将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【角換わり新新対抗】▲4五桂か△6五歩か

▲8八玉型に△6五歩と仕掛けるのが狙いだった

今や角換わりの最新形となった▲6八金と△4二金の対抗形において、先手玉の位置ごとに後手の△6五歩と先手の▲4五桂の仕掛けの是非を調べ、後手はどうパスすべきか、先手はどう対応すべきか考察します。
近年の後手の戦略は、手損して先手が▲8八玉型になるのを待ってから△6五歩と仕掛けるというもの。
これについては、「【角換わり新新対抗】後手番パス作戦」と重複する部分も多いので合わせてご笑覧下さい。
この戦型について、人類最強の藤井聡太六冠がどう考えているか?

藤井聡太六冠は、△6三銀引の待機策を有力視

角換わり腰掛け銀を得意とする藤井六冠だが、後手番でも受けて立っているのには驚嘆する。
この戦型が先手有利と思っているなら後手では指せないはずなので、双方最善を尽くせば千日手になると考えているか、あるいはロジックではなく別の要素があるのかも知れない。
六冠制覇した将棋で選んだ対策が、パス作戦で▲8八玉型にさせてから△6三銀の待機策。
先の王将戦でも用いていたので、角換わり腰掛け銀に対する最有力の対策なのだろう。 

legend羽生の藤井対策(第72期王将戦第4局)

上記のように▲8八玉型から▲4五桂とする実戦例が多いのだが、羽生九段は、対藤井王将戦(第72期王将戦第4局)で▲6八金と前例が少ない手を指した。
△6三銀にいったん▲7八金と戻ったのが面白い。千日手にするつもりはないだろうから明らかに△6五歩を誘っているのだ。
藤井王将も後手番なので△6三銀と千日手歓迎。
ここで▲7八玉(図)と珍しい玉形に組んだ。
しかし、先に▲7八金と躊躇したのは、自信がない作戦ということなのだろう。

こうなると▲6九飛がないので、△6五歩と仕掛けたくなる。そこで▲4五桂が羽生の作戦。
△4四銀に▲6五歩△同桂▲同銀△同銀▲6三歩△7二金▲6四桂(下図)と進行。 

△7三金から攻め合うか、△7一金から受けに回るか岐路にさしかかった。
実戦は△7一金▲7三角△6一銀となったが、△7三金も十分に考えられた。
以下 ▲6二歩成 △6四金 ▲5一角 △3一玉 ▲2四歩△同 歩 ▲同角成となって先手成功のようだが、後手から△2八歩 ▲同 飛 △3九銀の反撃が厳しい。
今後、実戦で現れてもおかしくない変化だ。


この将棋では▲8八玉型から▲6八金としたが、▲7九玉型で▲6八金~▲7八玉とすると一手違うので、手番が変わる可能性がある。
そこで▲4五桂と先攻するとどうなるのか?
多分成立しないのだろうが、羽生九段の意図がどこにあったのか?
色々考えさせられた。


▲5五銀左の変化~千田翔太の研究に挑んだ阿久津主税

まずは、後手の同一手順の繰り返しに対し、先手が自然に▲7九玉~▲8八玉としたケース。
最近は、先手がこれを避けて▲6九玉~▲7九玉~▲8八玉と一手余分に掛ける順が良く指されている。
▲8八玉に代えて▲6九飛と受ける千田講座の手順については後述する。

図の局面では▲6九飛が用意の一手で、遠く6二の金を睨んでいます。
△6六歩▲同銀△6五歩▲5五銀左が、流行当初に指された順。
最新の手順については「【角換わり新新対抗】後手番パス作戦」で触れます。
後手番の主張は、▲8八玉が飛車・角の攻めの目標になりやすいこと。そして△4四歩の省略。
具体的には、△6五歩▲6九飛△6六歩▲同銀△6五歩▲5五銀△同銀▲同銀に△4四銀(下図)が利く。

図の△4四銀は、相手の主力駒である5五の銀に働きかけて一見して味が良い手だ。
銀交換すると△4七銀▲同金△5八角が厳しく、先手の▲8八玉型がマイナスになっている。(▲7九玉型なら飛車が紐付きなので▲5六角などと受けることが可能)
ここまでは、「将棋世界2018.9号」p.115の千田講座の通り。
講座では▲8八玉は後手から仕掛ける順を与えるので▲6九飛と備えるべし、となっていて、△4四歩▲2九飛△4一飛▲4五歩△3一玉となると「【角換わり新新対抗】4五歩に4一飛の変化」になる。


△8六歩▲同歩としてから△4四銀とした村山慈明vs小林裕士(竜王戦2組決勝)では▲6三歩△7二金を利かした後、▲4四銀△同歩▲5五銀と急所に先着した。小林七段は△5四銀と受けたが、玉のコビンが開いたのが痛かった。まだ△4七銀から攻めた方が、後手としては良かったらしい。


斎藤七段は、畠山鎮八段との師弟戦で▲4四同銀△同歩▲7七銀と工夫。
△4七銀には▲同金△5八角▲6八飛△4七角成▲6三銀の予定。
△5四銀に▲6四歩として次に▲6三銀を狙う。
△4七銀と▲6三銀の打ち合いは、争点から遠い先手に利ありと見ているが、反面▲6三銀に△5一玉と受ける手段もあって損得は難しい。
この変化も有力だ。


羽生九段は、千田七段(第12回朝日杯将棋オープン戦本戦)相手に図の局面から▲6三歩△7二金▲4四同銀△同歩に▲4五歩と突いて△5五角を甘受したが、結果は負け。


▲6三歩の利かしは▲6三銀が無くなるので微妙のようだが、金を玉の守りから外すのは大きい。
阿久津vs千田戦では、△7二金▲4四同銀△同歩▲5五銀に△4七銀▲同金△5八角▲6八飛△4七角成▲4四銀と進行。
△8六歩▲同歩と突き捨てた後、△4三銀と受けたが、▲5三銀成と捨てたのが、阿久津八段が用意した強襲。
△同玉と取るしかないが、▲4五桂と王手されるとほぼ寄っている。

千田七段は△5四玉と逃げたが、▲1七角△3五歩▲同角△4四銀打に▲5六銀がぴったり。△3五銀 ▲5五銀打 △6三玉 ▲4七銀 △2二角▲5六銀 △4四銀引 ▲6四歩 △5二玉 ▲4四銀 △同角▲5五角 △同角 ▲同銀 △5九角に飛車が逃げたが、▲6三銀と打ち込んで優勢だった。
逆転負けした阿久津八段にとっては残念な結果だったが、△4四銀とされた局面を先手が持って指せるという、定跡に新しい道を切り開いたことは評価できる。






▲8八玉型から▲4五桂

図の局面から▲6七銀もあるが、△5五銀の渡辺新手が厄介なので▲4五桂と仕掛ける。これには△2二銀か△4四銀の二択。


1.△2二銀の変化

△2二銀は、▲3五歩と仕掛けられて後手が自信ないというのが定説。
他に▲5五角も有力とアマチュア間では囁かている。
あえて不利といわれる△2二銀を竜王戦の決勝進出を賭けた勝負に採用した渡辺三冠だったが、玉形が悪いためペースを掴めず、豊島二冠に敗れた。
今回の朝日杯決勝でも永瀬二冠が採用したが、千田七段が完璧な指し回しで寄せ切った。
角換わりの定跡としてぜひ盤に並べてほしい将棋だ。
そんな訳で△2二銀は印象が悪い。
 

図は、第1回マイナビニュース杯電竜戦統一ハードウェア戦【予選】 15回表☗水匠電竜-☖Joyful Believer
▲8六同歩に△8七歩▲同金△8五歩▲同歩△2三銀▲2九飛△2四歩と進行した。 

▲9五歩!(△同歩なら香頭連打して▲9二角の狙い)に△8五桂▲8六銀△4四角▲8二歩△同飛▲6九飛△6五歩と攻めたが、▲6四角△8一飛▲8二歩△6一飛▲8五銀と目障りな桂馬を外して先手が指せる分かれだ。




2.△4四銀の変化

△4四銀に先手は、飛車先の歩を交換する。
手番を得た後手は、△6五歩▲同歩△7五歩と仕掛ける。

ここで▲2二歩が手筋。
△同金に▲7九玉が当たりを避けた好手で、藤井七段の新手と言われているが、その前にfloodgateで実戦例があった。
後手としてはこれ以上攻めると反動が大きい。
△3二金と形を直したいが、▲2二歩のおかわりが嫌かので△6七歩と反撃した実戦例もある。
図からの指し手
△6七歩 ▲同 銀 △5五角 ▲6六銀左 △4六角 ▲4七歩
△1三角 ▲7五歩 △4五銀直 ▲7四歩 △6五桂 ▲6三歩
△7二金 ▲7三歩成 △同 金 ▲6二歩成 △7七歩 ▲同 桂
△同桂成 ▲同 銀 △6五桂 ▲5一角 △3一玉 ▲5二と
△5一飛 ▲同 と △7七桂成 ▲同 金 △3二金 ▲2六桂(図)
△2四角 ▲4六桂 △5一角 ▲6一飛 △3三角打 

図の▲2六桂が次に▲1四桂を狙って厳しい。
玉の近くにと金を作られるので、後手が勝ちにくい。
なお、最初の△6七歩で△8六歩▲同歩△6七歩と一歩渡してしまうと▲2四歩△同角▲2五歩△1三角▲1五歩△3二金という変化が生じる。



以前は、△3二金▲2二歩△同金の変化が良く指されていた。
しかし、▲6四歩△3二金に▲7五歩と手を戻し、△3一玉の早逃げには▲7六角が及川六段が指した好手で、次に▲7四歩や、角を切って▲6三歩成を狙っている。△9二角と受けたが、▲3五歩△6五銀▲3四歩となると、角銀交換でも玉頭の拠点が大きい上▲6三歩成も残っていて後手が指しきれない。斎藤優vs梶浦(新人王戦)でも先手勝ち。


さらに▲6四歩の代わりに▲3五歩が藤井七段の新手。113手で羽生九段を破っている。
△3二金▲2二歩△同金という「一手と一歩の交換」で、手得の先手が指せるかと思われていたが、その後稲葉八段が藤井七段相手に△8六歩の突き捨てを入れた形から▲2二歩で得た歩を使って△6七歩~△8七歩と反撃し、先手の攻めを中段玉で凌ぐという将棋が現れた。終盤にソウタmagicによって逆転負けを喫したものの、後手も指せることが分かった。(「ソウタの棋」に記事あり)
今注目の戦型のひとつだ。








後手が△6五歩と仕掛けずに△6三銀と待機した形から▲4五桂と仕掛けた将棋もある。
△2二銀に▲3五歩△同歩▲6五歩△同歩(△4四角)▲5五銀△3三桂に▲1八角と打って先手が指せるとされていたが、そこでじっと△8二飛と角道を外したのが渡辺新手。
なお▲4五桂と仕掛けるタイミングは、△5二玉より△4二玉の方が良い。





▲7九玉型に△6五歩

工夫の△7二金型

▲7九玉に対して△6五歩と仕掛けるのは▲6九飛△6六歩▲同銀△6五歩に▲同銀直で先の▲8八玉型の場合と違って△6四銀が効かず、歩切れなので受けが苦しい。
ところが、郷田昌隆vs佐々木勇気(竜王戦2組)で△7二金型から△6五歩という新手が現れ後手が勝利した。(floodgateでは何局か前例がある。)
△7二金型なので、△6五歩▲6九飛△6六歩▲同銀に△6一飛と対抗できるのが自慢。
但し、▲6五同歩の変化が気になる。
△同桂▲6六銀△6四歩▲4五歩に△3五歩と突き捨ててから飛車先交換してどうか。
相手が△7二金型なので、この変化は十分考えられる。


数日後、同じ郷田九段相手に中村太地七段が王座戦で佐々木新手を採用した。
これに郷田九段が▲6六同飛と工夫を見せた。
銀でなく飛車で取れば△6五歩は省けない。
▲6九飛に△6四角(図)は▲7五歩を受けて仕方ない。


角を打たせてから再び▲6六歩の時間差攻撃が狙いの一手。
飛車の目標になっていた△6二金を7二にして仕掛けたのが後手の工夫なら、金の代わりに角を打たせて目標にしようというのが先手の工夫だ。
△同歩▲同銀△8六歩▲同歩△6五歩▲同銀直△同桂▲同銀△8六角と進んで角が窮屈だが、△7二金型なので▲8七歩には△6五銀▲8六歩△7六銀で後手が良い。
そこで先に▲5四銀として△8八歩▲7七桂△8九歩成▲6八玉△7九銀▲5八玉(3時間超えの長考)△8八と▲同金(▲6五桂は△5四歩▲5三角△同角▲同桂成△3一玉で続かない。)△同銀成▲5三銀成△3一玉▲8二歩△7八成銀▲8一歩成△6九成銀(図)と激しい攻め合いになった。
途中の▲8八同金では▲7九金と取りたかった。
△7七角成▲5三銀成△3一玉▲6八金△7八と(△7六馬▲6七銀△8七馬も難解)▲7七金△6九と▲5五桂(▲9七角△8五桂▲4三成銀△2二玉▲3二成銀△同玉▲4四桂)△6八飛▲4七玉△8八飛成▲7八銀△4三金となって▲同桂成は、△5五桂以下詰み。しかし、▲4三同桂不成と王手して①△2二玉は詰み。②△4一玉は、▲5一金△3二玉▲4一角△4三玉▲3二角打△5三玉▲5二角成△6四玉▲6五歩△7三玉▲6四銀△8二玉 ▲5四角成と王手しながら詰めろを外して勝ち。③△4二玉が最善だが、▲3一角△4二玉(△4三玉▲5五銀!!)▲4一角△6二玉▲5八金打など手段があった。藤井七段なら勝ち切ったかもしれない。

郷田九段は、図の局面から▲6一飛と攻防に打ち、△2二玉▲2四桂と迫ったが、恐れず△同歩から△5五桂が厳しかった。▲2三銀△1三玉▲6九飛成(▲6九玉は△2九飛▲7八玉△5三角で負け。)は、△2八飛▲3九銀△7七角成が詰めろで、飛車を取っても△5九金で詰み。
難解だが、図からは▲4七玉△7七角成▲4一銀ならまだ先手優勢だった。



▲7九玉型から▲4五桂

藤井聡太七段対澤田真吾六段

▲8八玉型が△6五歩の仕掛けを与えるとなると、▲7九玉型のまま▲4五桂と仕掛けるのは有力だ。

藤井聡太もこの仕掛けを好んでいる印象だ。


以前は桂損を恐れて▲3五歩△同歩の突き捨てを入れてから桂馬を跳ねるのが常識だったが、ソフトによる研究で▲4五桂の単跳ねが有力と分かった。
後手の△2二銀で△4四銀もあり、飛車先交換に△1三角か△2三歩▲2九飛△6五歩。


図からの指し手
▲4五桂 △2二銀 ▲7五歩 △同 歩 ▲5三桂成 △同 玉 
▲7四歩 △4四歩 ▲7三歩成 △同 金 ▲6五歩 △同 歩 
▲4五歩 △6四桂 ▲6九飛 △5六桂 ▲同 歩 △6四金 
▲4四歩 △2六角 ▲4九飛 △4七歩 

先手の攻めは細いので飛車をうまく活用したい。2筋は壁銀を相手にして損なので6筋に転回した。次に▲5七桂が狙いだが、厚く△6四金と受けられると働きが悪い。
△6四金では△4五同歩も有力。
▲5五歩△同銀▲5七桂△4二玉▲6五桂△6四金▲6六銀△同銀▲5三角△3三玉▲6四角成が変化の一例。


実戦は△6四金に▲4四歩と取り込んだ。△2六角の金取りに▲4九飛と転回したが、△4七歩が厄介だ。▲同金は△3八銀▲4八飛△4六歩▲3八飛△4七歩成の変化が一例だが、先手が悪そうだ。
▲5八金は△3八銀があるので▲3八金と指したが、次の△8六歩▲同歩△5七歩が緩く、手番を握った先手の攻めが厳しかった。
単に△5八銀なら互角の形勢が続いただろう。


図では▲4七同金も有力だった。△3八銀に手抜いて▲4五桂や▲7三歩と攻めるのだ。▲7三歩は一見緩いようだが、▲7二歩成と成った後、飛車取りの他に▲6二角から▲4三歩成で角を抜く手がある。
この戦型は、先手としては有力だ。



村山七段が豊島名人を研究で破る

▲8八玉型には△4四銀として▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛に△6五歩と反撃する変化も有力だったが、▲7九玉型に対しては響きが薄い。
▲2四歩△同歩▲同飛に△1三角~△4六角として桂を取りにいく構想もあるが、桂を取っても打った角が負担だし、銀を手持ちにすると▲6三銀が厳しい。
そこで△2二銀として後の△4四歩を楽しみにする。
先手は前局のように▲7五歩から仕掛けるのが定跡だが、▲3五歩から仕掛けたのが「序盤は村山に聞け」の村山七段。△4四歩には▲8八玉型と同様に▲3四歩△4五歩▲同歩(同銀)もあるし、▲5三桂成△同玉▲3四歩として桂損よりも二歩の手持ちが大きいというのが最近の常識のようだ。
△3五同歩に単に▲2四歩△同歩▲同飛として△2三歩に▲5三桂成△同金▲5四飛△同金▲6三角△5一飛▲6二銀を狙うのも一局だが、△2三銀が手厚い受けで、同様に攻めると△5三飛の好手がある。▲2九飛と引いても強く△4四歩とされ、▲2四歩△3四銀▲2三角には△4三金で受かる。
そこで▲7五歩と突き捨ててから▲2四歩と飛車先を交換し、△2三銀~△2四歩には▲7四歩から桂交換して△6二角と狭い所へ打ったのが研究手順。

△6三金▲5三桂成△同金に▲7三歩がこの形で頻出する垂れ歩の手筋。
▲7三歩に△7六歩▲6八銀△7七歩成▲同銀△7一歩と受けたが、飛車の横利きが消えて後手が辛い。
これに▲4七桂が巧く、△4三桂には▲4五歩があるため受けにくい。△5二玉と催促したが、角金交換から▲3五桂に△1二銀では辛すぎる。
その後も▲3四金△3三角▲2九飛△5一角▲3三歩△4二金(△同金▲同金△同角は▲5六歩が厳しい)▲2三歩と着実に攻め、名人を破った。