将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

駒落ち



手合い割


プロ相手の駒落ち

1~3級・・・四枚落ち

初~二段・・・二枚落ち

二~三段・・・飛香落ち

三~四段・・・飛落ち

四~五段・・・角落ち


橋本崇載著『橋本流中終盤急所の一手』より


六枚落ち

さばく、あるいはサバキ、というのは駒を交換することだけではない。


一つの駒を好所に移動することも、「角をさばく」または「飛車サバキ」というぐあいに、将棋述語として使われるのである。


           大山康晴著『定本 大山の駒落ち』より


9筋突破(その1)

六枚落ちで覚えてほしいのは、図の▲6六角。
これが角のサバキだ。
この手から飛車香を集中させて9筋の突破を図るのが定跡だ。


初心者は、▲6六角によって角の可動域が増えたことを確認してほしい。
角の可動域は、▲5五角が16マスで一番の好位置、▲6六角や▲4六角が14マスで5五に次ぐ好位置だ。


下図のように、四枚落ちでもこの手は応用が利く。


さらに、平手でも応用が利く。

一直線に穴熊に囲ったのは疑問だった。
穴熊は端が弱点。
これを狙って▲6六角~▲7七桂と構える。
図の局面はchance!


図からの指し手
▲9三角成 △同 香 ▲9四歩 △4五歩 ▲6六歩 △9四香
▲同 香 △8二玉 ▲9八飛 △9三歩 ▲同香成 △同 桂
▲9四歩 △9一香 ▲9六香


▲9三角成の英断は、六枚落ち定跡の有名な角切り(▲8四角)を想起させる。 
さて、本題に戻り、下図の局面でのサバキを考えてほしい。


上記のことを理解していれば、図で▲5五角の発見も可能だろう。
ご存知の通り、角は5五の位置が最強。
しかし、実戦では定跡のうろ覚えと、香取りに気を取られて、▲9八飛としてしまう下手が多い。
まあ△9五歩にそこで▲5五角とすれば問題ないのだが、以下▲8四角△同歩▲9五飛としてしまう。
上手の立場からすれば負担になっている8二の銀が△7三銀~△6四銀と活用できれば涙が出るほどうれしい。


図の△8四金では、▲5五角を防ぎながら角を圧迫する△6四歩が定跡。
これに▲5六歩と角を退路を確保し、そこで△8四金に有名な角切りから香と飛車を成り込む。
しかし、上手としては△6四歩とすることによって銀の理想の位置である6四を塞いでしまうのがツラい。
5五角があることには目を瞑り、白っと図のように指すのも上手のコツ。
下手の好手筋を気にしていては仕方ない手合いだ。

そして図の▲7五歩から垂れ歩攻めが決め手。
上手の銀が負担で、△3四歩~3三玉が間に合わない。
△5二金は当たりがキツイので、本当は3二に上がりたいところだ。


9筋突破(その2)

この後述べる1筋突破(その1)と関連するが、上図の△8四歩も上手の手段の一つ。
初手△3二金としたのは、玉で左辺を守ろうとする意図だが、危険地帯に近づくのでお勧めできない指し方だ。


放置すれば△9三歩と香車を取られるので▲9二香成は自然。
上手は△7三銀と躱す。

ここで9筋がopen fileになったので、▲9八飛と活用。
file(ファイル)はチェス用語で、将棋盤のマスの縦一列のこと。
ちなみに横の一列はランクと呼ぶ。
飛車はファイルを制し、二枚飛車は、ランクを制する。
このように六枚落ちは、大駒(major piece)の使い方を教えるための教材だ。

ここで▲9三飛成とする下手には、竜が窮屈だと指導してあげましょう。
8筋を伸ばしてと金を作ろうとしても、▲8四歩の取り込みに△8二歩と受けられる。
ただし、角筋を通すために邪魔な8四の歩を狙って8筋を伸ばすという発想はgood。
その場合、飛車の位置は8八が良い。


図での正解手は▲8一成香だが、教えてもらえないと思いつくのは難しいかもしれない。

ここで▲9四歩と、と金を作るのが正解。
サッカー戦術でいう「トライアングル」と一緒で、将棋は三枚の駒で攻めるのが基本。
詳しくは、マンガ『アオアシ』を読もう。
日本サッカーの礎を築いたオフト代表監督が導入したサッカーの基本理念のひとつだ。 

・将棋格言
【三枚の攻めは切れない】
四枚の攻めは切れないと昔から言われていたが、最近は全体的に攻めの技術が上がってきたために三枚でつながってしまう場合も多い。
「三枚堂(七段)の攻めは切れない」とダジャレで使うことも多い。


【手が分からないとき、持ち駒は安い駒から使え】
いきなり大駒から使うのはリスクが高く、歩を使うのはリスクが低い。
悪い手を指さないために、実践的な考え方となる。
最善手を追い求めるための教えではなく、手が分からなくてとりあえず指す手を選択したいときに役に立つ。


1筋突破(その1)

雀刺しで1筋を突破するのも定跡。
▲2五歩と飛車先を突いてから雀刺しにするのがpointで、△2四歩~△2三金という受けが利かない。


初手からの指し手
△4二玉 ▲7六歩 △7二金 ▲2六歩 △2二銀 ▲2五歩
△3二金 ▲1六歩 △6二銀 ▲1五歩 △5四歩 ▲1七香
△5三銀 ▲1八飛 △4四歩 ▲1四歩 △同 歩 ▲同 香
△3四歩 ▲1二香成 △3三銀 ▲2一成香 △4三玉 ▲1二飛成
△7四歩

この1筋突破も定跡である。
しかし、図から▲1四歩の「垂れ歩」攻めを知らなければ下手は勝てない。
「と金攻め」は、相手に渡しても反動が少ないのが利点。
と金を作ることの価値の大きさを知れば六枚落ちは卒業だ。
昭和の大棋士である大山15世名人は、若い頃に角換わり腰掛け銀でと金を使って快勝し、「マムシ定跡」と恐れられた。
この将棋は、加藤治郎著『将棋の公式』に「死角(弱点)を衝く公式」として触れられている。
ちなみに将棋の四大公式とは、数、さばき、位、陽動らしい。

1筋突破(その2)

角で1筋を狙うにはどうしたらよいか?
答えは、「引き角」。 

上手が4二玉型なので、△2四歩という常用の手筋が利かないのもpoint。
下手が、上手の初手によって作戦を使い分けることができれば占めたものだ。
△3二金なら9筋攻め、△4二玉なら1筋攻めというぐあいに・・・


基本的に八枚落ちから四枚落ちまでは、玉を囲うことは教えない(囲う必要がない)が、平手へのステップのためには、知識としてだけでも教えておくと良いと思う。

四枚落ち

上手△3二玉型が上手の工夫。
棒銀に対して△3三金を用意すると同時に▲1七桂戦法に対して端に強い。
ここで▲1四歩△同歩▲同飛と『将棋大観』流に攻めるのは△2三玉とされて少し困る。
△1三銀▲1六飛△1四歩もある。▲1二歩には△2二玉で受かる。


図の局面で、本筋の一手は▲2六歩。
次に▲2五歩△同歩▲同桂となれば、定跡より一歩手持ちにできて得。
上手は△2三玉だが、やはり▲2五歩で良い。
△同歩▲同桂△2四歩▲1三桂成△同銀となって、▲2二歩(下図)が好手。

△2二同銀は▲1二飛成△3二玉▲2三歩で終わってしまうので、△2二同玉と取るが、▲1四歩で銀が取れる。 
角も使わず異筋の桂馬の端攻めでつぶされてしまうのは、上手としてはツラいが、香車がいないというのはそれくらい大きなハンデなのだ。
△2四歩では△3二金と頑張るべきだった。


『定本 大山の駒落ち』では、「一つの戦法に詳しくなれ」と、四枚落ちはこの▲2五桂端破り戦法だけ解説している。
飛車香落ちも同様だ。


二枚落ち

下手は二枚落ちの勝ち方をおぼえることで、「位取り」「サバキ」という将棋の二大手法ををおぼえることができるのである。

大山康晴著『定本 大山の駒落ち』より

二歩突っ切り

山田道美著『現代将棋の急所』を読んで▲4五歩~▲3五歩という「二歩突っ切り」定跡を知った時は感動した。
角の威力によって△3二金△2二銀を強要し、後は上手の△5三の守りの銀と下手の攻めの右銀を交換すれば駒の働きの差で勝てる。
▲3六の飛車が好防に働く好位置。
△7五歩▲同歩△同金と攻めてこられても、飛車の横利きを利用して▲7六歩と上手の金を追い返すことができるので怖いところがない。
あらゆる将棋の定跡の中で一番完成度が高いといえる。

二枚落ちなら神様にも負けないのではないかとまで感じた。

上手の△2四歩が紛れを求めた手。
誘惑にかられてこの歩を取ってしまうと△2八歩。
誘惑に負けずに▲4四歩△同歩▲同銀△同銀▲同角△5三銀▲2六角とすれば、△2五歩の角取りが煩わしい。
▲1六歩と突いて▲1七角を用意するのも一案だが、▲4六飛と飛車を活用するのが好手。
△5五歩▲同歩△5四歩に▲4四歩△同歩▲5四歩△同銀(△同金▲5五歩△6四金▲4四銀△同銀▲同飛△4三歩▲5四銀△同金▲同飛)▲4四銀△4三歩▲5五歩△4四歩▲5四歩△4三金▲4四角△4五歩▲同飛△5四金上(図)

ここで▲6二角成の只捨てが英断。
△同玉に▲4二飛成△5二歩(下図)と受ける。

ここで銀を取るようではいけない。
▲5三歩と歩を使った攻めが厳しい。
△同金に▲4五桂の活用が気持ちよい。
金を逃げても再度の▲5三歩で受からない。


上手を持つと、この金銀の遊びは耐えられない。
したがって二歩突っ切りに対しては下図の局面から定跡を外した。

危険だが、ここで△3三銀としないと勝てない。
これに▲3八飛と下まで引かれると困るのだが、定跡になじんだ下手は▲3六飛だ。
これには△3四歩と受けた後、△4四歩から金銀を盛り上げていく。

上図のような局面になれば、飛車を目標にでき、上手もやる気が出てくる。
問題は銀多伝だ。

銀多伝

図から△4二金としても▲2六歩と2筋攻めを狙われる。
私は△1五歩▲同歩△同香と強引に攻めていた。
これである程度は下手に迫ることができるのだが、さすがに戦力差が大きく勝てない。
じっと相手の無理攻めを期待して待機するしかないが、正直、銀多伝をやられると勝てなかった。
△9四歩は▲9六歩と受けてくれないと困るので省略しして8筋の歩を交換する。

図の局面で▲8七歩と受けて△7六金に▲4四歩△同銀▲7二歩と攻めるのも立派な定跡だが、△8六歩▲同歩△8五歩と反撃されると面白くない。(▲5六飛や7七金を発見できれば勝ちだが)
下手陣は△8七歩と打たれても▲9九角と引く余地があるので、一歩使って受ける必要はない。
むしろ▲8四歩と反撃したい局面だが、△8二歩と受けられて指す手に困る。
ここは、手持ちの二歩を生かして▲5五歩△同歩▲4四歩と攻めるチャンスだ。
△4四同銀なら▲5四歩(下図)が厳しい。
▲8七歩を打たなかった効果で、こうなると上手潰れ形。

したがって▲4四歩を△同歩と取るが、▲5五銀△5四歩▲4四銀△同銀▲同角と快調に攻めることができる。

ここで図の△4六歩が上手の最後のお願い。
取れば△5三銀で▲7二銀△5二玉▲5三角成△同玉▲4五桂△4二玉▲5四飛に△6五角の王手飛車という狙いだが、途中の▲5三角成で角を切らずに冷静に▲9九角と引かれると、次の▲4五桂△6二銀▲5五歩の攻めが厳しい。
そもそも図の局面では銀取りを放置して▲7一角成とされても勝てない。
上手は駒の効率が悪すぎる。


優秀な銀多伝だが、下手の陥りやすい誘惑がひとつだけある。
▲5六飛の金取りだ。


5六飛をめぐる駆け引き

図の局面で△5四歩と受けると▲5六飛と金取りに引く定跡がある。
そこで図から△7五金とすると無難だが、あえて△5四歩と▲5六飛を誘う。
実は、余り知られていない裏定跡があるのだ。
その前にまず定跡手順を解説する。


図からの指し手
△5四歩 ▲5六飛 △7五金 ▲7七桂 △6五桂 ▲6六歩
△7七桂成 ▲同 金 △6五歩 ▲6七桂 △6六金 ▲同 金
△同 歩 ▲同 飛 △6四歩 ▲6五歩 △7三桂 ▲6四歩 
△同 銀 ▲5五桂

途中の▲6七桂では▲6五同歩△同金▲5九飛としても十分だが、▲6七桂と打って金交換を強要する。
△6四歩の受けに▲6五歩の合わせ歩で十字飛車を狙うと上手は△7三桂と受けるしかないが、上図のように▲5五桂と打った桂を活用して気持ちがよい。
この▲5五桂を知らないと、「△7三桂でまったく下手がうまくいかない。なにかの勘違いではないか。」(先崎学『最強の駒落ち』)となる。


以下△同歩▲同銀と進むと銀取りと▲5四金の両方を防ぐことができず、上手失敗。
途中の△6五歩が悪手だった。

上図のように▲6七桂を防いで先に△5五桂とする手が裏定跡。
図から金が取れると▲7六歩に飛びつくと、△4七桂成▲同金△7六金で下手投了。


下手としては、▲5六飛という誘惑に負けずに▲5九飛からじっくりと指すのが簡明だ。
先に少し触れた先崎学『最強の駒落ち』(講談社現代新書)によれば、飛車を2筋に転換するのがわかりやすくてオススメらしい。
この本は、駒落ちのバイブルといってよい良書。

上手に有効手がないことを見越して▲2九飛から一歩手持ちにする。
▲3六銀などと力まず、歩で攻めるのが将棋の基本。
自陣への反動が少ない。

狙いは、図の▲3四歩。
△同歩は▲1一角成。
たとえ△1二香と逃げていても▲1一角成としておけば、次の▲2二歩からのと金作りが厳しい。
上手は△3四同銀と取るしかないが、▲2四飛と歩を取られ、△2三歩は銀が助からないので△2三銀▲2九飛(下図)と進む。

これで上手は困っている。
△2四歩には▲3五銀と自然に攻める。
次に▲2四銀でなく▲2五歩とあくまで歩で攻める。
△1二香型だと銀の退路がなく、さらに効果的だ。


こんな変化が嫌なので△1五歩と自爆攻撃をするのだが、玉形の差で届かない。
銀多伝に組むことができれば必勝と言っていい。


多伝崩し

「多伝崩し」という指し方があることを知ったのは、その後である。


代表的なのは、5筋不突にして腰掛け金で4五の歩を狙う指し方。

4五の歩を守るために▲4八飛は仕方ないが、中飛車銀多伝に組みたいのに途中下車は不本意だ。

しかし、上手の歩越し金もかなりの悪形なので、負担になりそうだ。

たとえば△6五金には▲7八飛で金が立ち往生。


進化した5五歩どめ

△5五歩どめも試みたが、空中分解することが多かった。
普通に取られても困るし、二枚銀で攻められると、5五の位を守り切るのは難しい。
左銀を先に▲6六銀と活用するのがコツだ。
いわばゴキゲン中飛車で飛車角がないようなものだから、どう考えても無理がある。
しかし、研修会の上手はこの作戦が多いようだ。


△5三銀からすぐ△5五歩とする単純な5五歩どめはは、『将棋大観』に書かれているように▲同角とされて悪い。
上手は工夫して、下図のように一旦△3二金とし、▲3六歩に△4二銀とする。
△4二銀は、振り飛車名人・大野源一九段が用いた上手の秘策。
下手は、▲3四歩を狙って3筋の歩を突きたくなるが、これが誘い。


▲3五歩に△5五歩(下図)とすれば▲同角には△5四銀▲8八角△4五銀▲4八飛△5四銀で▲3四歩には△5五歩だし、放置すれば△5三銀~△4四歩と形を整えることができる。
これが進化した5五歩どめだ。

下手としては、▲3五歩を急がず▲4八銀から右銀を活用するのが良い。
場合によっては飛車先を突いて十字飛車と▲3五銀からの棒銀を見せる。

飛車先を突いてくる相手には、△4二銀型のまま△2二歩と受けたいが、5五の歩を狙われる。

上図のように5筋の歩を取りに行く。


図からの指し手

△6四銀 ▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛
△2三歩 ▲5四飛 △5三金 ▲5五銀


飛車を渡すが2枚替えで必勝だ。

もし飛車を渡すのが怖いなら▲3五銀から2筋を突破する。
上手は守りようがないと△6五銀とするなら、▲5五銀と中央を制圧して十分。
▲3五歩を突かないのがpointだ。

△4四歩を争点に

「二歩突っ切り」にせよ「銀多伝」にせよ古来から伝わる定跡は非常に優れているのだが、たまにオリジナルの戦法をされて困ることがある。そのひとつが右四間飛車。 

二枚落ちの戦力差は大きく、上手は受け止めることができない。

△4五同歩に▲同銀とかでは攻め切れない。▲3四歩とこちらの歩も突き捨てる。歩で取ることができない上手は△同銀と取るしかない。

これに▲4五銀とぶつけると成功。

△同銀▲同桂だと銀当たりなので4二銀と逃げるが▲4四角と覗かれると受けにくい。

△4三銀には▲4四歩と押さえて△5二銀に▲3四歩と攻める。

△3五銀には▲3六歩△2四銀と銀を無力化してから▲4四銀と突っ込む。


対穴熊

△4四歩と4筋位取りを阻止出来て上手が喜んでいると、穴熊にされた。(便宜上、上手を手前に配置)

二枚落ちまでは指導将棋で、上手は勝つつもりはないのだが、調子に乗って勝ちすぎると、「絶対負けたくない」と下手が穴熊に組んでくることがある。
上手にとって非常に困る指し方だ。
何が困るかというと、それで簡単に負けてしまうと 下手に悪い成功体験を与えてしまい、後々の将棋の考え方に悪影響を及ぼし、指導が難しくなるからだ。
だから普段以上に本気を出して頑張らなければならない。


穴熊に対する急所は、早めに△3三桂~△2五桂とプレッシャーを与えておくこと。
そして銀を4五に活用して3筋の歩交換からの攻めを狙う。
間違っても図で△2五歩と突いてはいけない。桂馬の活用ができなくなるからだ。
少し無理気味かもしれないが、大切なのは攻め合いに持ち込むこと。
穴熊が手つかずのまま負けてしまうと、下手に受けの力や、攻め合いのスピード感覚が養われなくなる。
それでは何のために駒落ちをしているのか分からない。
 
なお、穴熊相手でも、相手に攻めさせて、受け切って入玉して勝つのも理想だが、どちらが勝にせよ、一手違いの攻め合いにならないのが難点だ。
 
さて、下図は上図から数手進んだ局面。
上手が私。 

△4五歩と突いたのは、角がない上手としてはおかしかった。

相手の角が直射して駒組みに制約ができた。


このままでは、下手からはわかりやすく棒銀による8筋攻めがある。

△2五歩を突いたため上手から動きにくい。

しかし△6四歩は、拙かった。


図からの指し手

▲5六歩△4四銀▲6四歩△同金▲8三歩


お恥ずかしい話だが、十字飛車の筋が見えてなかった。

△8二歩と「御免なさい」しているところなので、ちょっと盲点になった。

動揺して△8三同歩としたが、まだ△8三同金として目標になる金を逃げた方が綾があったかもしれない。

しかし、勝ちは望めないだろう。

穴熊が想定外だった。

その前に苛め過ぎたか?指導将棋は、勝ち過ぎてはいけない。


序盤の△2五歩が敗因だろう。


飛車香落ち

1七桂跳ね戦法

飛車香落ちになると、上手に大駒があるので格段に難しい。
下手は、端の弱点を咎める1七桂跳ね戦法が有力。

『定本 大山の駒落ち』では、△2四歩に▲1三桂成△同角▲1二歩と進行しているが、図の局面で△2四歩と突く上手はいない。

△5五歩でなければ、指し手に一貫性がない。

下手は▲1二歩だが、△4五歩とすれば角のサバキが見込まれる。

かなり紛れたようだが、上手としては△3二金の働きが不満。

図で左金を3二でなく5二に配置し、左辺を軽く見た方が良い。

棒銀戦法

ただし、上図のように単純棒銀で来られたら△3二金は省けない。

省いて△5一角とし、▲1五銀△7四歩▲2四歩△1四歩と紛れを求めても、▲2三歩成△1五歩▲2二歩と突破できる。

銀を捨てるのが嫌なら▲1四同銀△2四角(△2四歩▲2三銀成)▲6八金とゆっくり指しても、次に▲2五銀~▲2四歩と棒銀で攻める狙いがあって十分だ。


上図の形なら▲1五銀△3五歩▲2四歩に△3四銀と頑張って、簡単にはつぶれない。


右四間飛車戦法

飛車で1筋の歩を手持ちにした後、右四間飛車に振り直すのも定跡だ。

図は▲1一歩成△同角▲4五銀に△5五歩と角筋を止められて、下手がどう攻めを継続するかという局面。

普通に▲4四銀と銀を取るのは△同角で次の攻めがない。


ここで再度の▲1二歩が、知らないと指せない手。

△3三角に▲4四銀で、今度△同角と取るのは▲1一歩成の錬金術が成功。

かといって△4四同金と取ると、▲1一歩成△同角▲1二銀が厳しい。

以下△3三角▲2一銀不成△2二金と抵抗するが、▲2五桂と追撃される。

△4七歩▲同飛△4六歩▲同飛△4五歩と連打して飛先を止めるが、歩切れになった。

▲2六飛△5一角▲1三桂成△2一金▲2三飛成△3二銀▲2六竜で下手良し。


藤井聡太少年の飛香落ち

上手は、杉本師匠。

図の△6二銀に、駒落ち上手を指しこなすコツがある。

△6二玉としてしまうと右銀の活用のため△7二玉が必要になる。

できれば玉は6二の方が、守備駒に近い。

そこで玉よりも先に銀を活用したのだ。


しかし、この瞬間8二の空間が空いているため▲4五歩の仕掛けがある。

気にしていては仕方ないところだが、先に△9四歩▲9六歩としてから△6二銀なら、▲8二角の時、△9三香▲9一角成△7一金とする余地がある。


開始日時:2011/12/12 9:00:00
棋戦:その他の棋戦
手合割:飛香落ち
下手:藤井聡太
上手:杉本昌隆
場所:板谷将棋記念室
持ち時間:30分+60秒
△3四歩 ▲7六歩 △4四歩 ▲1六歩 △4二銀 ▲4八銀
△4三銀 ▲4六歩 △3二金 ▲4七銀 △6二銀 ▲1五歩
△5四歩 ▲1八飛 △5三銀 ▲1四歩 △同 歩 ▲同 飛
△1三歩 ▲1八飛 △6二玉 ▲5六銀 △9四歩 ▲9六歩
△7四歩 ▲4八飛 △5二金 ▲1二歩 △3三角 ▲6八金
△6四銀 ▲6九玉 △5三金 ▲4五歩 △7三桂 ▲4四歩
△同 銀 ▲4五銀 △同 銀 ▲同 飛 △4四歩 ▲4八飛
△8四歩 ▲3六歩 △5五歩 ▲3七桂 △2四角 ▲5八金上
△3五歩 ▲同 歩 △3六銀 ▲4六銀 △2七銀成 ▲4七金
△3八歩 ▲4九飛 △2八成銀 ▲4八飛 △2七成銀 ▲2八歩
△同成銀 ▲5五銀 △同 銀 ▲同 角 △6四銀 ▲8八角
△2七成銀 ▲2八歩 △2六成銀 ▲4五桂 △4三金寄 ▲1一歩成
△3三桂 ▲同桂成 △同金上 ▲5六金 △3五角 ▲4五歩
△3七成銀 ▲4九飛 △4七桂 ▲7八玉 △3九歩成 ▲6九飛
△4八成銀 ▲4四歩 △同金左 ▲6六桂 △5九桂成 ▲同 飛
△同成銀 ▲7四桂 △5三玉 ▲4五歩 △3四金寄 ▲4四銀
△同金上 ▲同 歩 △同 金 ▲4五金打 △同 金 ▲同 金
△6九銀 ▲同 金 △4八飛 ▲6八桂 △4五飛成 ▲5九金
△5五歩 ▲3七銀 △5七角成 ▲4六歩 △3四龍 ▲4八銀打
△8三金 ▲5七銀 △3七龍 ▲4八金 △3二龍 ▲7一角
△4二玉 ▲6二桂成 △5三金 ▲6一成桂 △3八と ▲5八金
△2八と ▲1三香成 △7七歩 ▲同 桂 △4四歩 ▲3五歩
△同 龍 ▲2三成香 △4三玉 ▲3六歩 △同 龍 ▲2四成香
△2三歩 ▲3三金 △5四玉 ▲3四成香 △3二歩 ▲5六歩
△3三歩 ▲5三角成
まで146手で下手の勝ち

飛車落ち


右四間飛車

前述のように上手が玉を7二まで囲うのは、疑問だと思う。
玉の守備力を信じ、下図のように△5二玉と顔面で受ける。
8二に角打ちのスキがあるが、下手陣にも△3八角のスキがある。
左辺は明け渡し、右辺の厚みで戦おうという焦土戦術だ。

▲4五歩△同歩▲同銀と定跡どおり攻めても△同桂▲2二角成△同金▲4五桂△4二銀▲4四歩△同銀▲5六桂△5五銀と逃げられると、玉の守備力が強く次の矢がない。
▲4五同銀とする定跡は、上手玉が7二でないと成立しないのだ。


大山康晴著『大山の将棋読本5.駒落ちの指し方』によれば、上手6二玉型は、下手に2筋を突いて飛車を振り戻して飛車先交換という満を持すかまえをとらると、「上手は大勢的に、だんだんと不利を招く。」とある。
しかし、上手から△6四銀~△8五歩▲同歩△7五歩などと攻められる展開になると下手は勝ちづらい。
持久戦の時に定跡が教える▲8七銀型の上図のような下手の玉形は、上手から狙われやすいのだ。


また、△7二玉と囲うなら、銀を6二のまま据え置いて、角の転換を図る指し方もある。
上手は、池永天志新人王。
下図の△7四歩は、ある狙いを秘めた手だ。

右四間に組んだので▲4五歩と仕掛けたいが、△同歩▲同桂△2五桂の跳ね違いが上手の常套手段。
以下▲2二角成△同金▲3三角には△4四角と受け、▲同角成△同銀▲3三角には△同金▲同桂成△4三歩と受けて、次の△3七桂成が楽しみだ。


図の局面で下手が急がなくてはいけない手がある。
それは▲6六歩~▲6五歩の位取りだ。
上手は角の転換を狙っているからそれを阻止しなけれはいけない。
△6四角を許すと▲4五歩と仕掛けることができなくなり、下手陣は絵に描いた餅と化す。


実戦は、▲8六歩△1二香▲8七銀に△3一角と進行。
ここでも▲6五銀と△6四角を防いでおくべきだった。
この▲6五銀は江戸時代の定跡で、AIの評価は低いが、△6四角を防いだ堅実な一手。
△6四角と出てから▲6五銀とするのは、△5五角▲6六歩△4五歩と攻められて紛れる。
また、△3一角に▲4五歩と仕掛けるのは、△同桂▲同桂△6四角とされて困る。


大山康晴が看破したように、人間は必ず間違える。
駒落ちという優勢な局面から間違えず簡明に勝つための指針が定跡。
AIを妄信するのは間違いだ。





このあたりを正確に指さなければいけないのだから、飛車落ち右四間飛車定跡は難しい。
また、伝説の真剣師小池重明が得意とした角交換型歓迎の「お神酒指し」の力戦も厄介。
飛車落ち定跡は、欠陥だらけなので、上手としては楽な手合いだ。


私のお勧めは、引き角戦法(鳥刺し)だ。
上手に角がない場合は、2枚落ちの▲4五歩のように下手の角の威力で攻めるのが正解だった。
上手に角がある場合は、そうはいかない。
上手の角頭を狙うのが下手の基本戦略だと思う。
いわば平手における対雁木のように考えるべきだ。



角落ち

優秀すぎて本から消えた中飛車定跡



上手の指し方

まず言っておくと、駒落ちによって下手に強くなってほしいので、上手は勝とうとしてはいけない。
それでも負けてばっかりでは上手の威厳を損なうので勝負将棋になることがある。
そんな時にどう指したらよいのか?

プロの駒落ちの本は、下手のために書かれたものが多いが、唯一の例外が島本亮著『神戸発珍戦法で行こう』。


銀多伝封じの△5四銀から3二銀、1二香、3一金という珍形には驚く。


飛車落ちでも腰掛け銀。



角落ちは、四間飛車。


端攻め