将棋備忘録

殴り書きの備忘録なので、読みづらい点はどうかご容赦を!

【雁木系対策】腰掛け銀(その1)~右四間飛車・その他

棋界トップを賭した戦い

第90期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負 第4局 豊島将之棋聖 対 渡辺明二冠

初手からの指し手
▲2六歩△3四歩▲7六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲6八玉△8四歩▲4六歩
△4三銀▲4七銀△3二金▲7八銀△8五歩▲5六銀△5四歩▲5八金右
△6二銀▲7九玉△5三銀▲3六歩△5二金▲3七桂△4二玉▲2五歩△3三角
▲6六角△3一玉

雁木は終わったのか? 

 豊島棋聖の初手▲2六歩に渡辺二冠が△3四歩と豊島棋聖の得意とする角換わりを拒否した。▲7六歩に△4四歩と進行して二冠が飛車を振る可能性は低いので、ほぼ雁木だ。
 巷間では「雁木は終わった」と言われているが大丈夫なのか?
 棋聖は想定していたのか、まっすぐに左美濃に組んだ。
対雁木では△8五歩に▲7七角と受けることが多いが、7七の位置は、桂馬の目標となり、また角頭を狙われる。先手は飛車先交換を受けず、後手も飛車先交換を急がない。
 先手はずっと飛車先の歩を保留し、右四間飛車の含みも持たせていたが、▲2五歩△33画を決め、▲6六角と上がって次に▲4五歩の仕掛けを見せた。
 図から▲4五歩と仕掛け、△同歩なら▲3五歩で近藤誠vs高野秀(王位戦)のように攻めて潰れる。渡辺二冠の△4二金右は最善の粘りだ。

右四間飛車の生命線は端攻め

 飛車は2筋のままの方が右四間飛車より効果的、後手が△3三角と上がっていないので▲2五桂が効かない。
4筋だけの攻めでは攻略は困難。
金沢vs永瀬のように1筋をからめて攻めたい。

図の△3一玉で△4五同歩は▲2二角成△同金▲4五銀△4四歩▲7一角△7二飛▲4四銀△同銀直(△同銀右▲同角成△同銀▲同飛△4三銀▲(△同銀右▲同角成△同銀▲同飛△4三銀▲4五飛で次に▲4四歩と▲8五飛の転換があって先手良し。)▲同飛△4三歩▲5三角成△同金▲3四飛△4四金▲4二歩△同玉▲5一銀で先手の攻めが決まる。


上図から▲4四歩△同銀右なら▲1六歩として△5五歩に▲4五歩を用意する。
△4四同銀直なら▲4五銀で攻めになる。


図からの指し手
△同銀右 ▲1六歩 △1四歩 ▲1五歩 △同 歩 ▲3五歩
△同 歩 ▲2五桂 △3六歩 ▲1三歩 △3七歩成 ▲4四飛
△同 銀 ▲1五香 △1七飛 ▲1二歩成 △同 香 ▲同香成
△同飛成 ▲1三歩 △同 桂 ▲1六香 


変化:12手
△同 桂 ▲1五香 △2五桂 ▲1一香成 △同 角 ▲2五歩


端手抜きには

図からの指し手
▲4五歩 △5五銀 ▲同 銀 △同 歩 ▲3五歩 △7六歩 
▲3四歩 △同 銀 ▲4四歩 △4五歩 ▲5五角 △6四銀 
▲6六角 △5五歩 ▲3五歩 △同 銀 ▲1四歩 △同 歩 
▲1三歩 

端抜きで攻めるのは大変

△3三桂は、飛車落ち上手のような指し方だが、▲4五歩と仕掛けて良い。

図からの指し手
▲4五歩 △同 桂 ▲同 桂 △7三桂
▲3五歩 △同 歩 ▲8六桂  


4筋が間に合っていないので後手が苦しい。



再掲図 


図からの想定手順(その1)
▲3五歩 △同 歩 ▲4四歩 △同銀右 ▲2五桂 △4二金右
▲3三歩 △同 銀 ▲同桂成 △同 金


▲3五歩の突き捨ては、後の▲3三歩を含みにして攻め幅を広げたもの。
▲4四歩に△同銀直として次の△4三歩を見るのは、▲4五桂△4二銀▲3三歩で本手順より劣る。
▲2五桂から銀桂交換の戦果を挙げたものの、後手も△6四桂の狙いができて不満はない。
先手の継続手が難しい。
△3六歩の当たりを避けながら▲4五飛として△6四桂▲7一銀△8三飛▲6五銀と次の▲6二銀成に期待するくらいか?


図からの想定手順(その2)
▲3五歩 △同 歩 ▲4四歩 △同銀右 ▲4五銀 △同 銀
▲2二角成 △同 玉 ▲4五桂 △4四歩 ▲4一銀 △5五角
▲5二銀成 △同 飛 ▲5三金 △9二飛 ▲8三角 △8二飛
▲6一角成 △3四銀打 ▲7一馬 △8八歩 ▲4三金 △8九歩成
▲同 銀 △4三銀 ▲8二馬 △7七桂 ▲6六銀 △8九桂成
▲同 玉 △8六歩 ▲同 歩 △7七銀 ▲同 銀 △8七金
▲7八金 △7七角成 ▲8七金 △同 馬 ▲7八金 △7七銀(下図)


図は分かりやすいように先後反転している。
その1の▲2五桂に代えて▲4五銀とぶつけて攻め、△4四歩に▲4一銀と絡む。
△5五角では△4五歩▲4四歩△4二金右の変化も難解。


△5五角から後手がうまく反撃した結果、図の局面では後手必勝になっている。
△7七銀が決め手で、馬を取ると△7八銀▲9八玉△8八金という筋で詰み。


実は、途中の△8六歩には▲3三歩△同桂▲同桂成△同金を決めてから▲7一馬という好手順があって、先手が良い。



これれまでの腰掛け銀

 金美濃に組んで上図のように仕掛けるのがこれまでよく指された形で、実戦例が多い。
▲2八飛型のまま仕掛けるのが工夫で、後に飛車先交換して▲2九飛と手得する目論見。
豊島三冠の左美濃(▲7八銀+▲5八金右+▲7九玉+▲6六角)は、上図より一手早く囲える上、横からの飛車打ちに強い。
 しかし、左美濃にも弱点がある。
 上図の先手陣を▲7八銀+▲5八金右+▲6六角+▲6九金の形に変えると手番は先手。
 そこで、▲4四歩△同角▲2四歩△同歩▲同飛と飛車先交換をすると、角交換から△4六角(下図)が痛打。
 このように3七の桂に紐がついていないのが左美濃の弱点。


 蛇足だが、以下▲2七飛なら△2六歩。

 左美濃でこの仕掛けを狙うなら、後述の近藤誠vs高野秀(王位戦)のように▲3五歩の突き捨てが必要。




三手角の構想は?

 仮に▲3七桂と跳ねずに▲2五歩△3三角を決め、▲7七角~▲6六歩~▲5九角~▲7七銀~▲7八金~▲2六角~▲3七桂と4手角に組んだとしても▲5九角あたりで△5五歩と突かれ▲同銀は△7二飛などで危険なので▲6七銀と銀矢倉に組むと、下図のような局面が想定される。先手が理想形と思っていたが、実は後手が指せる。


想定図

 後手の具体的な指し手は、△6五歩▲同歩△7三桂として▲4五歩には手ぬいて△6五桂▲6六銀左△6四歩とする。後手としては、先手から▲4四歩△同銀▲4五歩△5三銀と押さえても、角筋が通るので損にはならない。▲2四歩△同歩▲2五歩と継ぎ歩されても、△5六歩▲同歩△2五歩▲同桂△2四角と王手して▲8八玉に△4六歩と飛車を止めて十分だ。
 このように想定図に対する認識を改めることができたのは収穫だった。
 先手は速攻が命。持久戦にしてはダメなのだ。


現代風の▲6六角

 本譜に戻って▲6六角が珍しい手だが、次に▲4五歩の仕掛けを狙っている。
 ▲4五歩に△同歩と取られても▲同桂が効く。△6六角が王手にならないので▲5三桂成と王手で銀を取れる。
 後手はその順を嫌って△3一玉と引いた。

 後手からの角交換が王手にならないようにするなら▲6六角のところ▲7七角でもいいようだが、▲6六角の方が、相手から角交換された時の形が良い。
 また、▲6六角は▲7七桂の活用をみている。▲7七桂は守りは薄くなるが、先手の攻め筋が広がる。後にみられるように、飛車を8五に大転回する含みがある。
 余談だが、図の▲7八銀+▲7九玉を▲8八銀+▲7八玉とすると英春流の玉形になる。英春流は、△8六歩▲同歩△同飛に▲8四歩という嵌め手を用意して飛車先交換を牽制している。しかし、本譜のように△8七歩成に手抜きできる事など、比較すれば左美濃の方が堅さで優る。
 このように豊島三冠の序盤の優秀性が確認できた。

仕掛けの基本変化


 図から豊島三冠は▲4五歩の仕掛けた。この歩を取ると▲3五歩が継続手。

  1. △3五同歩なら▲4五桂△6六角▲同歩△4四銀右▲2四飛△5五歩▲7一角△8四飛(△7二飛▲4四角成△同銀▲同飛△5六歩▲2二歩△同金▲6一銀)▲5五銀など、教科書通りの攻めが決まる。
  2. ▲3五歩を取らずに△4二金右なら▲3四歩△6六角▲同歩△3六歩▲4五桂△4四銀右▲2二歩△同金▲7一角△7二飛(△8四飛▲3三歩成△同桂▲2四飛△3五角▲4四飛△同銀▲3四歩△4五桂▲同銀△5三桂▲4四銀△同角▲3三銀△6六角▲5三角成△8八銀▲6八玉△3三角▲同歩成△同金▲5一角など・・・最終手▲5一角の代わりに▲4五桂は△6五飛で抜かれる)▲4四角成△同銀▲2四飛△2三歩▲3三歩成△2四歩▲2二と△同玉▲3四金で攻めが続く。

9時44分、豊島棋聖が▲4五歩と突いて早くも開戦しました。

「ゆっくりしていると後手は△7四歩~△6四歩~△7三桂~△8一飛とどんどん形が整うので、先手は早く仕掛けたいところでした。▲4五歩に△同歩は▲3五歩△同歩▲4五桂のような攻めがきついので取りにくいですね。先手が右四間飛車のときは△4五同歩と取ることがほとんどなのですが、2八飛型の場合は危ないと思います」(佐々木勇七段)

9時44分、早くも歩がぶつかった。先手の駒組みは進展性に乏しいので、急戦を仕掛ける。佐々木勇七段が示していた手順だ。控室の継ぎ盤で田中寅彦九段と貞升南女流初段が検討している。

「豊島棋聖は1筋の突き合いがないので、2筋から4筋で攻めないといけません。それでもいけるという判断でしょう。相手の作戦を外したはずなのに、これだけ早く仕掛けられるのは渡辺二冠としては嫌でしょうね」と佐々木勇七段。

先手の成功パターンは、▲4五歩△同歩▲3五歩△同歩▲4五桂△6六角▲同歩△4四銀右▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲4四飛△同銀▲7一角の飛車銀両取り。左美濃の堅陣が生きる。「▲4五歩△同歩▲3五歩は、後手が受けきるのは大変そうです。△7四歩として、▲4四歩△同角が考えられます」と佐々木勇七段。

渡辺の考慮中に10時を回り、午前のおやつが出された。豊島はフルーツ盛り合わせ(桃とさくらんぼ)、渡辺はアイスコーヒー。控室にはスイカが差し入れられた。渡辺は30分以上考えている。

■AbemaTV■

稲葉陽八段>渡辺二冠が意表を突かれているかもしれません。意表を突いた作戦でしたけど、早く仕掛けられて。あぐらになって、長考の気配ですね。

図からの指し手
▲4五歩 △4二金右 ▲4四歩 △同銀右
▲2四歩 △同 歩 ▲2五歩 △5五歩
▲2四歩 △2二歩


 このような理由で渡辺二冠は▲4五歩を取らず、△4二金右と3筋の利きを増やした。
攻撃を考えれば△7四歩と指したいが、防御を考えると△7四歩は、飛車のコビンが開き、後に△8四飛と浮いた時に飛車の横利きが消えるなどマイナスが大きい。
 このように、後手に徹底的に守備固めされると先手が攻めるのは容易でない。先手の攻めを受け止めさえすれば、後手が良くなる。 


 豊島棋聖は、△4二金右に対して▲4四歩と取り込み△4四同銀右と取ったが、△4四同角と取る変化もあった。
 △4四同角には▲同角△同銀右▲2四歩△同歩▲4八飛(▲2四同飛△4六角)と右四間飛車にして攻める。△2六角が攻防だが、▲3八飛と受けた手が次の▲2七歩を見て先手。先に2筋を突き捨てた効果だ。後手は角の退路を開くしかないが、△3三銀は▲6六歩とゆっくり指して、角を手持ちにしているのが大きい。△5五銀が本筋で、▲同銀△同歩となると銀の割打ちが気になる。▲2七歩と収めて▲4八飛と攻めるが、先手歩切れで自信のない形勢だ。
 △4四同角は有力だった。


 渡辺二冠は、△4四同銀と取って後の△5五歩に期待した。銀取りの先手で相手の角筋を止める大きな手だ。
 しかし、▲2四歩からの継ぎ歩に△2二歩と屈服させ、先手の攻めが成功している。何か良くなる順がありそうだ。
 ▲4五銀は、△同銀▲同桂△4四角の後、▲3五歩△同歩▲7七桂と左桂も攻めに参加させ、桂跳ねを受ける△6四歩には▲3三歩△同桂▲同桂成△同角(△同金右▲4五銀)▲2三桂といった変化が考えられる。これもあった。


 本譜は図から▲4五歩とした。▲4五銀は少し攻めが単調、▲6五銀や▲4七銀では利かされなので当然の一手のようだが、この場合は▲4七銀と立て直すのが面白かった。
 ▲4七銀と引き、△5四銀と角頭を狙う手に▲4六銀△4五歩(図)で銀が立ち往生したようだが・・・


想定図

 ▲3五歩(△4六歩は▲3四歩で角を取れる)の妙手がある。
 ▲3五歩は佐々木勇気七段が示していた筋で、▲7五角が王手になるので△4三金直と受けにくい。△5三金と形を乱して受けるが、▲3四歩△4二角▲4五桂△同銀▲同銀△同銀から▲2三銀と俗に攻めれば、桂損でも先手が指せる。

図からの手順
▲4五歩△5六歩▲4四歩△同 角▲5五銀△7一角▲5六歩△4四歩▲7七桂△5四歩▲4六銀△7四歩▲2五飛

 この▲2五飛が前述した飛車の大転回の狙い。
 後手は△4四歩と使ったため、△4一歩の底歩が効かず、飛車を持たれると脆い。


図からの指し手
△7三桂▲7五歩△8六歩▲7四歩△8七歩成▲7三歩成△8八銀▲6八玉△7八と▲同 金△7七銀不成▲同 金△8八飛成▲7八銀△7九銀▲6九玉△9九龍
▲8九歩△8八歩▲8五飛△8九歩成▲同 銀△8八歩▲7八銀△5三角
▲8一飛成△4一香▲6三と△9七角成▲8七金△7四桂▲7七角△7五馬
▲7六歩△6八歩▲5九玉△3九馬▲4九歩△9八龍▲9九歩△同 龍▲5三桂
△6九歩成▲同 銀△8九龍▲9五角△6八歩▲同 金△同銀不成▲同 玉
△7九金▲7八銀打△6九金▲同 銀△4九馬▲8八金△7九銀▲5七玉
△8八龍▲同 龍△同銀成▲4八金△同 馬▲同 玉△2八飛▲5七玉△5三金
▲7五角△6五桂▲4七玉△6六歩▲5三角成△4二金打▲3九金△5七金
▲同 銀△同桂成▲4六玉△3八銀▲5七玉△3九銀不成▲6六歩△5三金
▲5八金△4八角まで