将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【角換わり】先手早繰り銀

角換わりの三すくみ関係

角換わりの定跡書では、「腰掛け銀」「早繰り銀」「棒銀」の三すくみ関係が解説されている。

「腰掛け銀」は、「早繰り銀」に強いが「棒銀」に弱い。

「棒銀」は、「腰掛け銀」に強いが「早繰り銀」に弱い。

「早繰り銀」は、「棒銀」に強いが「腰掛け銀」に弱い。

その中で、「棒銀」は「腰掛け銀」に強いと言われていたが、「腰掛け銀」側に右玉など有力な対抗策が発見され、この三戦法のうち「棒銀」の支持者は少ない。
早い端歩突きからの棒銀を得意とする青野九段か、アベケン流の居玉速攻くらいで、工夫はあるものの評価値・勝率ともに高くない。


現在よく指されている「棒銀」は、▲3七銀~▲2六銀と上がる形。
以前のように▲2七銀から棒のように上がって行くものとは別で、「早繰り銀&棒銀」と一括りに考えた方が良い。


多数の支持者を集めているのは「腰掛け銀」でゼロ手損角換わりでは相腰掛け銀が多い。しかし、「早繰り銀」の支持者も永瀬叡王など根強い。
特に一手損角換わりに対しては「早繰り銀」が定跡とされている。
後述するが、将棋倶楽部24のソフト(JKishi18gou)は「早繰り銀」を多用した。
早繰り銀と▲3七桂を組み合わせた、新しい形で勝ちまくったのだ。


青野流の▲7八玉型早繰り銀

▲7八玉型早繰り銀は、「一手損角換わり」対策の定跡だが、ゼロ手損で最初に使ったのが「新手maker」青野九段。
相手は、後に名人となる佐藤天彦。
青野九段は、昔から腰掛け銀以外の角換わりを得意としていて、最近でも若手相手に▲3八飛の新手を試みたり、失敗を恐れない意欲的な序盤で知られる。

阿部健治郎vs増田康宏

青野流▲7八玉型早繰り銀を若手の阿部健治郎が拝借。
よくある▲3六歩から▲3五銀のぶつけに△4三銀は珍しく△3五同銀が定跡だ。

一手損角換わりで丸山が試みたことがあるが、飛車先交換を許して損と、それから指していない。

図の△7四歩のチャンスを阿部健治郎は見逃さなかった。
▲4六角が好位置。
△6三金と受けると5一の地点に角成の隙ができるので、増田六段は、△7三桂▲6四角△6二金と歩損に甘んじる。
▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛△2三歩▲2九飛△8一飛▲4八金△3三桂と端が薄くなったため▲4六角が絶品。
二歩手持ちなので次に▲1五歩が厳しい。
△4五歩▲5五角△5四銀打と角を追うが、▲3三角成が鋭い踏み込み。
▲5五歩△8六歩▲同歩△5五銀に▲4五桂で先手有利。
△3二金▲3五銀△3四銀▲3三銀に△6六歩(図)と反撃。
この歩が先手陣の急所だ。

図からの指し手
▲3二銀成 △同 玉 ▲2三桂成 △同 銀 ▲3三金 △4一玉 
▲2三飛成 △6七歩成 ▲同 金 △8七角

後手玉は裸だが、まだ詰みはない。
△8七角は狙っていた手で、取れば詰む。
▲6八玉と躱したが、△7八角打が詰めろ。
他に△5六桂もあるが、▲同金△同銀に▲5九玉の早逃げがぴったり。
△7八角にも▲5八玉の早逃げがぴったり。
後手は△6五桂~△5七桂と逃げ道を塞いだが、形作り。
▲6三角に駒を投じた。

将棋 棋譜並べ ▲阿部健治郎七段 △増田康宏六段 第13回朝日杯将棋オープン戦一次予選「dolphin」の棋譜解析 角換わり


見直された▲3七桂型

図のように▲3七桂と組み合わせたのが新しい「早繰り銀」。
今までは、▲3七桂の代わりに▲3五歩と突いていた。
しかし、「腰掛け銀」から△4五歩と銀を追われ、▲3四歩△同銀▲3七銀△3三角などと対応されると、先手の銀より後手の銀の方が威張っている感じだ。



ところが図のように▲3七桂と受けると、銀を追われることはない。
後述する玉を深く囲う形はもちろん一手損角換わりなどで良く指される△4二飛型にも▲3七桂が有効。


図は、羽生vs糸谷(王将戦)。
糸谷八段得意の一手損角換わりに対し、羽生九段は早繰り銀から▲3七桂と跳ねた。
図から△4五歩とされるのは大丈夫だろうか?
ソフトにかけて検証してみた。


図からの変化手順
△4五歩 ▲同 銀 △同 銀 ▲同 桂 △同 飛 ▲3四歩
△同 銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三金 ▲2六飛


飛車先を交換した後、▲2六飛と引いて、次の先手の狙いは▲4六飛。
これに△3七角と受けても▲2三飛成から▲4六銀打で先手が良い。
途中の△2三金では△2三銀打が正解らしいが、いずれにせよ桂損でも玉形の差が大きく評価値はプラス500点近くある。
しかし、△5四銀としたのに△4五歩が利かないのは誤算だった。
図の後手陣は△5四銀を省いて、早く△6二玉と避難すべきだったか?



以前は、「早繰り銀」と▲3七桂の組み合わせはあまり良くないと考えられていた。
▲3七の桂は跳ねる場所がなく、早繰り銀も▲3五歩と仕掛けると桂頭がキズになる。
ところがAIの進歩によって形の評価が変わり、悪形と言われたものも見直されるようになった。
現在は、対四間飛車の金無双急戦などでも良く見かける形で、違和感が薄れてきた。


将棋倶楽部24にやけに強い「早繰り銀使い」がいた。

将棋倶楽部24の棋譜から
先手は、JKishi18gouさん
得意戦法は「早繰り銀」。
私も何度か戦い、かなり影響を受けました。


▲2六歩 △8四歩 ▲7六歩 △8五歩 ▲2五歩 △3二金
▲7七角 △3四歩 ▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲7八金 △3三銀 ▲3八銀 △6二銀 ▲3六歩 △6四歩
▲6八玉 △6三銀 ▲9六歩 △1四歩 ▲3七銀 △5四銀
▲4六銀 △4四歩 ▲3七桂 △9四歩 ▲7九玉 △5二金
▲2六飛 △4二玉 ▲8八玉 △3一玉 ▲3五歩 △4三銀
▲4八金 △1五歩 ▲6六歩 △2二玉 ▲6七角 △7四歩
▲5六角 △8四飛 ▲3四歩 △同銀右 ▲2四歩 △同 歩
▲2五歩 △7五歩 ▲2四歩 △4三角 ▲3五歩 △2五歩
▲3四歩 △2六歩 ▲3三歩成 △同 金 ▲2三銀 △3一玉
▲2二銀打 △4一玉 ▲3三銀成 △同 桂 ▲8三金 △7六歩
▲同 銀 △7七歩 ▲同 桂 △7五歩 ▲8四金 △7六歩
▲7一飛 △5一銀 ▲3四歩 △7七歩成 ▲同 玉 △7六歩
▲8八玉 △8六桂 ▲同 歩 △7七銀 ▲同 金 △同歩成
▲同 玉
まで85手で先手の勝ち


先手の次の一手は▲6七角。
早繰り銀と筋違い角は相性が良い。
好機の▲3四歩△同銀右▲2四歩△同歩▲2五歩という継ぎ歩攻めが狙いだ。
なお△7四歩には▲5六角と嫌がらせをするのをお忘れなく。
深く囲った玉に対しては、「腰掛け銀」より「早繰り銀」の方が有効。
逆に言えば「早繰り銀」に対して深く囲ってはいけない。
『【一手損角換わり】羽生流右玉戦法』で触れたように、「早繰り銀」には右玉にするのが有効な対策だ。
「腰掛け銀」「早繰り銀&棒銀」の他に「右玉」を入れて三すくみとすべきか?

「早繰り銀&棒銀」は、「腰掛け銀」に強いが「右玉」に弱い。

「右玉」は、「早繰り銀&棒銀」に強いが「腰掛け銀」に弱い。

「腰掛け銀」は、「右玉」に強いが「早繰り銀&棒銀」に弱い。


早繰り銀のスペシャリスト


丸山九段の職人芸

対高野智史戦、先手の丸山忠久九段の作戦は「早繰り銀戦法」。
後手番「一手損角換わり戦法」のスペシャリストである丸山九段は、対早繰り銀の経験が豊富なので、当然早繰り銀戦法も巧い。
「羽生流一手損角換わり」なら後手陣は△8三歩+△6二玉となっている局面。
図から▲3五歩△同歩▲同銀と仕掛けた。
これに△6二玉なら穏やかだが、高野新人王は△8六歩▲同銀△6五歩と反撃した。
藤井聡太七段なら△8六歩▲同銀に、一発△8八歩を入れたかもしれない。
△6五歩に▲7七銀としたが、△8五桂▲8八銀△6六歩が先手としては気になる。
実戦は、△7五歩だったため▲3四歩が気持ちいい。
後手の居玉が不安材料だ。



後手△4五歩の反発

△4四角~△4二玉 

▲7九玉型が先手の工夫。▲7八金型より優れている。
▲7八金型だと、▲3五歩△同歩▲同銀に△8六歩▲同歩△8五歩の継ぎ歩攻めがあるし、▲3五歩に△4五歩と反発された場合も▲3四歩に△4六歩▲3三歩成△4七歩成▲3二と△4六角で金損ながら後手優勢。(ただし、これは玉側の端歩(9六歩)を突いておけば先手有利。)
この二つは、早繰り銀を指す上で、押さえておかなくてはいけない基本定跡。



図の局面から△4五歩の反発には今度は▲3四歩が利く。
しかし、△同銀▲3七銀△3三角が定跡で、後手も好形。▲7八金に△7四歩と反撃の形を整えた。
先手は囲っても堅くならないので▲3八飛と主導権を取りにいく。


丸山忠久vs佐々木大地(NHK杯)では△6二金~△7三桂としたが、▲5六歩を突かずに▲3六銀が丸山九段の工夫で、△5五角に▲2八角とあわせて、以下十字飛車が厳しかった。△6三歩には▲同飛車の強襲がある。


丸山忠久vs本田奎(棋王戦)の△4四角~△4二玉型の方が優れていて、▲4六歩の仕掛けに△7五歩▲同歩△7六歩▲8八銀と好調だ。以下△4六歩▲同銀に△8八角成から十字飛車がある。
その後、本田奎vs丸山忠久(棋聖戦)で同様の形になり、先手の本田四段は早繰り銀をやめて棒銀にした。しかし、結果は負け。
このように先手早繰り銀は苦戦を強いられていたが、将棋界のlegend羽生九段が対稲葉戦(竜王戦)で採用して注目された。

図の▲5八金を省いて▲4六歩は、△3六歩▲同銀△4六歩で不利。
図から△4二玉に▲4六歩△7五歩までは前例通りだが、ここで▲6六歩がlegend用意の一手で最善だろう。
実戦は、△7六歩▲同銀△6六角▲7七歩と進んで先手陣が安定した。
△6六角では△6五歩(図)と指したい。

▲4五歩△同銀左▲3六銀△同銀▲同飛△8六歩▲6四角△7三歩▲8六角△6六歩▲7七角が想定され難解だが、この変化が見たかった。
勝負はlegend勝ち。
流石だ!!



私の好みは▲5七銀~▲4六銀というルートでの早繰り銀。
場合によっては▲5七銀型のまま使うこともでき、攻守兼用で好みだ。
▲5六歩を突くことで攻めの幅も広がる。
元々▲7八玉型の狙いは、5筋を突いた時に玉形が安定していることだ。


後手△4三銀引き

好位置の▲5六角

第13回朝日杯将棋オープン(令和元年7月5日)
先手:伊藤真吾 五段
後手:森内俊之 九段
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7六歩 △3二金
▲7七角 △3四歩 ▲6八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲4八銀 △6二銀 ▲3六歩 △3三銀 ▲3七銀 △6四歩
▲6八玉 △6三銀 ▲4六銀 △5四銀 ▲7九玉 △4四歩
▲3五歩 

一手損角換わりでは、図から△4三銀と受けるのが定跡。
そうなると、後手から攻められることはないので、先手は陣形を整えるのが良い。
先述の阿部健治郎vs増田康宏のように、▲3四歩△同銀右▲3六歩と攻めるのも一策だが、伊藤真吾五段は、相手から取ってくれるのを待つ。
△3五歩なら▲同銀△3四歩に▲2六銀と組み替えて端攻めを狙う。
この指し方でlegend森内九段に快勝。
アマチュアでも真似しやすい有力な作戦だ。


図からの指し手
△4三銀 ▲7八金 △5二金 ▲6六歩 △4二玉 ▲5八金 
△3一玉 ▲6七金右 △2二玉 ▲1六歩 △1四歩 ▲8八玉 
△7四歩 ▲9六歩 △9四歩 ▲6八金引 △6二飛 ▲5六角 

7四の歩取りだが、△6三金と受けるのは、▲3四歩△同銀右として、①▲2四歩△同歩▲3四角△同銀▲2四飛△2三金(△2三銀▲2八飛△2四歩▲3五銀)▲2八飛△2四歩▲3五銀打と厳しく攻めるか、②▲3八飛△4三銀▲3四歩△4二銀▲2八飛と角を切らずにゆっくりと攻めるかだが、いずれも先手良し。


図からの指し手
△8二飛 ▲7四角 △3五歩 ▲同 銀 △3四歩 ▲2六銀
△8四飛 ▲5六角△6五歩 ▲同 角 △5四銀 ▲5六角 
△5五銀 ▲6七角 △4三金右 ▲1五歩 △同 歩 ▲同 銀 
△同 香 ▲同 香 △1三歩 ▲1七香 △6四飛 ▲1二歩 
△8六歩 ▲同 歩 △6六銀 ▲同 銀 △同 飛 ▲7七金右 
△6四飛 ▲6五歩 △5四飛 ▲1一歩成 △6六歩 ▲5六角 
△3九角 

図からの指し手
▲1三香成 △同 桂 ▲同香成 △3一玉
▲2四歩 △同 歩 ▲6三銀 △5五飛 ▲5二銀成 △2二銀打
▲1八飛 △1七歩 ▲同 桂 △5七角成 ▲2五桂 △5六馬
▲3三桂成 △同金寄 ▲4二銀 まで先手勝ち


有力な選択肢:棒銀

棒銀には△4三銀引き

上記の将棋では、早繰り銀を棒銀に繰り替えた。
それなら最初から棒銀にするのもアリだ。
棒銀と早繰り銀は似ているが、棒銀の方が攻めが単調なので、右玉に躱された時に重たい駒になってしまうのが難点。
玉や右銀の動きを見てから態度を決める。
先手棒銀に対しては、△4五歩が効かないので△4三銀と受ける事になる。
渡辺三冠は、この将棋の内容に不満で、後で改良策を出すことになる。





「痛いのは嫌なので防御力に極振り」

早繰り銀に△4三銀引きが有効なら、最初からその形を目指してはどうか。
という発想から、後手らしく守備に特化したお勧めの作戦がある。


初手からの指し手
▲2六歩 △8四歩 ▲7六歩 △3二金 ▲2五歩 △8五歩
▲7七角 △3四歩 ▲6八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲4八銀 △6二銀 ▲3六歩 △3三銀 ▲7八金 △4二玉
▲3七銀 △5一銀 ▲4六銀 △5二銀 ▲6八玉 △4四歩
▲5八金 △4三銀

攻撃重視の早繰り銀に対し、かねてから有力と思っているのが、図の後手の陣形。
△6四歩を突かず、△6二銀~△5一銀~△5二銀~△4三銀という動きで銀矢倉を構築する。
独創的な将棋で知られる佐藤康光九段らしい指し方だ。
銀矢倉なので早繰り銀からの攻めに強い。
楽しい将棋が指せそう。
先手の対策としては、棒銀が有力か。(佐藤天彦名人vsPONANZA:第2期電王戦第2局)


第31期竜王戦1組出場者決定戦
先手:永瀬 拓矢 七段
後手:佐藤 康光 九段
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △3二金 ▲2五歩 △8八角成
▲同 銀 △2二銀 ▲4八銀 △3三銀 ▲3六歩 △6二銀
▲3七銀 △4四歩 ▲6八玉 △4一玉 ▲7八玉 △5一銀
▲2六銀 △1四歩 ▲1六歩 △4二銀上 ▲5八金右 △8四歩
▲1五歩 △同 歩 ▲同 銀 △同 香 ▲同 香 △1三歩
▲同香成 △同 桂 ▲1四歩 △2五桂 ▲1三歩成 △8五歩
▲1四角 △2一香 ▲2二歩 △同 香 ▲6六香 △2四銀打
▲2二と △同 金 ▲2五角 △8六歩 ▲同 歩 △8五歩
▲1六角 △8六歩 ▲3五歩 △同 銀 ▲2七角 △3二玉
▲8五歩 △6二金 ▲6三香成 △5五角 ▲4六歩 △2六銀
▲3六角 △3五銀 ▲2七角 △2六銀 ▲3六角 △3五銀
▲2七角 △2六銀 ▲3六角 △3五銀 ▲2七角 まで千日手


変化:37手
▲1二角 △2二銀打 ▲1四歩


変化:31手
▲1二歩 △6四角 ▲2六飛