将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【一手損角換わり】早繰り銀

スペシャリストが多い「一手損角換わり戦法」

柔軟な発想

「一手損角換わり戦法」は、昔、伝説の阪田三吉が指した棋譜も残っているが、「不倒流」淡路仁成九段が試み、「新手メーカー」青野照市九段が佐藤康光とのA級順位戦で採用してから相居飛車後手番の有力戦法のひとつとして認められるようになった。


先手番での角換わり腰掛け銀の飛車先保留は、「光速流」谷川浩司九段などが採用して猛威を揮っていたが、後手番で一手損して飛車先を保留するという着想は画期的だった。
その後、角交換振り飛車や角換わり▲4八金型の手待ち作戦などで手損に対するアレルギーはなくなり、飛車先保留という意味は薄れ、相手の作戦を見てから後出しジャンケンをしようという意味が大きい。


角換わりには「腰掛け銀」「早繰り銀」「棒銀」の3つの戦法がある。
「早繰り銀」は「棒銀」に強く「腰掛け銀」に弱いなど三すくみの関係があり、ゼロ手損ではお互いに腰掛け銀になることが圧倒的に多い。
一手損の場合は、以前は相腰掛け銀になることも多かったが、先手が少し損との共通認識から、最近では▲7八玉型からの早繰り銀が優秀とされている。


先手の作戦が統一されてから後手の勝率は低くなり、現代ではスペシャリストの戦法と認識されている。
『【一手損角換わり】羽生流右玉戦法』で取り上げたように、少し前、羽生九段が独自の右玉型を用い、高い勝率を誇ったが、最近は封印しているようだ。
現代の「一手損角換わり戦法」の使い手として知られるのは、「激辛流」丸山九段や「旧・西の王子」山﨑隆之八段など。
「怪物」糸谷哲郎八段も以前は好んで指し、『現代将棋の思想~一手損角換わり編』を著している。


先手の対策は早繰り銀

後手が角交換するタイミングだが、最近では▲7八玉型からの早繰り銀を避けて△3二金▲7八金の交換をしてから角交換する例が多いようだ。
これに対しても、先手としては早繰り銀が有効。 
後手には腰掛け銀か早繰り銀か両方の選択がある。
佐々木勇気vs丸山忠久(王座戦)では、後手の丸山九段は腰掛け銀を志向した。

飛車先を突いた局面だが、先手は▲7七銀と受けてくれない。
受けると返って継ぎ歩攻めが生じるマイナスがあるのだ。
▲6八玉と、飛車先の歩交換を逆用しようという姿勢だ。




一手損角換わりの相早繰り銀

羽生の藤井対策は一手損角換わり

注目の王将戦第一局。
振り駒の結果後手になった羽生は、一手損角換わりに誘導した。 

当ブログの『【角換わり】相早繰り銀』で紹介した藤井vs永瀬(下図)に酷似している。
一手損の代償に玉が戦場から離れているという主張だ。


図で△9五歩とすれば▲2四歩△同歩▲同銀には△2七歩の反撃があって後手面白いが、▲2四歩の銀交換のところ▲3四歩とされて面白くない。


 


AbemaTVトーナメント

第3回AbemaTVトーナメント予選の「チーム稲葉・インビクタス」「チーム渡辺・所司一門」の大将戦は佐々木大地五段対渡辺明三冠という対戦になった。


フィッシャールールの早指し戦で、後手の渡辺三冠が用意した作戦は一手損角換わり。
後手番の渡辺三冠は何が飛び出すかわからない。
とは言えプロ間でほとんど指されていない一手損角換わり戦法での相早繰り銀を選択したのは、かなり意表を衝いた。


かつて「東の魔王」渡辺明三冠に対し、「西の王子」と呼ばれた山﨑隆之八段は、著書『山﨑隆之の一手損角換わり』で「糸谷流△7三銀戦法」と名付けてこの作戦を紹介している。
通常の一手損角換わりでは、先手の▲7八玉型での早繰り銀が有力だが、「糸谷流△7三銀戦法」に対しては玉が近く危険だ。


「糸谷流△7三銀戦法」では△4二飛型で早繰り銀を受けるのが主眼だが、渡辺三冠は△5二玉型から3筋を軽く見る現代風の指し方。
これが渡辺三冠の指したかった作戦かと納得。


一手損角換わり戦法での相早繰り銀は、手番と手得で先手が2手早い。
だから先手が良いかというとそうでない。
先手が玉を囲うのはかえって争点に近いのでマイナスになる。
先手の早繰り銀に対して、△7三銀~9四歩型が好形だ。
対戦相手の佐々木大地五段の選択は▲5八玉型。
先手の3五の銀を狙って継ぎ歩攻め。
先手は後手の金銀を壁にして満足。
ゼロ手損角換わりで良く見られた将棋で、もちろん形勢は互角。



図の△8七角も類型がプロで指されている。
アマチュアにとって始末に困る△8七角の打ち込み。
しかし、佐々木五段は角を取ってと金を作らせても先手が悪くないと判断。
▲8七同歩△同歩成▲6八金と進めたが、△7七と▲同桂△8八飛成と飛車を成られ、冷静に見て竜の威力が大きく、先手が指し難くなった。


図からの指し手(研究)
▲同 歩 △同歩成 ▲8三歩 △同 飛 ▲8四歩 △同 飛
▲6六角 △8二飛 ▲7九金 △7七と ▲同 角 △8八歩
▲9七桂 △8九歩成 ▲7八金 △8七歩 ▲8四歩 △8八歩成
▲6八金 △8四飛 ▲8五歩


やはり飛車をダイレクトに成らすのは問題だった。
飛車頭を叩いて▲6六角と据えておいてから金は7九に引いておく。
こうすることによって△7七とに▲同角と取れるのが自慢で、△8七飛成には▲8八金と受けることができる。
▲6六角に△7五歩が手筋だが、▲同角△8五飛に▲6四歩が絶妙の利かし。△同銀には
▲8六銀△同と▲6四角という好手順があるし、△同歩には▲9七桂△7五飛▲同歩△7八と▲6六銀で△8七角には▲7四角という只捨てから竜神剣(藤森哲也五段命名)が飛来する。


そこで後手も△8二飛と引き▲7九金△7七と▲同角に△8八歩が嫌らしい攻め。▲同金なら△7九銀の狙いだ。先手は▲9七桂と活用し、と金攻めには桂の利きで▲8四歩~▲8五歩と止めることができる。


1.△8二飛
▲5五角打 △4四銀
▲同 銀 △同 歩 ▲7五歩 △8七と ▲6六角上 △7五歩
▲4四角 △3三歩 ▲5五角引 △5四歩 ▲7三角成 △同 桂
▲7四歩 △6五桂 ▲7三歩成 △7七と ▲同 金 △3五銀
▲5六飛 △7七桂成 ▲同 角 △7六角 ▲4八玉 △4六歩


2.△8三飛
▲5五角打 △3一銀打 ▲7三角成 △同 飛 ▲8四歩 △8二歩
▲5五角 △5四歩 ▲7三角成 △同 桂 ▲8一飛 △7一角
▲6四歩 △同 歩 ▲5六飛 △9八と ▲5四飛 △5三歩
▲5六飛 △5四香 ▲4六飛 △7九角 ▲8三歩成 △同 歩
▲9一飛成 △6八角成 ▲同 玉 △6五桂 ▲4八金 △9七と
▲5八玉 △8七と ▲6八香


先手の狙いは▲5五角打の二枚角。
△3一銀打と受けても▲7五歩が厳しい。
研究してみると正確に受ければ先手が面白そうだ。




△4二飛型

△4二飛型には▲5七銀で

初手からの指し手
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8八角成 ▲同 銀 △2二銀
▲4八銀 △6二銀 ▲3六歩 △6四歩 ▲7七銀 △3三銀
▲2五歩 △6三銀 ▲6八玉 △7四歩 ▲7八玉 △3二金
▲6八金 △7三桂 ▲5六歩 △4四歩 ▲5七銀(図)


プロ試験に挑戦し、晴れてプロになった話題の小山怜央さんは、アマチュア強豪時代は一手損角換わりのスペシャリストとして知られていた。
彼の早繰り銀対策は△4二飛だ。
▲4六銀と早めに形を決めると、△4二飛に対しては▲3七桂と備えたり、▲3五歩と突いて△4五歩▲3四歩△同銀▲3七銀といった戦いになる。
それも一局の将棋だが、形を決めずに▲5六歩~▲5七銀とするのが優秀な対策なので、早繰り銀に対しては△4二飛型よりは他の対策をお勧めする。
詳細は『【角換わり】早繰り銀&棒銀』をご笑覧下さい。 

△6五桂の両取りが気になるが▲7三角があるので大丈夫。
ここから△4二玉ならそこで▲4六銀と早繰り銀にすればよい。
後手は、右玉にする予定なので△8四歩と突くのはキズになる。
△4二飛とするならこのタイミングだ。


図からの指し手
△4二飛 ▲5五歩 △7二金 ▲5六銀 △4五歩 ▲3七桂 △4六歩 ▲4五桂


相手が△4二飛なら今度は5筋のクライを取る。
後手は△4五歩~△4六歩を間に合わそうとするが▲4五桂の方が早い。
ここで△4七歩成とするのは▲5三桂成で次に王手で飛車が取れる。
△4四銀は仕方がないが、▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △2三歩 ▲3四飛
△2五角 ▲4四飛 △同 飛 ▲5三桂成 △2九飛 ▲3八銀 △1九飛成 ▲6三成桂 △同 金 ▲7一角が変化の一例で先手良し。


▲3五歩突き捨てからの▲4六銀 

角交換四間飛車風

「思い浮かばない構想。阿部健の研究がここまで来たかという感じで序盤から終盤まで見応えあった」

(佐々木勇気七段)