将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

化粧するなんて裸になるより恥ずかしい

グレンスミスの日記(萩尾望都「ポーの一族」)

生きて行くってことは
とてもむずかしいから
ただ日を追えばいいのだけれど
時にはとてもつらいから
弱い人たちは
とくに弱い人たちは
かなうことのない夢を見るんですよ

「このシリーズ(ポーの一族)の一編に『グレンスミスの日記』という名作がありまして、私はこれは70ページくらいの作品だとずーっと思っていましたが、ある時、かぞえてみたら実は24ページしかなかった。(中略)

以来、私は24ページという数が怖くなってしまった。

私にはあれだけの内容を24ページで描く事はとてもできないから。

周りの人達から“グレンスミスの呪い”と呼ばれてました。

(今市子『ネムキ』1999年10月号増刊)


若くしてこの世を去った名もない画家。
数々の忘れられない思い出とともに唯一無二の作品を遺した。
謹んでご冥福をお祈りいたします。 

なぜあんなに強い人が亡くなって、こんな弱い自分が生きているのだろうか?


救いの物語としての「新世紀エヴァンゲリオン」

知恵は悲しみだ
知恵の樹は生命の樹ではないのだ。


人はなぜ病むのだろう。
人生を歩むにはただ時を追えばいいのだけれど、
時にはそれがとても悲しくてつらいから
誰か一人でいい、自分の存在を認めてほしいと願う。


知恵の実を食べた不完全生物であるヒトは、必然的に病む。
それを完全生物であるシトの力を借りて生命の樹へと至ろうとするのが「人類補完計画」。
そこにしか救済はないのか?


「新世紀エヴァンゲリオン」は、オカルティックなミステリ要素が魅力的な救済の物語だ。
旧劇場版で人類補完を拒否したシンジ。
新劇場版では人類補完の先にユイが見つからず、碇ゲンドウは絶望するが、シンジの中にユイの魂を見出し救われる。
碇ゲンドウは作者である庵野秀明の分身だ。


救済( salvation)の物語は、名作が多い。
萩尾望都の名作漫画「トーマの心臓」。
ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」、ヘルマン・ヘッセの「荒野の狼」、ゲーテの諸作などがあり、ジブリの「風の谷のナウシカ」などもそうだ。
どれも心に残る美しい物語である。
「トーマの心臓」では善と悪に引き裂かれるユーリを、トーマは愛によって、エリックは生命力によって導く。
「カラマーゾフの兄弟」では「すべては許されている」と、アリョーシャはイワンにキスする。
ヘッセ「荒野の狼」では、知的アウトサイダーである主人公に少女ヘルミーネがダンスを、人生を味わうことを教える。


病むのは人間だけではない、人間の欲望によって地球が病んでしまった未来。
ナウシカは、荒廃した大地に生まれた「腐海」が浄化をもたらしていることを知り、オームの群れに身を捧げる。
ジブリ作品の中で最高傑作だが、「千と千尋の神隠し」「もののけ姫」「となりのトトロ」「風立ちぬ」なども同様の主題を扱った作品といっていい。


同様の設定で思い出すのは、トーマス・マンの「魔の山」。
「魔の山」では閉鎖されたサナトリウムの中、ロシア婦人ショーシャ夫人、理性と道徳に絶対の信頼を置く民主主義者セテムブリーニ、独裁によって神の国をうち樹てようとする虚無主義者ナフタなどに導かれ主人公は右往左往する。
ドイツ的な教養小説(Bildungsroman)は同時に救済の物語だ。


売れない作家が、芸術の神ミューズに招かれてワルプルギスの夜を体験して覚醒する。
手塚治虫の「ばるぼら」なんかも同類の作品か?

将棋を愛する皆さんへ

がんばって棋力向上に努めてください!
そしてそれ以上にenjoyしてください!
将棋の楽しみ方は色々あります。
将棋は自由!(by八島先輩)


<将棋を覚えた頃> 

私は新しい手を発明する事が何より好きでした。
中学校で将棋を覚え夢中になり、出会った本が故山田道美九段の『現代将棋の急所』でした。
山田九段は情熱の棋士で、研究家として知られていました。私がこの本に出会った時にはすでに若くして他界されていて、病弱だった私の心を捉えました。
大学までの将棋の師匠はこの人(本)で、得意戦法はこの本で学んだ右四間飛車でした。 
当時の発明品が下図。

5三に成られたらいけないので後手は△5二金と受けますが、▲2五歩と飛車先突破して勝ちと思っていました。
初見では△3三桂という対応が多く、▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲3三桂成△同角▲3四飛などと進行するパターンが多かった。
左桂がさばけて振り飛車十分ですが、私は飛車先の歩が交換ができたと喜んでました。
得意になった私は、通天閣将棋センターでこの戦法を試してみた。
一度目は成功したが、二度目に△4三金とされ▲2五歩に△5四歩▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛に△5二飛▲5六歩△5五歩▲同角△同飛▲同歩△4五歩とボロボロにされました。
相手の強さとこんな受けがあった事にと感心しました。
この頃はホントに弱かったですが、それでも将棋が楽しくてたまりませんでした。


<大学時代>

 練兵場たりしキャンパス青き踏む 


亡き父の句で「長男大学入学」と説明がある。
大正生まれだった父は、あるいは兵としてこの場所で過ごした記憶があったか?今でもおびただしい数の銃弾が出土するという。


 大学は練兵跡なり祝う父


 将棋漬けで受験勉強もしなかったが、幸い地元の大学に入学することができた。先輩・後輩にも恵まれ、ここでの体験は、生涯忘れられない宝物となった。
 私は地元生まれの地元育ち、「井の中の蛙」を絵に描いたようなローカル人間だ。そんな人間だから中央に対する対抗心というのが人一倍あった。したがって王座戦で当時最強の東京大学に勝った時はうれしかった。
 その時の東大は、大将:谷川俊昭(いうまでもなく谷川16世名人の兄)、副将:深井一伸(後の看寿賞作家)、三将:細見和雄(この大会の勝率1位)等々ナマで見るのがまぶしいような面々だった。そのチームに、わが大学は勝ったのである。しかし、残念ながら私はこの大会に参加していない。お金がない、そんなつまらない理由で行かなかったのだ。代わりに、何ヶ月か前に定跡を覚えたばかりという斎藤好幸君が狩り出され、見事金星を挙げた。彼のようなのを天才というのだろうか。
 その後、運良く個人三位になり、学生名人戦の地区代表になった時は、さすがに参加した。そこでナマ小池重明を見た(やっぱり大会には参加すべきですね)。地区個人一位の森岡正幸さんと金子タカシ君(当時東大)の局後の検討の折だった。裸足で大きな顔、他を圧倒する存在感。雲の上の人を前にして、感想戦に加わることもできなかった。
 また、南谷誠一郎、松田耕治、森岡正幸(敬称略)というメンバーで支部対抗戦に出場し、西地区団体優勝したのも大きな誇りだった。南谷さんの台詞が「他の成績だと段くれるかどうかわからなかったので優勝してきたよ。」というもので、クールだった。


やはり右四間飛車が好きだった。
当時の発明品が下図の端桂。

3七の空間が空いてないので△3七角などのキズがない。
しかし、このアイデアは他にも思いついた人がいたようで、△1二香▲2五桂△2四角▲4五歩△同歩▲1一角成△3一金という対策が雑誌に載り、使えなくなった。
そのため玉を穴熊に囲うようになった。
振り飛車側が高美濃から銀冠に組み替える隙に▲3五歩△同歩▲4五歩と仕掛けたり、▲4五歩△同歩▲3三角成△同桂▲7七角△4三飛に▲4五桂△同桂(△同飛が正着)▲4四歩と仕掛けたりした。
▲3七桂と跳ねると仕掛けが難しく、▲3五歩△同歩▲3八飛と飛車を転換して攻めるようになった。
それなら最初から途中下車せずに▲3八飛とできないかと下図を考えた。

相手が何もしなければ▲3五歩△同歩▲3八飛と仕掛け、通常より一手得する。
△4五歩には▲3三角成△同桂▲7七角△4三金▲4五歩と対応する。
卒業して間もなく、この形から飛車先を伸ばし▲4五歩と仕掛ける「石黒システム」という指し方が有力だと後輩から教わった。
時代が変わり、ネット社会になると、実はそれまで定跡とされていた△5四銀が悪く、△4三銀のまま待機されると仕掛けが難しいことが知れ渡り、仕掛けが難しくなった。


右四間飛車の話はここまでにして、大学時代の話に戻って、自分の弱さから潰してしまった悔しい発明品がある。
当時流行していた雀刺しの定跡で、▲3五歩の代わりに先に▲3九香(図)はどうかと思いついた。
これなら△3六角の心配がいらない。

奨励会を退会して教室を開いていたМさんという方に話すと、そんな手はないと酷評された。
正直、定跡にない手だったので自信を持てず、お蔵入りになった。
ところが後に丸山忠久プロが同じ▲3九香の筋を指して成功したのを知った。
・・・色々な面で自分が弱かったことを悔やんだ。


そんな経験があって、ある大会で出会った広島県の小学生が変わった手を思いついた時に否定せずに面白い手だねと褒めた。
丸顔のその少年は顔を赤くして喜んだ。
名前を山﨑隆之といった。
数々の新手法を生み出した彼の才能を、最初に目覚めさせたと自惚れている。


<社会人になってから>

このように才能の乏しかった私だが、諸先輩に鍛えられたおかげで、県代表になった。
卒業してしばらくは部室に顔を出すこともあったが、社会人としての立場の違いもあって次第に疎遠になった。
ところが『将棋倶楽部24』でばったりと後輩の三宅研二君に出会い、彼を通じて懐かしい面々の消息を知ることができた。
ほとんどの人間が東京近辺に住んでおり、おかげで全国大会に行く楽しみが増えた。


時は流れ、今は雑念だらけの日々。将棋も弱くなった。
最後に、山﨑プロの言葉を引用してこの駄文を締めさせてもらいたい。

今の自分は弱い、そう思うと泣けてきたけど少し楽になった。

今から強くなればいいや、強くなれる時間は少ないと思うけど、将棋にふれる時間が増えれば余計な雑念も消えるだろう。

http://blog.yomone.jp/yamasaki/



最後に私のとっておきの発明品をご笑覧ください。

通常形(高美濃)より手数が一つ違うだけでこの堅固さ。
この戦法を使うからには必ず結果を出すこと!