将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【横歩取り】中座飛車最強の敵▲7七角型

▲7七角型のRoots

横歩取り中座飛車の最有力の対策とされる▲7七角型のルーツを探る。

大山vs中原

この▲7七角型は、不世出の大名人と言われた大山康晴15世名人が、中原誠八段(後の16世名人)の挑戦を受けた十段戦で披露した横歩取り対策。


▲7七角型の長所は、▲6八銀と左銀を活用できること。
左銀を活用すると壁形も解消できる。


大山名人は、木村義雄14世名人の影響からか「横歩取りは先手有利」という信念があって、振り飛車党ながら▲7六歩△3四歩というopeningには▲2六歩と指すことがあった。


負ければ十段位を失う一局に相居飛車戦を挑んだ大山名人の精神力に頭が下がる。また、初見で▲7七角(33分の考慮)を発見した棋力は、まさに「棋神」。





島vs井上

この将棋が指されるまで「横歩取り戦法」は、長い停滞期にあった。
「横歩取り戦法」の場合、双方の玉形が一緒だと先手有利になりやすい。
昭和の時代に横歩取りのスペシャリストと言われた内藤九段(先駆者は故梶九段)は、中住まい玉から飛び駒を駆使した「内藤流空中戦法」で一時代を築いたが、先手も同様に中住まい玉にして飛車を横に使う「鏡指し」と言われる対策によって、次第に影を潜めた。
それをbreakthroughしたのが、中原玉と中座飛車の発見。
注目されるA級順位戦の降級がかかった一戦で井上八段が中座飛車+中原玉を採用し、広く優秀性が認められた。
その画期的な一局で、対戦した島九段の対策が▲7七角型(図)。

その後、▲7七角型は△7五歩と角頭を攻められるので分が悪いと、いつしか消滅した。



▲7七角型の復活と△7五歩仕掛けの対策

▲7七角型を攻略するために中座飛車が最初に試みたのは△7五歩。
というか、▲7七角は△7五歩で悪いというのが長い間常識だった。
しかし、先手の工夫があって一筋縄とはいかない。

稲葉vs金井

初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角
▲3六飛 △2二銀 ▲8七歩 △8五飛 ▲2六飛 △4一玉 ▲7七角


稲葉陽六段vs金井恒太五段(第21期銀河戦Bブロック06回戦戦)から取材。
上記のように▲7七角型は△7五歩と攻められて分が悪いと、消滅していた。
しかし、玉を固める手段として富岡英作八段が独自の研究で復活させ、今日では「富岡流」と呼ばれて▲7七角型は再評価された。
中住まいには中住まい、中原玉には中原玉と、後手と同じ玉形にするのが有力なのだ。
『将世2017.1号』p.154~の金井恒太六段講座「最新定跡探査 横歩取り△8五飛戦法-復活への課題」で、「▲7七角型」として解説された。

図からの指し手
△6二銀  ▲6八銀  △5一金  ▲6九玉  △7四歩  ▲5九金  △7三桂  ▲1六歩(下図) 

先手の駒組みのpointは、▲3六歩を突かないこと。
桂馬を活用するなら▲1六歩だ。
▲3六歩を突くと、△2五歩▲2八飛△7五歩と攻められて悪くなる。この変化は、中座飛車流行当初の必勝patternの一つ。
▲1六歩では▲4八銀とした実戦例も多く、後述する。
図から△5四歩~△5五歩と角道を止めて先手の角頭を攻めようとした佐藤天彦 vs. 羽生善治(2013-05-17 竜王戦)や及川拓馬 vs. 中座真 (第22期銀河戦本戦Hブロック4回戦)などの実戦例もある。
また、先手の9筋の薄さに着目し、△9四歩と端攻めや桂の活用をみた三浦弘行 vs. 高橋道雄 (2013-08-26 王将戦)や松尾歩 vs. 高橋道雄 (第72期順位戦B級1組13回戦)などの実戦例もある。


図からの指し手
△7五歩  ▲4八銀  △7七角成 ▲同 桂  △8四飛  ▲6六角

図の▲6六角が桂頭を守りながら攻めを見せた攻防手で、平凡に▲7五歩と取るのは、△7六歩▲同飛△5四角▲8六飛△同飛▲同歩△7六歩となって、この攻め合いは後手有利と見られている。




後手は△3三桂と受けたが、▲1七桂△3四飛▲2五桂と右桂が捌け、先手の理想的な展開。
なお△3四飛では△3五角!と積極的に受けるのが面白い手で、研究課題。
対しては①▲3六飛と②▲7五角が考えられ、次のような変化が想定される。


△3五角に対する変化①
▲3六飛 △4四角 ▲7五角 △8一飛 ▲5八玉 △8二飛
▲6六角 △同 角 ▲同 飛 △2七角 ▲2三歩 △同 銀
▲2四歩 △3四銀 ▲3六歩 △8四飛 ▲7五歩 △3七歩
▲同 銀 △3八角成 ▲4八銀 △4五桂 ▲7四歩 △同 飛
▲8三角


△3五角に対する変化②
▲7五角 △2六角 ▲8四角 △3六歩 ▲2七歩 △4四角
▲3六歩 △5五角 ▲3五歩 △3六歩 ▲4六歩 △2四飛
▲8一飛 △4六角 ▲4七銀 △1九角成 ▲5六銀 △4六馬
▲7九玉 △3五馬 ▲4四歩 △同 飛 ▲6六角 △7一歩
▲9一飛成 △8六歩 ▲4四角 △同 馬 ▲8六歩 △3七歩成


△3三桂は普通の手に見えたが、他の手を探す必要があるようだ。
△2三歩と堅く受ける手については、後述する。
中村流の△4四角については、下で触れる。




永瀬vs中村

上図のように▲4八銀~▲1六歩というopeningだが、大きな違いはない。
永瀬拓矢 vs. 中村太地(第29期竜王戦3組)の若手実力者同士による、いわば中座飛車復活をかけた戦い。
永瀬拓矢著『永瀬流負けない将棋』p.128~に「定跡になった一局」として紹介されている。
後手の狙いは、△7七角成▲同桂△8四飛と交換した後、桂頭の弱点を衝くこと。
下図の▲6六角の攻防手で先手有利という定跡を打ち破れるかどうかが中座飛車復活の一つのカギ。

図の▲6六角に△2三歩と受けた場合は、▲7五角△7四飛▲9六歩といった進行が考えられ、稲葉陽 vs. 阿久津主税 (第74期順位戦B級1組2回戦 )などの実戦例がある。


△2三歩に▲7五角では▲2五飛という少し捻った手も考えられる。


想定手順①
△同 桂 ▲6六角 △3四飛 ▲3六歩 △2八角 ▲3七桂
△1九角成 ▲8五桂 △7四歩 ▲5五飛 △5四歩 ▲1五飛
△1四歩 ▲3五歩 △2四飛 ▲2五歩 △4四飛 ▲同 角
△同 歩 ▲7三桂成 △同 銀 ▲3四桂 △1五歩 ▲2二桂成
△同 金 ▲3四歩


想定手順②
△2三歩 ▲2五飛 △9四歩 ▲9六歩 △1四歩 ▲7五飛
△3三角 ▲同角成 △同 銀 ▲2五飛 △5四角 ▲2六飛
△4二玉 ▲5八玉 △6四歩 ▲3六歩 △7六角 ▲7四歩
△同 飛 ▲8三角 △8四飛 ▲5六角成 △8七角成 ▲6六馬
△7八馬 ▲8四馬 △7六歩 ▲7四歩


中村太地プロは、▲6六角の攻防手に対し、△2三歩や前述の△3三桂では不満と見て△4四角と大胆に受けた。
しかし、以下▲同角△同歩と玉頭がポッカリ開いて見るからに怖い形。

▲4三角の打ち込みに△2四歩が柔らかい受けで、取れば△2三歩と先手を取る。▲3四角成と馬を作って先手が好調のようだが、△7六歩▲同飛△5四角▲7五飛△7四歩▲3五飛△8六歩▲同歩△同飛と△5四角を軸に反撃して後手が指せる変化か。


(参考)『将世2017.1号』p.154~の金井恒太六段講座「最新定跡探査 横歩取り△8五飛戦法-復活への課題」


△2四歩では△3三桂と受ける手も考えられる。
対して▲6五桂だと△2五歩と受ける心づもり。
▲3二角成△同玉▲2二飛成△同玉▲3四銀のしがみつきを振り払えるかどうか。


私は、▲6六角に△3三角が有力かなと思っている。


▲7五角に△3四飛とした実戦が、豊島将之 vs. 阿部隆 (第86期棋聖戦二次予選決勝指し直し局)。
飛車を閉じ込めて後手が面白いかと思われたが、二の矢がなく後手が苦しい。


(参考)渡辺(吉田)正和著『決定版!横歩取り完全ガイド』p.119~



また、豊島将之 vs. 三浦弘行(第74期順位戦B級1組4回戦 )でも△3四飛として後手が勝っている。


私は、▲7五角には△7四飛が、次に△4四角を狙って有力と思っている。


(参考)斎藤慎太郎著『最強最速の将棋』p.175~



▲1六歩早突き(斎藤慎太郎vs中座真)

▲1六歩のタイミングは、▲5九金△7三桂の後が多いが、先手の斎藤七段は、この局面で▲1六歩とした。この戦法を熟知している後手の中座七段は、▲1六歩を緩手にしようと、△7三桂を省略して△5四歩~△5五歩を急いだ。
次に△4四角があるので先手は▲3六歩と3筋の歩を切りに行ったが、右銀が立ち遅れている。

図から△4四角としたが、△7三桂も自然な手で、▲3五歩を誘って△5六歩と反撃する狙い。
勢い▲3三角成△同桂▲3四歩△4四角▲3三歩成△2六角▲3二と△同玉と激しい変化になり、△5九角成▲同銀△5八歩の厳しい狙いが残る。
その後、△9四歩が緩手で、後手としては△2三銀と飛車を攻めて相手の右銀の立ち遅れを衝くべきだった。



開始日時:2013/03/05 10:00:00
棋戦:順位戦
戦型:横歩取り8五飛
先手:斎藤慎太郎
後手:中座真
場所:関西将棋会館
*斎藤慎太郎著『最強最速の将棋』p.169~


▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7八金 △3二金 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角 ▲3六飛 △2二銀
▲8七歩 △8五飛 ▲2六飛 △4一玉 ▲7七角 △6二銀
▲6八銀 △5一金 ▲6九玉 △7四歩 ▲1六歩
*斎藤本によると「緩手。▲5九金だった」しかし、▲1六歩も実戦例は多い。
△5四歩 ▲5九金 △5五歩 ▲3六歩 △4四角 ▲3五歩
△同 角 ▲3六飛 △4四角 ▲3七桂 △2六歩 ▲2八歩
△9四歩 ▲1五歩 △9五歩 ▲4八銀 △7三桂 ▲5六歩
△2七歩成 ▲同 歩 △2六歩 ▲同 歩 △2七歩 ▲3三歩
△同 銀 ▲2五桂 △4二銀 ▲8六歩 △3五歩 ▲4六飛
△8四飛 ▲5五角 △同 角 ▲同 歩 △2八歩成 ▲3三歩
△2二金 ▲1四歩 △同 歩 ▲1二歩 △同 香 ▲1三歩
△同 香 ▲同桂成 △同 桂 ▲1四香 △5八歩 ▲同 金
△9四桂 ▲7七銀 △3八と ▲1三香成 △4八と ▲同 金
△1三金 ▲2一角 △5二玉 ▲3二歩成 △4四香 ▲4五香
△同 香 ▲同 飛 △3四銀 ▲4六飛 △3九角 ▲4九金
△5七角成 ▲6八金 △6五桂 ▲5七金 △同桂成 ▲4二と
△同 金 ▲5四桂 △8六桂 ▲5八金 △7八桂成 ▲同 玉
△8七金 ▲6九玉 △7七金 ▲4二桂成 △6一玉 ▲5二成桂
△7一玉 ▲6二成桂 △同 玉 ▲5四桂 △7一玉 ▲6二角
まで119手で先手の勝ち


変化:30手
△7三桂 ▲5九金 △7五歩 ▲4八銀 △7七角成 ▲同 桂
△8四飛 ▲1七桂 △7六歩 ▲同 飛 △5四角 ▲6六角
△8一飛 ▲7五飛 △7四歩 ▲2五飛 △3三桂 ▲2六飛
*これからの将棋。
△8七角成 ▲同 金 △同飛成 ▲2三歩 △同 銀 ▲2四歩
△1二銀 ▲2三角 △2二歩 ▲3二角成 △同 玉 ▲3四金
△4四歩 ▲同 金 △4三金 ▲同 金 △同 玉 ▲2三歩成
△同 銀 ▲4四金 △5二玉 ▲3三金 △8九龍 ▲7九歩
△3八金 ▲2三金 △同 歩 ▲同飛成 △6一玉 ▲7八銀
△9九龍 ▲6五桂


変化:48手
△2三歩


変化:41手
▲2六飛 △2五歩 ▲同 飛 △3三桂


変化:37手
▲6六角 △3三角 ▲7五角 △7四飛
*後手が好形。次に△4四角▲2八飛△7五飛▲同歩△7六歩の攻め筋を狙う。


変化:34手
△2八歩 ▲1七桂 △2九歩成 ▲同 飛 △7六歩 ▲6六角
△6五桂 ▲2六飛


変化:34手
△2七歩 ▲1七桂 △7七角成 ▲同 銀 △4四角 ▲2七飛
△2六歩 ▲2九飛 △6五桂 ▲6六銀 △7六歩 ▲6八金上
*先手が後手の攻めを受け止めている。


変化:29手
▲5九金 △5四歩 ▲4八銀 △5五歩 ▲6六角 △4四角
▲2八飛


変化:30手
△4五飛 ▲4八銀 △7七角成 ▲同 桂 △4四角 ▲3六飛
△2八歩 ▲8二角 △9二香 ▲4六歩 △2五飛 ▲4五歩
△同 飛 ▲9一角成 △2九歩成 ▲9二馬 △2五飛 ▲4五歩

反省の△8四飛引き

△7四歩などと仕掛けずに、飛車の位置が悪いと△8四飛と引く指し方を取り上げる。
それなら最初から△8四飛とすればいいのでは?と、最近では△8四飛型が中座飛車(△8五飛型)に取って代わっている。
(参考)稲葉陽著『横歩取り必勝ガイド』p.144~

初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △3三角
▲3六飛 △2二銀 ▲8七歩 △8五飛 ▲2六飛 △5二玉 ▲7七角 △5一金
▲6八銀 △6二銀 ▲6九玉 △8四飛
▲5九金 △7七角成 ▲同 銀 △3三桂
▲2八飛 △2五歩 ▲4八銀 △2四飛 ▲2七歩
*「▲2七歩と打たせた後手が満足」稲葉陽著『横歩取り必勝ガイド』p.145より
△2三銀 ▲8二角 △5四角 ▲3六歩 △同 角 ▲9一角成 △2六歩 ▲同 歩
△2七歩 ▲3八飛 △3五歩 ▲8一馬 △2六飛 ▲3六飛 △同 歩 ▲1六角
△同 飛 ▲同 歩 △2八歩成 ▲2四歩 △同 銀 ▲2一飛 △3八と ▲2四飛成
△4八と ▲同 金 △3七歩成 ▲同 桂 △3六歩 ▲2一龍 △2二飛


変化:48手
△1四角 ▲3九香 △2六飛 ▲3三飛成 △3四歩 ▲1八桂 △2五飛 ▲3七桂
△8五飛 ▲3二龍 △同 銀 ▲2九歩 △2八歩成 ▲同 歩 △8八歩 ▲同 銀
△2九飛 ▲2六桂 △3六角 ▲3四桂 △1九飛成 ▲7五金 △同 飛 ▲同 歩
△4四香 ▲9二馬 △2八龍 ▲5六馬 △4一銀


変化:48手
△2六飛 ▲3六飛 △同 飛 ▲3七香 △2六飛 ▲1五角 △3六歩 ▲2六角
△3七歩成 ▲同 角 △3四香 ▲2四歩 △3七香成 ▲同 銀 △2四銀 ▲2一飛
△4五桂 ▲2四飛成 △3七桂成 ▲同 桂 △3九飛 ▲4八銀 △1九飛成 ▲8一馬
△2八歩成 ▲2一龍 △3一歩 ▲3三歩 △同 金 ▲4五桂 △3八と ▲3三桂成
△4八と


変化:42手
△2六歩 ▲同 歩 △2七歩 ▲同 飛 △3六角 ▲2八飛


変化:47手
▲3七飛 △2六飛 ▲9一角成 △5四角 ▲2七歩 △同角成 ▲8一馬 △3七馬
▲同 桂 △3六歩 ▲1六角 △同 飛 ▲同 歩 △3七歩成 ▲同 銀 △3九飛
▲2四歩 △同 銀 ▲8二飛 △3七飛成 ▲6六香 △4一玉 ▲6三馬 △同 銀
▲同香成 △4八銀 ▲5二銀 △3一玉 ▲5一銀不成△5九銀成 ▲7九玉 △2二玉
▲4二銀成 △2三玉 ▲3二成銀 △3四玉 ▲5三成香


変化:48手
△5四角 ▲9一角成 △2六飛 ▲2七歩 △同角成 ▲8一馬 △3七馬 ▲同 桂
△3六歩 ▲1六角 △同 飛 ▲同 歩 △3七歩成 ▲同 銀 △3六歩 ▲同 銀
△3七角 ▲6八銀 △8八歩 ▲2四歩 △同 銀 ▲2一飛 △8九歩成 ▲2四飛成
△6五桂 ▲2一龍 △3一歩 ▲3九香 △5五角成 ▲2四桂


変化:48手
△3五歩 ▲9一角成 △2六飛 ▲3九飛 △2八歩 ▲3六飛 △同 歩 ▲8一馬
△2九歩成 ▲1六角 △2五桂打 ▲2七香 △1六飛 ▲同 歩 △2八と ▲2五香
△同 桂 ▲3三歩 △同 金 ▲2四歩 △同 金 ▲2二飛 △4二香 ▲3四桂
△同 銀 ▲2四飛成 △3八と ▲3四龍 △4八と ▲同 金 △2九飛 ▲5九桂
△3七歩成 ▲5八金 △1九飛成 ▲2五龍


変化:38手
△5四角 ▲3六角 △6五角 ▲4六歩 △2三銀 ▲7九玉 △3四銀 ▲6六銀
△9二角 ▲4七角 △同角成 ▲同 銀 △3五銀 ▲3六歩 △2六歩 ▲3五歩
△2七歩成 ▲6八飛


変化:55手
▲2五歩 △同 飛 ▲3六銀 △2八と ▲2五銀 △3九飛
*後手勝勢


変化:38手
△8四飛


変化:38手
△7四歩 ▲8二角 △7三角 ▲同角成 △同 桂 ▲8二角 △5四角

有効な△6五桂の仕掛け

羽生善治王位 対 広瀬章人八段(第56期王位戦七番勝負第3局)で中座飛車復活のideaになりそうな新手が登場した。
なお、佐藤天彦名人は、この将棋を2015年度の名局第一位に推している。
cf.「将世2016.6号」p.54~

▲4八銀と▲1六歩との比較


図の▲4八銀では、稲葉vs金井(上記)のように▲1六歩も有力。

前例は▲4八銀が10局、▲1六歩が14局、▲3三角成が2局だった。ただ、近年は▲4八銀の採用数が増えている。

「▲1六歩と▲4八銀はどちらもあるところですね。駒組みとしては▲4八銀を指したいところなのですが、2~3筋が薄くなるので、そこを狙われるリスクがあります。具体的にはすぐに△6五桂と跳ねる手が成立する可能性があります。▲1六歩は3九銀型で2~3筋を守っているうえに、▲1七桂と跳ねる余地もあって無難です。穏やかなのは▲1六歩。ギリギリのところを狙うなら▲4八銀ですが、このあたりは人によって考え方が異なるところだと思います」(阿久津八段)

王位戦解説より

▲1六歩に対して△6五桂と仕掛けるのは、阿部隆 vs. 田村康介 (第71期順位戦B級2組09回戦)のように飛車の横利きの効果で先手が有利。
(参考)吉田正和著『決定版!横歩取り完全ガイド』p.112~


しかし、斎藤慎太郎 vs. 中座真 (2013-03-05 順位戦)のように、あまりに早い▲1六歩は△5四歩とされた場合に緩手になる可能性がある。
(参考)斎藤慎太郎著『最強最速の将棋』p.169~


なお、▲4八銀に対しても△5四歩は考えられ、井上慶太 vs. 高橋道雄 (第73期順位戦B級2組02回戦)などが実戦例がある。もし△5四歩に▲3六歩とすると、佐藤天彦 vs. 羽生善治(2013-05-17 竜王戦)のように△2五歩から攻める。


△6五桂で△7五歩とすると▲1六歩△7七角成▲同桂△8四飛となって先に▲1六歩とした変化に合流。
このように後手に△6五桂と△7五歩の選択権があるので、▲4八銀より▲1六歩の方が少し安全か。
「最近の流行に身を任せました。」(広瀬)

羽生新手△3三銀

▲3六飛と▲4六飛の比較

図から△3三銀としたのが羽生王位の新手。


なお、図の▲3六飛では▲4六飛も有力らしい。
△8八歩▲同金△2八歩には▲4四飛とするのが狙い。△同歩▲6五歩△2九歩成▲7七桂△8一飛には▲6四歩で次に▲7二角が厳しい手として残る。


また、単に△2八歩とする手は、▲6五歩△2九歩成▲7七桂△8二飛▲6四歩△同歩▲6三歩△同銀▲7三角△8一飛▲4四飛△同歩▲5五桂△5四銀▲5一角成△同玉▲3四角△6一角となってぎりぎり受かっているか?


(参考)中座真『中座の横歩取り』p.178~


このように▲3六飛が一般的だが、▲4六飛も考えられる。


▲3六飛に対する今までの定跡

▲3六飛に今までの定跡は△8八歩▲同金△2八歩。
以下▲7七桂△同桂成▲同金△2九歩成▲2四桂△3一金(△3三金は▲3二角で潰れ)▲1二桂成(▲3四角は、△5二玉▲1二香成△3三銀)△同香▲3四角△1九と▲1二角成△3二香で後手優勢というもの。
(参考)中座真『中座の横歩取り』p.174~


それなら△8八歩で良さそうですが、羽生王位が新手を試みたのは、佐藤天彦八段 vs. 阿久津主税八段(第63期王座戦挑戦者決定トーナメント1回戦)のように△8八歩に▲7七桂の変化を嫌ったのかも。


本譜は、封じ手前の△8八歩で後手が歩切れになったため、▲1七角が効果的で先手有利になった。
単に△2八歩なら▲1七角はないが、代わりに▲1七桂が次に▲2五桂をみて効力を発揮する。

狙い筋は△2八歩▲1七桂△2九歩成だが、以下▲6五歩△9九角成に▲7七桂と飛車を追いながら桂を逃げる味が良く先手良しとのこと。△9九角成で△1九とは▲7七桂△8一飛▲2五桂△2四銀に▲3二飛成△同玉▲3六桂の大技で先手良し。そこで△8八歩▲同金を入れて▲6五歩とすぐには取られないようにしてから△2八歩が検討されている。ただ、この手順では△2八歩に▲1七角の変化があり、△2八歩▲1七桂に△8八歩の手順だと▲7七桂と変化される余地があるという。

「△2八歩も△8八歩も目論み通りに進むかどうかわからず、どちらを先に打つのかも難しいです。しかし、後手の攻め筋は他にないので、この筋の組み合わせでいくことは間違いないと思います。すでに勝負どころですね。封じ手までは2~3手、多くても5手ぐらいしか進まないと思います」(阿久津八段)

王位戦解説より

広瀬八段の迷い

△3三銀に▲1六歩と桂の逃げ道を開けるのは当然だが、△2八歩に▲1七桂と逃げずに▲1七角と打った。
▲1七桂だと△2九歩成▲2六角で△5五角なら▲7八玉から桂馬を取り切ることができる。▲1七桂を▲2五桂と活用すれば銀取りだ。これなら羽生新手は失敗だった。
広瀬八段は、と金を残すのを嫌った。▲1七角△2九歩成▲4四角△同歩▲2六飛とすればと金が取れ、2歩得が残る。

震えながら指した大悪手△6七銀


終盤戦、形勢を悲観していた広瀬だが、▲6一角と王手して合駒を請求。それに△5四玉▲5五歩△同玉▲6七銀に△4八金▲同玉△3八金▲5九玉△4八銀▲6八玉△5七銀打とすれば後手の勝ち筋だが、筋悪なので盲点だった。


図の▲5八飛が良い勝負手だった。
羽生王位は△6七銀としたが、この手で九分九厘まで手にしていた勝ちを逃した。
▲6七同飛からまさかの即詰みが生じていた。
図から△6五銀▲同歩△7六桂なら勝ちだった。
記憶に残る名勝負だ。


オススメの新手△3三桂

このように▲1七桂~▲2五桂が銀に当たるので羽生新手△3三銀は不発に終わったが、同趣旨で△3三桂(下図)が、後の▲2五桂に備えて有力。

と、付け足しのように上に2行ほどで記した新手△3三桂だったが、その後、佐藤天彦 名人 vs. 高橋道雄 九段 (第30期竜王戦1組出場者決定戦)で、高橋九段がこの手を指した。
筆者は、涙が出るほど嬉しい。


図からの指し手
▲2四歩 △8八歩 ▲同 金 △2八歩
▲2一角 △2九歩成 ▲3二角成 △同 玉
▲3四金 △5五角打


▲2四歩~▲2一角の攻めが参考になる。(並の発想は、桂の逃げ場を作る▲1六歩)
▲3四金としがみついて先手が指せる変化に見えるが、△5五角打と抵抗され、実戦は▲4四金△同角▲7七桂と進行。
▲7七桂と交換する代わりにタダで桂馬を取ろうと▲7八玉とするのは、△1九と▲6五歩の後、△8八角成~△9五桂とか△1七角成とか△6五同飛など手段か多く、後手玉が薄いので▲3四桂など厳しい攻めが残り、難しい形勢。


実戦は、▲7七桂△同桂成に▲同銀と取ったが、▲同金の方が形が良かったか?
指し手の最後の△5五角打ちでは△5五角と逃げる手もありそう。
△5五角に▲5六飛△5四歩▲5五飛△同歩▲6五歩と桂を取って先手が良さそうだが、△1二角▲2三角△同銀▲同歩成△同角▲2四桂△2二玉が予想され、▲3一銀△同玉▲2三金△4二玉で切れ模様。


難しい局面から強敵相手に勝ち切った高橋道雄九段の充実ぶりは素晴らしい。
新手△3三桂は有効だった。