将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【ゴキゲン中飛車】5八金右超急戦

【△5四銀】ゴキゲン中飛車で行こう


近藤正和著『ゴキゲン中飛車で行こう』から超急戦の対策を押さえておく。


「私は自分の直感を信じ△5四銀と打った。
 格言にもある桂先の銀だし、実戦的に良さそうだからだ。」
              近藤正和著『ゴキゲン中飛車で行こう』より


対して真田七段は、2時間半の大長考の末▲6六角とした。
ひと目▲7五角と指したいところだが、△5五銀と攻め合われて、先手竜が後手馬のラインにあるので危険と判断した。しかし▲7五角△5五銀▲同歩△同馬▲3一角成△1一馬▲4一馬の進行はゴキ中が自信なし。


NHK杯豊島vs北浜戦では、▲7五角△2一歩▲同竜△3二銀▲1一竜△5五銀▲同歩△同飛▲6六角△同馬▲同歩△5七歩と進行した。



図の△2一歩は意外。
①▲2二歩と合わせるのが手筋だし(△同飛なら▲2八香ではなく、▲2四歩△同飛▲2八香です。)、②▲1三竜と躱されても空振った感じ。▲1三竜に△4二銀(ひねって△2二銀とするのは▲1二竜と潜られ、後手動きにくい。)は▲4六香の数の攻めが厳しい。
やはり△2一に歩を使ってしまうと、後の攻めが少し細い感じだ。
なので、豊島七段が▲2一同竜と取ったのには驚いた。手順に△3二銀と逃げられて後手を踏む。それでも後手に意外と思わしい順がないことにさらに驚いた。
感想戦では、手順中の△7二玉が疑問。△6七角か△8八角から駒を拾うべきだった。


第73期順位戦A級プレーオフ1回戦の広瀬章人 vs 久保利明戦でも、久保九段の超急戦対策は△5四銀~△2一歩だった。
結果を出しているから有力かもしれない。



▲7五角のところ、▲6六角も定跡。
△8九馬に▲3三香とする。
都成新手もそうだが、▲3三香が遅いようでも確実な攻め。
そこで△5一飛としたのが中村太地vs菅井竜也(新人王戦)だが、▲3一香成△同金▲9八銀の痛打があって後手不利。△同馬▲同香△7二玉には▲2四角からじっくり攻める。


図から△5一飛の代わりに△5七歩と攻め合うのは、
△5七歩 ▲同 金 △5五銀 ▲同 歩 △6五桂 ▲5八金引
△7四桂 ▲7五角 △9九馬 ▲3一香成 △5五馬 ▲5三歩
△1一馬 ▲5二歩成 △同金左 ▲3二飛
といった手順が想定され、やはり後手不利。


図からは、△6五銀も考えられる。
対して①▲3一香成②▲4三桂成③▲7五角といった手があるが、①が有力で、▲3一香成△6六銀▲4一成香△5五銀▲5一金(図)が変化の一例で先手優勢。


結論:近藤流△5四銀には▲6六角~▲3三香が有力。



矢内流▲6三桂成

▲5五桂△6二玉▲1一竜に△9九馬がよく知られた定跡。
図から▲6三桂成と驚愕の一手を指したのが矢内女流。
相手は、藤井聡太の師匠として知られる杉本プロ。
△同玉▲6六香に△6四歩と受けたため▲9八角を食らった。
ゴキゲン中飛車vs超急戦の歴史に残る将棋。


上図から正解の指し手
▲6三桂成 △同 玉  ▲6六香  △7二玉  

△7二玉が正解。
先手は角で飛車を取り、取った飛車を打ち下ろす。
そして竜を切って▲6二銀と俗手で迫る。
どう指しても受け切れるはず、と甘く見ていた後手は真っ青。


▲6三角  △8二玉 ▲5二角成 △同金右  ▲6一飛  △5一歩※ 
▲3一龍  △同 金 ▲6二銀  △7二飛  ▲7一銀成 △同 飛  
▲同飛成  △同 玉

図から▲6三銀とするのは△同金と清算した後、△9二飛で切れ模様。
▲6一飛と筋悪く王手する手が正解。
△7二玉には、▲5三銀という妙手があって先手勝ち。
△8二玉は、▲6二香成で問題なし。


種明かしをすると、△5一歩※の底歩で△5一銀なら、先手は攻め方に困った。

さすがにいきなりの▲6三桂成は単調かなと、最初の図から▲1三竜。
次に▲4三竜を狙ったり、場合によっては▲4四角という手もある。
超急戦恐るべし・・・・


▲7五角の研究 

▲7五角は、一時流行したが、現在はほとんど指されない。
都成新手など別に有力手段が現れたことと▲1三竜の位置が攻撃面でイマイチ迫力がないというのも避けられる理由か?
深浦vs久保戦が▲7五角の流行に終止符を打った棋譜。
途中△8九馬と単に桂馬を取ったのが久保九段の新手。
それまでは△8四香▲6八角の交換をしてから△8九馬だった。


▲7五角からの定跡は指されなくなったが、解明されたわけではない。
例えば上図の局面から▲6六香とする変化がある。


△5五飛とされて▲同歩に△4五桂で①▲5八金引きには△5六香と追及されて危険なようだが、②▲5六金と上に逃げるトリッキーな手がある。
△6七馬があってダメなように見えるが▲6三香成が用意の一手。同玉はもちろん▲6五飛、△6一玉!には▲5三桂を見せて▲1五竜と引く。(すぐに▲4五金は△5六香からの王手ラッシュがあり、王手成香取りで4五の金を抜く筋があって危険。)以下△6二歩▲4五竜△6三歩▲5三桂とゆっくり指しても先手の方が手厚い。


△5五飛の代わりに△5四銀と一枚使って受けるのは▲2三歩成が間に合いそう。


なお、実戦では後から▲6五香としたため△7二玉とかわされた。
図の局面から▲6六香とすれば、△7二玉には▲6三香成△8二玉▲6四角△9二玉▲4三桂成と好調に攻めることができる。



【菅井新手△5七歩】



いきなりの△5七歩が、菅井プロの新手。
手自体は良く知られていたが、歩切れになるので指し過ぎと思われていた。

▲7五角の変化


敗れた村田顕弘五段は、「(アマの知らない)マル秘定跡」に、図の局面で▲7五角が有力と研究手順を載せた。(▲1一竜△8九馬▲7五角の順は、ほぼ互角。)
▲7五角に対して後手には1.△7八銀、2.△3二銀、3.△2二飛の三つの手段があるが、どの変化も先手が指せるとの見解。


1.△7八銀の変化

2016年12月27日に指された豊島将之七段vs北浜健介八段(棋聖戦)がsample。


初手からの指し手
▲2六歩  △3四歩  ▲7六歩  △5四歩
▲2五歩  △5二飛  ▲5八金右 △5五歩
▲2四歩  △同 歩  ▲同 飛  △5六歩
▲同 歩  △5七歩  ▲6八金寄 △8八角成
▲同 銀  △3三角  ▲2一飛成 △8八角成
▲5五桂  △6二玉  ▲7五角  △7八銀
▲同金上  △同 馬  ▲4九銀

図の▲4九銀のところ、激指君は▲3一角成を推奨。
▲3一角成に△6七馬は▲4九銀で後が続かない。
勢い△同金▲同龍△7二銀と進むが、▲4三桂成が厳しい。
△5六飛には▲5二金。


図からの指し手
△3二銀  ▲1一龍  △8九馬  ▲3三香 

一見すると後手がピンチのようだが、△4一の金と△3二の銀は決死の足止め役。
いわば、関ヶ原の戦いで「鬼島津」の異名を持つ島津義弘が見せた「捨て奸(すてがまり)作戦」。


島津義弘「敵は何処方が猛勢か」(敵の勢いが最も強いのは何処だ?)
家臣「東寄の敵、以ての外猛勢」(東側の敵勢の勢いが尋常でなく強いです)
島津義弘「その猛勢の中にあいかけよ(突っ込め)」


そこで△5五飛となる。


図からの指し手
△5五飛  ▲同 歩  △5六桂  ▲3二香成
△7八金  ▲5七角  △6八金  ▲同 角
△同桂成※ ▲4八玉  △6七馬  ▲2二飛
△3五桂  ▲4一成香 △5二歩  ▲5七金
△5九角  ▲3八玉  △5七馬  ▲3六銀
△5八成桂 ▲3五銀  △4九成桂 ▲4六金
△3九成桂 ▲2七玉  △3五歩  ▲4二成香
△3六銀  ▲同 金  △3八銀  ▲1八玉
△2九銀不成▲同飛成  △同成桂


まで66手で後手の勝ち


※△6七馬▲5八金△6八馬▲同金△5七金で必死だった。



飯塚対松尾戦で、▲7五角に△7八銀の手順が現れ、後手が勝った。
以下▲7八同金△同馬▲5七角と進行。
▲5七角と引くところで▲1一竜や▲3一角成とする手もあり、有力。
▲1一竜は△6七馬を誘って▲6四歩を狙った手で、▲1一龍△6七馬▲5七金△4九金▲6九玉△8九馬▲6四歩△5五飛▲6三歩成△同 玉▲5五歩△7二玉▲3一角成△6五桂などが変化の一例で、こうなると後手優勢。


▲7五角△7八銀には、村田本が推奨するように強く▲3一角成と一手勝ちを目指すべきだった。
以下△同金▲同竜△7二銀▲4二金△8九馬(△5四飛▲6五銀△4四飛などと飛車を逃げるのは▲5三銀などで悪い。)以下▲5二金△同金▲5四銀で勝てれば簡単だが、△4九金から抜く筋があって危険。「玉は下段に落とせ」の格言通り▲7一銀△同玉▲5二金とすれば、▲6一金や▲6一竜▲6三桂不成などの詰めろが受けにくいので先手勝ち。
それならなぜ飯塚対松尾戦では▲3一角成と踏み込まなかったのか?


後手にとって最善は、▲3一角成に対して△6九銀成▲同金△3一金▲同竜△5五馬▲同歩(▲4一銀は△5八金から△5七金の妙手で後手勝ち)△同飛と単純に清算する手順で、飯塚七段はおそらくこの変化を嫌ったのだろう。
▲2二竜の王手には、△5二金(下図)と持ち駒を温存して受け、アマチュア同士なら後手が勝ちそう。


▲4九銀△5八金▲同銀△同歩成▲同金△5七歩が想定手順だが、▲4八金△5八銀(△5六桂の方が筋が良く、あるいはそちらが正着か?)▲6八玉△5六桂▲7八玉?(△4四角が気になるが▲7七玉が正着だった。)△4八桂成と金を取った手が、何と詰めろになっている。仕方なく▲4八同銀と取るが、△6七銀成から△5六角とする強襲があって、形勢はともかく後手も面白く指せる。


そこで▲7五角に△5一飛としたのが下の実戦。


2.△3二銀の変化

上で研究したように、1.△7八銀とする変化は、▲3一角成からの攻め合う順が残った。
そこで△3二銀▲1一竜と一旦▲3一角成を防いでから△7八銀とする順はどうか?
なお▲7五角に△3二銀▲1一竜△5一金右と受けるのは、▲2三歩が厳しく先手有利。
▲7五角に△3二銀▲1一竜を交換してから△7八銀と攻めたのが、真田vs近藤戦だが、手順に香を拾えたのが大きく、▲6三桂成から▲6六香が厳しく先手有利。
▲7五角に△3二銀▲1一竜△8九馬▲3三香に△7七桂!という面白い手もあるが、▲3二香成△6九桂成▲同玉という怖い手順でも後手が勝てない。
結論:△3二銀は、後手勝てない。



3.△2二飛の変化

この変化については村田本に明快に否定されているので、そちらをご参考に。


▲1一竜の変化

屋敷vs森内 (A級順位戦)

上の局面で、屋敷九段は昼食休憩を含む57分の長考で▲5七金と歩を払ったが、これなら後手の△5七歩の顔が立つ展開。
図からプロの実戦例は、①▲6六香と②▲6三桂成③▲7五角など。


①の変化は、
▲6六香以下△5四銀なら▲1三竜△4二銀に▲4八銀と手を入れるか、▲1八角△5四桂▲5五歩△7二玉▲5四歩△8二玉と攻めを続けることになり、先手が面白い。
しかし、△5四銀のところでは△5一桂と受ける手もある。▲2三角に△5一金右とできないのが不安だが、△3二金▲同角成△同飛と頑張るつもり。
また、▲1三竜にそこで△5一桂と受ける手もあって難解。


②の変化は、
▲6三桂成△同玉▲1八角△5四桂▲6六香△7二玉▲6一香成△同玉▲6三金となって△5一香と受けるのが一例で、少し後手が残しているか?


③の変化は、△5一飛で千日手。

図では他に④▲2三角△5一金右▲3四角成といった手段もあって変化が多く、すぐには結論が出そうもない。


△8九馬!の変化


超急戦に対する最終兵器と研究しているのは、△6二玉のところ△8九馬とする手。


△6二玉は絶対手ではない。


一見すると▲4三桂不成で両取りがかかり不利のようだが


4筋の歩が切れたのを逆用する△4六歩がある。


▲4三桂不成 △6二玉
▲3一桂成  △7八銀
▲4一成桂  △6九銀成
▲同 金   △6七馬
▲4八玉   △4六歩
▲6四歩   △4七歩成
▲同 玉   △5六馬
▲3六玉   △3五金
▲2七玉   △4五馬 ・・・ △2六歩は、▲1六玉 △1四歩▲4四角
▲3八玉   △5八歩成


▲4三桂不成以外の手としては、
▲6三桂成は、△9九馬▲7五角は、△3二飛と幸便に逃げられて損。
ここでも▲7五角が有力。△6四歩⁉が手筋だが守りが弱体化するので、△3二銀▲1一竜△6二玉と進行。そうなると上記の▲5五桂△6二玉▲7五角△3二銀▲1一竜△8九馬とした変化に合流する。△6二玉には①▲6三桂成と②▲3三香が有力な手段。
①▲6三桂成の変化
△同 玉  ▲6六香
△7二玉  ▲6一香成
△同 玉  ▲4二金
△9九馬  ▲5二金
△同 玉  ▲4二飛
△同 金  ▲7一龍
△6五飛!!▲8一龍
△7五飛  ▲6四桂
△5三玉  ▲5一龍
△6四玉  ▲7五歩
△2七角  ▲6一飛
△6三香  ▲3八銀打
△5四角成 ▲4二龍
△7七桂  ▲4九銀
△6九桂成 ▲同 金
△7七桂  ▲5五金
△7五玉  ▲5四金
△6九桂成 ▲4八玉
△5九銀  ▲3八玉
△2七金  ▲同 玉
△2六歩  ▲1六玉
△1五金  ▲同 玉
△1四金  ▲2六玉
△2四香  ▲3六玉
△2五金  ▲4六玉
△3五金  ▲5七玉
△6五桂  ▲5八玉
△6八成桂


②▲3三香の変化
▲3三香  △7七桂
▲同 金  △9九馬
▲6六金  △7八銀
▲6八金  △6六馬
▲同 歩  △6七銀成
▲4八玉  △6八成銀
▲3二香成 △5八歩成 
▲3八玉  △5五飛
▲同 歩  △3五桂
▲2二飛


▲3三香が正解か?



都成新手▲3三香


図の▲3三香は、関西奨励会員の都成竜馬三段が考案した新手で、前にも触れた村田顕弘著「(アマの知らない)マル秘定跡」で紹介され、よく知られることに。
村田プロがこの新手を試そうと菅井プロに超急戦を挑んだが、先に△5七歩の新手を喫して敗れた話は有名。
村田顕弘プロといえば、超速での新手(△5一飛~△7四角)が有名だが、関西若手の研究の深さは素晴らしい。


▲3三香に△3二香と受けるのは、▲2二歩△3三香▲2一歩成△4二銀▲2二と△5一金右▲2三角の進行が予想されるが、先手の攻めが早そう。


本譜は、図から△2二銀打▲3一香成△1一銀▲4一成香△7二玉▲5一金と進展した。
▲3一香成に△同金とするのは、▲1二竜として


①△1一香には、▲同竜△同銀▲6六香△7二銀▲4三桂成など。
途中の▲6六香に△同馬とした実戦(斎藤vs阪口戦)もある。
②先に△5五馬▲同歩△1一香には▲5七香△7二玉▲5四歩△2二飛▲2八歩△5二歩といった変化が一例だが、そうなると後手も指せそう。
ただ5筋の歩が伸びてくるのは後手にとって脅威で、次に▲5四銀としがみつかれたくらいで困る。
③△7二玉には、▲2三歩△3三銀▲6三桂成△同玉▲6四銀△同玉▲5二竜△同金▲6一飛
④△5一香には、▲1八角△7二銀(△5四歩▲6三桂成▲4三桂成△1一香▲5二成桂△同香▲2二竜△同馬▲4三飛△9九飛)▲8二銀△5四歩▲6三桂成△同銀▲9一銀成△7四桂▲6三香成△同玉
いずれも形勢互角だが、実戦的に先手が勝ちやすい。



「将棋序盤のstrategy」では、△5三香と斬り合いに持ち込む変化に触れている。
▲4三桂成△5六香▲5七歩と△同香成 ▲5二成桂 △同金右▲5七金 △3三馬 ▲1三竜△2二銀(△2三歩)が変化の一例だが、いつもながら深い研究に頭が下がる。


ちなみにfloodgateに参考になる棋譜がある。