将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【将棋は歩から】空気投げの歩

大山康晴九段(当時)の歩使い

将棋の駒の中で一番数の多い「歩」。
「歩」をどう使うかによって一局の明暗が分かれると言っても過言ではない。
木村義雄14世名人が無敵を誇っていた時代、読売新聞によって「九段戦」というタイトルが生まれ、大山康晴が初の九段位に就いた。(それまでは八段が最高位だった)
そこで名人と九段を戦わせてみようという企画が持ち上がった。

仕掛けは歩の突き捨てから

先手の銀矢倉が大山九段。後手の木村名人の△7五歩に手抜きで▲3五歩と攻めた。
△7六歩と取り込まれても形が崩れない。
これが銀矢倉の長所で、大山九段は銀矢倉を得意としていた。
木村名人は、△7五銀(下図)とぶつける。

垂れ歩の反撃

ここで▲7四歩が、「垂れ歩」の手筋。
後手は銀交換の後、△8四飛(下図)と受けたが・・・

桂頭単打の歩

ここで▲2二歩と桂頭に打ったのが、「単打の歩」という手筋。
△同角には▲7三歩成△同桂▲7四歩△同飛▲7五銀で飛車を取られる。
そこで△2二同金(下図)と取ったが、玉頭が薄くなった。

突き捨ての歩

▲4五歩と突く。
取れば▲3四歩が来るので△7四飛と目障りな歩を払い、▲6五銀打△7二飛▲4四歩△同金(下図)と進行する。

焦点への単打の歩

ここで▲4二歩の叩きが「単打の歩」であり「焦点の歩」でもある。
△4二同玉や△4二同飛は▲9七角、△4二同角は▲5四銀△同金▲4三銀と攻められる。
後手は△3二玉と躱したが、やはり▲9七角が厳しかった。


大山優勢のまま終盤戦を迎えた下図。
やはり歩の手筋で寄せていく。

金と銀が並んだ形は、銀頭が急所

ここで▲4四歩の「単打の歩」が激痛。
金と銀が並んだ形は、銀頭が急所。
歩で攻めるのは、自陣への反動が少なく効果的だ。

大山康晴15世名人は、このような歩使いをどうやって学んだのだろうか?


駒落ちは歩の手筋の宝庫

『将棋大観』

7歳の頃、大山少年の将棋勉強法は木村義雄著『将棋大観』の丸暗記だった。
師匠(アマチュア)がこの名著を読み上げ、大山少年がそれを盤上に再現する。
完全にできるようになったら次に進む。
『将棋大観』は昭和3年に出版された駒落ちの古典的名著。
駒落ちが、大山康晴の将棋の基礎を作ったのだ。

突き捨てて垂れ歩攻め

六枚落ちにおける▲7五歩。
と金作りを知らなければ上手陣の攻略は難しい。
最初に覚えておきたい歩の手筋だ。

クライ取りの歩

二枚落ちでは「クライ取り」という将棋の二大要素のひとつを学ぶことになる。
ちなみにもうひとつの要素は「サバキ」だ。
クライを攻めに生かすには「二歩突っ切り定跡」があり、守りに生かすには「銀多伝定跡」がある。
「クライ取りの歩」の重要性を教える二枚落ち定跡は、駒落ちの中でも特に重要だ。

控え歩

上図は、二枚落ちの最後の関門と言われる「5五歩止め」に対して強く▲5五同角と取った変化。
ここで▲4五歩が「控え歩」の名手。
上手の3四の銀が使えなくなった。

この控え歩が打てないと下手は勝てない。
「控え歩」という名称は、加藤治郎九段の名著『将棋は歩から』による。
加藤治郎九段が控え歩の実例として挙げた下図は、全巻で最も印象に残った木村14世名人の名手。
大山康晴の手順前後を咎めた。


将棋は歩から

加藤治郎九段の名著『将棋は歩から』は、歩の使い方を名付けて分類した名著。
古典のひとつといっていい。


後に桐谷広人六段が、さらにいくつかをつけ加え、わかりやすく順番を整えた『歩の玉手箱』を表した。
株主優待おじさんとして有名になる前の著書である。


しかし、両書に紹介されていない歩の名手筋がある。
2018年将棋年鑑No.198、飯島 栄治七段vs中川 大輔八段(B級2組順位戦)より取材。

初手からの指し手
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲3八銀 △6二銀 ▲6八玉 △8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲8七歩 △8四飛 ▲7六歩 △3四歩 ▲3六歩 △5二玉
▲4六歩 △7二金 ▲3七桂 △3五歩 ▲2六飛 △3四飛
▲3五歩 △同 飛 ▲3六歩 △3四飛 ▲4七銀 △7四飛
▲7七金 △8四飛 ▲4五歩 △7四歩 ▲3五歩 △7三桂
▲3八金 △6四歩 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩
▲2六飛 △6三銀 ▲4四歩 △同 角 ▲4六銀 △5四銀
▲7八金 △8八角成 ▲同 銀 △2二銀 ▲3四歩 △6五歩
▲7七銀 △6二金 ▲3六飛 △9四歩 ▲4五銀 △7五歩
▲同 歩 △6三銀 ▲2五桂 △8八歩


上図は、△8八歩と「桂頭単打の歩」を打たれた局面。
名手筋で、どれで取っても壁形になって先手玉が寄せやすくなる。
「桂頭単打の歩」はあくまで現象を表したもので、その心は「退路封鎖の歩」だ。
藤井聡太四冠の棋譜に頻出する手筋中の手筋で、神崎八段の著書にも紹介されている。

先手の飯島七段は、これを相手にするのは利かされと見て▲3三歩成から桂を入手して▲7四桂と反撃する。
対して△7二金と利かされるのはプロの第一感にはない。
▲4四歩と「こびん攻めの歩(筆者命名)」 が嫌らしい。
以下△3五歩 ▲4三歩成 △同 金 ▲4四歩 △同 銀 ▲同 銀 △同 金 ▲2六飛 △3四角 ▲2二角 △4三歩 ▲1一角成 △8九歩成 ▲4九香 △6六桂 ▲同 歩 △7八角成 ▲同 玉が変化の一例で互角の分かれ。


勢いを重視する米長門下の中川大輔八段は、当然△7四同銀と清算した。
ソフトによると△7二金が有力になっているが、こんな利かされは人間には指せない。


図からの指し手
▲3三歩成 △同 桂 ▲同桂成 △同 銀 ▲7四桂 △同 銀
▲同 歩 △同 飛 ▲3四歩 △4四銀 ▲4二歩

図の▲4二歩が「空気投げの歩」。
取っても放置しても煩い厄介な歩。
△4二同玉は戦場に近づくので▲4四銀から▲3三銀で潰れるし、△4二同金は▲4四銀△同飛▲3三歩成が厳しくなる。
放置すれば▲4一角。
歩一枚で△6三玉と後手玉が逃げ出すことになり、▲8三銀の追撃が厳しくなった。
まさしく「空気投げ」という表現がぴったり。
この▲4二歩は覚えておくべき手筋だ。


図からの指し手
△6三玉 ▲8三銀 △4五銀 ▲7四銀成 △同 玉 ▲8六飛
△8五銀 ▲4一角 △5二桂 ▲8二飛 △7二歩 ▲3二角成
△8六銀 ▲同飛成 △2五角 ▲7六銀 △8九歩成 ▲6五銀
まで先手勝ち

△8九歩成は自然な一手だが、△6三玉と辛抱すべきだったか?