将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【対振り飛車】急戦(その1)~四間飛車

右銀急戦

船江六段が新発想の▲3一飛~▲3四歩で快勝 

船江vs都成(王将戦)から取材。
下図の局面は、先手の船江が▲7七角と途中休憩したため一手損になっている。
手損の意図は不明だが、5五の銀は好位置なので先手が成功といわれていた形。
塚田泰明九段が昔、得意としていた。
当時は5七銀左が主流で、右銀急戦はパンチ力が軽いと思われていた。

△2五銀では、△2七角という手も一時指された。
△2五銀も△2七角も内藤九段の弟弟子である小阪昇八段(2010年引退)の新手。
△2七角に①▲2八飛は、△4九角成▲2四歩△4三銀▲3七歩△3四飛で振り飛車良し。
歩を成ると△2七歩のタタキがある。
△4九角成に▲4四銀の方が優るが、△3二飛▲2四歩△6四歩▲同歩△4三銀▲3三歩△4二飛▲5五銀△5四銀が『新・振り飛車党宣言!1.』の佐々木慎四段(当時)の研究で振り飛車指せる。
②▲3七飛は、△4九角成▲4四銀とすると△2五銀で捌ける。
△3六歩で飛車の逃げ場がない。
最善とされたのは、▲3七飛△4九角成▲2二角△2五銀▲3三角成△3六歩に▲3四馬
△同銀▲3六飛。
上記佐々木慎研究では▲3四馬の代わりに▲1一馬△3七歩成▲同桂△3六銀▲3一飛△3八飛▲6八金寄△3七銀成で「右銀急戦は有力で簡単には良くならないが、実戦的には玉の堅い振り飛車が勝ちやすいだろう」だった。
馬捨てを指した棋士の名前は豊島将之七段(当時)


図の小阪新手△2五銀は、△4三銀と引きたいところだけに斬新だった。
どうせ▲3三飛成△同桂▲3四歩△同銀▲3一飛となるのだから一歩でも多い方が良いという考えだ。
ところが、▲3三飛成△同桂に単に▲3一飛とする手があった。
△3九飛にそこで▲3四歩の時間差攻撃。
わざわざ取られるタイミングで打つのが新発想の一手で、△同飛成とさせて時間を稼ぐ。
香車を取って▲4一角~▲2二竜と先手の攻めは、わかりやすい。
▲2三角成が竜に当たるのも▲3四歩の効果だ。

取りになっていた銀を△3六銀と活用したのが上図だが、ここで▲6八金寄りが渋い。
△4七銀成に▲5九香と万全にして次の▲4四歩からのと金攻めが確実だ。


△3四同飛成では△同銀が正着だった。
▲3三飛成に△4三角というのが藤井新手だったが、一マス違う△4二角が水匠師匠の推奨手。
▲2二竜△2九飛成▲9五歩△同歩▲6四銀と突撃して仮に△5四歩なら▲1一竜と返し技を狙う。
ほぼ互角の戦いだ。


このようにsimpleな右銀急戦でも互角の形勢なのだが、最近は玉形に工夫を凝らしてきた。
次に紹介するのが、天守閣美濃に囲う構想だ。


天守閣美濃急戦

冨田vs黒田(竜王戦)

天守閣美濃と右銀急戦の組み合わせは、昭和の終わりから平成初期にアマチュアで流行した。 

当時大学将棋界で最強を誇っていた京都大学(1989学生名人・菊田裕司、1990学生名人・宗内巌、1991学生名人・奥本心)発祥だったと記憶している。 

プロでも屋敷伸之九段、神谷広志九段などが指している。

冨田vs黒田(竜王戦)より取材。
図の▲8五銀が新しい。
昭和の定跡は、▲6七銀△7七飛成▲同桂△7六歩▲同銀△7九飛▲6七銀△9九飛成▲7一飛(▲8五桂)△7九角で、居飛車指せるというもの。
▲8五銀は一歩得だが、▲8五桂がなくなるのがマイナス。


図から△7七飛成▲同桂△7九飛▲7一飛と進行。
ここで船江流の△7六歩も有力だったが、黒田五段はあっさり△9九飛成とした。

ここでも△7九角も有力だったが、黒田五段は▲8五銀を咎めようと△6六角を選択。
以下▲6四歩に△5七香が大悪手。
▲4八角を見落としていた。


長沼洋八段vs森本才跳四段

左美濃急戦には、タテの攻めが有効。


初手からの指し手
▲2六歩 △3四歩 ▲7六歩 △4四歩 ▲4八銀 △4二飛
▲6八玉 △9四歩 ▲9六歩 △3二銀 ▲7八玉 △6二玉
▲5六歩 △7二銀 ▲5八金右 △4三銀 ▲5七銀 △5二金左
▲2五歩 △3三角 ▲8六歩 △6四歩 ▲8七玉 △7一玉
▲7八銀 △6三金 ▲3六歩 △8四歩 ▲4六銀 △8三銀
▲3五歩 △8二飛  

図からの指し手
▲3四歩 △同 銀 ▲3八飛 △4三銀 ▲3四歩 △4二角
▲5五銀 △8五歩 ▲同 歩 △7四銀 ▲9七桂 △9五歩
▲同 歩 △8六歩 ▲同 玉 △6五歩 ▲4四銀 △5四歩
▲9六玉 △9五香(投了図)

取れば△9七角成で必至。
若手四段の見事な構想が実を結んだ。
次に紹介するのが、金無双に囲う構想だ。


対四間飛車金無双急戦


昔、羽生九段が対久保戦(第49期王座戦第4局)で指していて、従来の形より優秀とは感じていたが、まさかここまで流行するとは!
例えば飛車が一段目に成り込まれた形は、今までの急戦の二枚金の囲いなら7九の地点が薄く、7七桂と跳ねた形なら香取りになっていた。
それが7九に銀がいるだけでかなり安心だ。
エルモ囲いの7九金も同様だ。
羽生九段以外にそのことに気付かなかったのは、定跡という呪縛に捕らわれていたせいか。
ピカソは、若い頃は写実的な絵を描いていたが、フォービズムの幾何学的な絵を経て、晩年は子供のようにひたすら描く事を楽しんでいた。
羽生九段や藤井聡太二冠は、棋界のピカソだ。


ちなみに『金無双急戦』の著者、所司和晴七段は、「箱入り娘」の6八金寄型からの右銀急戦を研究していた。
「箱入り娘」は、▲5八飛と転換できること、穴熊等への組み換えが可能なこと、5七の地点から遠ざかり当たりを避けていること等利点が多い。
しかし、「箱入り娘」の名称通り、手がつくと速い。
壁形で、右への退路がないためだ。
6八銀+6九金+5八金の舟囲いも同様。
AIは、「箱入り娘」や「舟囲い」よりも「金無双」や「エルモ囲い」を好むのは当然。


黒田堯之五段の金無双急戦


『将世2008.7号』P.156に第33回小学生将棋名人戦の記事がある。

準決勝で増田康宏少年に逆転勝ちした黒田堯之少年だが、決勝で敗れ名人になれなかった。

月日は流れ、プロになったのは、名人を獲得できなかった二人だった。

常に注目されてきた増田康宏六段に対し、黒田堯之五段は「今も出身地の愛媛県に住み、独創的な構想を披露するオールラウンダー」(勝又清和七段)と、棋士の間で一目置かれるようになった。

ビートルズをこよなく愛する好青年の今後に期待したい。


彼の処女作となった『よみがえる右銀急戦』は、神本だ。
右銀急戦といいながら先に右桂を活用する作戦が新しい。
富沢キックにこれだけページがさかれている本は、他には『杉本昌隆の振り飛車破り』くらいか?

 

その影響からか、プロ棋戦でも富沢キックが炸裂するようになった。

 

 

 


黒田尭之四段vs井出隼平四段

先に桂を跳ねて▲4六銀とするか▲4六歩とするかは含みに残す。
場合によっては▲4五桂の「富沢キック」も狙う。
▲3七桂+▲2六飛+▲4六銀という陣形は、最近見直された形で、急戦というより振り飛車の動きを抑え込んでから居飛車穴熊にする狙いがある。


▲2六飛と浮き、次に▲3五歩と突いて△同歩なら▲4五桂の富沢キックが炸裂して居飛車成功。
△4五同歩▲3三角成△同桂▲2四歩△同歩▲同飛に△4六歩▲同銀△3四桂が富沢キックに対する常用の受けだが、銀取りを恐れず▲8八角で先手が良い。
△4六桂と銀を取ってしまうと後に▲3四歩のキズが残る。


そこで後手は先に△3二飛と受け、▲4六銀に△4二角と受ける準備をした。
しかし、▲4六歩と裏をかかれると△3二飛がマイナスの手になっている。
先手の序盤戦術が巧妙だった。


これが令和の急戦の構えだ。
金無双が角交換に強い。elmo囲いより手数が短く優秀かもしれない。


後手の△7四歩は後の△6四金を含みにしているが、平凡な△6四歩も有力だった。
▲5五歩△同歩▲3五歩△6三金▲6六銀△5六歩▲4五歩△5二飛▲3六飛△3五歩▲同飛△5四金▲5五歩△5三金▲3六飛△3二飛▲5六飛△2二角で双方とも主張がある局面で互角だ。


図からの指し手
▲5五歩△同歩▲3五歩△5三金▲4五歩△6四金▲4六銀△4五歩▲同桂△4四角▲3六飛


早くも先手が一本取った形。
後手の△6四金型は令和に発見された対策で、トーチカ相手には有効だが、この場合は疑問。


図からの指し手
△5四銀▲3四歩△4二飛▲3三歩成△同桂▲同桂成△同角▲同飛成△4六飛▲5三歩△4九飛成▲2二竜△4六桂▲5二歩成


黒田四段は振り飛車も指す。
強敵の本田五段相手に先手三間飛車で立ち向かったが、相手に金無双急戦を逆用された。
これに有効な対策を打ち出せず、黒田四段は図らずも身をもって金無双急戦の有効性を証明することになった。







『よみがえる右銀急戦』では右桂も使う

下図は、富沢キックからの一変化。

図の局面では△5五同角▲同銀△2六歩▲同飛△3七角という両取りがひと目だが、「両取り逃げるべからず」と▲3三とで芳しくない。
△5四香!と犠打を放つのが好手で▲4四角△同銀▲3三と△同銀▲5五歩△2六歩▲同飛△5五香▲同銀△3七角と狙いの両取りが成立する。
▲3三とは、△5五香▲4二と△同金▲2一飛成△5八香成と、振り飛車捌け形。


そこで▲2六飛と浮いてから富沢キックを狙うが、△3二飛と警戒する。
これには対井出戦のように▲4六歩と4五歩急戦にスイッチする。
かつては玉頭銀が嫌らしいと思っていたが、金無双急戦では4八でなく7九に銀がいるため、角交換に▲同銀と取れるのが大きい。

▲4五桂が明るい攻め。
△4四角だが角交換は銀で取れるため歓迎、▲2四飛と走る。
これに対して振り飛車は、△4六歩!(取れば△1三角)の手筋で最善をつくすが、▲2一飛成△8八角成▲同銀△4五飛に▲4八歩で先手良し。
振り飛車感覚としては△6四桂として美濃囲いが堅いのでまだまだと思えるが、評価値は500ほど先手が良い。
もちろん、的確な受けの力と囲いを崩す攻めの力があっての話だ。
いずれにせよ従来の5七銀左急戦より優れているのは間違いない。


裏定跡をめぐって

しかしながら『よみがえる右銀急戦』にはちょっとした穴がある。
ひとつは、右銀急戦なら当然触れてほしいエルモ急戦の解説が全くないこと。


もう一つは、下図で△3四同飛▲3六歩と解説し、急戦成功としていること。

△3四銀は▲4四角で悪いので当然のようだが・・・
図の局面では、後手にもっといい応手があるのだ。
どこかで使おうと温めているうちに、香川愛生女流に先に使われてしまったため、ここで公開しておく。


下図の局面は女流の対局だが、上図の局面と類似している。

ここで▲4八角が裏定跡となる一手。次に▲6五歩を狙っていると同時に、6六の歩にひもをつけて後の▲7六銀を可能にしている。
実戦は△7四飛として▲7六銀△5五歩▲同歩△7五歩という展開になったが、そこで▲6五歩と決戦すれば先手が面白かった。


実戦は、△7五歩▲6七銀△5五銀に▲6五歩と、証文の出し遅れ。
まだしも▲7二歩と垂らした方が実戦的だったか?


▲4八角に△7七歩成とするのが知っておくべき手筋。

  1. ▲7七同飛なら△7五歩として△8六歩を狙う。成り捨ての効果で、▲5九角引きの受けが利かない。
  2. ▲7七同桂なら△7四飛として▲6五桂なら△7八飛成で決戦、▲7六歩なら△7五歩と好調に攻めることができる。
  3. ▲6五歩は、△7八と▲2四角△6五桂で居飛車良し。




羽生の右銀急戦

2007年の久保vs羽生(第55期王座戦 第3局) では、図の久保の藤井システム模様を見て、羽生は△7四歩と右銀急戦にスイッチ。

実は、2000年の久保vs羽生(勝ち抜き戦)でも羽生は右銀急戦を試している。

違いは玉側の端歩の突き合いがないこと。

端歩突き合った方が端攻めがあって居飛車がいいように思える。

しかし、勝ち抜き戦の将棋を下敷きに端歩を省略したのが実は深謀遠慮。

後に羽生が驚くべき構想を見せている。

悪形とされていた桂跳ね

図は、勝ち抜き戦。
△6四銀に▲7八銀と引き、△7三桂と跳ねさせて▲6七銀が大山流の右銀急戦対策。
銀桂の形が悪いというのが当時の感覚で、羽生も△7三桂とせずに△5三銀と引いたこともあった。
しかし、△8四飛として次に△7五歩とするのが羽生の構想。
黒田本を先取りし、おまけに2手得している。

黒田本の通り上図のように組まれ、次の△3五銀が受からない。

期待の▲6五歩

久保vs羽生(第55期王座戦 第3局)は、▲7八銀~▲6七銀の大山流を踏襲。
△7五歩とされる前に▲6五歩が期待の一手。

図からの想定手順(昔の定跡書に載っていた変化)

△同 桂 ▲2二角成 △同 銀 ▲6六銀 △8六歩 ▲6五銀
△8七歩成 ▲5四銀 △7八と(△5五角) ▲6四飛 △同 歩 ▲5三桂
△4二金上 ▲4一銀で先手良し。


しかし、▲6五歩には△5五銀が絶好。

桂跳ねを防いだ▲7八銀に△7五歩▲同歩△4六銀と玉頭に迫って後手好調。

なお、図から△7七角成▲同桂と角交換してから△5五銀も桂頭のキズがあって居飛車が良さそうだ。


以下▲2二角成△同玉▲7七銀△8六歩▲同歩に△1二玉が端歩省略を生かした米長玉。

しかし、▲7四歩に△同飛が躓きで、先に△7六歩を利かすべきだった。

▲8三角に△7五飛は▲7六歩があるので△7七飛成だが、▲同桂に△7六歩は▲6六飛があるので△5五角。

それでも後手ややリードの形勢だが、その後二転三転する。


△2四桂が急ぎすぎで▲4一とで逆転、久保の受けが正確で勝勢となる。

but当然のように見えた▲3二金が疑問手で、差が縮まった。(▲5二飛が正着)

but羽生の△2五金が疑問手で、再び先手勝勢。(△8二飛が正着)

but久保の▲2二金が急ぎすぎで混戦。(▲2六歩か▲1七桂が正着)

▲1七桂が敗着の悪手。(▲4六角が正着)


幻の絶妙手▲4七銀

当時話題をさらったのが下図の▲4七銀(実戦は▲4八銀)。

この奇跡的な絶妙手で、久保勝ちだったかと騒がれた。

▲4七銀は綱渡りのような一手で、△4七同とは飛車を取れる。

△3八銀で受けなしだが、▲2三金~▲3二銀~▲2四桂△4一玉▲7四角△5二銀▲7一飛△5一桂▲2三角△4二玉▲3二角成△5三玉▲7三飛成△6三歩となって、▲3一馬からの王手に持ち駒の金を使えば▲3八銀で7四の角が利いて先手勝ちというシナリオだ。

しかし、▲3一馬△4四玉▲2二馬△3三桂▲4五歩△同玉▲4六銀右△5四玉▲6六桂△5三玉▲3一馬△4四玉▲4五歩△同桂▲2二馬△5三玉で一歩足りない。

羽生の鋭い攻めと米長玉のアイデア、対する久保の「粘りのartist」。

本局は、羽生対久保戦の中でも屈指の名局。

「羽生対久保戦にハズレなし」


現代では右銀急戦に▲7八銀と引く形は見ない。
羽生の右銀急戦は、四間飛車の藤井システム含みの駒組みの天敵となった。




壁銀だが・・・

金無双にせず、図のように組んだのが藤井聡太二冠。
黒田五段も著書の解説動画で銀冠に組み替える前提でお勧めの形だ。
一時的に壁銀だが、上部に厚く、若手には抵抗のない形のようだ。

図の▲2五桂に藤井当時七段は角を逃げず、△2四歩と催促した。
以下▲3三桂成△同桂▲4七歩に△3七銀成と軽手を見せ、▲同銀△4五桂▲4六銀に△7六銀から角を取り、△2五桂と攻め、▲4八金に△7六歩と一方的に攻める。
デビュー当初、対振りが苦手と言われていたのがウソのようだ。



高美濃に組ませる金無双急戦

急戦という名前からすると違和感があるが、わざと手数をかけて振り飛車に高美濃に組ませてから戦う方が金無双の固さ(?)が生きる。

出口四段の三間飛車に池永四段が△6五歩急戦を見せて▲8八飛と受けた局面。
図から▲4七金に△6二飛が令和の急戦だ。


図からの指し手
▲4七金 △6二飛 ▲3六歩 △6五歩 ▲同 歩 △7七角成
▲同 桂 △2二角 ▲6六角 △6五桂 ▲同 桂 △同 飛
▲2二角成 △同 銀 ▲6六歩 △6一飛 ▲7二角 △7一飛
▲8三角成 △7七角 ▲9八飛 △8六歩 ▲8二馬 △3一飛
▲8六歩 △8八歩 ▲6五桂 △6二銀 ▲7五歩 △6八角成
▲5八銀 △7七馬 ▲5七銀 △7五歩 ▲7四歩 △6七歩
▲7三歩成 △5一銀 ▲5五歩 △6八歩成 ▲5四歩 △6七と
▲7一馬 △5五桂 ▲5六金 △5七と ▲同 金 △6七桂成
▲同 金 △同 馬 ▲5三歩成 △6六馬 ▲4二と △同 金
▲5三桂成 △3三銀 ▲4五桂 △5二歩 ▲4二成桂 △同銀上
▲2六馬 △3五歩 ▲6三と △3四桂 ▲5九馬 △4六桂
▲4七金 △5八金 ▲同 金 △3九銀 ▲3七玉 △5八桂成
▲同 馬 △3六歩 ▲同 金 △4八金 ▲5二と △5八金
▲2六玉 △3四歩 ▲3五歩 △4四馬 ▲4二と △同 銀
▲5二金 △2四角 ▲2五金打 △3三銀 ▲同桂成 △同 桂
▲3四金 △5四馬 ▲4二銀 △4四桂 ▲3三金 △同 角
▲同銀成 △同 玉 ▲4二角
まで129手で先手の勝ち


simpleに角と桂を交換してしまうのが効果ある攻め。
先手陣は角打に弱い。

上記より前の将棋だが、▲5七銀型から△6二飛に▲4八銀と固めたのが井出隼平四段の工夫。
後手は仕掛けにくい。

高田明浩四段vs出口若武五段(新人王戦)

高田四段はシステマティックな振り飛車党として三段時代から関西では注目されていた。
藤井聡太と同学年の若手。

対する出口若武五段は、叡王戦挑戦や新人王戦準優勝(相手は藤井聡太)で名を上げた期待の若手だが、できればもう一つ殻を破ってほしいと感じる。 

先手は4五の銀を狙われている。

実戦は、▲8六同歩△3三金に▲6五歩△同桂▲5五角△8六飛▲6六歩△5七桂成▲同金△5四歩と角切りを催促され不利に陥った。

図では▲8六同角が正解だった。


図からの想定手順

▲同 角 △3三金 ▲6五歩 △同 桂 ▲6六歩 △5七桂成

▲同 金 △4四歩 ▲6五歩 △4五歩 ▲6四歩 △6二歩

▲6三歩成 △同 歩 ▲5三角成 △同 金 ▲5四歩 △5二金

▲5三銀


竹内雄吾vs出口若武(NHK杯)

図からの指し手
▲9八香 △8六歩 ▲同 歩(▲同角) △7五歩 ▲同 歩
△6六歩 ▲同 角 △8六飛 ▲2二角成 △同 銀 ▲5五歩
△6五銀 ▲7四歩 △8五桂 ▲7三歩成 △8九飛成 ▲7八銀
△6七歩 ▲8九銀 △6八歩成 ▲同 金 △4四桂 ▲6一飛
△3六桂 ▲2七玉 △5六角 ▲3六玉 △8七飛 ▲3七歩
△8九飛成 ▲6九歩 △9八龍 ▲2七玉 △3五銀?(△4七香)
▲2八玉(▲6二となら先手有利)
△2四香 ▲3九桂 △6七歩 ▲6二と △同 金 ▲同飛成
△6八歩成 ▲5二金 △3一金 ▲4二金 △同 金 ▲5二金
△3一金 ▲4二金 △同 金 ▲5二金 △3一金 ▲4二金
△同 金
まで88手にて千日手



エルモ(elmo)囲い

杉本和陽四段vs大橋貴洸四段

初手からの指し手
▲7八飛 △8四歩 ▲7六歩 △8五歩 ▲7七角 △3四歩
▲6六歩 △6二銀 ▲6八銀 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉
▲3八銀 △5四歩 ▲3九玉 △5三銀 ▲6七銀 △7四歩
▲2八玉 △4二銀上 ▲1六歩 △1四歩 ▲5八金左 △9四歩
▲4六歩 △3一金 ▲9六歩 △5一金 

図の後手陣が、「elmo囲い」または「左山囲い」と呼ばれるsoft発祥の囲いで、急戦との相性が良く、大橋四段が連採している。


三間飛車に対する急戦だが、相手の形によって右銀による斜め棒銀と△6五歩急戦を使い分ける。
5筋の歩がpoint。
図から▲3六歩とあくまで▲5六歩は突かない。
△6四歩~△6五歩急戦に対しては、▲5六銀~▲6五銀と玉頭銀を狙っている。
したがって7筋にpressureをかける右銀急戦を選択して、振り飛車の左銀を釘付けにした。
その意味では、△7二飛も有効。


ちなみに△6四銀急戦に対しては、5筋を突いた方が受けやすい。


図からの指し手
▲3六歩 △6四銀 ▲9七香 △7五歩 ▲5九角 △7二飛 
▲7五歩 △同 銀 ▲7六歩 


▲7六歩に△6六銀▲同銀△同角には▲6八飛で△9九角成に▲6三飛成と成れるのがelmo囲いの弱点。そこで実戦は△6四銀と引いたが、softにかけると△6六銀でも後手有利らしい。
▲6三飛成以下△7六飛▲7七歩(馬筋を止めて当然の一手のようだが、最善ではないかもしれないとのご宣託。)△7三飛▲6九竜(▲5四竜△8九馬▲8四竜などは△6六歩▲6八歩△7七飛成▲8一竜△5六歩)△8三飛▲2六角(▲7六歩△6八歩▲同角△6三飛▲6七歩△6二飛)△8六歩▲が変化の一例。
呆れた。


あの薄い舟囲いの急戦でも互角に近いのだから、体感で1.75倍の堅さがあるelmo囲いなら潰されて当然かもしれない。


青野照市九段vs藤井猛九段

右銀急戦にどう対抗するか?
Mr.四間飛車こと藤井猛九段が模範演技を見せた。 

図の局面から△3五同歩▲同銀△4五歩というさばきも考えられるが、▲3三角成△同飛▲3四歩△同銀▲4四銀の変化が厄介。

△3一飛は、▲8六角が角が気になる手。△4一飛なら▲5三銀成としようという意図で、△5一飛と逃げるのは、▲3八飛で銀が生還できる。

△3二飛は、▲2四歩△4二飛▲6六角(工夫の位置)に

①△2二角は、▲2三歩成△4四角▲3二とで先手良し。

②△7一角は、▲3三銀成△同桂▲2三歩成が好手。

以下△3二歩と受けるのは、▲同と△同飛▲2一飛成△3一歩(下図)が想定される変化。

 

次の▲2三歩が激痛。

後手の銀桂が負担。


そこで△3二歩でなく△2五桂(または、△2七歩▲同飛△2五桂)が考えられるが、▲3三と△4一飛▲3四と△2七歩▲同飛△2六歩▲2八飛△4六歩▲同歩△同飛▲4八歩△2七銀(下図)といった順が想定される。

 

飛車が死んで後手が成功したようだが、▲4七歩という返し技があった。

△3六飛とと金取りに行き、▲4五銀△2八銀不成▲3六銀と飛車を取り合って、△3七桂成▲同桂△同銀成に▲4四桂△5一金▲4三とと攻めても、▲4五銀と銀を逃げても、▲9五歩と端を攻めても先手が良い。

△2九飛▲3九歩△4八歩の金取りには手抜きで攻め合う。


このように素直に△3五同歩と取るのは、四間飛車としては選びにくい変化だ。


実戦は△1二香。

この手が後手の最善で、▲5五歩△3五歩▲5四歩△3六歩▲5八飛△4二角▲4八金△5三歩▲5五銀△5四歩▲4四銀△同銀▲同角△3七歩成▲同金△3六歩▲2七金△6四角が実戦の進行。

△3七歩成には▲同桂が正解。以下△3六歩には▲4一銀で勝負。それを避けて△4三銀と角を追おうとしても▲4一銀がある。

また△3六歩に▲2七金でも▲3八金と逃げるのが正解だった。

将世2022.8号付録の黒田堯之『▲6九金型エルモ急戦』に、詳しい解説と対策がある。 


参考棋譜

先手:石井健太郎五段
後手:伊藤 真吾五段

(第31期竜王戦ランキング戦4組)

▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △6二銀 ▲6八飛 △4二玉
▲1六歩 △1四歩 ▲7八銀 △3二玉 ▲3八銀 △8四歩
▲4八玉 △5四歩 ▲5八金左 △5三銀 ▲4六歩 △7四歩
▲7七角 △8五歩 ▲3九玉 △4二銀上 ▲2八玉 △3一金
▲6七銀 △9四歩 ▲9六歩 △5一金 ▲5六歩 △6四銀
▲7八飛 △7五歩 ▲9八香 △5五歩 ▲同 歩 △7六歩
▲6八角 △5二飛 ▲4七金 △5五銀 ▲7六飛 △7五歩
▲同 飛 △6六銀 ▲5三歩 △同 飛 ▲6六銀 △同 角
▲7二飛成 △5八銀 ▲5六歩 △4九銀不成 ▲同 銀 △6七金
▲7六龍 △6八金 ▲6六龍 △6七角 ▲3八銀 △7八角成
▲8二角 △6七金 ▲6五龍 △8九馬 ▲9一角成 △3五桂
▲3六金 △5七金 ▲3五金 △5六馬 ▲同 龍 △同 飛
▲3四金 △4八金 ▲4九銀打 △同 金 ▲同 銀 △5九飛成
▲3八銀打 △7八飛 ▲5八歩 △3九銀 ▲1七玉 △7四飛成
▲5六角 △7五龍 ▲8一馬 △7二歩 ▲3五桂 △3三歩
▲2三金 △4一玉 ▲7一馬 △5五龍 ▲5三香

まで95手で石井五段の勝ち



井出隼平四段vs大橋貴洸四段

初手からの指し手
▲7六歩 △8四歩 ▲1六歩 △1四歩 ▲7八銀 △3四歩
▲6六歩 △6二銀 ▲6八飛 △4二玉 ▲3八銀 △5四歩
▲7七角 △7四歩 ▲4八玉 △3二玉 ▲5八金左 △8五歩
▲4六歩 △5三銀 ▲3九玉 △9四歩 ▲9六歩 △4二銀上
▲2八玉 △3一金 ▲6七銀 △5一金 ▲7八飛 △6四銀
▲5六歩 △7五歩 ▲6五歩 

図からの指し手
△7七角成 ▲同 桂(▲同飛△6五銀▲7五歩△8六歩▲同歩△3三角) △5三銀引(△7三銀)▲6六角 △4四銀 ▲7五角 

図のようになっては、後手の攻めは頓挫している。
先の△5三銀引きでは△7三銀が正着。
上記のように、現在▲6五歩は指されない。


山田定跡風の仕掛け

藤井猛九段は、7八銀型で待機するエルモ対策。
相手が居飛車穴熊なら▲6五歩ポンを含みにしている。

中田宏樹八段は、エルモ囲いから山田定跡風に仕掛けたが、藤井猛九段の応手が見事。
図から▲8八銀。
これに山田定跡風に△3三角などとすると▲7三歩成で困る。
実戦は△7六歩だが▲6六角から振り飛車ペース。
▲8八銀には△7五銀▲8七歩△9五角と7三をcareしてどうか?


▲7八銀型に対しては△7二飛と回ってから△7五歩▲同歩△6四銀と仕掛ける井出vs髙野秀(王位戦)の手順が有力。

図からの指し手
△7五歩 ▲同 歩 △6四銀 ▲6五歩 △7七角成 ▲同 桂 
 △7五銀 ▲8五桂 △9四角 ▲6四歩 △同 銀 ▲8六歩
△8四歩 ▲6六角 △1三香 ▲8四角 △7六飛 ▲9五角 
△8四歩 ▲8七銀 △7七飛成 ▲7八飛 △8七龍 ▲7一飛成 
△6一金 ▲8一龍 △8五歩 ▲6二歩 △5一金 ▲2六桂 
△8六歩 ▲8五歩 △5五歩 ▲3四桂 △5六歩 ▲5八歩 
△1五歩 ▲同 歩 △1七歩 ▲同 香 △2四桂


このように鷺宮定跡風に△7二飛とする作戦は優秀、「令和の鷺宮定跡」だ。
▲6七銀型に対して△6四歩から△6五歩▲同歩△7七角成▲同飛△8二飛と指したのが、阿部光瑠六段(対片上大輔、朝日杯)。

黒田尭之四段vs西田拓也四段

三段リーグに入りたての2013年頃は、5七銀左戦法を指していました。一昨年に大橋先生が結果を残しているのを見て研究するようになり、四段に上がる直前くらいから勝率が上がりました。西田戦のエルモ囲いはネット将棋で奨励会員と指したことがあり、途中までは研究通りでした。舟囲いに比べて玉が堅くて優秀だと思います。これからも指されると思います。(黒田堯之)

『将棋世界2020.7号』勝又講座p.113

▲4九金据え置きが工夫で、▲2四歩に△同角の変化の時に効果を発揮する。
▲3四歩△同飛の時3九に飛車が成れないので▲2二歩が成立するのだ。
以下△3三桂▲2一歩成△4五歩▲5七銀△3六歩▲4八金△5七角成▲同金△2四歩(△3七歩成▲2三飛成)▲1一と△2五桂▲1二角△3五飛▲2三角成△3七歩成▲2四馬が変化の一例で、先手有利。
△2四歩に▲1一とが落ち着いた手で、焦って▲2三角とすると△3五飛▲2四飛△1五銀(図)と指されて、ちょっと慌てることになる。