将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【将棋は歩から】序盤の歩の形

歩は将棋の魂である。(フィリドール)

The pawns are the soul of chess.    Philidor


横と斜め

図は、大山康晴対中原誠の序盤。
歩だけを抽出すると下図のようになる。

横に並んだ先手陣に対し、後手は奇数筋の歩をついて斜めに・・・見事なまでに対照的だ。
振り飛車対居飛車だからと言う訳ではない。
相居飛車戦でもこのような対照的な陣形が見られる。 

上図は、渡辺明対藤井聡太の序盤。
↓実際の盤面はこうだ。

なぜ、こうした歩の配置の違いが生まれたのか?
急戦を望んだ先手に対し、持久戦を望んだ後手。
戦略の違いが歩の配置に現れたのだ。
当たり前すぎて誰も認識してなかった「歩の世界」に踏み込んでみたい。




相互の歩の位置関係

 


チェスでは縦の列をファイルと呼び、横の列をランクと呼ぶ。
将棋では縦の列を1筋、2筋というように「筋」と呼び、横の列は「段」と呼ぶ。


中段飛車、下段飛車と呼ばれるように、(先手から見て)五・六段目を中段、八・九段目を下段と簡単に呼ぶこともある。


筋(縦の列)での歩の位置(ポジション)

歩は一マスずつしか前進できないため、チェスと違って一つの筋から移動することはない。


したがって筋(縦の列)ごとに見ると、「衝突」「突き合いなし」「片方だけ突いている」「お互い突き合う」「片方が切れている」「両方とも切れている」さらに片方だけが五段目まで伸ばす「突き越す」に分類できる。


具体的に見てみよう。

9筋・・・突き合いなし
8筋・・・後手が突き越し(位取り)、先手は突き越されている
7筋・・・衝突
6筋・・・両方とも切れている(お互いの歩がない):開いた筋(オープンファイル)
5筋・・・片方が突いている
4筋・・・片方が突いている
3筋・・・突き合い
2筋・・・片方が切れている:半開の筋(セミオープンファイル)
1筋・・・突き合い
基本的に歩の役割は、攻めてくる相手の駒(piece)の前進を阻止することだ。
したがって相手が歩を突けばこちらも突くという「突き合い」の関係に収まることが多い。
そうなると、こちらの手番で歩をぶつける(衝突)と、相手の手番で取られて損。
したがって歩単独ではマス目を一つ空けて睨み合う均衡状態になる。
そこから駒(piece)の力によって歩が衝突し、一気に緊張状態になる。


「仕掛けは歩の突き捨てから」の格言通り、歩を交換することによって相手の歩を消し、味方の駒が前進できる。
飛車先の歩の▲2四歩△8六歩や、桂馬の利きになる▲4五歩や6五歩、図では先手から▲3五歩とぶつける。


図で歩が衝突しているのが7五の地点。
▲7五同歩と取ると△6四銀と取り返しを図ることもできるし、歩を切って△7七歩と攻めることもできる。


8筋を突き越している状態では、△8六歩と仕掛ける権利は、突き越した側が持つ。
稀にしか見ないが、突き越された側から歩をぶつける手を、特に端などで突き上げの歩と呼ぶことがある。


  • 双方の玉との位置関係によって、守備の歩(▲9七▲8七▲7六▲6六、△4四△3四△2三△1三)と、攻撃の歩(▲5七▲4七▲3六▲1六、△9三△8五△7四△6四△5四)に区別される。相手玉に正対する歩は攻撃のために前進すべきだが、味方玉を守る歩は玉の安全のため、前進を控えるべきだ。
  • 飛車がいる筋の歩は、突き越し、切ることになりやすい。
  • 角筋を開けるため必要な7筋や3筋はお互い突き合うことになり、衝突しやすい。
  • 桂馬の利きになる▲4五歩や△6五歩も衝突しやすい。
  • 歩の突き越し(位)は、大きなアドバンテージ。
  • 「相手の歩のない筋の歩を突け」。半開の筋(セミオープンファイル)の歩を伸ばすのが効果的。(ただし、相手の飛車先は別)
  • 開いた筋(オープンファイル)や半開の筋(セミオープンファイル)に飛車を配置するのが効果的。

上図は、少し前の局面。
先手が▲6六歩と突いたため△6五歩の仕掛けを誘発した。
桂馬の進路である6五や4五などは争点になりやすいので、▲6六歩や△4四歩には一考が必要。


段(横の列)での歩の位置(ポジション)

次に段(横の列)の連携について考えてみる。
図を見ると、後手の歩は7筋から3筋にかけて横に並んでいる。
並んだ歩は守備に強く、▲3五歩の仕掛けに対して△4五歩の反発が可能だ。
図の後手の場合、5つの歩が並んでいる(クインテット)が、守備に強い反面、攻撃では味方の銀の前進を阻害している。
この後手の銀の形を「歩内銀」と呼び、スピードでは先手の▲4六銀のような「歩越し銀」に劣るが、歩を使った厚い攻めが可能。
反対に先手は4七の歩がいるため、4筋の歩を使った攻めができない。
「歩越し銀には歩で対抗」の格言の通り、右辺に関しては後手の守備陣が優っている。


反対に先手の4七と3六のように斜めの歩は攻撃的。
この斜めの二つの歩の上に銀が乗っかり、攻めの最前線を形成。
また、斜めに配置することによって、角筋を相手陣まで通すことができる。


冒頭に掲げた大山康晴対中原誠の歩の配置を思い出してほしい。
「受け」の大山は歩を横に並べ、「攻め」の中原は歩を斜めに配置した。
このように歩の配置は、戦略に密に繋がる。
「歩は将棋の魂」と言われる所以だ。


歩の位置と玉の関係

服部vs稲葉(王座戦)より取材。 
最近流行の相掛かり戦から後手が△1五歩と端を突き越した。
端の位は、中央から離れているので価値は低いが、玉の位置によっては大きな手になる。

先手の服部四段は敏感に反応した。
▲6八玉と構え直したのだ。
この手によって後手の△1五歩の価値を下げると同時に、守備の歩だった4筋の歩を前進させて攻撃参加できるようになった。 

さらに進行して図の局面。
先手は、2・3・8筋の歩が五段目まで進出。
特に2・3筋に並んだ歩は、チェスで「デュオ」と呼ばれる好形で、後手の飛車を圧迫している。


それ以上に大きいのが8筋の歩。
8筋には相手の歩がなく、セミオープンファイルになっている。
7一に居る後手玉にとって守備の歩がないのは大きなマイナス。
対して先手の歩は五段目まで前進しており、次に▲8四歩となれば後手玉にとって大きな脅威となる。
したがって後手には△4四銀と3五の歩を取りに行く余裕はなく、△7四歩と受けた。
▲8四歩には△6五歩を用意している。


先手の▲6八玉の構想は好かったが、後手が△7一玉と囲ったのは拙かったようだ。
このように歩の形と玉の配置の相関関係を理解することは、序盤の巧拙に繋がる。



将棋は歩から (加藤治郎)

【上巻】
序章 歩の使用法と性能
〔1〕歩の使用法の種類
〔2〕歩の重要性
〔3〕歩に対する関心度
〔4〕歩の協力性
〔5〕歩の犠牲的性能
第1章 前進の歩
〔1〕前進の歩とは
〔2〕前進の歩と数学
〔3〕スタートの4型
〔4〕歩からみた諸戦法
〔5〕駒落ち戦と“歩の前進”
〔6〕終盤戦の歩の前進 30p
第2章 交換の歩
1 交換の歩とは
2 平手戦における交換の歩
 〔1〕飛車による歩の交換
 〔2〕角による歩の交換
 〔3〕銀による歩の交換
 〔4〕桂による歩の交換
 〔5〕金による歩の交換
 〔6〕香による歩の交換
3 駒落ち戦と交換の歩
 〔1〕香落ち戦と交換の歩
 〔2〕角落ち戦と交換の歩
 〔3〕飛落ち戦と交換の歩
 〔4〕飛香落ち戦と交換の歩
 〔5〕2枚落ち戦の交換の歩
 〔6〕4枚落ちの交換の歩
 〔7〕6枚落ち戦の交換の歩
第3章 突き違いの歩
〔1〕突き違いの歩とは
〔2〕突き違いの歩の対策
第4章 蓋歩(フタフ)
〔1〕蓋歩とは
〔2〕桂による蓋歩
〔3〕銀による蓋歩
〔4〕~〔6〕実戦3例
〔7〕角による蓋歩
〔8〕練習問題
第5章 突き捨ての歩
1 突き捨ての歩とは
2 平手戦と突き捨ての歩
 〔1〕定跡編
 〔2〕実戦編
 〔3〕終盤戦と突き捨ての歩
 〔4〕駒落ち戦と突き捨ての歩
第6章 継ぎ歩
1 継ぎ歩とは
2 継ぎ歩と置き駒
 〔1〕継ぎ歩と飛車
 〔2〕継ぎ歩と桂
 〔3〕継ぎ歩と角
 〔4〕継ぎ歩と金銀
 〔5〕継ぎ歩と香
3 継ぎ歩と持ち駒
 〔1〕継ぎ歩と香
 〔2〕継ぎ歩と桂
 〔3〕継ぎ歩と金銀
 〔4〕継ぎ歩と角
 〔5〕継ぎ歩と飛車
【中巻】
第1章 垂れ歩
〔1〕垂れ歩とは
〔2〕見本例と実戦例
〔3〕駒落ち編
第2章 焦点の歩
〔1〕焦点の歩とは
〔2〕飛角の焦点の歩
〔3〕飛角以外の焦点の歩
第3章 死角の歩
〔1〕死角の歩とは
〔2〕練習問題
〔3〕応用問題
〔4〕死角の歩定跡
第4章 ダンスの歩
〔1〕ダンスの歩とは
〔2〕練習問題
〔3〕応用問題
〔4〕実戦編
第5章 単打の歩
〔1〕単打の歩とは
〔2〕見本例
〔3〕実戦編
第6章 合わせ歩
〔1〕合わせ歩とは
〔2〕見本例
〔3〕実戦編
第7章 十字飛車の歩
〔1〕十字飛車の歩とは
〔2〕見本例
〔3〕実戦編
【下巻】
第1章 連打の歩
〔1〕連打の歩とは
〔2〕見本例
〔3〕実戦編
第2章 成り捨ての歩
〔1〕成り捨ての歩とは
〔2〕見本例
〔3〕実戦編
第3章 控え歩
〔1〕控え歩とは
〔2〕練習問題
〔3〕実戦編
第4章 中合いの歩
〔1〕中合いの歩とは
〔2〕駒を節約する中合いの歩
〔3〕先を取る中合いの歩
〔4〕駒損を防ぐ中合いの歩
〔5〕駒得をはかる中合いの歩
〔6〕即詰みよけの中合いの歩
第5章 底歩
〔1〕底歩とは
〔2〕見本例
〔3〕実戦例
第6章 直射止めの歩
〔1〕直射止めの歩とは
〔2〕実戦編
第7章 面打の歩
〔1〕面打の歩とは
〔2〕実戦編
第8章 紐歩
〔1〕紐歩とは
〔2〕実戦編
第9章 歩切れの将棋
〔1〕歩切れの将棋とは
〔2〕実戦編
第10章 端歩
〔1〕端歩とは
〔2〕駒と端
〔3〕囲いと端
〔4〕端玉に端歩

歩の玉手箱(桐谷広人)

外壁としての歩
直射止めの歩
垂れ歩
と金
底歩
紐歩
突き捨ての歩
成り捨ての歩
成り捨ての歩
合わせ歩
十字飛車の歩
継ぎ歩
単打の歩
面打の歩
中合いの歩
焦点の歩
突き違いの歩
ダンスの歩
蓋歩
控え歩
死角の歩
争点がえの歩
端歩
端攻め
遮断の歩

打歩詰め
歩切れ
一歩千金   


新将棋は歩から(森けい二)

第1章 前進の歩   
第2章 交換の歩   
第3章 突き捨ての歩   
第4章 垂れ歩   
第5章 継ぎ歩   
第6章 成り捨ての歩  
第7章 焦点の歩   
第8章 単打の歩   
第9章 連打の歩   
第10章 端歩   
第11章 その他の歩
(1)中合いの歩
(2)底歩
(3)十字飛車の歩
(4)合わせの歩
(5)控えの歩 
(6)ダンスの歩 
(7)死角の歩 
(8)蓋歩(フタフ)
(9)突き違いの歩 
(10)紐歩(ヒモフ) 
(11)直射止めの歩