6三銀 ▲6七歩
△5四歩 ▲4七銀
△5二金 ▲5六歩
△6二角


▲4六角から6四の歩を取ると、6五の桂が負担になる。
かといって△6三金と受けるのでは、▲5五銀と攻められる。
そこで△6三銀と引いたが・・・
藤井七段の▲6七歩が新手。
ソフト同士の対局でよく見る陣形補強。
しかし、折角の持ち歩のアドバンテージを失うので、人間なら▲6七銀引きとしたい局面だ。一歩持っていれば▲2四歩△同歩▲2五歩の継ぎ歩攻めの筋や、▲7七桂からの桂交換の後の▲3五歩△同歩▲3四歩△同銀▲2六桂の筋を狙える。
聡太は▲4七銀と右に引いて、玉を▲5八まで持ってきてから仕掛けるつもり。
研究の後が窺われる。


豊島名人の△6二角の意図が図りかねた。
左右をにらむ好位置だが、具体的な狙いは難しい。△9五歩▲同歩△同香で1歩を持つ順は考えられる。その1歩をいかに生かすのか。
先手だけ角を手放しているという後手のアドバンテージを失うが、豊島名人がこの一局を託した角打ちだ。
結果的にこの角は、豊島名人に勝ちをもたらした。


斎藤王座vs藤井七段(叡王戦)

藤井七段が叡王戦で斎藤王座と対局。
戦型は両者得意の角換わりになった。
藤井七段は、序盤早々に△6五歩と意欲的な位取りを見せた。


△6五歩に先手も▲4五歩と位取りをすれば、相右玉の様な将棋になりそう。

この位取りは、その後、羽生vs広瀬(第31期竜王戦第一局)でも出現し、▲5六銀△8一飛▲6六歩△同歩(△5四銀)▲同銀△5四銀▲5八玉(図)と進行した。
羽生九段は、この将棋の後▲6六歩を早く突くようになった。

図の▲5八玉では▲6四歩が良さそうな手。
△4四歩▲4五歩△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8一飛に▲4四歩△同銀▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛の後、手番を握った後手が△4六歩と同型にするか、他のうまい攻めがあるか微妙なところ。
いずれにせよ後手に選択権があるので先手としては不満。


図からの指し手
△8六歩 ▲同歩 △同飛 ▲8七歩 △8一飛 ▲7五歩


後手の飛車先交換に後、手番を握った先手は▲7五歩と桂頭を攻めた。
▲7五歩のところ①▲5五銀左△同銀▲同銀は△6五角と、②▲6九飛△6五歩▲5五銀左は△2七角と③▲4七玉は△6八歩と反撃される。
したがって▲7五歩は最善のようだが、感覚にない手だ。
たちまち△7六角があって危険なようだが、▲4七玉△8七角成▲同金△同飛成▲7四歩となると薄い右玉だが、後手が攻めるのも容易でない。
羽生竜王は、右玉のバランス感覚に長けている。




再掲図

図の△6五歩に隙ありとばかりに▲3五歩△同歩▲4五桂と襲いかかる斎藤王座。
8二飛型なので▲7一角の筋がある。
そのせいか最近は、△6二金より先に△8一飛と引く序盤が多い。
▲4五桂に△4四銀なら穏やかだが、▲6六歩から一歩持って▲3三歩△同桂▲3四歩を狙われて後手不満。
次の桂取りを含みに△2二銀と強く受けるのが定跡だ。
先手の強烈な攻めが予想され、アマ的には後手が自信のない展開だが、攻める先手も切れ筋と紙一重なので大変だ。
斎藤王座は、▲2四歩△同歩▲7五歩と攻めた。
 ▲7五歩に△同歩なら▲2四飛△2三歩に▲7一角から角金交換して▲8四飛で飛車成が受からず先手勝ち。
また▲7五歩に△8四飛は▲7一角がうるさい。△5二金に▲7四歩△同銀(△同飛▲8二角成△7六歩▲8八銀△4四歩に▲8三馬で先手良し)▲2四飛で▲6四飛を狙う。△4四角と防げば▲同飛△同歩▲6四角が強烈だ。
△5二金でなく△5二玉も考えられるが、この場合は単に▲2四飛として△2三銀に▲7四歩が妙手で飛車を取られても▲7三歩成が厳しい。
したがって▲7五歩に△8一飛が良く指されている。
ただし、▲7五歩に△2三金▲7四歩△同銀▲7一角△7二飛▲6二角成△同飛▲8四金に△6四飛▲7三金△7五銀は考えられる。▲8四金と打たれて潰れていると思ったが、△6四飛~△7五銀がうまい応接で将棋の深さを感じた。
さて、△8一飛が定跡。自然に△7五同歩と取れないようでは後手が苦しいようだが、▲7四歩△同銀となると後の△7六歩の楽しみがあって厚い攻めが期待できる。
▲7四歩△同銀に斎藤王座は▲6四角と打ったが、▲2四飛については後述する。
▲6四角は次に▲5三桂成を狙っているので△4四角と受け、▲5六銀に△2三銀(図)と固めた。
△2三銀で△6三銀とすれば角が取れそうだが、▲5五銀△6四銀▲同銀で次の▲7四歩や▲6三銀打が残る。後手陣が壁なので大変。

図の△2三銀では△2三金も有力だった。
図から▲5五銀だが、これには△7二歩の辛抱が正着で、角が負担になった。
▲4四銀△同歩▲5五角は、△4五歩▲1一角成△3三桂で後手の罠にはまる。
本譜は5五同角が疑問で、▲5三桂成△同金▲5五角△6四桂で少し先手良しになった。
しかし、△7六歩▲8八銀と壁銀にされると嫌なので▲6二角と踏み込んだ。
以下△6三金▲6四角△同金▲7三角成△6三金▲7二馬△5一飛▲7五歩に△8三角と進行。
△8三角では、△7一銀だった。①▲8一馬は△6二銀▲7二馬△7一銀で千日手。②▲7一同馬△同飛▲7四歩△同飛▲7六歩なら難解。
 
このように▲6四角は、狙いの▲5五銀に△7二歩がぴったりで指されなくなった。




112手目
△5七銀では△7六同飛としたいが、▲7七歩△5七銀▲同金で後手玉が詰めろ。
以下△同歩成▲7九玉で先手勝ち。


渡辺二冠vs豊島三冠

▲6四角に代えて▲2四飛△4四角が自然な変化で、実戦例が多い。
渡辺vs羽生(JT杯将棋日本シリーズ)や最近では、渡辺vs豊島(王座戦)で現れた。
王座戦で渡辺二冠は、▲3五歩△同歩▲4五桂と仕掛けた。
羽生九段に勝ったJT杯の経験があるから自信を持っての仕掛けだと思う。
豊島三冠にとっても事前の想定通りの進行だろう。自信があっての選択だ。
△2二銀と引けば▲7五歩△8一飛▲7四歩△同銀までは一本道の変化。
ここで▲6四角と狭い場所に打つのは角が負担になるので、▲2四飛△4四角(下図)は自然な手順だ。



ここで▲2九飛と引いたが、▲3三歩と攻めるのはどうなるのだろう?
△同桂なら▲3四歩だし、△2三金は▲3二歩成△同玉▲4四飛△同歩▲5三桂成△同金▲6二角で△6三金▲7三角成で取れば王手飛車というのが進行の一例。
これもあったと思う。
▲2九飛△7六歩▲8八銀(下図)となっては、先手が自信ない。

ここまで前例があるとはいえ、△2四歩には驚いた。
しかし、後の変化を見ると好手だということがわかる。
▲同飛△2三銀▲2九飛△2四歩と、後手は歩損の代償に銀冠の好形を築いた。
▲5六銀に△3六歩▲3九飛△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8一飛▲3六飛に△3三歩が「聡太好み」の手堅い手で、次に△3一玉~△2二玉と銀冠に固めることができる。
渡辺二冠としては、相手が玉を固めるのを指を咥えて見ているわけにはいかないので、連続長考で攻め筋を探したが、結局▲5八金~▲3九飛と形を整えるしかなかった。


softは、▲3九飛の後▲7七歩△同歩成▲同銀△7六歩▲同銀という変化を読んでいたが、深く読めば△7六歩に▲8八銀を最善と判断。
結論を言えば、ここでは先手作戦負けのようだ。


豊島三冠が△2二玉と固めた後、渡辺二冠は▲4七銀と、次の▲3六銀を含みに攻め駒を立て直そうとしたが、△6六歩▲同歩△7五銀と仕掛けられては▲3六銀は間に合わない。
一本▲2五歩と味付けをした後、△8五桂▲6七金右△2五歩に再び▲5六銀と引いた駒を戻すようでは、戦略の誤りを認めるようでつらい。
しかし、自分の非を認めて辛抱ができるのは、強者の証明だ。


それでも将棋というのは奥が深いゲーム。
先手に辛抱されると、後手が万全の態勢から攻めたにもかかわらず、形勢は互角。


softは、△6六歩の攻めに代えて△2六角▲3八飛△3四銀からの△4四歩狙いを推していた。本筋とは思えず、人間には到底指せない順だ。


図から▲△6七銀打と受けたが、△7四桂が厳しかった。
▲6七歩の方が後手の攻めが難しかったようだ。


終盤の強さを見せた豊島三冠の次の相手は、羽生九段。
現最強とレジェンドとの対局に期待。