将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【ゴキゲン中飛車】クロスファイア対策

郷田流▲3七銀⇒超速⇒クロスファイア



里見女流四冠の△5六歩~△5四桂


ゴキゲン中飛車に対して最有力といわれている「超速▲4六銀戦法」。
中でも△4四銀の対抗(対向)形に対して先手が二枚銀を繰り出す形は、「クロスファイア」と名付けられ、ゴキゲン中飛車の強敵だ。
「クロスファイア」の出現によってゴキゲン中飛車の5筋のクライに対する考え方が変わった。昔は、「5五のクライは天王山」という考えだったのが、現代は、負担になりそうなクライを軽く見て、chanceがあれば飛車で交換して一歩持つという考えに変わった。逆に言えば、居飛車側も5筋のクライを取らせることに抵抗はない。これは、先手中飛車に対しても同じで、以前のように△5四歩とクライを保つことに拘りはなくなった。


上図のように△5一飛型+△3二金型とするのが、良く見られるゴキゲン中飛車側の対策で、▲渡辺明棋王 − △久保利明王将(第68期王将戦七番勝負 第3局 )でも現れた課題局面だ。
先手の狙いは、図の▲4五桂に△2二角▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩なら▲3四飛△3三桂▲5五銀左というような変化で、こうなれば先手有利だ。この順は△5一飛型の欠点を衝いている。仮に△5二飛型なら金が紐つきなので少し先手が無理筋となる。
△5一飛型で押さえておかなくてはいけない急所は、△1四歩
図の局面から△2二角▲2四歩△同歩▲同飛△3三桂と進行した時に△1四歩と突いていなければ、▲2三歩が成立する。
△3三桂以下▲3三同桂成△同角▲2九飛△2三歩(下図)と局面が落ち着いてみると、△5四桂の狙いはあるものの、桂の交換は端攻めに使える分、先手が少し得している。
仮に先手が▲6八金型なら△8四桂の狙いがある。
しかし、敢えてその▲6八金型を採用したのが斎藤七段(当時)。
△8四桂を事前に甘くした▲9七角が好手だった。



図の局面から▲3五歩△同歩▲4五桂△2四角▲3四歩が昔の定跡だったが、△3六歩▲2四飛△同歩▲3三歩成△同金▲4二角に△3七歩成が発見されて潰れた。▲3三桂成には△4七と▲同金△3三銀とされ、△3八飛があるので銀を取れない。
そんな変化をふまえて、先手の渡辺棋王は、▲3九飛を選んだ。これが現代の定跡だ。
ここでも先に▲3五歩△同歩と突き捨ててから▲3九飛が昔の定跡だったが、△5六歩▲同歩と突き捨ててから△5四桂とするのが工夫で、先手が少し損とされている。①▲3五銀△同銀▲同飛△6六桂▲同角に、△同角と取れるのが突き捨ての効果だ。②▲5七銀△4六桂▲同歩として次に▲4五歩を狙うのが本筋だが、△5四飛(△2四角もありそう。▲2五歩△1三角▲1五歩には△5五歩として、▲1四歩には△5六歩があるので▲5五同歩と取るしかないが、△同銀▲1四歩△2二角▲3五飛に、△5六銀!とか△4六銀!!の妙手があって、形勢はともかく後手が気持ち良い。)と浮いておいて互角の形勢だ。
▲3九飛に久保王将(当時)は△4二金としたが、以下▲3五歩△同歩▲9五歩△同歩▲9三歩△同香▲3五銀△同銀▲同飛△2四角▲3四飛と進展した結果は、端攻めの狙いが厳しく、先手不満なし。


そのあたりをふまえて里見女流四冠は、図から▲3九飛に△5六歩▲同歩△5四桂と工夫した。

説明が前後するが、先手の▲1六歩は△1五角を消して必要な一手。

仮に▲1六歩と突いていなければ、図の△2三歩のところで直ちに△5六歩▲同歩△5四桂が成立する。

▲5七銀左△4六桂▲同歩には△1五角がうるさい。

そして▲5七銀左△4六桂▲同歩と自然に進行し、以下△4二角(△2四角も有力。)▲4九飛△6五歩▲4五歩△5三銀となった。
そこで先手の磯谷女流初段は、▲9五歩△同歩▲9三歩と端攻めしたが、これに対する里見女流の応接が見事だった。

△8四歩▲9五香△9四歩▲同香△9三桂
こういう歩(▲9三歩)を△同香と取ってはダメです。(自戒)


※今泉健司四段「(▲3九飛の局面から)△5四桂を含みに△5六歩と突き捨てる手や、ジッと△4二金など、いろいろ模索されていますが、後手が苦労している印象です」

『将世2019.4号』p.128より





熱のこもった玉頭戦

渡辺大夢五段vs戸辺誠七段(棋王戦)より取材。
△2二角に▲2四歩から飛車先を交換して▲2九飛と引き、△6四歩までよくある形だ。
先手の渡辺五段は▲1六歩を省略して▲6八金直~▲7七角と陣形を整えた。万全の形にしてから▲4五桂と仕掛けるつもりだ。
後手の戸辺七段は△1四歩~△8四歩と手待ち。
△8四歩は端攻めに備えた手だが、反面、玉頭に空間ができた。
双方、いずれ来る決戦に備えて、最善の陣形を模索している。
後手としては、3二の金が負担だ。

図の局面から▲4五桂△3三桂▲同桂成△同角▲3九飛と動いた。
桂を入手した後手は、△5六歩▲同歩△同飛(図)。
これが戸辺七段期待の手順か?

図の局面で▲5五歩と蓋をする手には、桂を手持ちにしたので、△7四桂がある。
先手は、▲9五歩△同歩▲9三歩が意表の端攻め。香を持てば▲5七香で飛車が詰む。
やむを得ず△9三同玉だが、▲3五歩△同歩▲5七歩と飛車を追われて困った。
次に▲3五銀△同銀▲同飛となると、▲9五飛と▲4五(2五)桂の二つの狙いが受けにくい。
▲5七歩に△5四飛が苦心の逃げ方。
▲3五銀△同銀▲同飛に△8二玉と受け、▲4五(2五)桂に△3四歩を用意した。▲3三桂成と踏み込めば、飛車と角金の交換になって後手駒損だが、3二の金は遊び駒なので痛くない。次に△2四飛~△2九飛成となれば、二枚飛車の攻めが厳しい。
そこで先手も▲4五(2五)桂を打たずに▲7五銀と活用、△3四歩▲2五飛△2四歩▲3三角成△同金▲2九飛△8三銀打▲2二角△4四金▲1一角成△5六歩と後手は、3二の遊び金を中央に活用し、飛車の活用を図る。
▲5六同歩△同飛▲6六銀に△9六歩▲9八歩と端攻めを逆用できて気持ちがいい。
飛車が暴れる準備が整い、後手の駒が生き生きしてきた。
単に△3六飛もあるが、△6五歩▲同銀△5五飛▲6六銀と銀を一枚使わせてから△3五飛と転回した。小粋な手順だ。
歩を連打して▲3九香(図)が先手期待の一手。

竜が取られそうだが、△3八角が俗手の好手。
角を相手にしないで▲2四飛と走りたいが、△2七竜の返し技がある。
▲3八同香△同竜▲2四飛(図)は仕方ないが、大駒の働きが大差だ。

ここで△6二香としたが、先に△5七歩を利かしておきたかった。
▲5七同銀は△3五竜が両取り。▲5七同金直ならそこで△6二香とすれば先手陣が弱体化して寄せ易かった。
本譜は▲7五桂として△6五香に▲8三桂成△同銀▲2一飛成△5一歩▲6五銀△6六歩▲3九歩△4九竜▲6四香△6七歩成▲同金△6二歩▲同香成△同金▲5一竜△6一歩▲6三歩△7二金▲5八銀△3九竜▲6一竜となった。
ここで△7一銀と受けても▲5三角で受けにならない。
攻めるしかない後手は、△6六歩▲同金△5四桂▲同銀△7四桂と桂を一枚犠牲にして手掛かりを作る。
▲6五金と逃げ、△6七歩▲同銀△8五香▲6九桂と利かすだけ利かせてから△5四金と銀を取って手を戻す。
先手は金に目もくれず、目障りな桂を▲7四金と外し△同歩に▲6二歩成と待望のと金を作った。
そこで後手は銀を手に持った。
「7一にでも埋めるつもりか、それなら取って▲5二竜で悪くない」と思ったら、△7三銀(図)と予想しない場所に打たれて先手は意表を衝かれた。

先手有利の終盤戦。
図の△7三銀打が良い粘りだった。
▲7二と△同銀▲7一角は△8三玉ではっきりしない。
損にはならないだろうと▲6三歩と溜めたが、疑問手。
単に▲7一角と打っていれば先手優勢だった。
読みにない手を指されて動揺したようだ。
△1九竜と後手は待望の香を手に入れる。▲7七馬と固めたが、△6四香と歩の裏に打たれて適当な受けがない。先の▲6三歩を悔やみながら▲9五桂△同香▲同馬と攻めたが、そこで△7一銀がしぶとい受けだった。
▲9四香と詰めろをかけた。
△6七香成▲同金△2八竜の王手に▲6八香と受け、△9四銀に▲7二と△同銀▲9四馬(図)と後手に下駄を預けた。
果たして手段があるか?

△6一銀と竜を取っても▲8三銀で詰む。
先手の攻めが決まったようだが、△8七香成で先手玉が危ない。
▲8七同玉に△8五香が惜しい一着だった。
△8六金と打てば、▲同玉△8五香に▲同馬(取る以外はやさしい詰み)△同歩が王手となり、手順に玉頭を厚くしてから△6一銀と竜を取れば後手必勝だった。
実戦は▲8六歩と受けて△同香▲同玉△8五銀の王手馬取りは▲7七玉と逃げて何でもない。△9四銀と馬を取っても▲7一角から詰みだ。
そこで▲8六歩に△9五桂▲同馬△8六香▲同馬と馬を追ってから△6一銀と竜を取ったが、馬付きの先手玉は鉄壁になった。
▲9四銀と打って攻めがほどけない。
形勢が二転三転した面白い将棋だったが、戸辺七段としては、最後のチャンスを逃して悔やまれる一局となった。



里見妹(さといも)流の(▲5五銀を誘う)△4二角

この手は面白い。
上記のように△2二角が定跡、こちらへ引くのは見たことがない。
最初は「あり得ない」と思っていたが、▲5五銀左△同銀▲同角などとやると、△同飛▲同銀△3八角と切り返されて、どうしてどうして、なかなか侮れない。
この手を埋もれさせるのはもったいないので、もっと誰か使ってほしい。
今のところプロ棋戦勝率100%である。
真面目な話、この△4二角で難しいならクロスファイアそのものが作戦としてどうか?ということになる。





クロスファイアの組み方の居飛車側の注意点

▲7八玉を先にすると△6二玉▲6八銀△7二玉▲7七銀に△5六歩▲同歩△同飛が成立する可能性がある。▲5五歩△同銀▲4五銀△5七飛成▲5八金右△5六銀▲5七金△同銀成▲6六銀に△6五金が藤井聡太七段が発見した妙手で、後手もそれなりに指せる。
図から△5六歩▲同歩△同飛には▲7九玉と左美濃に構え、△6二玉なら▲2四歩△同角(△同歩は▲2二歩△同角▲2四飛△3二金▲4五銀)▲同飛△同歩▲6五角△5三飛▲4四角△同歩▲2一角成で玉形の差が大きく先手有利。


図のように組みあがっても安心してはいけない。
軽率に▲3七桂と跳ぶと△5六歩▲同歩△同飛▲5五歩に△3五歩▲4五桂△1五角とされ、次に△4六飛~△3七角成を狙って後手ペースの戦いだ。
図からは、斎藤vs戸辺戦のように▲5八金右と固め、△6四歩に▲2四歩△同歩▲3七桂とするのが隙のない駒組み。
△6四歩に飛車先を突き捨てずに▲3七桂もある。△5六歩▲同歩△同飛に▲4五桂とし、後手としてはどこかで△1五角を狙う展開になる。
クロスファイアは、▲3七桂のタイミングに注意がいる。遅いと△5二飛型+△6四歩型から△6三銀▲3七桂△5四銀と抑え込まれるし、早いと△5六歩▲同歩△同飛の交換から▲5五歩に△3五歩と桂頭を攻められる。



▲2四歩の突き捨てによって一歩渡すため、6四歩型から△6五歩▲同銀△4二角(△6三銀)のような手段があるが、▲4五銀△同銀▲同桂△6四歩に▲5三銀で大丈夫。


この筋は下図のような局面なら成立する。
▲4五銀△同銀▲同桂には△6四歩でなく、△4四銀と桂先の銀を打ってから△6四歩がある。
ただし、そこで▲9七角の抵抗があり、単純ではない。





居玉のまま後手は、△6三銀~△5四銀を狙っている。
この局面でも▲2四歩△同歩▲3七桂としなければならない。
本譜は△2四同角と取ったが、△2四同歩より先手が得してる。