将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【相掛かり】名局:第70期王将戦第二局(▲4七銀)

玉は囲うものという常識が崩れた

AIによって将棋の考え方が180度変わった。
以前は、玉を堅く囲って「固い・攻めてる・切れない」が必勝パターンとされていたが、薄い玉からの速攻が現代のトレンド。もしかしてAIには持久戦という概念がないのか?
居飛車の評価値が高く、対振り飛車では急戦が増えた。
相居飛車では5二玉型や5八玉型が多い。
玉は囲うのでなく、脱出路を確保しながら戦う感覚だ。
右銀は3八や7二に上がって、いざという場合の玉の逃げ道を開けている。
永瀬王座vs渡辺王将の第70期王将戦第二局は、そんな新感覚を体現したような一局となった。


初手からの指し手
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲3八銀 △7二銀 ▲9六歩 △5二玉 ▲4六歩 △7四歩
▲4七銀 △9四歩 ▲7六歩 △3四歩 ▲2四歩 △同 歩
▲同 飛 △7三桂 ▲7七角 

攻め駒・守り駒という概念は過去のもの

後手の陣形は最近のトレンドで、5二玉&7二銀型から飛車先交換を急がずに右桂を活用する。
この陣形に対し、4七銀型から▲7七角と飛車先交換を受けたのが先手の永瀬王座が用意していた作戦。
この銀は腰掛け銀(攻め駒)とともに右玉(受け駒)の含みも持たせている。
▲7七角△同角成▲同桂△2二銀▲7五歩となると、桂頭が危険なので、もはや玉を左に囲う将棋にはならない。
本来は玉の重要な守り駒であるべき左の金銀だが、価値を低く見て、いずれ玉は右側へ脱出する算段だ。
相掛かりの玉形は▲5八か▲6八が常識だったが、いずれ▲4八玉とする将棋も現れるかもしれない。
ヒネリ飛車に慣れた昭和の人間にとしては、あまり違和感はないのだが・・・


後手の渡辺王将は、▲7五歩に桂頭を△8四飛と受けた。
できれば△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8四飛としたいところだが、△8六歩には強く▲7四歩と取られ△8七歩成に▲7三歩成△同銀▲8三歩△同飛▲6五角がピッタリなので仕方ない。
▲5六角と数を足されると桂頭は受からない。
後手は、横歩取りを防いで△2三銀▲2八飛△7五歩▲7四歩△2四歩と△7六歩を楽しみに桂損を甘受する。


後のタイトル戦で同じ形が出現した。
先手は同じ永瀬拓矢王座、後手は木村一基九段。
△2三銀に▲2五飛と木村九段が工夫。
▲7五飛を狙った手だが
構わず△3三桂として▲7五飛に△6四角▲7六飛に△2八歩と勝負する順が有力だった。


先手は桂得の成果を挙げたが、歩切れのままでは次の△7六歩に反撃ができないので得した桂を▲1五に打って△1二銀に▲6五桂△6二銀を利かして▲2四飛と歩を取り、△7六歩に取った歩を7四に打って6五の桂馬を軸に反撃体制が整った。
しかし△7七歩成から△3三角の飛車金両取りから金を王手で食い逃げされると駒割りは金桂交換で先手の駒損。代償に手番を握ったのが大きい。
形勢は互角。
実は、ここまで全く同じ進行の将棋がフラッドゲートにある。


コンピュータと人間の感覚


▲6六角の変化

図の局面で永瀬はフラッドゲートの前例と同じように▲7五角と飛車を攻めた。
▲6六角の方が受けに利いているが、これには△7四飛とわざと王手飛車をかけさせるのが巧い手。
▲5三桂成△同銀▲7四角に△7八金と迫って互角の形勢のようだ。
△7八金は次に△8八飛の狙いだが、△6九飛▲4八玉△6八飛成と俗に迫るのもある。
▲5八金と先手を取りたいが、△7九竜で危ない。▲5八銀と玉の上部脱出を図るのがこの形の必修の受けで、△3五桂には強く▲3六歩と催促する。
後手玉も薄いが、先手の攻め駒も大味なので難しい。


図から▲6六角の変化
▲6六角 △7四飛 ▲5三桂成 △同 銀 ▲7四角 △7八金
▲8三角成 △6九飛 ▲4八玉 △6八飛成 ▲5八銀 △6九銀
▲8四角 △7二歩 ▲8一飛 △7一桂 ▲4七馬 △7七金 
▲9一飛成 △6七金 ▲5九香 △6二銀 ▲7三歩
△同 銀 ▲9三角成 


このように丁寧に大駒の威力を発揮すれば先手が指せるか?
次の▲7一角成が厳しく、△6二銀と受けても▲7三歩△同歩▲9四馬と好調だ。


汎用性の高い好防

実戦は、▲7五角なので△7四飛は後々▲5三角成が残って危険、△8一飛とした。
これに▲7三歩成は△7四歩▲同と△7八飛が渡辺王将の読み。以下▲7六歩△同飛成▲7七歩で互角の形勢だ。
dlshogi vs ふかうら王(第二回電竜戦)でその変化が出現している。
そこで▲7三桂不成と両取りをかけたが、後手は手を抜いて△7七歩と嫌味をつけ、対してタダの飛車でなく金の方を取って△同飛に▲7二金とし、その▲7二金にしぶとく△7一金(図)と汎用性が高く、覚えておいて損がない手順を経て下図の局面になった。

盤上に現れなかった絶妙手△5八と

図の△7一金では△7八歩成と攻め合うのも有力だった。
以下▲6一金△同玉▲7三歩成△同銀▲5三角成△6八と▲4八玉△6二金▲8三角成△7二金▲8一飛△7一歩▲7二馬△同玉▲8三金△8一玉▲6二馬に△5八とがアクロバティックな一手で即座には意味がわからない。


  1. ▲同玉は、△8八飛で合駒を使うと馬を取られるので負け。
  2. ▲同金は、△2八飛で負け。▲3八金と手放すと△7九飛で負け。▲3八銀は切って△6五角で悪い。そこで▲3九玉だが△2七桂で詰み。
  3. ▲同銀は、△2八飛で▲5九玉は△7七角で合駒が金一枚なので負け。△2八飛に▲4七玉は△7四角で負け。△2八飛に▲3九玉が最善だが△2九飛成▲同玉△2七飛が継続手。▲2八金と合駒するのは△7四角▲3八金△2八飛成▲同玉△8三角が△2七銀からの詰めろで勝ち。△2七飛に▲3八玉と逃げるのは△2九角▲2七玉△8三角成で後手有利。
  4. ▲3八玉には、一旦△7二銀と受け、▲7三金△同銀▲同馬には△4八飛からバラして△7八飛で馬を抜ける。


図から駒得を図る▲7三歩成

再掲図


図で一目は▲7三歩成で、実際有力だったようだ。
△同銀▲同金△7八歩成と迫られるが、そこで▲7二銀と追撃すれば先手が面白かった。
相手せずに△6九飛▲4八玉△6八飛成と迫るのは、▲5八銀が前にも出てきたピッタリの受けで先手良し。


単に△6八と▲同玉△7六桂▲7七玉△7九飛▲7八歩と玉を危険地帯におびき寄せてから△6二銀と受けるのが実戦的な手段だが、▲6一銀不成△同金▲6二金△同金(△同玉は、▲8一飛△7二銀▲9一飛成△9九飛成▲8四角△7三金▲同角成△同銀▲8三角成△7一香▲9二竜△7二歩と後手に駒を使わせて▲7六玉とすれば先手が良い)▲8一飛△7一歩▲同飛成△6一金打▲9一竜と体力勝負に持ち込めば先手が良い。


そこで▲7二銀には△同金▲同金△2一飛と面倒を見る。
先手は▲7四角か▲7三金が有力だが、攻め駒の少ない後手は、持ち駒を使いたくない。実戦でも現れたが、好機に△2五桂と玉の退路を開ける手を狙っている。


図から銀をを取る▲6二金

再掲図


図から後手にとってお荷物の飛車を取るのでなく▲6二金と銀の方を取るのもありそうだ。
△同金に▲7三銀と絡めば△7一金などと受けて千日手が濃厚。


図から飛車を取る▲6一金(実戦の手順)

再掲図


実戦の▲6一金は飛車を取るのが大きいという判断。
先手を取って▲6六歩と歩成を受けることができた。
しかしこの局面は△5五桂▲5八銀の後、△7六飛▲8四角△7八歩成とすれば後手が良かった。
渡辺王将は△7八歩成▲同角△7六桂と攻めたが誤算があった。
▲8四角と逃げられ予定の△8八飛は▲6二角成△同金に▲7九銀で悪い。
△2八飛は予定変更だ。


図からの指し手
▲6一金 △同 金 ▲6六歩 △7八歩成 ▲同 角 △7六桂 
▲8四角 △2八飛 ▲5八銀 △2九飛成 ▲8一飛 △7一銀 
▲7三歩成 △2五桂 ▲6三と △同 玉 ▲6七角 △3七桂成
▲3九歩 △2八龍 ▲2三歩成 △同 歩 ▲2九歩 △2四龍
▲7六角 △7二玉 ▲7三桂 △6二金 ▲6五角 △8二金 
▲7四歩 △8一金 ▲同桂成 △8九飛 ▲6九銀 △6七歩 
▲7七銀 △6三玉 ▲7一成桂 △5二玉 ▲6二角成 △同 玉 
▲6一銀 △4一角 


大逆転で熱戦に幕


図の局面は、後手の△4一角が疑問手で、(正解手は△5二桂)先手にチャンスが訪れた。
ここから▲4二金が鋭い詰めろ。
以下△同金▲7二成桂△6三玉▲7三歩成△6四玉に▲4三角成が決め手で一直線で先手勝ちとなるはずが・・・


図からの指し手
▲4二金 △同 金 ▲7二成桂 △6三玉
▲7三成桂 △6四玉 ▲4三角成 △6八金 ▲同銀引 △同歩成
▲同 玉 △8八飛成 ▲6七玉 △7五桂 ▲5六玉 △5五銀
まで120手で後手の勝ち


実戦は永瀬王座が▲7三成桂と誤ったため、△8八飛成に歩合が利かず後手勝ちとなった。
なぜ自然な▲7三歩成をためらったかというと、渡辺王将の△4一角だ。
▲7三歩成とするとこの角の利きが8五まで通るので、危険と判断したのだ。
「渡辺王将が△4一角と打ったのだから何かあるに違いない」そう思うのは当然だろう。
永瀬王座に運がなかった。






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