将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【角換わり】相早繰り銀

相早繰り銀は後手良しか?

急所の△5五角

早繰り銀から先攻すると、後手から継ぎ歩の反撃があるのは常識だが、簡単ではない。
下図は、▲3五歩△同歩▲同銀と先手が先攻した局面。

図からの指し手
△8六歩 ▲同 歩 △8五歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 銀
△5五角 ▲3七歩 △2四銀 ▲同 飛 △2三歩 ▲2六飛
△8六歩 ▲8八歩 △8七銀


となって後手成功。
△5五角と打てるのが6四銀型の自慢で、打てないと△8六歩に▲8四歩といった反撃手段が生じる。



話はこれで終わらない。
順位戦で同一局面が出現した。
負けた側を持った阿部健治郎七段の用意の一手は、▲4六角(下図)

図の局面から△4六同角▲同歩△2四銀▲同飛△2三歩▲2八飛△8六歩と進行。
これに▲8三歩(単に▲8四歩もある。)△同飛▲8四歩△同飛▲6六角△8二飛▲1一角成(下図)が先手期待の反撃で、△8七歩成には▲同金△同飛成▲8八香でゲームセット。
▲4六の歩を除けば昔からの定跡手順だ。

ところが、図の局面で佐々木七段が鮮烈な一手を放つ。
△3七銀!!!
ただじゃん。
でも▲同桂△3六歩▲3八歩などと受けると、先手の飛車の横利きかが止まったため△8七歩成で崩壊。
飛車逃げようか。
しかし▲5八飛は△4七角だし、▲6八飛も△4六銀不成がうるさい。
▲4六歩とつかされたのが、ここまで響いているのかと驚く。
本譜は、▲2五飛と逃げ、△8七歩成▲8五香の飛車取りに期待したが、かまわず△7八と、以下▲8二香成△4七角▲3七桂△2五角成▲同桂△4七金までの60手で投了という結果になった。
▲3七同桂と取って△3六歩に▲6六馬△3七歩成▲8四香などとした方が良かったかもしれないが、形勢不利は免れない。
阿部健治郎七段は、将棋を指した気がしなかっただろう。
W佐々木の研究恐るべし。

 この対局で、後手の佐々木七段は中盤に△3七銀と桂のきいているところに銀をタダで捨てた。ネット将棋であればクリックミスを疑うような一着にみえる。しかしこれが一撃必殺の銀捨てだった。


 対して124分の長考の末、阿部七段はこの銀を取ることを断念した。しかしさらに佐々木七段は一気に攻め込み、以下数手で佐々木七段の制するところとなった。


 阿部七段の2時間以上の考慮は苦吟の時間だっただろう。必死に挽回の策を探したが、さしもの阿部七段も抵抗できなかった。


 佐々木七段がその△3七銀に費やした考慮時間はわずかに1分。研究手だったことが窺える。


 筆者もたまたまこの手は認識しており、知る人ぞ知る秘手だった。

 たった一手で決まる、研究の進む現代将棋の恐ろしさである。


【将棋】佐々木勇気七段がみせた一撃必殺の銀捨て 遠山六段 より抜粋


継ぎ歩攻めより有力?△2七歩~△3六角

相早繰り銀から▲3五歩△同歩▲同銀に後手は△9四歩と攻めを誘った。

▲2四歩△同歩▲同銀に図の△2七歩が用意の一手。

▲同飛△3六角▲3七飛△5四角とされて先手が嵌っている。


開始日時:2022/03/26 19:35:19
棋戦:R対局 早指し(1手30秒)
先手:scscscsc(2301)
後手:JKishi18gou(4343)
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7六歩 △3二金
▲7七角 △3四歩 ▲6八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲4八銀 △3三銀 ▲3六歩 △6二銀 ▲3七銀 △7四歩
▲7八金 △7三銀 ▲4六銀 △6四銀 ▲1六歩 △1四歩
▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀 △9四歩 ▲2四歩 △同 歩
▲同 銀 △2七歩 ▲同 飛 △3六角 ▲3七飛 △5四角
▲3三銀成 △同 金 ▲1八角 △同角成 ▲同 香 △2六角
▲6九玉 △3七角成 ▲同 桂 △4四金 ▲3九歩 △3六歩
▲2五桂 △3七歩成 ▲2四角 △6二玉 ▲2二歩 △4八銀
▲同 金 △同 と ▲7九玉 △3四飛 ▲2一歩成 △2四飛
▲6六桂 △7三金 ▲5六角 △2五飛 ▲7四桂 △同 金
▲同 角 △7一桂 ▲1一と △2九飛成 ▲6六香 △3九龍
▲8八玉 △7三歩 ▲6三角成 △同 玉 ▲7五銀 △5二桂
▲6四銀 △同 桂 ▲7五銀 △5二玉 ▲6四香 △6九角
▲7九金打 △7八角成 ▲同 金 △6九角 ▲7九銀 △7八角成
▲同 銀 △6九銀 ▲同 銀 △同 龍 ▲7九銀 △7八金
▲同 銀 △7九銀 ▲9八玉 △7八龍 ▲8八桂 △8六銀
▲6三角 △同 桂 ▲同香成 △同 玉 ▲4一角 △5二香
▲8六銀引 △8七龍 ▲同 玉 △8六歩 ▲同 銀 △同 飛
▲同 玉 △9五銀 ▲7七玉 △8六銀打
まで118手で後手の勝ち


課題局面の▲6六歩

狙いは腰かけ角


最近よく指されるのが▲6六歩。
問題は、図のように△7五歩と仕掛けられ、▲同歩△同銀に▲2四歩△同歩▲2五歩△7六歩▲6八銀となった時、6六の歩が浮いていることだ。
△6六銀に▲2四歩△2二歩▲2五飛と銀を狙う手には△3五歩がぴったり。
王手飛車があるので▲同飛と取れない。
そこで最近は、△7五歩▲同歩△同銀に▲7六歩と収めることが多い。
△8六歩▲同歩△同銀には▲5六角で受かっている。
この腰かけ角は、升田幸三実力制第四代名人が棒銀対策で用いた名角。
仮に△7二角と受けても▲8六銀△同飛▲7七金が飛車成を封じている。
以下△8二飛に今度こそ▲8三歩だ。


△4五角のラインに注意

▲6六歩のもう一つの問題は、△4五角のラインで金を狙われることだ。
▲3五歩△同歩▲同銀△3四歩に▲2四歩と攻めたいが、△同歩▲同銀に△2七歩▲同飛△4五角の反撃が厳しい。
そこで、▲3五歩△同歩▲同銀△3四歩に▲6五歩が研究されている。
以下△7三銀▲4六銀となって、6五の歩が伸びすぎになるかどうかの勝負だ。








藤井vs永瀬

藤井聡太七段が王位戦挑戦を決めた一局。
後手が早々に端のクライを取り、その間先手は▲3四歩△2二銀と凹ました。
永瀬二冠も△6四銀+5四角に藤井七段は▲3五銀+4六角で対抗。
△7六歩▲8八銀とこちらも凹ませて後手としては上々の序盤戦。

永瀬二冠が突き捨てた7五の歩を飛車で取り返したので、歩が打てるようになった藤井七段が▲7七歩と壁銀の解消を図ったのが上図の局面。


角の働きでは後手が優るが、飛車の横利きがなければ▲5五歩から▲3七桂と追われる順がある。
今のところ△7五飛で牽制しているものの、飛車が不安定だ。
この▲3七桂を防いで△3六歩が大きな手だった。
手抜きすれば△3七歩成があるので▲4八金と受けるが、それから△7三桂とすれば、飛車角が楽だった。
▲7六歩には△同飛と取って7四に引く。
▲5五歩と角を追われても△4五角が後手陣を睨んだ好位置だ。


実戦では、図の局面から永瀬二冠は△7三桂とした。
早繰り銀+△7三桂&筋違い角の理想形を組めて悪いわけないはず。
ところが下図の局面まで進行してみると、思った以上に闇が深かった。

指したい手が多く、方針の立て方が難しい。
△5四の角を起点に両方の端を狙って攻めたいし、守りでは△3三歩と壁銀の解消を図りたい。他に△5二玉と居玉を解消したいし、△7二金や△6二金も指しておきたい。
ところが、どの変化を読んでも思わしい未来が得られない。


実戦は、△3八歩▲同金と4九に隙を作ってから△8六歩と攻めた。
これに▲7七歩がしぶとい受け。
下手に攻めると先手の壁銀が働いてしまう。
個人的には図の前、54手目の△5四角では、▲2四歩と突き捨てを咎めて△2三銀としたかった。
図の局面になると、先手は後手の手に対応するだけなので指し手が分かり易い。
かといって△5二玉や△6二金は一手の価値があるかどうか微妙なところ。
やはり図でも△3六歩と桂跳ねを防ぐ手が価値が高い手か?



▲5八玉対△5二玉(第69期王将戦第三局)

渡辺明王将vs広瀬章人八段の王将戦は、どれも内容が素晴らしく、特に第三局は2019年度の名局第10位に選ばれた。


これぞプロ!というテクニックが満載!遠見の自陣角、飛車銀交換からのつなぎ桂、玉横の垂れ歩の空気投げ、玉の腹から銀を打て、玉を上部に逃げる技、見応え満点の将棋です」

(勝又清和七段)


「長く続いたギリギリの終盤戦で、劣勢から逆転まで持ち込んだ迫力が凄かった」

(長岡裕也五段)


「中盤以降、間違えるとすぐ終わってしまいそうな将棋でしたが、常に最善を尽くし続けるとこんなにも熱戦になるのかと感動しました」


(本田奎五段)

2018年の叡王戦でそれぞれが逆を持って戦っていた。
その将棋では広瀬八段の▲3五歩△同歩▲同銀(実戦は先後逆)に渡辺棋王は△8六歩からの継ぎ歩をしなかった。▲3四歩に△4四銀と反発するためだ。
継ぎ歩をすると▲3四歩に△4四銀とできない。
銀交換の後▲8五歩と手を戻されると、目標の銀がいないので十字飛車の攻めが空ぶってしまう。
本譜は、継ぎ歩したため▲3四歩に△2二銀と引くことになった。
しかし、後に△8五飛▲4六銀△3三歩などと壁銀を解消する手段はあるので後手も不満はない。
図に至る手順で注意点は、35手目の▲2四同飛。
▲2四同銀は△5五角がある。
相早繰り銀▲5八玉型△5二玉の同型から3筋の歩交換に継ぎ歩の反撃をすると図までは想定される局面。

後手の狙いは△8七角の打ち込みだが、今は▲7九(6八)金で無効。9筋をからめて△9八歩▲同香△8七角なら手になる。△5二玉と△7三桂を△9四歩~△9五歩に代えて△8七角とした実戦例(村田顕vs阿部隆)もあり、後述する。


図の▲6六歩に深い研究が窺える。
王の小ビンが開くので並の発想は▲6六銀だ。
▲6六歩は相手の歩越し銀に歩で対抗しながら、後に▲6八銀~▲6七銀という理想形を見ている。
これで渡辺王将は先手が指せるという判断だ。


これまで8筋の屈服と3筋の押さえでは8筋の方が大きく後手有利と思われていた。
先に述べたように、図から△8五飛▲4六銀△3三歩と3筋の圧力を消すことができる。
対して8筋の圧力は解消しようがない。9筋を詰めて△9六歩▲同歩△9八歩▲同香△8七角という分かり易い攻めがある。
しかし、後述するが、△8七角打ち込みの筋は、仔細に検討してみると、△9八歩の瞬間▲6五歩の反撃があって難しい。単純な攻めでは後手は良くならないようだ。
かといって△7三桂なら▲6八銀~▲6七銀が好形で、先手が良い。


図から△7二金とし▲6八銀に△8四飛として▲6七銀に7筋歩交換。そして△5五銀~△4四銀と後手の右銀が大活躍だ。▲4六銀と交換を避けた手に△2四歩が味良い。
その間に先手は左桂を使って桂を手持ちにした。▲5六桂が狙いだ。
手番を握った後手は△2五歩と良さを求めに行く。▲同飛△3六歩に▲4五桂と跳ねるのは△5四桂で危険と見て渡辺王将は▲5六桂とした。
しかし、広瀬八段は▲4五桂を恐れていた。△5四桂に▲5六桂と打ち返す手があって以下△4六桂▲同歩△3七歩成が王手飛車を睨んで厳しいようだが、▲7五角が5筋を狙って厳しい。そこで△4五銀▲同飛としてから△3七歩成(△3四銀は▲4四桂打△同歩▲同桂△6一玉に▲5二角で銀が抜ける)だが、▲4四桂打△同歩▲同桂△6一玉に▲9五角に△8三飛なら▲5二桂成△同玉▲6一銀が厳しい。△8一飛にも▲3二桂成と金を取る手や▲7三銀と俗に迫る手があって勝勢。
という事は、良さを求めていった△2五歩が危険で、じっと△3四銀と歩を払うくらいだったか?
他に△7七歩という筋もあり、▲同金なら△5四桂▲4五銀△5五角▲7八金△3七角成から二枚替えだが、△7七歩に▲6六角~▲7七角と手堅く守られて難しい。また、先に△5四桂としてから△7七歩もあるが、▲7九金で5四の桂馬が無駄手になる。やはり良さを求めて動くのは危険だったのだ。


しかし、この将棋の見どころは先にある。


△8二角が「遠見の自陣角」。
▲6四歩で受かるようだが△同飛が強手。5五の銀が消えると△6六桂打の「つなぎ桂」が厳しい。
▲6四同銀△同角に▲4八玉とすれば受かりそうだが、△4五桂▲2七金に△2八銀がぴったり。
したがって▲3六金と逃げ、金桂交換を甘受したが、△6六桂跳ねが鋭い。

図の△6六桂が意表の攻め「桂は攻めの種駒だから△6六桂は相当見えない」(渡辺王将)。▲6七銀と桂先の銀は△7七銀で寄る。角の利きが絶品だ。
しかし、ここからの渡辺王将の凌ぎが凄かった。
▲6九銀△6五桂に▲6七玉が力強い。
△7八銀▲同銀△同桂成の一瞬の隙に▲6二歩の「空気投げ」!

しかし先手玉はいかにも危ない。
△7七桂成▲5八玉に△3七歩と筋良く攻められ、▲4六歩△3八歩成▲4七玉と
「玉を上部に逃げる技」。


△2九とに▲6九銀△4二玉▲5二銀打と「玉の腹から銀を打て」。
▲5二飛を本線に読んでいて、△4一玉でギリギリ受かっていると読んでいた広瀬八段は焦った。確かに率が悪そうな重ね打ちで、渡辺王位自身「形勢不利の中、▲5二銀打みたいな俗手では本来勝てないはずなんですけど、そのあと▲7二銀不成~▲6三銀左成と使えて混戦模様に。何とか先手番の勝ちを維持できてほっとしました。」と語っている。
これに△4九飛と王手したが、自然な△3四銀は▲3五歩△3八銀▲同玉△3九飛▲4八飛△3六飛成に▲4三銀△同銀▲4一飛からバラして▲3四銀と打てば詰む。
しかし、▲3五歩に△2五銀という絶妙手が後に広瀬八段によって発見された。▲同金は△3六銀▲同玉△4五金で詰む。
また▲6三銀左成に△6九飛成▲6四成銀△1二玉でも後手勝勢だったらしいが、人間が指すのは困難だ。





村田顕vs阿部隆(竜王戦)

△9八歩▲同香△8七角と図の局面になったが、△9八歩の瞬間▲6五歩を利かすべきだった。
△6五同銀なら▲9八香△8七角には取って▲4六角が厳しい。
△7三銀なら▲9八香△8七角に▲同歩△同歩成に①▲8三歩△同飛▲8四歩△同飛▲6六角△8二飛▲7九金や②▲8四歩△7八と▲8六銀という変化が考えられる。


図からの指し手
▲同 歩 △同歩成 ▲8四歩 △7八と ▲8六銀 △8九と
▲8五銀


図の△8七角は取るしかないが、と金ができてアマチュア同士では先手が間違い易い。
連打すると歩が足りないので▲8四歩と垂らし、△7八とに▲8六銀と躱す。
角と金桂の二枚替えとなるが、8五の銀が不安定で後手に手段が多い。
パッと目につく△7三桂は、▲6五歩△同銀▲7五歩(▲8三角)△8五桂▲7三角△6二飛▲8三歩成で先手良し。
そこで本譜は△7二金としたが、▲2八角が好手で△5四歩▲6五歩△5五銀▲4五角と二枚角を要所に配置し、△7三桂に▲5五角が痛快な一手。71手の短手数で先手勝ちとなった。
▲8五銀には△7三桂打が有力だった。


豊島vs藤井(第62期王位戦第2局)

両者が端歩を突き越している形から藤井王位が▲7五歩△同歩▲同銀と仕掛けた。
他のタイミングでは▲2四歩△同歩▲2五歩と仕掛けられて悪い。


ここで▲7六歩が研究の一手で△8六歩▲同歩△同銀に▲5六角がある。
後手も一歩持ったのに満足して△6四銀と引く。